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閑話 帝国

すみませんでした。

風邪ひいて寝込み、昨日は投稿できませんでした。

 専門の職業に就く者達を支援・補助・纏める運営組合や組織のことをギルドという。


 一定の稼ぎがある商人達は必ず商業ギルドに登録しなければ商売が出来ず、これは商品の独占禁止や販売ルートの確保、飢饉等の災害情報等のためにある。

 鍛冶師達も鍛冶ギルドに登録し、販売に関してはどちらかに登録しておく必要だがある。技術や弟子のシステムなどもあるほどだ。


 冒険者ギルドは身分証だけのために登録し、緊急時に戦えない者を出さない為に三か月を基本に一年に四回は依頼を熟さなければならない。

 また、貴族達は素行の悪い荒くれ者だと認識しているが、Cランク以上の半人前を抜けた者達は護衛依頼を受けるようになり、その中には貴族等も含まれるためある程度の知識とマナーが必要となる。

 それでも許容できないのが貴族なのだろう。


 そして、登録は他のギルドより審査が単純だ。

 まずは書類審査と適性属性や魔力量の登録。その前に受付の者が冒険者としてやっていけるのか見ることになる。

 次に戦えない者も含めて身体能力検査としてギルド員と戦う。

 その後、その審査によって指導が入る者や熟練冒険者と組んで学ぶ等になる。




 なぜ再びこのような話をしたかというと、このギルドはやはり一枚岩ではないからだ。


 チェルエム王国内で冒険者ギルドも甘い汁を吸っていた者がいたという話ではない。

 今回はレムエル達解放軍側にほとんどの冒険者が付いたが、これが国同士の戦争となった場合、冒険者同士で戦うことになるだろう。


 一枚岩と言葉は違うかもしれないが、国が変わればギルドの様子や規則も変わる。


 チェルエム王国の冒険者は穏やかでそれほど素行が悪いと言う事はない。レムエルだから味方したかもしれないが、しっかりとルールを守って行動していた。

 だが、チェルエム王国を完全に対立することとなったガムバムルグ帝国では、その国の特色を受け継ぎ力こそが全て、素行が悪いとは言わないが手段をそれ程選ぶ者達ではない。


 そして、そんな帝国に足を向けた二人、バダックとその妻ソフィーは名前を変え一介の冒険者として活動していた。




「キングオックスの討伐証を確認しました。報酬の金貨五枚です。バロッサさん、アスフィナさん、ありがとうございました」

「いや、これくらいどうと言ったことはない。ただ、もう年だからな、立て続けの依頼は勘弁願いたいものだ」

「はい、これで緊急の依頼は抑えられたかと思います。こんな時期にお二人が着て頂いて助かりました」


 誰もが美しいといいそうな美貌を持つ受付嬢から報酬を受け取った大柄な男。

 彼がバダックであるバロッサ、隣で微笑んでいるのがソフィーであるアスフィナだ。


 ソフィーは貴族の娘だったのだが、政戦で負けてしまい冒険者に身を落とした。

 ただ、元々魔法の適性が高く、上に三人の兄弟がいたため自分は一人で生きて行かなければならないだろうと思っていた。

 それが功を得てすぐに冒険者として頭角を現し、高ランクになった所でバダックと邂逅したのだ。

 馴れ初めはどうでもいいので置いておくとする。


 二人ともそれなりの実力者であると言う事だけ覚えておいてくれ。


「そう言えば、バロッサさん達が依頼に出ている間にチェルエム王国で内乱が起きたそうですよ」

「ほう。まあ、前から動きがあるという噂はあったが」


 バダックははやる気持ちを抑え、努めて自分は関わっていないのだと言い聞かせる。

 ここは敵国だからだ。


「何でも圧政に堪えかねた国民が一斉発起したとか、その中に王族の隠し子がいて次期国王になったとか、あの原因不明の城砦はその隠し子が作ったとか」

「それは、また……成長したものだ」

「はい?」

「こほん!」

「あ、や、なんでもない」


 腹芸は得意ではない様で、気を付けていないとぼろが出るようだ。

 バダックは慌てて取り繕うように口を開く。


「そ、それでだが、その後はどうなる? 場合によっては備えなければならないからな」


 何に、とは言わないが。


「まだ内乱が起きたと言う事しか分かりません。今まで上は王国に対し色々としていたみたいですが、内乱というより解放ですかね。解放できたと言う事は対応が変わると言う事になると思います」

「まあ、そうでしょうね。その隠し子をトップに国民が一斉発起したというのなら、私利私欲の支配から抜けると考えられるわね」


 見かねたソフィーが受付嬢と話しを続ける。

 バダックはレムエルが上手くしていることに喜び、それを抑えることに努める。


「帰る途中に王国から肌で分かる気配を感じたわ」

「それはこちらでも確認しました。なんだったのかは分かりませんが、教会の連中は神が降臨したとか騒いでいますよ。そんなわけないと思うのですが」

「うふふ、神ね。降臨したのなら上から光が降注ぐものじゃないかしら? 私が少し見たのは立ち昇るところだったわ」


 少し情報を開示し、教会の連中からの情報も得る。

 ただし、今後帝国とは戦争が起きるだろうと考え、レムエルの噂が広がるまで教えることはない。

 その光がレムエルがやったことで、いつも感じていた精霊とは違う感じと言う事はあの力なのだろうと気づいていた。

 ただ、あそこまでの力はなかったことから、成長しているのだと喜ばしい気持ちになる反面、この短時間でそこまで成長しなければならなかった環境に憂いた。


「そう言えば、創神教の連中は特に慌ただしかったですよ。金の無い私達にはよくわかりませんが」


 帝国でもやはり金の亡者として位置しているようだ。

 だからといって精霊教が流行っているかというとそうではなく、精霊教は帝国の気質と合わない様でそこまで多いわけではない。

 チェルエム王国が腐敗し国民が苦しんでいた、穏やかで豊かな土地である等が起因しているのだろう。


 それに帝国は強く無い者を虐げる傾向が強く、種族差別・弱者差別が存在する。

 それは冒険者なら特に顕著で、力なき冒険者は笑い物やいじめの対象となる。


 二人は眉を顰めるが、助けることはない。

 してしまえば目立ってしまう。

 折角十年以上も隠れた苦労が水の泡となるだろう。


「何でもチェルエム王国では精霊教へ改宗するみたいで、今回の解放も手伝ってもらったそうですね」

「だから慌ただしいのでしょうね。あれほど威張り散らしていたのに抜けられては困るでしょう。しかもチェルエム王国は豊かで広大な土地を持っているわ。創神教からすると金の成る木、それに関われなくなるというのは」

「最悪だと思いますよ」


 二人が少し黒く笑うのを横目で見ているバダックは、教会を味方に付けたのかと感心した。

 それに精霊教には何度か世話になっているため、上手くやったのだろうと頬が緩みそうになる。


「まあ、これから王国の動きも気にしなければなりません。攻めてきた時はよろしくお願いします」

「ええ、参加するわ」

「出来ればなってほしくありませんが」


 どちらに、とは言わない。

 グレーゾーンだろうが、基本冒険者は自由人だ。

 戦争も強制参加になるだろうが、それまでに雲隠れしてしまえば強制などとは言えない。

 ギルドカードにGPS機能などついていないのだから。






 帝国領内の中心に位置する首都ウァグラム。

 ウァグラムは『三虎』と呼ばれる魔法耐性、物理耐性、結界の三つの巨大な城壁に護られた都市だ。

 その中心に皇帝が住むギルツブルグ帝城がある。


 かなり金を掛けられた都市で、領民はチェルエム王国程ではないが税を掛けられ、植民地や属国となった国々から多めの貢物を納めさせる。

 ただ、帝国は武力が世界一だといってもよく、軍事国家で守る為だといわれれば、貢物は多いかもしれないが納得しなければならない。

 反発して敵に回っては明日は迎えられないかもしれないからだ。


 また、レムエルが言っていたように精霊に少し見放されているのか、王国と比べると帝国領内は荒れ地が多く、強力な魔物が闊歩し、生きるのが過酷な地域がある。

 逆に考えればバダック達のように強力な魔物を倒し金を稼げるが、それを出来るのは実力者だけで、金があっても荒れ地で作物を育てなければ生きられない。

 金では腹は膨れないのだ。


 全ての土地がそうだというわけではなく、帝国領内の人が元々住めない森等を引いた二割ほどだ。まだ緊急事態には程遠いというところだ。

 ただ、今回の件で精霊とレムエルの怒りを買ったかもしれない為、どうなるか分からない。




「後少しで乗っ取りが成功していたというに……!」

「やはり、土地が欲しいからと違う方法を試すべきではありませんでしたな」

「いつものように武力で攻め落とせば――」

「馬鹿言うな。王国には『最強の矛』や『殺戮の妖精』がいるんだぞ」

「だが、そいつらはここ十年以上話しすら聞かない。何に怯えているのやら」

「お主は知らんから言えるのじゃ。王国に住まう悪魔達をな」

「そもそも今回悪魔の一人『剣舞の殲滅姫』の姿があったそうだ。ならば、他の者達も生きていると考えた方が良い」


 分かっていると思うが『最強の矛』はバダック、『殺戮の妖精』はカロン、『剣舞の殲滅姫』はソニヤのことだ。

 チェルエム王国が今まで無事だったのは、帝国が危険視する者達が大勢いたからだ。

 そんな者達が霧隠れように名を聞かなくなり、帝国はチャンスだと考える者と罠だと考える者に分かれ、今回のような作戦となったのだろう。


「今は無用な争いは止めよ」


 作戦失敗の報を受け、紛糾しそうになった将軍や貴族達を止めた老人。

 彼こそが帝国の最高指導者であるフェルドナ・ムスフ・ガムバムルグ。

 長年世界の覇者とならんという帝国の意思を引き継いだ男で、自らの野望の為には手段を選ばない冷徹さも備えている。


「問題は作戦が失敗したことではない。それも問題だが、この十年で備えてきたのだ、問題なく取れるというもの。……だが、次の王となった者と指輪の件だけは見過ごせぬ」


 重く冷たい怒りが覗く声に、その場にいる者は口を閉ざし難しい顔になる。


「王国の連中は立て直しで隙だらけといえるのではないか? なら、今のうちに攻めれば――」

「それは貴殿の作戦と取っていいのですかな?」

「陛下の仰られたように次期王の力は不明、噂になっている城砦や神の降臨、精霊の件、圧倒的な支持率、どれをとっても脅威でしかない」

「どうにか戻って来た暗部から指輪の情報を聞いたが、奪還することも、自壊することも出来なかったという。しかも一度発動したにもかかわらず封印されたとか」

「精霊の力とは眉唾だと思っていたが……これは厄介な。――それでも攻めるというのなら、貴殿が先陣を取って頂きたい」

「ぐっ、く、迂闊な発言申し訳ない」


 彼らとて、今の王国を攻めれば飲み込めると思っている。

 だが、『剣舞の殲滅姫』ソニヤの出現で脅威となる存在の復活とレムエルの未知数さにより、二の足を踏んでいる。

 もし今攻め勝ったとしても、辛勝ならざるを得ず、その隙に反帝国同盟が攻めて来るだろう。


 結果、彼らは今の所情報を集め、力を備えるしかなかった。


「それと教会の方も厄介だ」


 誰かが苦々しいように口にする。


「教会の連中は口を閉ざし、表に出ないようにしているが最早時間の問題」

「どういうことだ?」


 暗部の情報はまだ全員に行き渡っていないようだ。

 まあ、諜報員として入っていた者達は精霊や常闇餓狼の手によって処理されていたのかもしれない。


「知らないのなら教えてやろう。教会――創神教の連中は私達の指輪に酷似した力が収められた宝珠を使ったという。その者はこの世ならざる物へと進化し、理性もほとんど消え、敵味方関係なく暴れ回った。まあ、その場にいた者達の手によって仕留められたそうだが、どう考えても似ている」

「では、知っている者が漏らしたと?」

「いや、そうとも限らん。教会の連中は不思議な力を使う。魔法とは異なるな」

「もしかすると、情報自体知らぬ間に漏れていた可能性がある。だが、そんなことはどうでもいい。良くはないが、物が違うようだ」


 結果的には注がれた魔力をスイッチに使用者の意識を乗っ取り、身体の組織を魔物に似た何かに変える。

 込められている物は精霊の対極に位置する怨念とでも言うのか、負の物体である物だといえよう。だからこそ、精霊は指輪を危険視し、レムエルは精霊に似ているが違うと断言した。


 教会の宝珠も似てはいるが、負の感情を入れているとは思えず、変貌した後も一応人の形を保っていたという。

 強さも想定していたよりはなく、改良しているのだと思えた。


「姑息な連中よ。どこまでも金を追いかける亡者、我が帝国にも蜘蛛の巣を張り巡らせようとしているようだがまあ良い。一応、教会の連中に釘を刺して置け」

「はっ」


 フェルドナの言葉に右目に眼帯をした細身の将軍が答えた。

 彼はフェルドナの右腕である『破軍の将』と呼ばれる負け知らずのリガム・ミュリファだ。

 参謀を務めているが、負けたことが無いとは言わない。現に王国とは何度か戦い攻め落とせずにいるのだから。

 ただ、攻めて負けたことはない。


「さて、王国の次期国王はどんな奴か……我が帝国の邪魔立てするなら……ふ、ふは、ふはははは」






 冒険者ギルドを後にした二人は、世間話ついでに買い物をした後少し高給な宿へ帰った。

 受付嬢は言って良い事と悪い事を区別しているため聞き出し難いが、国民というのはお喋り好きで様々な噂を手に入れることが出来る。


 嘘と真実を見分けるのは少し難しいところがあるが、あちらのことを知っている二人ならさほど苦労することはない。

 神が降臨した、これは確実に嘘で、レムエルの精霊か『竜眼』だと結論が付く。

 隠し子はレムエルのこと、創神教が慌てるのはそのまま、城砦は精霊の力、よくわからない軍事演習は内乱等だ。


 こちらもご情報を流すのを手伝いつつ、帝国内の情報を得ている。

 何も二人だけでなく、こちらにも諜報員が紛れ込んでいる。彼らと接触し、王国の様子と帝国の様子をやり取りしていた。


 ただ、帝国は王国と違い警備が厳しい、いや、普通に警備されているため気を付けなければならない。

 王国がざる過ぎたのだ。


 恐らく、レムエル達は国を立て直すと同時に一斉捜査も始めなければならないだろう。まあ、精霊がいれば一カ月もしないうちに諜報員はほとんどいなくなるだろうが。


「殿下は無事やり遂げて下さったようだな。これで一つ荷が下りる」


 宿に帰ったバダックは安心した声で、酒を片手にほろ酔い気分でソフィーに告げた。


「あなた、どこで聞かれているのか分からないのですよ? 気を付けてください」


 馬鹿な夫を叱責するようなやんわりとした注意に、バダックは子犬のように眉を下げ、酒の入ったコップをちびっと口に付けた。

 どうやら体格に似合わず尻に敷かれているようだ。


「それで、これからどうするつもりです?」


 その姿に気の抜けたソフィーも果実酒の入ったコップを持ち、隣に座ってそう訊ねる。


「もう少し様子を見るべきだろう。経験から帝国は待ちを選ぶはずだ」

「そうなのですか? 普通は隙を狙うと思いますが」

「まあ、そうだろうな。だが、今のチェルエム王国は未知数だ。今の皇帝は野心が高いが、厄介なことに状況を読む事に長けている。まあ、そのおかげで今は狙わないと思うがな」


 保身に走るタイプというわけではなく、情報を集めて地盤を固めて勝利を確信した上で行動に出る思慮深いタイプ、と言う事だ。

 だからこそ厄介で、今回は未知数さが多く、創神教の件もある為、行動には移さないだろうと考えていた。


「ただ、絶対とは言えない」

「だから、確認するまで帝国にいると」

「そうだ」


 残っていた酒を全て飲み干し、新たにソフィーに注いでもらう。


「少し予定が狂い有名になったのは痛いが、帝国の冒険者の質が分かっただけでもいいとしよう」

「それに帝国も一枚岩ではなさそうですね。それでもこちら側に協力してくれるとは思いませんけど」

「国が違えば、友と戦場で相見(あいまみ)えるのも世の連れ。それが敵対しているのなら尚更だ」


 何十年と戦争に明け暮れたバダックの言葉には重みがあった。

 ソフィーはバダックに寄り添い、二人でほろ酔い気分で過ごすのだった。


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