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全ギルド定例会議

「それでは、全ギルド定例会議を始めます」


 ――全ギルド定例会議。


 各ギルドのマスターが定期的に報告をする定例会の様な物で、何事も無ければ飲み会や評論会や愚痴を零したりする場となる。


 しかし、チェルエム王国ではこのひと月でギルドの内部も調査が行われ、やっと落ち着きを取り戻し始めた所だった。


 そして、ここで開かれるのはチェルエム王国に存在するギルドの中でも本部となる国一番のギルドのマスター会議となっている。

 ここで決定したことが各ギルド支部へ通達される。


 また、この会議には国の行く末も委ねることになる為、国からの使者も話し合いの場に着いている。

 ただし、国の方針を告げ、ギルドとの関わり合いがあった時に説明したりするために存在しているだけだ。


「まず各ギルドより報告をお願いいたします」


 進行を務めるのは商業ギルド本部の新ギルドマスター『カイゼル・バウナー』だ。


 商業ギルドは信用第一なため不正は行っていなかったが、その部下が貴族と癒着していたことが発覚し、前任のギルドマスター(ガンク・エクス)は国内の商業ギルドの責任を取って辞任した。

 それでも有能な人材を逃すまいと、現在はカイゼルの頼みで一部の仕事をしてもらっている。


「では、魔法ギルドから報告させていただこうかの」

「そうだな。少し聞きたいこともあったから丁度いい」


 魔法ギルド本部の新ギルドマスターはいかにも魔法使い然とした長い白髭の老人『マーリン・アクスフォード』で、同調したのは冒険者ギルド本部の新ギルドマスターゾディックだ。


 魔法ギルドは貴族と繋がっているところが多く、魔法研究には莫大な金がかかる。仕方ないとはいえ、違法研究を行おうとする魔法使いが多かった。

 中には禁術や禁忌魔法に手を出した愚か者まで発見し、一時期大変なことになっていた。


 これはチェルエム王国だけでなく、各国に散らばる魔法ギルドでも調査が開始された。


「我が魔法ギルドは、正式に王国と協力し新魔法の研究をすることになった。まだ何を、と決まったわけではないのじゃが、まずは集団魔法と歌による魔法を研究しようと思っておる」

「集団魔法というのはアーチ大平原での戦いで見たあの水魔法だな?」

「そうじゃ」


 詳しいことは言わなくても既に分かっているだろう。

 念のためマーリンは髭を触りながら集団魔法について触っておく。


「では、歌による魔法というのはなんでしょうか?」


 そう訊ねたのは音楽ギルドのマスター『オンプ・バッカード』。


 音楽ギルドは会社で言う中小企業の様な物に近く、吟遊詩人や楽器演奏者や歌などを集めるフラング国に総本部があるギルドだ。

 ただ、それほど人気があるかと言われると、貴族でない限り楽器に触れたりするわけではない為一歩劣る。


「それは私がご説明しましょう。始まりはフラング国との会談になります。正しくはそれより以前にレムエル陛下が考案され、その考案が上手くいったことによりフラング国との講和・協力条約のカードとされました」

「やはりレムエル様が関わっておいでだったか」


 中央に戻ってみれば急な本部のギルドマスター就任に頭が痛くなったゾディックだが、レムエルと一番関わり合いがあるのだから仕方がない。

 まあ、彼自身いろいろと能力が高い為、武力も伴って不正はもうできなくなるだろう。


 どのギルドも信用を回復させるために躍起になり、今はいがみ合わず手を取ることが大切だ。そう、最初の会議で一致していた。

 というより、今回の解放戦争でレムエルに感銘を受け、多少の方針でいがみ合うことはあっても争うことは論外だと気づいた。

 逆にお互いのことを受け入れ、長所を補っていった方が発展できると思ったのだ。


「して、魔法の内容は?」

「読んで字の如く、そういう効果の魔法です。皆さんも知っての通り精霊教の代表曲となっている賛美歌ですが、それを魔法として使うと癒しを与えることが出来ます。詳しいことは手元の資料に書かれているので目を通してください」


 その言葉に全員が資料に目を向け、護衛としてついてきた副ギルドマスターやそれに準ずる者達も資料に目を向ける。


「簡単に言うならば、歌魔法というのは歌自体に効果を持たせる新魔法となります。まだ研究も始まっていませんので何がとお答えできませんが、レムエル陛下の考えでは回復だけでなく、集団士気向上効果や能力向上効果、逆に呪歌として用い、聞いている相手の能力阻害や子守唄のように眠らせることも可能だろうとのことです」


 まだフラング国との詳細が決まっていない為、研究所の設立も出来ておらず話し合いだけの結果となっている。

 こういった情報は早い方がいいということで開示するのだ。


「ほほう、それは面白そうだな」

「ええ、これが広まれば音楽ギルドも評判がでそうです」

「そうだな。楽器も売れるようになり、鍛冶、木工、装飾等に携わるギルドも繁盛する」


 これまでの会議だとかなり険悪だったりするため、こう和気藹々とした会議はどの国でも珍しい光景だった。

 だが、会議で和気藹々と進めることができるのならそれに越したことはないだろう。

 誰も嫌なムードで話し合いたいと思えず、そんなことで良い提案が出るとも思えない。


「また、レムエル陛下はこれに踊りも付けたいようで、婦人ギルドや音楽ギルドには振付け等もお願いしたいそうです。なんでも踊った方が士気がまた上がるでしょ、とのことです」

「まあ、レムエル様は分かってらっしゃいます」

「そうですね。婦人ギルドだけでは女性の踊り手しかいないでしょうから、音楽ギルドは男性の踊り手を探しましょう」

「これからは女性の地位も上がることでしょう。これを皮切りにぜひ頑張って、とのことです。また、第四王女メロディーネ様と数名の貴族夫人が協力してくれます。どの方も穏やかな方を選びましたので、問題は起きないかと」


 派遣文官は苦笑を交えながらそう伝え、毎回出席するだけだった婦人ギルドのマスター『アリス・レイナード』は嬉しそうに頬を綻ばせた。

 まさか王族までもが協力してくれるとは思わず、両ギルド以外のギルドマスター達も驚愕を露わにする。

 しかし、よく考えれば平民だけで踊りを作るのは難しく、これにも懇願が入っているとすぐに分かる。


 また、精霊教もこれに加え、巫女や神楽や舞い等をレムエルは考えていた。

 


 婦人ギルドというのは言うなれば女性のためのギルドで、少しでも自分のためのお金を貯めようと考え、女性にしかわからない問題等を解決するための話し合いや愚痴等をするお茶会に似たギルドだ。


「まあ、そういうことじゃな。正式に国と協力しての、マギノア魔法大国に負けん様なユニークな魔法を研究するつもりじゃ」


 夢を追いかけるような口調で言うマーリンは子供のような笑顔を浮かべる。


「ユニークな魔法か……。マギノアの凝り固まった奴等が何か言ってこないか心配だ。あー、別にマーリン殿がそうだと言っているわけではないぞ?」

「分かっておる。儂も少し前まではそう思っておったからの。じゃが、最近のチェルエム王国やレムエル陛下を見ておるとのぅ……子供の頃を思い出してな。魔法というのは自由でなければならん。この歳になってあやつの言うことが分かるとはな」


 誰のことを言っているのか知らないが、とても楽しそうで何よりだ。


「続けて冒険者ギルドだが、今の所報告することはない。ただ、最近魔物が活発化して来ている。まだ危険性はないが、もし繁殖期や異常発生がした場合、協力してほしい」


 その場合は国も関わってくるため全ギルドマスターが頷いて了承する。

 今までならこういかなかったため、かなり凄いことだ。


「お聞きしたいのですが、治安維持機構の方はどうなるのですか?」


 子供達を何度も助けてもらったという報告のある婦人ギルドのアリスは訊ね、忘れていたと後ろ頭を掻きながら補足説明をするゾディック。


「そちらは今のままでしばらく行くよう話し合いが決まった。そして、年が明ける頃には少しずつ教育を念頭に置いた学校に近い機構にしていくつもりだ」

「お金がかかるのでしょうか?」

「いや、その心配はいらない。まだ詳しいことは分からないが、かかったとしても食事代程度の手数料だろう。それに教えることは今までとほとんど変わらない。危険なことや注意すること、簡単な基礎勉強や運動にスポーツだな。冒険者の間でもサッカーやバレーは楽しんでしている」


 冒険者の間で人気なのは楽しんで体力作りが出来るのと、作戦を練ったり即座の判断等スポーツからいろいろなことが学べるからだ。

 これは騎士達も取り入れているために余計に人気が出ていることだ。


「主に男の子はサッカー、女の子はバレーですね。ですが、どちらも種族・性別等関係なく楽しめますから、大人しい子でも楽しんで遊んでいます」


 見ていて楽しいのだとアリスは言う。

 やはり今までがそうだったためにくらい子供達を見るのは辛いのだろう。


 子供達もずっと手伝いをしているわけではなく、自由な時間は近所の子供達と遊んでいるのだ。

 そういう時に目を離し危ないことをされるより、どこか開けた場所で固まって遊んでくれると楽ということだ。


「では次に――」




 このようにギルドの定例会議はつつがなく進み、中小ギルドは存続するために縦と横の繋がりが強いこともあり、どこかが代表して伝えることで特に報告するということが無く、昼前に報告はすべて終了した。


 他にも商業ギルドが帝国との取引を考えることになったことや花の研究の話し、それに関して国が捕捉の説明と新商品の開発、治療ギルドは精霊教と協力し疫病や病気が広がっていないか調査を進めていること、鍛冶ギルドからは利益が戻り温泉の開発を進めていること等があった。


 どれも一つのギルドでは手に負えないものが多く、結局どこかのギルドと協力し合ってことを進める方針を取ることになった。


「次に緊急事項を片付けます。今のところ緊急事項と申しますと、住民の支援、帝国との関係、連絡の取り方、ギルドの方針ですね。住民の支援というのは活気を取り戻す為ですから、我々は出来る限り日頃の仕事を務めることで良いでしょう」


 ギルドはあくまでも政治にそれほど介入できない。

 介入する時というと今回の様な内乱の時だけだろう。あとは魔物の異常発生の時等で、戦争の様な政治介入は支援のみ行う。


 あくまでも国が政治を務め、ギルドというのは職業による組合だ。


「帝国との関係といってものぅ。これからは仕方なかろう」


 マーリンは少し困ったように髭を撫で、地面に突いている杖を一撫でした後そう言った。


「聞いた話では帝国は王国を飲み込もうとしていたとか。今までも今までですから、これからは徹底的に抗うしかないでしょう」

「詳しいことは知りませんが、少なくとも今は仲良く出来ません。国は封鎖したようですが、それは王国が、という話であって、他国からは取引や行き来も出来ます」


 アリスとオンプも口々にそう言い、他のギルドも帝国とは最低でも距離を取った方がいいという。


 南北に分かれて争っているように言ってきたが、それは帝国と王国の様な話だ。

 他の小さな国や中立のような立場にいる国とは支援関係にあったり、以前軽く触れた海の国はどこにも付かない平和な国であり、マギノア魔法大国は中立の立場にいる。


「国としては今の状況で帝国側と取引をしてほしくありません。ですが、私達にはあなた方に強制する力はなく、出来ればという話なのです。せめて今年一杯は考えてほしいということです」

「箝口令が敷かれておるので詳しいことは言えんが、少々厄介な物があっての。その解析をせんと今後に支障をきたしかねんのじゃ。もしかすると、創神教とも関わって来るやもしれん。それが終わればお主達には詳しいことを話せるじゃろう」

「レムエル陛下も今は忙しく動かれていますので、その案件がひとまず置かれています。噂は聞いていますでしょう? それを処理しなければならないのです」


 指輪に関しては貴族にあの場で箝口令が敷かれ、元王妃マーガレットとそれに準ずる者達の取り調べにより帝国との取引内容が明らかとなっていた。

 まだ、調査中なため分からないが、創神教の宝珠に関しては国民が見ていたために箝口令を敷けず、創神教を排除するのならその方が良いだろうと無暗に広げない限り放置することにした。


 逆にその方が創神教のやったことが広まっていいだろうと考えたのだ。


「創神教とはどうなるのですか? 最近は以前の私達の様に落魄れていますが……」


 アリスが皮肉のようなことを口にするが、現在は正しくそのような状況となっていた。


 レムエルは正式な排除こそしなかったものの、秘める力から考えて創神教を信仰しないということは明らかで、国内からほとんどの信者がいなくなってしまった。

 国民は元より、貴族も最近は精霊の力を眼にし、国が豊かになることを直視したために多くに者が宗旨替えを行った。


 レムエルは創神教も全ての人が悪いというわけではないことを理解しているため、真面目の信徒を大司教に据えた。


 現在は創神教から離れる信徒も多く、真面目に神に祈りを捧げる者は良いが、コヴィアノフの様な人物、特に神という存在を自分が良いように解釈する厄介者を捌く様にしている。

 本山からも何か言われているのだろうが、レムエルと創神教の総本山が話し合わなければことは進みようがない。

 創神教が謝らなければならない立場になっているのだから。


「創神教は今のところ放置ですね。皆さんもわかっていると思いますが、あれだけのことをしでかしたのです。レムエル陛下には精霊という存在が身近にいます。これで精霊教を崇めないという選択肢はないに等しく、レムエル陛下は宗教は自由にしたらいいと仰せです」

「自由というのは曖昧じゃな。もっと詳しく教えてくれんか?」


 鍛冶ギルドのギルドマスター、ドワーフ族の『ドドムンド・ダンガード』は頭を掻きながら分かり易く説明してくれと言った。


「レムエル陛下は、国が国民に宗教に関して強制することはないと言っておられるのです。限度はありますが、創神教と精霊教以外にも宗教があり、それらを崇めても国が何かを言うことはありません」

「なぜだ? 創神教は崇めるな、精霊教を崇めろと言っても不思議ではなかろう? また同じようなことが起きるのではないか?」


 当然の疑問だが、カイゼルやマーリン達は何となく事情を察する。


「もともと宗教と国は別物です。個人の思想まで国が強制するつもりはないのですよ。だからと言って無理な布教や強制入信、悪辣なこと等をすれば介入します。それは国民を守るという法律になるからです」

「商業ギルドは商売をするために神に準ずる者や道具等を崇める者がいます」

「冒険者は死と隣り合わせだからな、自分の力を信じ、無宗教の者がいるだろう。まあ、平民が多いからな精霊教が多く、武器や防具、高名な冒険者や英雄と同じ装備をお守りに持ったりする願掛けみたいなことをする」

「魔法ギルドは禁忌を取り締まり、一個人が強力な力を持たないようにしておる。レムエル様の様な力は良いのじゃが、禁忌というのは代償がつきものじゃ。その代償は血や命や魂等といった物で、下手をすると国が終わりかねん」


 カイゼル達も分かり易くギルドや加わっている者達の具体例を挙げる。


「んーまあ、なんとなくわかった。ようは悪い事をしない限り何をしても良いってことだな。物には限度もあるし、俺達鍛冶師もルールってもんがある。それを守っている限り国は見守るってことだろ?」


 ドワーフらしい言葉に文官は苦笑を浮かべながら頷いた。


「創神教とは近々話し合い、精霊教の教皇様も訪れる予定ですから、その時にまた何かあるでしょう。こう言っては不敬ですが、レムエル陛下は大変不思議なお方です。優しく温厚ですが、面白いこと等は率先してやる傾向があります。多分ですが、この宗教に関してもそこまで深く考えておられないと思います」

「そうだろうな。戦争に罠を用いるくらいだ。まあ、おかげで三倍を超える騎士達にほぼ無傷の死者ゼロで勝つという快挙に立ち会えた」


 ゾディックの言葉に文官は苦笑いを浮かべる。

 これからは喜ばしいことだが、騎士の実力に疑問を覚える内容でもあるからだ。


 まあ、解放軍のおかげで騎士自体の評判は下がらず、下がったというと貴族の評判ぐらいだが、レムエルのおかげで貴族に対してそこまでいっていない。

 なによりレムエルの方針で国民第一に考え、豊かにすればするほど恩恵が得られることを知ったからだ。

 それでも反発が無いわけではないが。


「次に連絡の取り方ですが、魔法ギルドは通信の魔道具の研究を行っていると聞きます。それは使えるレベルでしょうか?」


 ギルドには本部と繋がる為の大型の通信魔道具が存在する。

 魔石もBランク以上の魔物の物を使用し、維持費もかなりかかっている。


 古代時代には水瓶等の鏡に近い平らな水面に魔法をかけ、遠方とやり取りする魔法が存在していたそうだが、現在は魔法技術が衰退しており、古代と呼ばれる魔法のほとんどが使えない。

 その研究もマギノア魔法大国を中心に行っているが、やはり難しいそうだ。


 流石のレムエルもそれには無理があるだろう。


「今の所既存している魔道具を複製しておる。それでも厄介なのは変わらんでの、今は伝書鳩等を使った方がいいやもしれん。レムエル様なら何か思いつかれるやもしれんがのぅ」

「そうかもしれんが、流石にそれを訪ねるわけにはいかんだろ」


 ゾディックの言葉に微かに笑いが漏れるが、今レムエルにその話を持っていくと執務に差支えが出る、と思っていた。

 必ず首を突っ込み仕事を蔑ろにするであろうと苦笑を禁じ得なかった。


「では、少々連絡方法を変えましょう」

「方法ですか?」


 派遣文官が場を一度整えるためにそう口にする。


「ええ、手段ではなく方法です。最近軍では上下の通達を手早くするための規則が出来上がりつつあります。理由はいくつかありますが、上の命令を聞くだけの兵士はいらないんですよ」


 その過激な言葉に数人が身体を動かした。


「少し言い過ぎでしたが、確かに上の命令を忠実に実行するのはとても良い事です。それだけで統一感がありますからね。ですが、それではもしもの時に行動できなくなるのです」

「それは、指揮官が倒れたとかでしょうか?」


 誰かがそう訊ねるが、派遣文官は口元を抑えて苦笑した後続ける。


「いやいや、そこまでのものではありませんよ。例えば貴族とのいざこざが起きた時もお互いの言い分を聞き、上司が報告から捕縛の命令を出しても、実際の状況が違うのであれば対処を考えてもらいます」

「ですが、それは余計に混乱するのではないでしょうか?」

「確かにそうでしょうが、先ほどのことはあまり起きないでしょう。起きやすいというと小さな事件でも上司が出張らなくてはならない、取り締まる側が相手が貴族だからと委縮する等ですね」


 末端の兵士でも命令されたから動くのではなく、その命令の真意や含まれた内容を読み取り、おかしな采配だった場合上へ報告できるようにする。そして、些細なことで上司が出張らずとも片付けられるようにするためだ。

 まあ、基本それでも上官の命令は絶対とされており、一方的にこいつは悪だ、というような命令でない限りそういうことにはならない。


「何が言いたいかというと、言われた報告だけでなく、その命令からいろいろなものを読み取らせましょう、ということです」

「むむ、確かにそれは必要でしょう。ですが、一朝一夕でなるものではないですよ?」

「まあ、そこは追々として、せめて状況判断や連絡の素早さ等を上げましょう。早くて悪い事はありませんからね」


 それは内乱によって考えさせられた一つでもあった。

 情報があの時しっかりと伝わっていればもしかするとレムエル達は苦戦したかもしれない。二方向から攻めてくると気付けたかもしれない。アースワーズの狙いが読めたかもしれない。


 挙げればきりがないが、情報収集と上下通達(報告・連絡・相談)の大切さが身に染みて分かったことだろう。


 解放軍の方は国民も交じっている混成軍だったが、通達がしっかりとされ、一致団結して作戦も進行された。


「一を聞いて二が変えってくる。小さな変化も見逃さない。一人で無理なら頼む。この三つが連絡係に分かっているだけで情報は手早く多く得られるでしょう」

「ふむ、それなら出来そうです。商人は情報が大事ですから、特に気を付けています」

「それは他のギルドでも同じことじゃの。大きな組織だからこそ、下まで目を光らせねばならん。それが現状じゃからな」


 そうマーリンが締め括り、これは少しずつ改善していくことに決定した。


「最後にギルドの方針ですが、これは今まで通りで良いでしょう。先ほども言いましたが、もしもの時はすぐに連絡と協力をお願いします」

「そろそろ年に二度目の魔物の繁殖期が訪れる。準備をした方が良いだろうな」

「疫病の報告はありませんが、今までが今までですから気を付けた方が良いでしょう」

「まだお祭り騒ぎが抜け切っていません。そこらは注意した方がいいと思います」


 それぞれのギルドから最後の連絡があり、今回の定例会議は終了となった。




 それから数日後、創神教の動きが見られ、すぐにギルド全体に連絡が行き渡り、何が起きても良い様に行動が秘密裏に移される。

 ここで今回の会議の有用性が浮かび上がり、ギルドマスター達は安心して創神教の行動に注目することが出来たという。


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