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第四話

文字の量がバラバラになりますが、キリに良いところまで書いています。


 深い森の中でも見ることのできない景色や動物、人々の賑わいに興味をそそられ、レムエルは不安と恐怖を払拭し、ニコニコとシルゥに跨っていた。

 隣にいるソニヤにもレムエルの影響か小鳥が集まり、掌に屑パンを落として餌を上げている。

 微笑ましい光景に周りの人も笑顔が浮かび、日頃の苦しい気持ちが少しだけ晴れているかのようだ。


「レム君は本当に動物に好かれるな。最近はその傾向も強くなってきていないか? 私の所にも来るのだが……まあ可愛いので構わないがな」


 小鳥がピヨピヨと囀り、ソニヤの掌の上をトコトコと歩き屑パンを突っつく。


「うん、可愛いよね。姉さんの所に行くのも僕と一緒にいるからだと思うよ」

「お兄ちゃん、私にも!」

「はい、優しく撫でてみて。強くしたら逃げちゃうし、小鳥さんも痛いからね」

「うん! ことりさ~ん、私の手にも来て」


 目の前の馬車に乗っている七歳くらいの女の子が掬うように手を差し出し、レムエルの手から小鳥が来るのを待つ。

 レムエルは気を効かせて小鳥にお願いすると、小鳥はひと鳴きし女の子の掌へと飛んで行った。

 女の子も嬉しさに顔が綻び、両親が苦笑してレムエルに頭を下げた。


「あっ、飛んでっちゃった……」


 少しすると再びレムエルの元へと戻り、お腹でも空いているのか残りの小鳥と一緒に屑パンを突いている。

 レムエルを羨ましそうに見ている女の子は動物が好きなのだろう。

 だが、動物は値段が高く、小鳥ならばまだいいが最近は犬や猫までも食料認識されているので、下手な物を飼えば目を離した隙に盗まれてしまうだろう。しかも餌代もかかるため好き好んでこの苦しい時に飼おうと思わないだろう。

 だからこそ、何もしないで動物が近づくレムエルを羨ましいのだ。


「えっとね、動物っていうのは警戒心が強いんだ。だから、来てほしいとか、来ないかなぁとか、じっと見つめてたら相手は狙われていると感じて逃げちゃうんだ」

「そうなんだぁ。じゃあ、どうやったらいいの?」

「僕は静かにしてるよ」

「静かにしてるの? 私だって静かにしてるよ!」


 本当かどうか知らないが脚をばたつかせているところを見ると活発そうな女の子だ。

 レムエルとソニヤもそれに気づき、両親が後ろで苦笑しているので間違っていないだろう。


「静かっていうのはね、黙るっていうことじゃないんだ」

「どういうこと?」

「確かにお喋りしないのは大事だよ? でも、今僕も喋っているのに小鳥さんは逃げないでしょ?」

「あ、本当だ! ど、どうして?」


 小鳥は女の子の声に驚きレムエルに傍へ逃げるように肩へと移動した。


「簡単なのは穏やかな気持ちでいることだよ。限度はあるけど興奮していたり、気持ちが昂ってたり、愛情があったりしたらいいよ。あと、動物も人と一緒なんだ。言葉を理解できるし、相手の感情も読み取れる。君もお母さんとお父さんから優しくされたり、撫でられたり、褒められたら嬉しいでしょ?」

「うん! お母さんもお父さんも大好きだよ! 優しいし、強いし、仲がいいの! で、でも、ちょっと怖い時もあるけど……」

「マリー」

「ひゃう! ご、ごめんなさ~い」

『はははは』


 マリーというらしいが、とてもいい子のようだ。

 両親とも仲がいいみたいで、馬車の移動が出来るということはそれなりに稼いでいるのか、今の御時世でいうと裕福なのだろう。

 服も繕いされてはいるものの良い布のようだ。


「動物もね、お母さんとお父さんのように優しくしてほしいんだ。マリーちゃんと同じ感情を持ちたいんだよ」

「そうだったんだぁ……。私もお兄ちゃんみたいになれる?」

「そうだねぇ、何があっても仲良くする心を忘れていなかったらなれると思うよ。でも、それ以上に大切なのは信じる心なんだ。お互いに信じて、尊重し、助け合って、先へ進み、間違っていることを正そうとすることこそが一番大事なことだよ。マリーちゃんが怒られるのはお母さんとお父さんの愛情であって、マリーちゃんが間違った方へ行かないようにしてくれてるんだよ」


 両親は目を見張り、とても嬉しそうな笑顔になる。

 マリーも後ろを振り返ってその笑みを見るとレムエルの言うことが正しいと気が付き、両親に抱き付いた。

 レムエルはそれを見て羨ましそうな顔をするがすぐに笑みを浮かべ、それを見たソニヤは悲しい顔になるがレムエルが言った言葉を噛み締める。

 レムエルが言った信じる心こそがこの国や世界に無くなり始めていることであり、レムエルは無意識だろうが人々に癒しと心を掴んだことに気付いた。


「ほら、もう一度手を出してみて。今度は優しい気持ちで愛情を込めて見てみるんだよ」

「うん! ことりさ~ん、もう一度私のところに来て」


 今度はレムエルの補助なしに小鳥が飛んで行き、トコトコと女の子の手の上で歩き、首を傾げて笑っているマリーに囀る。

 その鳴き声に反応するかのように小鳥が飛び、マリーのいる馬車へ飛来した。


「たくさん来た~!」

「うん、その気持ちを忘れないでね。いつかきっと役に立つ時が来るはずだよ。マリーちゃんは僕と同じで動物に好かれるみたいだからね。仲良くしてあげてね」

「うん! 私仲良くするよ! お兄ちゃん、ありがとう!」

「僕の方こそありがとう。いつかまた会おうね」


 話している内に検問が終了し、レムエル達はマリーの乗った馬車と別れた。




「そういえばお金は大丈夫なの? 村は自給自足だったからよかったかもしれないけど、今は違うよね? もしかしてお金持ってるの?」


 周りで少しだけ賑わっている店の食べ物を見ながら、ふと思ったことを訊ねた。


「ある程度のお金は持ち歩いているが、さすがに伯父に会うまで持ちそうにない」


 ソニヤは腰に下げている皮袋を叩いて答えた。

 恐らく大きさからして十数枚の貨幣が入っているようだ。


「じゃあ、どうするの?」

「そこでレム君の出番だ。――っと、付いたようだからレム君、入るぞ」


 馬を今日泊まる宿屋へ預けた二人が訪れた所は冒険者ギルドだ。

 二階建ての酒場のようなところだが、一階は受付や食事処となっており冒険者以外の者も訪れる。二階は執務室や高ランク冒険者の会議室等がある。

 ギルドの大きさはそれほど大きくはないが、街や王都となると三階建てとなる。


「ギルドに登録して稼ぐんだね。でも、僕にできるかな?」


 レムエルがソニヤの背中にくっ付き、辺りで厳つい顔をした冒険者達が睨むように見ているのに怯えている。

 ソニヤは十数年前に経験していることなので慣れたものだ。

 レムエルが臆病だと思うかもしれないが、これはさすがに仕方がないだろう。


「いや、登録しない」

「どうして?」

「それについては用事が終わったら話す。まず、レム君は空間から孤独の森で取れた魔物の毛皮を五つ出してくれ。――ああ、周囲にばれないように背中の皮袋から取りだす仕草をすればいい」

「それでばれないんだ。じゃあ……『グリーンコドラ』の甲殻でもいい? 一番多かったはずなんだ。薬にもならないし使い道も特にないんだ」

「ええ、それでいい。あと、いくつか薬草も出しておいてくれ」

「わかった。『天上草』でいいかな?」

「いや、それは珍しすぎるから『緑滋草』に変えてくれ」


 レムエルは背中から皮袋を外し、手を突っ込み言われた通りの素材を出していく。

 取りだした素材はソニヤに手渡し、可愛らしい猫の獣人の受付嬢に差し出した。

 少し周りが騒がしくなるがいたって煩くはなく、受付嬢も珍しい孤独の森の素材に驚くがベテランなのか顔には出さずすぐに計算に入った。


「グリーンコドラの甲殻が五体分と緑滋草が十束ですね。甲殻は傷一つなく、これなら高値で取引できます。緑滋草も根まで綺麗に抜かれ、状態も良いので高くします。ギルドカードを提示してください」

「いや、登録していない。これからもする気はないからこのまま換金してくれ」

「設定価格より二割少なくなりますがよろしいのですか?」

「ああ、構わない。ギルドも戦力が欲しいだろうがこちらも予定があるので済まない」

「い、いえ、無理に登録されなくても構いません。これからもギルドの御利用をお待ちしております」


 レムエルはよくわかっていないので首を傾げている。

 後で説明されるだろうが登録しないのは冒険者ギルドの規則があるからだ。

 その中には非常時に強制的に従わせるものがあるため、この急いでいる時に何かが起こり足止めを食らう状況になるのを防いでおきたいのだ。


「……お待たせしました。グリーンコドラの甲殻五つで銀貨十枚、天上草十束で銀貨十六枚となります。二割引かせてもらいますので銀貨二十枚と大銅貨八枚です。ご確認ください」

「……ええ、大丈夫だ。ついでに『ルゥクス』まで行きたいのだが、何か聞くか?」

「いえ、特にそういった情報はありません。ただ、ここ最近治安が悪くなりましたので情報にない盗賊がいるかもしれません。その影響で魔物の討伐も遅れています。寄り道をせずに向かうのが無難だと思います」

「そうか。すまない、助かった」

「いえ、またの御利用をお待ちしております」


 ソニヤは得た金を腰袋の中に入れ、情報を貰ったことに感謝をしてレムエルと共にギルドから出る。

 慣れたような素早い対応だったためにガラの悪い者も当てが外れ、絡むことが出来ずに腰を上げて終わっている。それを見た周りの冒険者は肴がなくなったのに残念がるが、腰を上げて固まっている者を見ていい肴にしたという。

 また、ソニヤが対応した受付嬢は何か事情があるのか隠し事をしていると勘付き、素早く冒険者の列を捌き終え二階のギルドマスターの所へと向かった。




「ギルドマスター、ベジュネです。至急お耳に入れたいことがあります」


 受付嬢の名前はベジュネといい、ココロの町の冒険者ギルドの受付嬢の中で一番の腕を持つ元Aランク冒険者で、副ギルドマスターだったりする。


「入れ。何が起きた?」


 部屋の中には巨人族の男性が座っていた。

 名前をゾディックといい、元Sランクの冒険者だ。

 元々王都のギルドマスターをしていたのだが、部下の不正や貴族達のやっかみがあり、辺境の町の冒険者ギルドへと移ったのだ。

 だが、レムエルの仲間になるかは別だ。


「先ほど不審な二人が孤独の森に出没するグリーンコドラの甲殻五つと天上草を十束換金しに来ました。二人はギルドカードを持ち合わせておらず、女性と少年でしたが、女性は妙にギルドに慣れているようで、少年は周りをもの珍しそうに眺め目立っておりました」

「ふむ。少し気になるがグリーンコドラは孤独の森でなくとも出るだろう? 天上草も珍しいがそこまでの物ではないだろう? 何がそこまで気になった?」


 ゾディックはツルツルの頭を擦り、手荷物書類に名前を書き隅へ寄せた。


「彼女から『ルゥクス』の街への情報を聞かれました。また、女性が雰囲気から強いのは分かるのですが、少年は何も読み取れませんでした。何やら阻害されているような感じで、髪も魔道具か魔法で変装している様子です。容姿は平民には見えませんでした」

「それで」

「また、二人は姉弟のようでしたが、主従関係のようにも見えました」

「どうして?」

「普通物珍しいのであれば何か喋ったりしませんか? 冒険者をじっと見たり、怯えたり、私のように可愛い受付嬢がいれば話しかけたり」

「ああ、そうだな」

「ですが、女性にくっ付き珍しそうでしたがちらりと見るだけで女性から離れようとしませんでした。一言も喋らず、全て女性が行っていました。身なりもそれなりによく、平民とは思えません」


 ゾディックの脳裏にチラリと過るものがあるが、即座に否定しどうするか考える。

 直に会ってもいいがもし相手が貴族だった場合断られる可能性がある。だが、この辺境から態々『ルゥクス』へ行く意味が分からない。意味はあるのだろうが聞いた二人の様子からこの町で仕事をした方が良いと感じるのだ。

 これは会ってみた方が良いのかもしれないと感じた。


「……ベジュネはどう思う? 俺としては少し気になることがあるから会っておきたい。早くしないとここから旅立ってしまいそうだろう?」

「はい、登録するか訊ねると予定があるからすぐに出たいといっていました。また、ギルドの戦力不足についても知っているようです」

「それに関しては分かるだろう。だが、ギルドの戦力を断言できるということは一般人ではないな。一般人に魔力の多さや技量は判断できないだろうからな。口調から商人ではないだろう? まあ、商人がギルドに素材を売る意味が分からないからな」

「はい、私もそう思います。私の意見を申し上げますと、会った方が良いかと思います。あちらから言ってきたのでもしかするとこうなることを予期したのかもしれません。Aランク以上の冒険者でなければギルドマスターには会えません。ですが、孤独の森の素材、怪しい二人、情報についてなどを合わせると、ですが」


 ベジュネの意見に唸るように考え出す。

 ゾディック自身も会ってみたいのだろうすぐに決断し、冒険者ギルドの諜報員に二人の場所を調べさせた。




 冒険者ギルドから出たレムエルとソニヤは得た金を使って多めの食料確保をしていた。

 だが、出店は昼時だというのにあまり人が居らず、出ている出店もそれほど多くない。

 こんな辺境の町までも国の影響が出ているようだ。


「姉さん、どうして登録しなかったの? 僕はしても大丈夫なんだよね?」


 少し登録してみたかったと思うレムエル。


「理由としてはギルドの規約だな。ギルドは冒険者を斡旋する代わりに非常時に駆り出されることがある。今は私達にそんなことをしている暇がない。もし、魔物の大群が攻めて来た、戦争が近くで起きる、暴動等が起きれば時間を取られてしまうということだ」

「見捨てるの? 僕は怖いけど、困っている人を見捨てるのは……」

「いや、見捨てるわけではない。別に冒険者じゃないから助けてはいけないわけではないのだからな。ただ、これは長時間かかると判断した時に動けないと困るんだ。レム君の行動方針である人助けのために見捨てたくないが、元騎士としてダメだと判断した時は移動する」


 非情・無情とも取れるソニヤの言い分に腹を立てるレムエルだが、よく考えてみると助けて時間を取られるということは、その分苦しむ人がたくさんいるということになる。

 それに自分ではできることも限られ、町の住民で対処できることはさせてもいいかもしれない。

 まあ、名を売るには丁度いい出来事だが、それが頻繁に起きるわけがないのだ。


「……そうだよね。ソニヤが言うこともわかる。でも、僕はいずれ上に立つのだから出来るだけ見捨てたくない」

「ええ、だから私は布石を落としました。気付いていなければ仕方ないですが、気づいているとするともうすぐ――」

「すまない。先ほどギルドに換金しに来た二人で間違いないな?」


 ソニヤが全てを言い終わる前に背後から厳つい声で呼び止められた。


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