新たなチェルエム王国
大分時間がかかりました。
長いのでおかしい所があるかもしれません。
そのときは教えてくれると助かります。
レムエルが王に就いて一カ月余りの月日が経った。
この一カ月で行われたのは大きく分けて三つ。
一つは国民に向けてのお祭り。
城内の調査と貴族の粛清等を行った結果、貯め込んだお金を発見した。
その金のほとんどが横領した物なので、すぐに必要な場所へ均等に配分し、王の権限で残らせた少量のお金を使って祭りを開いた。
祭りといっても露店が多く出る様な物で、食材等を国が補填することで開いた。
その結果、国民に活気が戻り、精霊によるレムエルのお披露目もあったため、王国は繁栄を迎えることになる。
精霊の力がチェルエム王国に集まり、農作物や魚介類の成長促進、病気等の流行阻止、気候の急激な変化等に関わるからだ。
二つ目は他国等とのやり取りだ。
就任したということは他国の者が祝いや祝言を述べることになる。
今回は他国から見るとクーデターのような扱いとなり、多少やり方が異なるが、属国や友好国はレムエルを見定める為にも出席する。
レムエルは急遽王としての振る舞いを求められたが、一朝一夕でそのような物が付くわけが無い。
まだ成人もしていないということで、謁見という形ではなく会談という形が取られることになった。
勿論反発が強かったが、まだ王国内を完全に掌握しきっていない為、もし何かが謁見の最中に起きては大問題となる。
そのため今回は一人一人としっかりと対応するために会談形式が取られ、小一時間ほど話し合った。
相手からすると困惑や蔑ろにされたと憤りを感じるが、理由を聞けば納得せざるを得ず、レムエルと直接会えばその気持ちもほとんどなくなっていたのは言うまでもない。
その会談の最中に様々なやり取りが行われ、ロガンが傍でレムエルが突飛なことを口にしないよう留める役目を行っていた。
ロガンはレムエルの才能に気付き、今までの王子とは一味も二味も違い良き王になってくれると思ったが、同時に性格を実感し、良く見張っていなければ何をするか分からないハラハラする王という結果になった。
それが暗君というわけではない為いいが、違った意味で気疲れしてしまうと笑みを浮かべてぼやいているそうだ。
最後は二つ目に伴った王国内の改革だ。
他国とのやり取りでその国の特産品や特色を知ったレムエルは、王国内の状況と照らし合わせて様々なことを行う発案をしていた。
例えば比較的植物等の自然の多い国とは食材の品種改良や木々から植物紙を作る、海辺の近い国とは塩の生成や造船等といった感じだ。
まだそのやり取りをするための準備段階で、正式に動き出したわけではない。
同時に国内では生活を豊かにするために貴族の粛清に合わせて知識を与えた騎士と文官を送り出し、村等に泊まる時に近隣の森で手に入る腐葉土や馬糞等による肥料について教えて回っている。
時間を有効に使わなければならず、貴族を粛正するために各地を奔走するのなら、ついでに村によって豊かにしたらいい、という発言によるものだ。
また、王都の近くでは畑の実験が行われている。
その実験とは肥料作成と輪作などについてだ。
肥料の作成は別に地魔法で土の生成を行い少しずつ改良し、温度や微生物への栄養源は魔法等でどうにでもなる。あとは同じ肥料を地魔法で作れる研究者など専門の者を育てる。同時に微生物の研究も行い、瓶詰が開発されることになる。
輪作というのは栽培する作物を周期的に変えることで土壌の栄養状態や土の品質を向上させることを言い、同じ作物や種を育てることによる病原菌や害虫の増加を伴う連鎖障害を起こさないようにする。
まず豆類である大豆を育て、次に馬鈴薯やトマト、バジル等のハーブを一緒に植え、成長促進や害虫を遠ざけるコンパニオンプランツを利用する。麦を育て、最後に人参等を育てる。
場所によっては周期を変えたりして行う予定となっている。
少し長くなったが、この一カ月で王国は大分修正できたということだ。
ただ、一カ月で落ち着くわけが無く、優秀な人材が少ないために滞っている部分が多くあった。
レムエルはまだ成人していない為多少の政務が出来ない部分があるが、その分厄介な所を引き受けることになり、レッラと精霊を伴って書類を片付けていた。
メイドのレッラですら手伝わなければ、現在国を動かすことが出来ないからだ。
それでもレムエルが王になったことで仕事が一方に配られることがなくなり、全体での仕事量は減ったといえる。
まあ、レムエルの発案でいろいろと変更したり考えなければならない部分が多いが……。
ただ、問題なのは今でも権力を得ようとする貴族がいることだ。
「――陛下、我が娘はどうですかな? 陛下と同い年でございます。父親である私から見ても優しく、器量が良く、尽くすことの出来る可愛い娘です」
まだ生まれて十二歳と半年過ぎしか経っていないレムエルは、すでに半分瞼が落ちそうになっていた。そこへにこやかな笑みを浮かべた貴族が現れ、他に年頃の娘がいる貴族と同じ口上を述べてきた。
朝から寝るまで仕事漬けの息抜きに、何度か王城内で食事をするだけのパーティーを開いていた。
食費も落とし、メニューは低価且つ鮮やかな料理にし、立食式を取り入れている。
レムエルの料理知識とシュヘーゼンの屋敷の料理長のメニューを使っている。
レムエルは少しうんざりしながら努めて笑顔を張りつけ、話しかけてきた貴族に対応する。
「確かに貴方の娘は可愛らしいだろう」
「では――」
「だけど、今の僕には必要ない。確かに王妃となる婚約者がいない僕は問題だけど、兄上達を蔑ろには出来ないんだ。どうか、先に兄上達に紹介してはくれないだろうか?」
「そ、それはそうですが……殿下方とは年が離れていますゆえ」
「でも、男は多少の差など問題ないと思うよ。兄上達は変わってるけど皆優しい。尽くすことが出来るのなら、肉体派のアース兄上とかお似合いだと思う」
「分かりました。娘と話し検討させていただきます。私はこれで」
「うん、仕事の方も頑張ってね」
貴族と別れるとどっと疲れが押し寄せ、ふらりと傍に控えていたレッラに身体を支えられた。
「お疲れですね。もう少し我慢してください」
「うん、分かってるよ」
仕事疲れもあるが、目の前で仕事をしてるの? と思えるほど元気に話し、先ほどの様に娘を紹介してくる貴族に嫌気がさしていた。
他にも後ろ盾となりレムエルを操ろうと考える者、精霊の恩恵にあやかろうとする者、レムエルを恨み排除しようとする者がいた。
暗殺や毒殺は寝ている間も精霊が感知し続け排除するため大丈夫だが、こういった会話だけはレムエルが対応しなければならず、大分精神的に疲れが出ていた。
「……僕はまだ結婚とかいいよ。それに会ったこともない女の子と結婚するとか考えられない」
レッラは答えない。
先ほどは気遣うために声を発したが、いくら経歴持ちのレッラでも今はメイドだ。流石にこの場が無礼講でも話すことは出来ない。
今はアースワーズ達も貴族の対応を行い、ロガンは滞っている政務を行っているのだから仕方がない。
一応仕事がまだ少ないメロディーネが疲れを癒すために傍にいる。
「貴族や王族ならいきなり結婚とか有り得るのよ? 政略結婚だってあり得るし、私だって恋愛結婚したいわ」
メロディーネは貴族を冷たい仮面の笑みで振り切り、疲れた様子を見せずに愚痴った。
傍にアンネが控えており、貴族が来ないように立ちまわっている。
第一王女クリスティーヌは白薔薇騎士団団長の地位を解任され、国の騎士団を私物化し、騎士団の役目を務めなかった罪で現在軟禁されている。
軟禁といっても普通の軟禁ではなく、以前言っていたように魔法を使わせ、罪を償わせている最中だ。
クリスティーヌは勿論喚いているが、レムエルがそれを禁止し、第二王女ベロンナと第三王女コスティーナも同様に食事制限、勉強、魔法使用、ダイエットなどを熟させている。
クリスティーヌとの差はその量と扱いにあり、まだ罪人とは言えない二人には休憩が与えられるが、クリスティーヌには決まった時間以外ほとんど動きっぱなしだ。
このことはレムエルがメロディーネに一任し、結果報告だけを笑みを引きつらせながら聞いていた。
また、メロディーネは女性意識の向上組織のトップに就任し、現在の王国内に根強い男尊女卑を変えようと動いている。
例えば女性のための婦人ギルドを立ち上げ、貴族の嗜みである刺繍や編み物を教え、それを売ってへそくりにしたり、婦人達の知識や困りごとを相談し解決したりする。
まだ発足したばかりで反発が強いが、レムエルの一声と猫 (女)の手も借りたい状況ではないのか、という比喩の言葉にグゥの音も出なかった。
ビュシュフスは国家転覆罪という一番重い罪を課せられ、他にも帝国とのスパイや裏切り等の調書が取られ、現在地下室の少し豪華な牢屋で無理やり魔力を取られ、その後は仕事をさせられている。
ジザンサロムも同様で、自由の差はあるが他の貴族達と混ざって仕事や罪を償っている。
オスカルとジャスティンはベロンナ達と同じくダイエットと勉強をさせられ、シュティーとショティーの下で仕事を行っている。
シュティーは経済関係の仕事に就き、国内の金回りの調査等を行っている。
ショティーはその金で買われたり、収められた年貢等の管理もしている。
こちらはアースワーズに一任され、ビュシュフスには奴隷の首輪をつけ無理やり罪を償わせている。
これに関してはほとんどの者の意見一致で決まったことだ。
レムエル自身、奴隷を酷使したりせず人間として扱うのなら構わないと考えている。
レムエルは魂は持っていても転生者ではない。
ありがちな奴隷に対する忌避感をほとんど持っていないのだ。
因みにマーガレットも牢屋に入れられビュシュフスと同じような扱いを、クラリスとガネットは離宮で軟禁状態となっている。
「僕も恋愛結婚が良いよ。でも、こんな生活してたら出会いなんてないよね」
「そうよねぇ。レムエルと血が繋がってなかったらなぁ……」
「ん? 僕と何?」
「え!? い、いや、何でもないのよ? オホホホ」
「メロディーネ様……」
流石に母親が違うとはいえ父親が同じなのだから結婚は出来ないだろう。
これが普通の夫婦ならばまだいいだろうが、レムエルは国王だ。必ずその責務として世継ぎを残さなければならない。
家族を恋愛の目で見ることは出来ないと聞くが、それは生まれた時から一緒にいるからで、レムエルとメロディーネの様に十数年も離れていれば赤の他人と同じ。
しかも出会いは劇的で、吊り橋効果もあっただろうから惚れてもおかしくない。
姉弟だという感情が自制していた。
それから数日経っても忙しいのは変わらず、仕事を放りだしたいと思うレムエルだが、逃げ出さずに目の前の書類の山と格闘している。
ただ、周りに各属性の上級精霊が手伝っているのが少しおかしく見えるだけ。
世間知らずだった精霊もレムエルと行動を共にすることで思いを共有することが出来、レムエルに近い判断を下すことが出来る。
一応問題が無い様に重要な書類だけはレムエルが直に行っているが、貴族の粛清結果やレムエルが行った実験報告等が主だ。
『……!』
「んー、もう少し結果を見ようかな」
『……?』
「集まった魔石は属性ごとに分け、友好国で困っている国に売るよ。だから、等級も確かめて区別する様にしよう」
しかもレムエルはどこぞの偉人と同じように同時に話される言葉を聞き分けていた。
これだけでかなりの時間削減が行われている。
「レムエル様、そろそろお時間となります」
「え? もうそんな時間なんだ。この書類を片付けたら行くよ」
昼前となり窓の外に太陽見え、時計は無いが完璧な体内時計で時間を告げるレッラに、レムエルはすぐに書類を読み上げ問題がないことに頷きサインを記す。
「これで良しっと。昼はジュリア王妃様の母国フラング国との会食だったね」
「はい、その通りです。先に湯浴みと着替えを行います。その後間に合わせたアレをお付けください」
「分かってるよ。態々この日のために間に合わせたんだからね」
何やら思惑のある話に精霊達も笑みを浮かべ、レムエルの衣服を脱がしていくのだった。




