叙爵式と貴族会議
「――よって、黒凛女騎士団団長ソニヤ・アラクセンにはチェルエム王国建国以来初の森林族女性貴族として、汝に伯爵の爵位を授けるものとする」
「我が剣、我が命、全て陛下と国の為に。光栄の極みです」
「これからもよろしく頼むよ」
「はい、陛下」
レムエルによるソニヤの叙爵式が行われ、同時に今回の功労勲章と手を加えた風の精霊剣を手渡す。
ソニヤの返答に嬉しくも寂しい気持ちを感じるレムエル。
恭しく勲章と剣を受け取り、ソニヤは立ち上がって胸と腰に取り付ける。
精霊剣とは以前レムエルが精霊教の教皇に渡したロザリオと同じ手法で作られた、ソニヤが得意な風魔法の力を増幅させてくれるとても相性のいい武器だ。
精霊が宿っているのではなく、レムエルの力が込められたことにより、大気中にいる風の精霊の力を借りることができる増幅器だ。
「似合ってるね」
「ありがとうございます」
誰にも聞こえないように小さく会話を行い、レムエルはソニヤが身を翻すと同時にいち早く拍手を行い、出席している王国の貴族達も倣って盛大な拍手をしだす。
他にもイシスの男爵の叙爵、シュヘーゼン達協力者への褒美と陞爵を行い、当主となった貴族の正式な襲爵、活躍した者への功労も揃って行う。
これらに関しては事前に侯爵以上の貴族と有名どころの者達と貴族会議を開いて決められており、先触れによって彼らには爵位を与えられることを教えてある。
ソニヤに剣等が送られるのは、女性も貴族になるという印象を強くさせる為だ。
森林族と頭に付いていたのは水上都市アクアスの領主が女性のウィンディアだからだ。
だが、人魚族は女性しかおらず、他の種族にも女性が多かったりするため、今回は森林族初と強調したのだ。
こうすれば他種族の貴族、女性貴族の印象が強く残る。
結果、後に続こうという意思が生まれるということだ。
反対意見も強かったが、ソニヤの功績は抑えきれるものではなく、領地を持たず官僚となる法衣貴族のような扱いをすることで、貴族としては名ばかりというような扱いとなる。
それでも貴族は貴族で、武力では王国内の五指に入るだろう。
そのための叙爵でもある。
「次に国内での変更点を告げる。帝国とは徹底抗戦をすることが決定し、こちらから打って出ることはないと思うが、そのために全貴族は一致団結し備えることとする」
これも予め決められていたことだ。
武力で勝る帝国と抗うための争いをすることに反発する者がいたが、指輪の件が決定打となり、条約通り最低でも周辺国を守り、国を荒らさせないために動くことが決定した。
指輪に関してはまだ詳しいことが分かっておらず、レムエルに時間が出来次第精霊によって調査が入ることになっている。
「そして、皆も知っていようが、我が国は先の争いによって創神教とも亀裂が入った。よって、国はレムエル陛下の象徴でもある精霊教を崇めることとする。ただし、これは強制ではない。創神教の信仰も許可する」
これには騒めきが起きるが、今の段階で二つの最大勢力を相手にするわけにはいかない。
まだ創神教から話し合いが来ておらず、今の所国の命令によって負傷していた副大司教が創神教を纏めている。
レムエルが直に傷を治し、創神教がしでかしたことと情報と治療の対価として副大司教に強制、もとい王国内の創神教の最高幹部にまともな者を置くことにした。
内部への干渉だがこればっかりは創神教も直接声を上げることが出来ず、王国内でしでかした不始末の責任によって創神教自体を排除されても仕方がなかった。
それに加え、チェルエム王国で起きたことは既に周辺国へばらまかれ、創神教離れが始まろうとしている。
よって、王国側が一歩引き創神教を排除せず、まだ信仰しても良いという温情を見せることで何も言えなくするのだ。
元々創神教は今回の件で頭が上がらず、知らぬ存ぜぬでも創神教の大司教が起こしたことを無い事には出来ない。
それに加え、王国内の声が聞こうと思えば聞けるレムエルに知らないという言葉は悪手だ。
これによって創神教を信仰する貴族も結局レムエルに見張られることになり、創神教が貴族を抱き込もうとした瞬間に露見することになる。
結局チェルエム王国は創神教より上になるのだ。
だが、態々そのようなことを教える義理はない。
「また、先日友好国であるフラング国と正式に手を組み、魔法研究所を造ることとなった。勿論魔法ギルドも関わることになり、これをもって対帝国と国栄に繋げようと考えている。他の友好国や属国とも取引を行い、帝国方面である南部に対し、我がチェルエム王国北部の関係・勢力強化とする」
まだ、指輪と宝珠の詳細はほとんどの者が知らず、現在調査段階だ。
まだ国内を平定できておらず、帝国の密偵や裏切者がいるかもしれない。
そのため対抗策を作り上げてもその情報を持ち帰られると意味がなくなってしまうからだ。
後は軍事関係や各方面の注意事項、国内の様子等が話される。
最後にレムエルが一言を締める声を掛け、授章式と報告会議が終了した。
終えたレムエルはロガン達と共に会議室へ移動し、先ほどとは別の議題を念頭に置いた緊急会議を行う。
「集まった所で会議を行いたいと思います。まず初めに粛清貴族に関してです」
この場にいるのはレムエルとロガン、四方を治める四大公爵の当主、軍部のトップアースワーズ、経済・金融のシュティーとショティー、各騎士団の軍人と文官達だ。
「先に中央から言わせていただきますが、今の所不正を働いた者のリスト通りに動き、調査をしている最中となります。このひと月ほどで半分が終わった所でしょう」
中央というのは王都のある所からいくつかの街までの範囲を言う。
その中央を除けたドーナツを四方四つに区切った範囲を代々四大公爵が纏めている。
これは会議を行う場合中央に全ての書類を集め時間を掛けないようにするためだ。
不正がないかのチェックも行い、辺境や地方での領地の運営や疫病の発生や緊急事態を察知し、すぐに連携を図る意味もある。
「では、南部から話させていただきます。こちらは帝国との国境強化を先に行いましたので、貴族の粛清はやや行き滞っております。申し訳ありません」
軽く頭を下げてレムエルに謝る渋めの獣人族の男性。
彼はシュヘーゼンやウィンディア達を纏める南部の大貴族で、以前まで他種族の掃き溜めや厄介者を追いやる地方と呼ばれていた場所の領主だ。
名をバレボス・フォークリン。
人族以外の他種族を纏めるチェルエム王国の重鎮でもある。
人族至上主義が入る創神教の排除と、それに代わって全てを許容する精霊教の布教により、チェルエム王国内では女性だけでなく人族以外の他種族の地位も向上していた。
レムエルは他種族の特性を有利に使い、種族別の特別部隊を作っている最中だ。
バレボス公爵は帝国の強化をいち早く行い、レムエルが王都周辺に来た時手助けした人物だ。
熊の獣人で日頃はかなり温厚なのだが、戦闘モードと呼ばれるときになると身体が数倍に膨れ上がり、イシスの様な鬼人族と同じく身体強化魔法を上手く使い範囲攻撃を得意とする。
日頃はレムエルより少し大きいぐらいのぬいぐるみのような形を取っている。
獣人は人ベース、動物ベースに分かれ、前者はレッラ、後者がバレボス公爵が当てはまるというわけだ。
「それは仕方ないと思うよ。今は何としても帝国に情報を渡してはならない。別にこっちから帝国に行く人はそんなにいないしね」
「ありがとうございます、陛下」
バレボス公爵は軽く微笑む。
ぬいぐるみがちょこんと頷いているようなその姿に、まだ子供心を持つレムエルはふわふわした気持ちに捕らわれそうになる。
「一応逃げられないように捕まえ、犯罪を認めている者達には温情を与えるようにしております。現在人材も不足しておりまして、なかなか手が回らない状況です」
「それは仕方なかろう。西部も帝国とその国々と接しておる。だが、南部と違い友好国とも接しておるからどうにかできるが、そちらは最後の戦争からまだ完全に立ち直ってもおらんだろう?」
この男は西部を纏めるグレゴール・ウィンコット公爵。
彼は人族だが、品行方正で厳格な人物な為、レムエルが動いても派閥を拮抗させるためにずっと中立の立場にいた人物だ。
彼の存在もレムエルが王位に就く力になっていた。
領地を守る為に不正を行っていないとは言わないが、西部と南部はそれほど犯罪が横行している地域ではない。
それでも圧倒的に人族が多く、その地域でも犯罪を起こしていない貴族はいないのだ。
「うむ。あれから三十年近く経つが、まだ立ち直れていません。種族柄子供が出来難い種族が多く、陛下のおかげで鉱山事故等での死亡率が下がったため良くはなっていますが、現在はそこまで変わっていません」
半年でそこまで劇的に変わるほど出生というのは甘くない。
人族に次いで人数の多い獣人族は子供を同等に産めるが、それでも今までが今まででそうもいかなかった。
その理由を知っているこの場の者達のほとんどが仕方ないと感じるが、
「何を甘いことを」
「何?」
一部の者は弱気な発言にいらつきを被せる。
「今何と仰いましたか? セネリアル卿」
一番荒かった北部を纏める公爵グローランツ・セネリアル公爵。
帝国と創神教の手も入り、多くの貴族が粛清され、彼もまた大きな権力を失った人物だ。
ここに居られるのは今いなくなられては困るからで、平定してからは隠居を進められていくだろう。
要注意人物事項のトップに入る者だ。
「種族柄産めぬのなら産めるまですればいいだけのこと。これだから他種族というのは――」
「セネリアル卿、それは貴殿の言葉だと受け取ってもよろしいのですかな?」
創神教とも繋がりが深く、人族至上主義に染まりかけているセネリアル卿を止めたのはロガンだ。
確かにその言葉を書記に記されるのは困る。
それにこの場には同じ公爵だけでなく王族にレムエルもいる。
権力も落ちた今下手な発言をすると首が吹っ飛び、いや、牢獄に入れられ魔力を吸い出されるだろう。
「チッ、平民の分際で……」
「セネリアル卿はお疲れの御様子。早く報告を済ませて休まれてはいかがか?」
「なっ! つ、疲れて等おらぬ!」
「では、言動に注意することだな。貴殿を見ているとどうにも蔑ろにしているように見える」
現在最高の権力を持つグレゴール公爵に冷酷な瞳と共に皮肉を言われ、セネリアル公爵は顔を真っ赤にしながら子供の様にそっぽを向く。
その姿に誰もが嘲笑を心の中で浮かべ、レムエルは何故仲良く出来ないのか理解に苦しんだ。同時にこれほどまで洗脳した創神教に嫌悪感が増し、普通には和解は出来そうにないと今後の関係に罅が大きくなる。
今まで思い通りに動いていたため、彼は気に入らないのだ。
レムエルの存在も気に入らず、真っ先に取り込もうとした馬鹿な貴族でもある。
あの光景を見せたレムエルのことを子供だと侮ったのが運の尽きという奴だ。
「では、最後に東部の状態を」
「は、はい! と、東部はいたって問題も起きず、リ、リスト通り貴族を粛正しております! あとひと月もすれば、お、終わるかと!」
脂汗を浮かべながら報告する小太りな男。
彼は最後の一角東部を纏める大貴族デトロフスト・フォグワー公爵だ。
デトロフスト公爵もまたセネリアル公爵と同じく不正を横行させた貴族だ。
ただ、違う点を言うとやや小心者で、レムエルの初段に恐れを抱いている者だ。
それは彼が見た目に反して魔道具や魔法に精通する人物で、代々魔法に関して強い発言力を持つ家柄だった。
過去形なのは先の件で没落したのもあるが、レムエルという魔法と精霊の出現と研究所の立ち上げ、東部の奥には精霊教の本山も存在し、東部は身動きが取れない状態だからだ。
そして、平定してきたということはセネリアル公爵と同じく当主を挿げ替えられる可能性があるということ。
身の振り方を考えると恐怖でおかしくなりそうになって当たり前だ。
「ひとまず貴族の粛清に関してはこれでいいでしょう。このまま地方を纏め、王国内の活気を取り戻していきたいと思います」
セネリアル公爵が纏める北部に関しては聞くまでもなく進んでおらず、中央が少しずつ騎士を派遣しながら粛清していた。
「では次の議題に行きましょう。次は法律、特に犯罪と労働ですね。法律自体はそれほど変わりませんが、死罪に関して見直したいと思います」
「それは現在行われている魔力搾取と魔法使用による刑罰のことだな?」
グレゴール公爵が確認するようにロガンに訊ねる。
「その通りです。現在死罪確定の人物を除き、死罪出来ない人物から試験的に行っています。結果は既にご存知でしょうが、奴隷の首輪をつけ国の為に魔法を使わせます。魔法が使えない者には肉体労働と日に三度の魔力搾取です」
「奴隷にするというが、人権の方は守っているのですか?」
「国が管理していますから衣食住最低限損なわせておりません。ただ、奴隷といってもこれは普通の奴隷ではなく、こちらの言うことを利かせる為にすぎません」
自殺の禁止は勿論脱走や密告等も禁止し、特定範囲外での行動不可、許可無き者との対話も禁止された状態だ。
だが、それ以外の生活に関わるようなことは定めておらず、主人に対して口答えしても手を上げれば別だが首輪が締まることはなく、決められた命令以外聞けないようにもなっている。
「捻出されるお金は彼らが働く、と言って良いのでしょうか、そこから出た、若しくは使わなかったお金が当てられています」
「食べ物は少し問題ですが、レムエル陛下のおかげで問題ありません」
シュティーとショティーがそう報告する。
日常ではレムエルと呼び捨てするが、こういった場ではアースワーズに注意されて以降陛下付けをしている。
レムエルからすると別に呼び捨てされてもどうとも思わなかったのだが、周りがそれを許さないのだから仕方ない。
「でも、精霊が食べ物を作るわけにはいかない。それは自然の力に介入し、無理矢理作物を育てることになるからだよ。それを続けるとその土地に無理が祟り、何時か取り返しがつかないことになるかもしれない」
「それは精霊で治せないのでしょうか? 若しくは魔法で同じようなことは?」
文官の質問にレムエルは首を横に振る。
「魔法も精霊と同じでやり過ぎればそこが枯渇するんだ。そして、精霊が行ってもそれは同じ。作物も人間と同じで栄養を取って育つんだからね」
「それは今城内に作っている菜園に使う腐葉土とかいうのが関係しているのでは?」
この問いは意外にも軍人がした。
まあ、それも当然だろう。
一部の軍人にはその菜園を耕す為に鍬を振らせ、近くの山や森から腐った落ち葉である栄養満点の腐葉土を持ち帰らせているからだ。
関わる文官・軍人も交えて一度説明をし、試験的に作物を育てている最中だ。
成功すれば各地にその情報を渡し、地域にあった作物を育てていく予定となっている。
「腐葉土というのは落ち葉や枝が腐って、それが長い年月をかけて土状になった物を言うんだ。詳しいことは省くけど、腐葉土には作物が育つための栄養が多く含まれている。有名な所で言うと同じ作物を育てすぎるとその畑は死ぬと言われてるね。それは土内にある栄養がなくなって作物が育たなくなるからだ。なら、そこに栄養を加えればまた育つってことになる」
「そうなのですか? あ、いえ、それを今確認されているのですか」
問いかけた文官はすぐに引き下がった。
聞いたことはないが、栄養が無ければ作物が育たないという辻褄もあっているため、それがどうであれ結果が良ければ後に調べられると思ったのだろう。
レムエルはそれに満足そうに頷く。
「他にも問題はあるんだけど、それはまず食材事情が解決してからになると思う。今同時に進めてるから詳しい話はショティー兄上達と話し合いたいと思う」
予め簡単な説明をしているため、この場にいる者達から今更否定的な意見が飛ぶことはない。
菜園が失敗してもそこを改良し畑に出来るからだ。
ただ、城内に畑があるのは珍しく、この案を通すために少し議論が行われていた。
決め手はフラング国との花研究であり、王国は豊かさが売りで、その豊かさを来訪者に見せるのなら他国では見れない菜園が良いだろうと考えた。
その菜園の近くに花も育て、食べ物でトップに立てばいいと決まったのだ。
「罪人の仕事はご存知の通りでしょうから省略させていただきます。次に金銭面ですが、こちらも食材事情と同じく何か手を打たなければなりません」
「罪人から得た魔石はどうされるので?」
魔石。
この世界で魔石というと魔物の体内にある魔力の石ころのことを言う。
その魔石は属性を持たない純粋な魔力の塊で、どのような魔道具等にも使える。その反面どれにも適しているため平均的な能力となる。
対してレムエルが考案した搾取は、その者の適性魔力を搾取することになり属性魔石となる。
火に適性があるのなら火に対して強くなる魔石、水なら水といった感じだ。
これは闇魔法の魔力吸収魔法を用い、吸収する者は魔法使用者から空の魔石へ変更し、搾取している。
なぜ属性に分かれるかというと、魔物は空気中にある魔力の塊から魔石が生まれ身体が出来上がる。その魔石は空気中に漂う魔素から出来、魔素は属性を持たない為に魔物の魔石は属性を持たない。
人はその身に生まれた時から魔力を有し、その魔力は自分が使いやすい魔法属性の魔力に染まっている。
「――ということで、分類するために属性魔石と呼ぶべきかな。で、その属性魔石は種類別にして困っている国へ売ろうと考えている。勿論使える分は自分達で使うけど、王国は現在それ程豊かさで困っているわけじゃない」
「なるほど。陛下はこの属性魔石を使って友好国の綱渡りにする、そういうのですな?」
グレゴール公爵がレムエルの言葉の先を読み、簡潔に纏めた。
「ちょっと待ってくれ。その属性魔石を軍用は出来ないのか? 確かに困っている国に恩を売るというのは尤もだが、何時帝国が攻めて来るか分からない今王国の軍強化をするべきではないだろうか」
アースワーズが異を唱え、それに数人が頷いて同意する。
軍人はそう考え、文官は実験や国との懸け橋に、と対立する。
「確かにそれもある。でも、今はその属性魔石は圧倒的に数が足りないんだ。それでも軍を強化してもどれぐらい強化できるか分からない。強化してすぐになくなったら意味ないでしょ?」
「む、確かにそうだが……俺達でもそれは出来るのだろう? 危険でもあるのか?」
「いや、特に危険はないよ。吸収量も考えて行ってるしね。でも、魔石は魔石だからね。それで強化できるのはたかが知れてると思うよ。大きく見積もって二割として、どれぐらい強化できるだろうか。多分普通に魔法を使った方がいいと思う」
それに使用用途も難しい、とレムエルは考える。
魔石は基本的に魔道具に使用される。
それ以外となると魔力を引き出して魔法にする、魔石に魔法を使用して爆発させる、加工して道具にする等だろう。
軍強化に使用するとなると新たな方法を考えなければならなくなる。
しかも魔石は使い捨てに近く、それほどいい転用が出来るとは思えなかった。
なら、困っている国に恩を売りつつ実験も行えばいいと考えたのだ。
「友好国が立ち直るということは、王国も強化されるということに繋がる。結局のところ属性魔石は友好国に売った方がいいと思う。王国でも保有して何か使い道はないか考えるけどね。手始めは金銭問題を解決しないといけないから、今は我慢してほしい」
「そうか……こちらはそれほど困っているわけではないからな。金銭面が戻れば軍もまた戻るだろう。その時になってまた願うとする」
アースワーズ達軍関係者も金が無いから属性魔石で補えないかと考えていたのだろう。
この後も会議は続き、王国が立ち直るまで精一杯協力し合うことになった。
北部を纏めるグローランツ・セネリアル公爵は、会議でほとんど発言できないことに怒りと不満を溜め、今まで虐げていた獣人や亜人に大きな顔をされたと憤慨していた。
自業自得だが、人族至上主義が入るとこうなってしまうのだろう。
バレボス公爵は全く大きな顔をせず、相手の機嫌を損なわせないように立ちまわっていたはずだ。
周りの人族もレムエルが獣人や亜人と仲良くするから我慢するのではなく、解放した時の活躍の大きさに仲良くしなければならないと感じたのだ。
王国はレムエル色――虐げて搾り取るのではなく、友好にして繁栄を享受する――に染まりつつあるということだ。
「これも全てレムエルという下賤な国王のせいだ! どうして私が我慢しなければならんのだ!」
グローランツ公爵は自らの屋敷へ帰ると同時に不満を爆発させ、自分こそが王だとでも言うかのように振る舞う。
召使達は怯えるようにその場から辞し、それなりの地位にいる者達のみが残り諌めようとする。
「旦那様、お気を静め下さい!」
「煩い! 私に触るな! お前も俺に我慢しろというのかッ!」
「め、滅相もありません! 私は旦那様の御体を気遣って!」
「それが良い迷惑だと言っている!」
突き飛ばされる老齢の執事の男性。
グローランツ公爵はそれを一瞥してさっさとその場から立ち去ってしまった。
「薄汚い獣人が……大きな顔で図に乗りやがって! あんな下等生物などこの国から排除してしまえばいいのだ! それをあの国王は! クソがァッ!」
自室に置かれた執務机を蹴るも重く重厚な机はびくともせず、数枚の書類が静かに移動し、自分の脚に思った以上の衝撃が伝わり余計にいらつきが募る。
「グレゴールの奴も急に威張り出しおって! デトロフストも何故あんなガキに委縮している! あんなガキに国を任せたらどうなるか分かっているのか!」
こんな風体でも魔力は多く秘めており、机に罅を入れる。
だが、魔力で力を上げただけでは無理に筋力を上げたに過ぎず、コーティングや筋肉の保護をしなければ相応の痛みが返って来る。
「ぐくっ! くそっ! なぜ平民等に上から見られなければならん! 雑草が大切だと? ふざけるな! 貴族こそがこの世で一番尊い!」
物音に気付いた召使いが開いているドアから中の様子を覗き見るが、憤怒の形相となり蟀谷に破裂しそうな血管が浮き出ているグローランツ公爵を見て、悲鳴を噛み殺しながらその場から立ち去った。
「帝国の奴等もそうだ! お膳立てしてやったにもかかわらず失敗だと? しかもあのような物まで持ち込みおって! あちらが先に契約を破ったにもかかわらずすべての責任を押し付けやがる!」
どうやらこの男も帝国と繋がっていたようだ。
恐らくレムエル達はそのことに気付いているだろう。
今は泳がせ、完全に繋がりが切れているのか調査中といったところだろう。
「後少しで傀儡の王が誕生するところだったというに! クソ! こうなったらあのガキを暗殺して、いや、燻っている奴等と謀反を……」
急に静かになりぶつぶつと計画を立て始める。
そして、部屋の中をうろつき始め、立ち止まると口元をにやけさせた。
「覚えてろよ、私を蔑ろにした報いを受けさせてやる。帝国も創神教も所詮は張りぼてだったのだ。やはり私が王となり、世界をすべてやるしかない! そのためにもあのガキを……。フハ、フハハハハハ!」
勝利でも確信したのか、グローランツ公爵は先ほどの怒りを歓喜に変え、召使達が怯える笑い声を轟かせるのだった。




