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第十話

 演説が大成功で終わってから一週間が経った頃、王都に放っていた諜報員から第二王子アースワーズが指揮する軍総勢一万が、噂の出所であるバグラムスト伯爵領を目指し行軍を開始した、と情報が入った。

 同時に相手の戦力の詳細、アースワーズの他にも第六、第七王子シュティーとショティーの同行、騎士団以外に領主の紋章を掲げた貴族軍が加わっていること等も知らされた。

 貴族軍が加わったのが一万になった理由だ。


 それに合わせてレムエル率いる解放軍も準備を着々と進めいていた。


 総勢一万と言う数字に誰もが驚き、想像以上の人数になったと一時騒然となったが、現在は不安が募ってはいるがどうにか落ち着きを取り戻している。

 理由としてはレムエルの力が思っていた以上に領民の心に残り、精霊という未知の力を頼る思いが強くなったからだ。心が離れないのはレムエルの『竜眼』のおかげでもあるが、演説による領民の心が一致団結することを覚え、中立派にいた貴族が少なからずでも手助けしようと兵を送ってくれたのも大きい。


 また、中立派は慎重な者が多く、今回全面的に協力してくれたわけではない為兵の数は低い方だ。

 それでも千五百人も加わったのは、シュヘーゼンの呼び声とレムエルの演説がかなり広まったからだ。冒険者も続々と集まり、ゾディックを筆頭に各ギルドマスター達が集まっていた。


 それを踏まえても解放軍の戦力は凡そ三千と、以前の計算の三倍となったが、責めてくるアースワーズ軍とは三倍以上の差がある。

 それがまだ不安になる原因だ。


 相手の戦力一万の内、一番多い勢力は第一王子の派閥が送り込んだ貴族軍の凡そ四千だ。これは第一王子の派閥の貴族全員が捻じ込んだ兵を合わせた人数となる。


 貴族達は見栄の問題もあるが、今回の一番の理由はアースワーズに手柄を取らせてなるものか、というのが大きい。

 役立たずのビュシュフスに付いている貴族達は、何度も言うがビュシュフスを傀儡にしたいと願う者達と、そのお零れや甘い汁を吸おうとする者達ばかりだ。ビュシュフスが王に相応しいと思っている人物は王国中を探しても一人もおらず、無能だから、操りやすいからという理由で相応しいと思う者ばかりだ。

 そして、その貴族の大半が、シュヘーゼンが言っていたように国に蜘蛛の巣を張り巡らせ、国民を苦しませ、国を腐敗させた者達だ。


 だが、今まで一度もなかった軍の指揮委任が国王の名の下に行われ、アースワーズが王族の中で一番覚えが良いということになり、次の王になるのではないのかと頭に過った。


 そのため、第一王子派の者達はこの件に自分達の兵をねじ込み、一番多く動員したということで手柄を自分達の物にしようとしたのだ。

 全ての手柄を取ることは出来ないが、人数が多いということはそれだけでプラスに働き、自分達の兵がいたから勝てた、手を貸したのだから見返りは当然、それをしたのは第一王子である等と貴族の間で流れる。


 そして、それに対抗しようとしたのが第二王子派の貴族達だ。

 彼らは第一王子派と違い武門貴族や新興貴族等が多く、心から武人であるアースワーズが王になってほしいと望んでいる者がほとんどだ。ただ、野心はかなりのもので、帝国に対抗するための軍編成や費用、兵の徴兵、小国の吸収や植民地など様々なことを考えている。


 第二王子派は少しでも手助けし、自分達の願いを叶えようとするところは同じで、自分達も兵を出したのだから勝てたと対抗できる。


 また、アースワーズが指揮をするということで参加する兵士や騎士、貴族の当主等が参加している。

 普通はあり得ないことなのだが、解放軍には負けると微塵も思っていないのだろう。そして、レムエルの噂を知っているはずだが、実際に目にしなければ信じられず、王族というのもおかしく、精霊は魔法だと考え、『竜眼』も同様に手品の類だと決めつけていた。


 第一王子派の兵はぼんくら貴族や三男以下の貴族が多く、兵もそれに合わせて権力を笠に着る者が多い。

 それは腐っているからとかは関係なく、三男以下は家督を告げるスペアにもならず、こういった軍や国の文官として功を上げ、国で雇ってもらうしかない。お腐っている貴族達も人の親であるため、こういったチャンスを掴ませるために送り出すのだ。


 そして、残りの三千程度が、アースワーズが元々連れて行こうと考えていた騎士団の騎士達だ。

 彼らは団長によって選りすぐりを選ばれ、副団長の指図(さしず)が少々入ったようだが、どうにか団長に忠誠を誓う者達ばかりを組み込むことに成功していた。それもアースワーズの命令が役立たずは置いていけという命令なため、団長二人はそれを前面に押し出し、訓練を怠ける者や戦力にならない者達をざっくりと削った。

 それでも食いついてきたのが副団長だが、この二週間で団長達は選抜も行い三千に決めた。

 ただ、普通に強い貴族の騎士もいる為全て思い通りに行ったわけではない。


 シュティーとショティーの二人に関してはアースワーズにくっ付いているという情報が昔からあり、今回は成人したこともあり戦争の経験をさせる為だと、シュヘーゼン達は考えた。

 強さも諜報員から訓練を行っていると情報があるが、団長と渡り合えるアースワーズ程はなく、ソニヤやイシスよりは弱いだろうと考えられ、前線にも出てこないだろうと注意するだけとなった。


「では、作戦会議を始めます。進行は私、作戦参謀のシュヘーゼンが執り行わらせていただきます」


 会議はシュヘーゼンの屋敷で行われ、この前と同じ部屋に皆集まっている。


 シュヘーゼンから向かって正面の上座にレムエルが座り、背後にレッラとソニヤが立っている。

 レッラは独立奇襲部隊――常闇餓狼とソロの斥候冒険者達の部隊――を指揮し、レムエルを陰から護衛すると共に、同職の暗殺者や斥候を発見し潰す役目を担っている。

 ソニヤはレムエル親衛隊隊長でシュヘーゼンの私兵総勢三百人を指揮する。

 五十人ほどの騎馬集団であるイシスに関しては、遊撃部隊として一撃を加える機動部隊となっている。


 他にも各領主が出せる援軍――お試し期間の様な物で、これを乗り切れば協力しようという者が殆どだ――や、冒険者の部隊は隊長やギルドマスターか高ランク冒険者が指揮をする。


 集まっているのは、まず冒険者ギルド代表ゾディックと、最近Sランカーとして名を轟かせている『竜殺し』のガスタム・ハーマンだ。

 ガスタムは陽気な性格をしており、ギルドマスターとしては今一だが、軍人気質な所もあり冒険者を纏め上げるのは凄腕だ。

 誰もが思っただろうが、竜を崇める国で竜殺しは良いのか、と。

 『竜眼』を持つレムエルに喧嘩売ってるような気もしなくもない。


 次に話を聞きつけ物資の支援を行うと申し出た商業ギルドのギルドマスターと、王国内で有数な商会の会長ジャル・バジャン。

 商業ギルドのギルドマスターは普通の人だが、ジャルはかなりのやり手で、狐族で化かし合いが得意な種族だ。とはいえ、商人であるため誠実さも備えている王都に本店を構える会長だ。

 報酬は先に見える豊かな未来の実現と、レムエルがしてきた噂のように自分の商会にも何か齎してくれ、という難しいのかよくわからない物だった。


 商業ギルドや商人達からすると、現在の王国は実のない木と同じであり、実を付けさせるには基盤である土――腐った国――の改善と栄養――国民の暮らし――を良くし、太陽の光――繁栄を齎す君主――が必要だと考えている。

 噂の真偽を確かめ、レムエルの人辺りを商売人の目で観察し、その結果レムエルに協力しようと考えたのだ。


 他にも鉱山事故・死亡率の低下や銀糸の使い方等からゼノ達が呼びかけ、ドワーフ・ホビット・岩人族達が多い鍛冶ギルドもいる。

 彼らはレムエルの発想が面白いと職人目線から考えており、他にも何か面白い発想が聞けないかと集まってきた。そして、商業ギルドと同じで、彼らも顧客である冒険者が冒険しなければ商売が上がったりで、今回は参加するだけで商売ができるのだ。


 他にも精霊教関係者がいる。

 ネシアは教皇からの通達や信者を使って情報整理も行っているためこの場にはいない。それに歳ということもあり、代わりに筆頭司祭――セレン――がお供二人と共に訪れている。以前受付をしてくれた女性で、詳しい話をネシアから聞かされている。


 魔法ギルドや治療ギルド等も現状に不満があるために参加している。


 だが、どのギルドもこの辺境の地という左遷コースだからこそ参加するのであって、個人の思いが違い解放軍が生まれるように、ギルドにもギルド特有の考え方がある。


 例えば魔法ギルドは魔法にしか興味が無い者が殆どで、禁術や禁忌魔法、魔導書や魔道具等の知識を封印するところだ。加入しなくてもいいが、加入すると魔法の伝授や指導などが出来るようになり、階級が上がるとそういったことをしないといけなくなるが、指定の本を読めるようになる。


 だが、時にそういったところは腐敗しやすく、自分だけが読みたいと思うようになり、周りを嵌め、地位を維持しようと躍起になる。

 魔法は距離さえあれば殺せるため、権力に屈してはならないと決まっている。

 それなのに権力のために国に屈しようとする者が少なからずいるのが現状だ。


 それは別に国に仕えるなということではなく、魔法ギルドが所有する本を見たいがために協力したり、地位を獲得するために貴族に媚を売ったりするなということで、純粋な実力で勝負し切磋琢磨しろということだ。


「初めに現状の再確認を行います。現在軍は我が領地の北東を南下中です。想定通り二週間もしない内に到着するでしょう。敵の数は凡そ一万に対し、私達は三千。三倍以上の戦力差がありますが、調べた結果三つの勢力がお互いに牽制し合っている特殊な混成軍となっています」


 シュヘーゼンの言葉にバルサムが壁にかけられた木版に追記していく。


 木版はレムエル発案で鍛冶ギルドの木工組合と染色組合の合作で、薄い板状にした木を段差が出ないように横長に揃え、もう一度入念に削った後三度に渡り塗料を塗り、完璧に板の段差を塗料で覆い隠した作品だ。

 黒板に似ているが加工技術が無いため、塗料を数度に渡って塗ることで滑らかな質感を表現し、仕上げに少し削ってムラを無くす。


「第一勢力の四千という数字を誇る貴族軍。これは第一王子派の貴族が多い模様です。報告では威張り散らし、文句たらたらのようで、軍内の規律を守らない者も多く、はっきり言うとそれほど脅威にはならないでしょう。だからといって無視できる数字ではありません。


 第二勢力の三千の同様に貴族軍ですが、一応アースワーズ殿下の指示を聞くようですが、横柄な所があるようで、まあ貴族として見るのなら許容範囲内でしょう。ただ、そうなりますと、第一勢力より注意しなければならなくなります。特にアースワーズ殿下は武に長けたお方ですから、当然手こずることになります。


 そして、一番厄介なのがアースワーズ殿下率いる現役二騎士団の混成軍第三勢力です。この勢力は特にこれといった動きはないようですが、見たところ歴戦の騎士で固められている模様。これをどのように捉えるべきかもう少し様子を見るべきだと考えます」


 シュヘーゼンはそう言って椅子に座り、全体を見渡す。

 一様に重い空気が流れてしまうのは、三倍以上の戦力差があるという点だ。

 これを乗り切るには作戦と相手の動きにかかり、物資自体も限りがある。気を付けなければ物量で押されてしまうだろう。


「……うむ。第一勢力は恐らく、後方で待機する貴族が多くいるのだろう。実際戦うとなると半分の二千ほどになるのではないか?」


 初めに口を開いたのはゾディックで、今更ながら気付いたと何人かが頷いた。


 言いたいことはそのような状態の貴族軍なのだから、表立って戦うのは貴族とその取り巻きと子飼いの騎士達以外の平民の兵士達だろう、ということだ。

 武人の貴族は第二勢力におり、第一勢力は腐っているのでそもそも武の方にそれほど強くない。集団の長でもある貴族が前に出るというのはまずないだろう。

 指揮官や総大将がここぞ、という場面でしか前に出ないのと同じだ。


「三倍以下となったか。では第二、第三勢力でも同じことが言える。計算すると六千ほどだな。第三勢力が殆ど変わらないのは辛いがな」

「それに対してこちらはほとんど変わらないでしょうな。大体二千五百程度ですかな?」

「でしょうね。まあ、その数字には民の数字を入れていませんからね。それを入れると半分以下になるのではないでしょうか」


 各ギルドマスターがそう発言し、重かった空気が少しだけ軽くなる。


 そうは言うが、争い事というのは数で決まるものではない。

 先も言ったように物資の問題や練度や連携の問題、指揮官や作戦の不備、地形や天候の運、士気の高さ、掲げる物によって変わる。

 特に最後の掲げる物は国同士の戦争ならば攻める奪う守るの平行線だろうが、身内同士となると掲げる物が高く誇りがある物ほど強く、何より国のために立つ中で国民を味方に付けると相手は恐怖となるだろう。


「人数は同等程度と覚えておこう。じゃあ、視点を変えて質と職業等から考えたらどうなるの?」


 レムエルは空間に手を突っ込み軍儀用の駒を取り出し、呼びとして何枚か作ってもらった小型黒板にいろいろと書き込む。


 因みに時間が足りずチョークは作れず、代わりに炭を使って書いている。だから、黒板の表面は深緑色ではなく、白い綺麗な色だ。裏面にレムエルの紋章を忘れずに入っている。


「質っていうのは個人と隊とか集団の力量、及びそれを率いる人の性格とかだね。それによって取る行動が変わるし、嫌な行動とか得意な事とかでやり方が変わる。あと、イシスの部隊みたいに馬持ちの確認と、相手の物資の量、三つも勢力があるのなら細工が出来るかもしれない」

「その辺りはこちらで調べておきます」

「頼んだよ、レッラ」


 ソニヤとレッラはカロンやクォフォードと一緒に軍儀で遊んでいたレムエルを知っているためさほど驚きはないが、レムエルのことを知っているシュヘーゼン達は驚き、ギルドマスター達は戦略に関しても知識があるのだと見直す。


「では、職業とは何でしょう? 騎士とか商人ではないですよね?」

「うん、違うよ。騎士って言ってもいろいろな種類があるでしょ? 馬に乗ってる人とか、持っている武器とか防具とか、弓使いだったり魔法使いだったりね。冒険者ならもっとあるでしょ? こっちの職業は大体わかったけど、相手についてわからないとしっかりとした作戦は取れないね」

「ふむ、一理ありますな。――王国の騎士団は全てで三つ。一つは王国の治安と王の側近を務める近衛騎士団、王国の平和と警備を務める銀鳳騎士団、約二十年前に作られた魔物の掃討と女性の地位向上を務める元黒凛女騎士団」

「三つ目の黒凛は現在白薔薇となっていますが、イシスが言うには騎士団ではなくお茶会集団・仮装集団といった感じです。今回は攻めても来ないようですし、無視していいでしょう」


 王都内部の情報に詳しいジャルの言葉にソニヤが口を開き捕捉する。


「二騎士団の人数は下っ端の新人兵士まで含めて四万。そのうち騎士と呼べる階級の者は二つで八千程度。今回は荷物持ちの兵士も含んでいるから二千五百程度が歴戦の騎士となるだろう。ただ、残りの五百も上級の兵士だろうからそれなりの実力持ちのはずだ」

「人数は変わらないか……。近衛騎士団は主に守る為の騎士団となります。ですから盾と剣の扱い、初歩魔法を扱えること、馬にも乗れなければなりません。また、王の側近を務める騎士団ですから、他国へ行くことも多く礼儀や貴族の顔や国の特徴なども覚えなければなりません」


 ゾディックとシュヘーゼンが記憶を頼りに変わっていなければ、と推測する。


 近衛騎士の選考基準は他にも王を守る為の最低実力、平民でもなれるが相当な武功や実力などが必要で、英雄と呼ばれる者が代々就くこととなる。そして、王自身が選ぶことになるため、横槍を入れようとしてもそれで王が命を落とし、選ばれた近衛騎士が生きていた場合処刑されるだろう。

 それ程近衛騎士というのは実力がものを言い、王を守るというのは身分よりも忠誠心が必要なのだ。


 銀鳳騎士団も同様の基準が存在するが、近衛騎士団ほど厳しくないため通常こちらに平民は集まる。

 各国の関所や砦の人員、首都の警備等も行う。平民の取り調べも銀鳳騎士団だが、基本的にその領地の貴族の兵が行い、貴族のガサ入れ等は実力と爵位持ちの近衛騎士団が行う。


 二万と言ったが首都にいるのが二万ではなく、各地に散らばっている全員で二万なのだ。そうなると少ないだろうが、騎士団に入っていない兵士や砦や関所も貴族の兵士が詰めていたりする。

 結局二万と言うのは現状妥当な数字なのだ。


「騎士団の内訳は半数が魔法よりも武器を持って戦うことを専門にします。レムエル様程魔法の扱いに秀でている者は稀ですから。これには歩兵、騎馬兵、重装兵等合わせています。中隊長クラスとなると両立させなければならなくなるので、魔法の知識と実力がいりますね。残りの半数の内三千が弓などの物理遠距離攻撃隊、三千が魔法攻撃隊、千が治療隊、残りは作戦参謀や文官、輜重兵等です」

「その中には兵士も含まれるんだよね?」

「はい。兵士も一応規律を作り、命令統括しやすいように組み込まれています。兵士と騎士で分けると亀裂が入りかねないからです」


 兵士は一般的に平民が多くを締め、貴族は爵位が低くない限り新人騎士のクラスから始まる。

 それは貴族として手が入っていないとは言えないが、貴族の方が平民より魔力量が多い傾向があり、幼いころからあらゆる知識の勉強や礼儀を習うためよほどのことが無い限り、家督を継ぐ次男以下は騎士となる。長男でも武門の貴族なら騎士となり功を上げると思われる。

 そのため平民の多い兵士と貴族の多い騎士で分けると、兵士達は戦々恐々となり、軍内の規律も笠を着る騎士が多くなり悪い物となる。それを防ぐために兵士にも騎士になるチャンスを与え、騎士団の中に組み込むのだ。


「わかった。レッラ、職業別の人数とかも調べておいて。特に魔法使いと弓使いとか遠距離攻撃を出来る人をお願いするよ。それと出来れば魔法使い達はその使える属性も調べてほしいな」

「かしこまりました。ですが、最後は難しいと思われるので期待はしないでください」

「うん、分かってる。――シュヘーゼン、レギンから許可は貰えた?」


 レムエルは皆から反対が無いことを確認した後レッラに指示を出し、次に取り掛かるためにかねてより考えていた戦場を使えるか聞く。

 ここが使えるかどうかでまた考えなくてはならないだろう。


「はい。一応許可は得ましたが、条件として作戦を教えてほしいとのことです。今後も使えるということでその結果どうなるか考えないといけませんから、当然の条件と言えるでしょう。あとは自分も参加させてほしいとのことですから、今度顔合わせに来るとのことです」

「戦力が増えたね。じゃあ、威嚇攻撃についてはその時に話すね。まあ、こっちの士気を高める為にもしたいから皆には黙っておいた方がいいかも」

「我々には教えておいて下さいよ? 手直しなども必要でしょうしな」

「うん。まだ時間もあるから相手の詳細が分かってからにしよう」


 レムエルはそこで一旦区切り、レッラから喉を潤す飲み物を受け取る。


「次に物資の方はどうでしょうか?」

「そちらに関しては安心していいですぞ。我が商会が総力を挙げて支援する。ただ、偶々儂が『アクアス』と『マグエスト』の件に出資するために下見に来ていたのが幸いしたが、物資に関しては限りがあるわい。せめて辺境から脱さねば、支援らしい支援は出来んな」


 ジャルが腕を組み、モフモフとしてそうな尻尾をゆっくり揺らしながら言う。


「ふむ。程度で言うとどのくらいだ?」

「現状、物資といっても装備類については鍛冶ギルドが、魔道具や補助具については魔法ギルドが、回復や治療の支援については治療ギルドと精霊教が行ってくれる。儂がするのはその素材や材料の一部提供、後は皆の食料だの。食べ物に関しては元々儂の商会は食材の商会。この辺りにある商会から掻き集めれば間に合うはずですぞ」

「わかった。――では、各ギルドと関係者にお願いします」


 シュヘーゼンはそう言い軽く頭を下げる。

 それに倣い関係者達は頷きを返し、レムエルは喜色ばんだ笑みを浮かべる。


 ジャルが商会の商品を掻き集めてもそこまで市場に影響は出ず、逆に小中程度の商会の商品が売れるようになり、循環が生まれる。


「最後に、これ以上不安が広がらないよう各自取り計らってください。それでは解散」


 シュヘーゼンがそう締め括り、今回の会議は終了となった。


 残り二週間出来るだけの戦力を掻き集め、向かってきているアースワーズ軍と相対することになる。

 その行く末がどうなるか分からないが、現状向かい合えば争いは避けられないと誰もが気付いている。

 絶対の勝利が無いと言われているように、絶対争いを回避し続けることは出来ない。

 この争いがレムエルの初陣となり、忠誠を使う者、集った者、希望と呼ぶ者達に応え、真の光となれるかが決まる。




 それから一週間が経ち、その間にレギンと顔合わせを行った。

 気さくなレギンはレムエルを見た瞬間に忠誠を誓い、どうやらレムエルは父親に似ているようだ。そこがレギンが素直に忠誠を誓ったと思える。

 戦場の下見も行い、その時にレムエルが考えている作戦内容が伝えられ、誰もが言葉を無くすこととなった。

 それは今までの戦争とはかけ離れた方法を使い、相手を罠に落とそうとしていたからだ。


 その時のレムエルは「今回は戦争じゃないからいいんじゃない?」と少し不安に思いながら言っていた。


 そして、残り五日となった頃、再びレムエルの下に漆黒の翼を持つ伝書鳩ならぬ、伝書鷹が届いた。


「ん? また、何か来た」


 レムエルはベッドから体を起こし、窓を開けて鷹の首にかけられたバッグから封書を取り出す。

 鷹は何か忘れてませんか? というように首を傾げて、レムエルの袖を嘴で摘まむ。


「……ああ、ごめんね。はい、魔力を吸っていいよ」


 レムエルはそう言って鷹の頭を指先で撫で、笑みを浮かべて魔力を指先に集めた。

 鷹はレムエルの指を咥えるように口を開き、魔力を吸いこんでいく、

 どうやらこの黒い鷹は魔物のようだ。


 だが、レムエルは一体どこの鷹なのかと首を傾げてしまう。

 多くの動物と知り合ってきたレムエルだが、記憶の中にこれほど美しい漆黒の羽根を持った鷹はいない。


「君の名前は何かな? どこから来たの? 見た感じ普通の鷹じゃないよね。綺麗な翼だよねー。どこかの貴族の鳥かな?」

「ピィーァッ」

「嬉しいのかな? ふふふ、もういいの? じゃあ、ご主人様の所に御帰り」

「ピィー……ピーァ」


 窓の縁に止まり肩口で潤んだ瞳を向けた鷹は、最後に別れを惜しむ鳴き声を上げて大空へ飛び立っていった。


「じゃーねー!」


 レムエルは最後に窓から体を出し、手を振りながら別れの言葉を口にした。

 鷹もそれに答えて大空に響き渡る鳴き声を放った。


 そして、レムエルはうきうきとした気分で受け取った封書をペーパーナイフで綺麗に開け、中から取り出した手紙を流し読み、


「……え? えええぇぇ! た、大変だよぉぉ!」


 そして、あの時同様に書かれていた内容に驚きの声を揚げて部屋を飛び出した。


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