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第五話

長いのに全く話が進まないです。

もう少し端折った方が良いのですかね?

 レムエルが国民の声を直に聞いた二日後、シュヘーゼンが保有している暗部とイシスの接触があり、あと一週間余りでこちらに向かって来るのが分かった。

 少し強行突破に近くなるが、馬を所持しているらしく早く着けるだろうと報告され、人数が五十人ほど――小隊三つ分くらい――とかなり少ないが、彼女達は騎士の中でも選りすぐりらしく、ソニヤ達にとって良い誤算といえた。


 協力をしてくれるとソニヤは自信を持っていたが、やはりこの事態では相手の情報と動きに機微になってしまい、安堵の息をホッと吐いてしまう。


 レムエルはイシスのことをソニヤから大まかな人物像を聞いており、鬼人族についてバダック達から聞いてはいたものの、レムエルの想像力は豊かなのでどのようなものを想像しているのか気になるところである。

 人とあまり変わらないと言われているのだが、力が強いというので筋肉質、大柄で三メートル程、角が生えているとかで悪魔染みている等と想像しているかもしれない。


 実施のイシスは浅黒い肌をしているがそれほど濃くなく、ソニヤ同様に少し胸が残念な所があるがスタイルはすらっとしていて長身、多少は筋肉質だが盛り上がっているわけではなく、魔力を体内で強化に施すのが一番得意な種族だ。

 角も生えているが女性は可愛らしい白い角がヒョコッと二本生え、男性は少し長い漆黒の角が生えている。角の数は決まっているわけではなく、女性でも一本の者はいるし、角無しもいる。

 それが実力に関係するのでもない為、邪魔だということで幼少の頃に削り取る者もいるという。角があると兜が被れないからだ。


 国の動きはまだよくわかっていないが、どうやら上層部が噂の沈下に動いたという情報と、実際にどのように動いているかの連絡を受けた。


 噂の鎮火は考えていた通り、現状流れているレムエルの噂が統治に……いや、動き方から推測するに権力者にありがちな、地位を守ろうとする狡い防衛反応のような感じだという。

 流れている噂が第一王子ビュシュフスを称える様な噂や、税を低くするかもという淡い希望の噂などだというが、現状でその噂を流すと逆効果になるだろう。


 現在国民はシュヘーゼン達四つの領地に近いほどレムエルの噂を信じている。

 そして、最近流れ始めたレムエル自身に関する噂が真実味を帯び始め、最初の噂が国民にとってインパクトがあり、現状を良くしてくれるというのなら協力するのも吝かではないというようになっている。


 そんなところへ対抗するかのように税を軽くしてやるという噂は、レムエルのことを肯定し、今のままでは問題が起きると自ら暴露しているようなものだ。

 そこへビュシュフスの噂を流してしまうと、第一王子がその反乱軍の長に対抗したというように取られ、その長――レムエルが隠された王族であるという噂を決定付ける意味にもなってしまう。


 暴露のような形となったが、王と周辺の国民や腐敗貴族達は領民に反乱軍に接触禁止、破った者は死罪だという法を作ったり、少しでもその兆しを見せれば年貢は倍にする等と無茶苦茶だった。

 それをレムエル達が反乱するからだと言い、その周辺の国民はレムエル達に良い感情を持っていないかもしれない。

 だが、このひと月を乗り越えればレムエル達は国民の心を掴むことができるようになるだろう。




 冒険者ギルド代表となるゾディックはというと、明日会合が行われることになる。

 まだどのようなことになるか分かっていないが、協力してくれそうな冒険者を引き連れて駆けつけるという連絡があった。

 そのため、明日までレムエルは上に立つ者として大切な物を何なのか、その一端でもいいので見つけなく手はならない。


 上に立つ者とゾディック達は言ったが、それは上に立つ者が持っていたほうが指示や統括するのが楽になるという意味であり、自然と心を掴むレムエルに絶対ないといけないというわけではない。

 だが、王となると話は別であり、心を掴むには実際に関わらないといけない部分がある。それが出来なくなるということは、やはり今よりは数段難しくなる。


 他にもいろいろな方法があるが、より確実なのがゾディックの言う物なのだろう。




 最後に三か月ぶりに元暗殺部隊総隊長兼作戦参謀兼戦闘メイドのレッラがレムエルの下に帰って来た。


「お久しぶりです、レムエル様」


 朝食を食べ終え、勉強が始まる時間まで部屋で寛いでいた所へ、騎士達の訓練をしていたはずのソニヤと共に訪れた。


 レムエルは一瞬誰かと頭の中に過ったが、すぐに見覚えのある猫耳と背後でくねくねと動いている尻尾を見てレラ――レッラだと気づき、花咲く笑顔を浮かべて寝転がっていたベッドから飛び起き近付いた。


「レラ! やっと帰って来たんだね! 怪我とかしてない? これから一緒にいるんだよね? ソニヤしかいなくて寂しかったんだよ? もっと早く帰って来れなかったの?」

「レムエル様、落ち着いてください。私は離れませんから、どうか落ち着いてください」

「あ、うん、ごめんね。久しぶりだったからつい……。で、でもね、僕頑張ったんだ。いろんなところを回って、いろんなものを見て、いろんな人と関わって、いろんなことを考えさせられたんだ」


 姉変わりであるソニヤだが、レッラもそれに該当する部分がある。

 ソニヤは武力等の心強い姉であり、この冒険や旅の間いろいろなことを知っているソニヤが一番適任だったのだ。性格も従いはするものの臨機応変であり、レムエルがそういうのならそうするという忠誠心を持つため、敬語を使わない姉役が一番上手な人物でもあった。


 レッラは元々メイドであったことから敬語が身についており、レムエルを呼び捨てにしたりということは難しかっただろう。レッラはレムエルにとって優しい礼儀に対して知っている姉という部分が強く、今の礼儀作法等の勉強や貴族の名前を覚えるのならレッラが良いだろう。


 ソニヤはレッラの手を掴んで部屋の中に入れようとするレムエルに苦笑し、嬉しくも困った笑みを浮かべてレムエルを窘めているレッラを手伝う。


「レムエル様、レッラが困っています。これからはじっくりと話せますから、まずは落ち着いてください。何時までも子供では示しが付きませんよ?」


 レムエル自身子供と言われても特に反応することはないが、示しが付かないというのは現状少しダメだと気づき、すぐに佇まいを直して出来る限り優雅にレッラを椅子へと案内する。

 だが、まずメイドを主であるレムエルが案内する時点でおかしく、うずうずとしているのが表情を見ればわかるため二人は苦笑するしかない。


 まあ、レムエルがそれほどレッラの帰りを待ち侘び、ソニヤだけでは寂しさを紛らわせることが出来なかったと思える。

 四カ月ほど前まではバダック達温かい人が周りにいたため良かっただろうが、いきなり別れることになりまだ子供なレムエルはケジメを付けきれてなかったのだ。

 この四カ月も寂しいと思う暇がなかったほど濃密な時間を過ごしていたが、やはり一人になったりすると名も無き村でのことを思い出してしまうのだろう。


 いくらレムエルが王族で、どんな能力を持ち、精霊というどこにでもいる友達がいても、家族といえる人物と離れるのは悲しく寂しいかったのだ。


 その気持ちを理解できる二人はワクワクしているレムエルに従い、まずはレッラが帰還の挨拶と情報を伝えることになった。


「詳しいことはソニヤから聞きましたが、レムエル様はこの三か月間頑張られたようですね。最後に見た日よりも凛々しくなられたのが分かります。何か心構えでも変わられたのですか?」


 これはレッラの本心だった。

 最初は変わっていない優しくも気弱で寂しがりやなレムエルに安堵したが、じっくりと目の前で見ることで、レッラの培った眼には纏う雰囲気や少しだけ前向きになったことが分かった。

 それが嬉しくもあり、自分がそれを見れなかったのが残念だと感じている。


 レムエルはそう言われて少し気恥ずかしそうに頬を染め、ポリポリと掻きながら目を彷徨わせる。


「う、うん、ちょっとね」


 言い難そうにするレムエルは変わってないと、レッラはクスリと微笑みを浮かべ、三か月間の諜報生活での疲労が雪解けのように取れていく。


「聞かせてくれますか?」

「え? あ、うん、僕は最初皆に言われて渋々旅に出た。勿論、苦しんでいる人がいるのなら助けたいとか思ってたよ? でも、実際に見て活気がないことに気付いたし、旅をしてみてただ助けるのは難しいことが分かったんだ」

「そうですか。今はどのようになさりたいのですか?」


 少し真剣になったレムエルにレッラは本当に逞しくなられたと、心の中で涙していた。

 そんなことに気が付かないレムエルはやっぱり少し気恥しそうに話す。


「今はね、まだ苦しんでいる人を助けたいって思うよ。でも、各地を回ってただ助けるのは意味がないことが分かったんだ」

「意味がないですか?」

「意味はなくないだろうけど、今はその場凌ぎでしかない。一人が困ってるのなら手を差し伸べればいい。でも、全員が困ってたらいくら手を差し伸べてもキリがないよ。だからね、僕はちゃんとこれを乗り越えて王になろうって決めたんだ。……まだ自信はないし、不安だし、怖いし、今も上手く出来るのか疑問を覚えるけど、思った以上に国が駄目だったからね」


 レムエルは憤りでも感じているのか少し拳を握り、腿の上をポンと叩く。

 二人はレムエルが怒ったことに少し目を丸くするが、それほど国に対して良い感情を持っていないことが分かった。


 レムエルが怒ったことは名も無き村にいた時も、年に数度と数えるくらいしかなかった。

 いじける時や不満をぶちまける時はあっても、怒ることはほとんどなかった。

 レムエルの性格がそうだと言えばそれでおしまいかもしれないが、それでも少なすぎると言える。


 怒った時といえば物の分別が出来始めた幼い時や母親と死に別れた時等だ。

 少しやさぐれたというのが正しいニュアンスになるが、それでも数日で悲しい気持ちが勝ち、皆に謝ったほどだ。

 優しすぎる部分が多くあるレムエルだが、しっかりと怒る時は怒り、その怒りをぶつけてくれるだろう。


「遂に決心されたのですね。別れた時は少し不安でしたが、今のレムエル様を見れば杞憂だったことが分かります。本当にレムエル様はご立派になられました」


 レッラの賛美にレムエルはさらに気恥ずかしさを覚え、レッラに嬉しさ半分の笑顔を向けた。


「皆が育ててくれたし、皆が僕じゃないと無理だと思うのなら頑張るしかない。僕以上にできるのなら任せても良いとは思うけどね。でも、いないんだよね?」


 レムエルの率直な質問に二人は苦笑いのようになり、答え難そうに頷いた。


「ええ、第一王子はこの元凶ですし、第二王子は現在の状況で何を考えておられるのか分かりません。武道派でもあられますから国王には向いていないかもしれません。王女様方はまず王に即位できません。第一王女は私物化した元凶なので話しにならないでしょうし、第二、第三王女も我儘だと聞きます」

「はい。王都にも一応行きましたが、贅沢を貪っているようです。今のレムエル様とは天と地ですね。末の第四王女様は美しいお方だと言われ、歳が離れているからか、まじめに努力されておられると聞きます。詳しいことまでは時間が無かったのですみません」


 軽く頭を下げるレッラだが、実際はどのような人物か細かく調べ上げていた。

 だが、ここで話してもレムエルには自分の目で確かめてほしいというのが彼女達の方針なため、予めどのような人物かは伝えても詳細までは伝えないようにしていた。


 ただ、元凶を作った人物等は詳細まで伝え、危険に足を突っ込まないように気を付けている。

 そうでもしていなければレムエルは会いに行きたいと言い、目を離した隙に何をするか分かったものではないからだ。

 レースの時やランドウォーム等危険なことも多々行い、それが苦しんでいる人のためという名目があるため強く言い聞かせられず、注意することしかできない。

 それにレムエルには全くもって悪気が無く、当たり前だと動くのだから本当怒ることが出来ない。


「第四王女も僕の姉上だよね?」

「はい。レムエル様には七人の兄君と四人の姉君がいます。第四王女様はレムエル様より数か月前にお生まれになられたお方です。一歳年上だということですね」

「ふーん」


 歳も近い女の子ということで、姉弟と言われても一度も見たことが無いため、興味が惹かれるのだろう。

 それに第四王女は表にあまり出ることはないがかなり人気を誇り、その容姿もさることながら、国民のために陰で少し動く唯一といっても言い王族だ。

 まあ、そのことをレッラは掴んでいるが、火事をコップの水で鎮火させようとしているようなものなので、伝えるべきなのか迷っている所でもある。


「第三王子は第一王子に媚を売っているそうで、第四、第五王子は典型貴族というのが似合いそうな感じですね。第六、第七王子は第二王子と仲が良いようで、生まれた日も同じで常に一緒に行動しています。今回はこの二人も向かって来るのではないのかと思われます」

「変わった王族がたくさんいるんだね」


 レムエルは自分のことを棚に上げて言うが、レムエルも相当変わった王族だ。

 まあ、あんな村で育てもこうなってもおかしくないが、精霊と話せたり、運命によって定められているのなら仕方のない部分もある。


「王子が三人来るのか? それは確かだと思っても良いのか?」


 王子が三人も来るというレッラの言葉にソニヤが反応する。

 普通は王子が複数でこのような件に関わることはない。

 武闘派だと言える第二王子が指揮権を貰い向かうことはよくあることだが、まだ成人――成人は十五ほど――して間もない二人を連れてくるとなるとまた話が変わり、余計に訳が分からなくなってしまう。


「はい。城内には流石に侵入しませんでしたが、途中私がいた隊の者と接触し、その動きがあることを知りました。私の腹心だった者なので信用して大丈夫かと思います」


 レッラの腹心となると暗殺部隊となる。

 人数で言うと騎士団の百分の一にも満たない凡そ百人弱だろうが、レッラはその総隊長をしているほどの凄腕だ。その腹心となると裏切ることはまずないと思っていいだろう。


 それと国が保有している諜報員等とは別で、レッラの部隊はメイドもこなす特殊な護衛部隊でもある。

 だから最後に戦闘メイドと付いているのだ。

 ただ、それをレムエルは知らない為、暗殺も出来る凄腕のメイドという認識でいる。

 実際はその逆で暗殺や腕が良いからメイドとして雇われ、王族の護衛や侵入者の排除、食事等の毒物探知を熟す。


「その辺りはシュヘーゼン様も入れて話したいと思います」

「いや、明日冒険者ギルドのゾディックと会合があるから、その時に詳しいことを話してくれた方が良いかもしれん。二度手間になりかねん」

「分かりました。知っておいた方が良いことは伝えておきましょう」


 レッラはソニヤに意見を言われ、こちらの状況をまだ詳しく分かっていないので大人しく従うことにした。


「これからはレラもいてくるんだよね?」

「はい、レムエルの傍にいます。名目上専用メイドや側仕えですね」

「そっか。レラもいてくれるのなら安心できるよ。ソニヤは最近訓練で忙しいみたいだし、一人で勉強するのも寂しくて」


 まだまだ子供なレムエルに二人は微笑ましい目を向ける。

 村を出て四カ月近くが経つが、やはりいきなり家族同然の者達と別れ都会に出るのは勇気がいるようだ。今までいろいろと溜め込んでいたのだろう。

 かなりホッとしているのがレッラに会ってからよく見れる。


「分かりました。今度からは私が傍にいますから、レムエル様は一人ではありません。ただ、入浴や就寝等は御一人で……一緒の方がよろしいですか?」


 弟をからかうような悪戯顔を浮かべたレッラの言葉にレムエルはぼっと顔を真っ赤にし、ガタガタと椅子を揺らしながら二人を指さし、言ってはならないことを口にした。


「にゃ、にゃな、ななにゃにを言ってるにょっ!? りぇらもしょにやと同じだよ!? どうして僕とお風呂に入りたがるにょ!? あの時本当に恥ずかしかったんだから……」


 嫌々と体を振り、全身から湯気が出そうなほど火照らせ、近くのクッションを掴み取り、真っ赤になった顔を見られないように椅子の上で蹲った。


 それを見たソニヤはあの時のことだと納得し頬を緩めたが、隣から黒いオーラが立ち昇っていることに気が付き、しまったという顔になった。


「……ソニヤ? 私達は話し合わなければならないようですね。後で少々お時間を頂けますでしょうか?」

「あ、いや、あとは訓練が……」


 ソニヤは冷や汗を垂らし、どうにかこの拙い状況から逃げようと画策するが、


「いえ、夕食後の詰め合わせ時でもいいですよ? 五分ほどお時間を頂ければ」

「い、いや、お前も疲れてるだろ? 今日の所はゆっくり休んだ方が……」

「いえいえ、レムエル様とお会いできましたから大丈夫ですよ。それよりもお時間をいただけますね?」

「あ、はい」


 笑みを浮かべているにもかかわらず、背後では黒い炎が燃え上がっているのが見て取れ、ソニヤは身体を小さくしながら下を向いて了承した。

 レムエルは首を傾げていたが、次第にレッラから不吉なオーラを感じ始め、周りの精霊もそれに影響され微かに震えているのを感じ取った。

 そして、真っ赤になっていた身体は平常に戻り、ごくりと喉を鳴らし、初めてこう思ったという。


「レッラを怒らせるのは止めよう……」


 恐らくその判断は間違っていないだろう。






 そして、夕食時レムエルの背後で待機しているレッラによる報告が始めった。


 やはりレムエルはレッラも一緒に食事を取るのだと思っていたようだが、レッラはあくまでもレムエル付きのメイドとなってしまうので、主と食事を共にすることは旅先以外ではほぼない。

 少し残念に思うレムエルだが、これからは一緒にいられるのなら今までよりはましだと気づき、せめて話せる近くにいてほしいと願った。


「レッラだったな? 話は聞いた、報告を頼む」


 シュヘーゼンは過去何度かあったことのあるレッラに目を向け、微かに笑みを浮かべながら掴んだ情報を報告させる。

 レッラは一歩前に進み、シュヘーゼンの方を向きながら一つ咳をする。


「報告させていただきます。私は王都に向かいながら各地を転々と回りました。やはり王都に近づくほど腐敗した貴族が多くなり、そこまで切迫しているわけではありませんが、領民に活気が無いのはご存知の通りとなります。一カ月辺り周り王都へ入りました」


 レッラの口ぶりから苦しさの差は合ってもあまり変わらない状況なのだろう。


 法律は国――王の裁可があって定められるもので、貴族が持つ領地における税や規律の様な物は治める貴族が作る物である。国は口を出せても無理やり従わせることは出来ない。無理なことをさせていれば国が貴族を罰するが、正当な理由があるのなら仕方なしと取られる。


 しかも国は全ての領地を見て回り、全ての税収や政治等が出来ているか確認できない。

 当たり前な話だが、機械文明が進んでいないこの世界では全てが手書きとなる。計算機も無ければそろばんもない可能性が高く、近い物はあるだろうが習字率や計算能力の水準も低く、全ての領地の申告を確かめ切ることが出来ない。 

 更に大概文官は貴族の子弟等が多く、懇意にしたい貴族や頭の上がらない貴族からの命令等が来れば、甘い汁を吸おうと考え水増しする等といった行為を平然と行ってしまう。

 逆に平民はそういうことに頓着しない面が強く、貴族自身が平民の文官に命令すらしないだろう。


 だが、何かが起きた時に罪を擦り付けられるのが平民の文官だ。


 そのため、各地に応じた税収があるため国は口出し出来ず、現在は国自体も腐りどこの国民も同じような物なのだろう。

 まだ、街や王都ではぎりぎり生活していける範囲だからいいだろうが、村となると作物の影響もあり、身売りする子供がいる可能性が高いというのもある。


「王都は今魔窟の巣窟、というべき状態となっています」

「ふむ。私が最後に王都に行ったのは一カ月ほど前、レッラは凡そ二週間ほど前となるのか?」

「いえ、職業柄自分で走った方が早いので一週間と少しといったところです。私自身も豹の獣人ですから」


 それを聞きシュヘーゼンは内心驚くが、レムエルは何事もなかったかのように首を傾げながら食事をしているのを見て嘘ではないのだろうと見当を付けた。


 獣人の種類によって持久力や脚力に差が出るが、走ることが得意な豹の獣人となるとその特色を受け継ぎ、更に獣人はある歳と力を付けると、獣化と呼ばれる動物の姿を取り戦闘を行うことができるようになる。

 獣化は身体能力の上昇だけでなく、五感の発達に加え、直感に近い第六感、身体も動物の姿に近くなり、レッラは黒い豹の姿を取るだろう。


「現在、王都は創神教の力が増し始め、国民は無理やりお布施を毟り取られている状況です。貴族も多くの者がその汁を吸おうと暗躍し、創神教の本山のある聖国と密通している可能性が高いでしょう」


 警備が強化されても穴を見つけ帝国等と密通する者がいないといえないが、その穴を突き教会と渡りを付けようとする者がいるようだ。

 理由としてはもしもの時のための保身が一番だろうが、他にも教会の力を背後に権力上げや覚えを良くして取り入る等様々で、中には教会に自分の子供を送り込む者もいるだろう。

 現在はお互いの理に叶う不当な利益を上げることが第一だろう。


「教会か……。何でそんなことをするんだろうね。別に神様がどうとかは言わないけど、崇めるのなら何でも良さそうなのに」


 レムエルは口の中の物を飲み込み、意味が分からないと零した。


「殿下にはまだ早いかもしれませんね。教会――宗教というのは崇める為だけのものではありません。宗教は教えの教義、御祓い等の儀礼、孤児院等の施設、教会等の組織を備えた集団であり、精神や環境の向上等国が出来ない部分を補ってくれている面もあります」

「それに教会は国に対抗できる規模の力と権力があります。貴族でも頭を下げてお布施をするのですから当たり前ですね。現在は特に教会の力が大きく、恐らくレムエル様と敵対する可能性が高いでしょう」


 シュヘーゼンとレッラに細かく説明され何となく納得したレムエルだが、どこかに考えが行き付いたようで眉を顰めてしまう。


「じゃあ、教会……創神教だけだよね? その教会も同時に力を落とさせないと邪魔になるってこと?」

「はい。現在こちらの味方となる貴族に声を掛け、精霊教信者の拡大にはかっていますが、やはり貴族が信仰するのなら創神教というのが根強い状況です」

「どうして? 崇める者は違うかもしれないけど同じ教会だよね? しかも精霊教の方が国民のためにいろいろとしてるし、創神教の信者になるのはお金のため?」


 レムエルは宗教に関わって生きていない珍しい子供のため、宗教自体に入る意味があるのかと当然の疑問を抱いてしまう。

 勿論勉強として聞いてはいたが、教会に顔を出すわけにもいかず、今まで無宗教だったのだ。いや、今も精霊教と懇意にしているだけで信者ではないので無宗教かもしれない。


 レムエルの問いにシュヘーゼンは苦笑してしまう。


「殿下の言う通りですが、宗教というのは難しい物なのです。貴族は国民――この場合平民になりますが、平民と同じものは下賤だと思う者、純粋に教義や神を尊いと思う者、単に勢力・権力が大きいや皆がそうしているから入る者も様々です。個人の考えが千差万別のように、教会の教えも違えば入る信者の思いも違うのです」

「少し難しいね。でも、創神教自体が悪いわけじゃないのは分かったよ。その考えている人が悪いんだね」

「はい、そう考えて頂ければいいでしょう」


 シュヘーゼン達はほっこりとした雰囲気を出す。


「じゃあ、創神教に邪魔をされないように……いや、今後のために手を打っておいた方が良いのかな?」

「そうですね。私の方でどうにかしていますが、やはり教会といざこざを起こす可能性が高いので大きなことは出来ません。下手をすると精霊教も交えた戦争に発展する可能性もあります。迂闊な行動をとれない状況なのです」

「戦争……。宗教戦争みたいなものかな?」

「ええ、そのように取られて問題ないでしょう」


 レムエルはそう呟くが、恐らく記憶の中に残っていたのだろう。

 ただ、曖昧すぎるのは宗教に関わっていた英雄達の魂が少なかったからだろう。


「続けますが、教会の手も入り第一王子を筆頭とした派閥が動いています。今回の噂を此処へ来る途中に耳に入れましたが、まだ王都ではレムエル様のことが周知されていません。そのおかげで対応が遅れていますが、その弊害による怒りが国民に向けられる可能性が高いでしょう」


 それは初めから視野に入れていたことだから問題ないが、思った以上に国の上層部が腐り、ビュシュフスが馬鹿だった。


「現在王都では税の低下の噂が流れていますが、それは逆に上がるのではないかと噂されています。一時期軍が動くという情報により、また第一王子が何か取り立てるのではないか等といった噂も流れていました」

「一番上の兄上は信用無いんだね」


 レムエルの呟きに苦笑いになる一同だが、内心その通りだと言わざるを得ない。


 国民も辛いのなら外へ出ればいいと思うだろうが、外に出るには金がかかり、魔物も徘徊しているため護衛費も掛かり、行き付いた場所で受け入れられるかも問題だ。

 仮に受け入れられても余所者は嫌がらせを受ける対象だったりする。


「また、元部下と接触し、今回の遠征は総指揮官第二王子アースワーズ殿下並びに第六王子シュティー殿下、第七王子ショティー殿下も同行する模様です」


 それはレムエルに報告したことだ。

 聞かされていなかったシュヘーゼンは軽く驚くが、あまり驚いていないところを見ると彼もまた、そのような情報を掴みかけていたのだろう。


「恐らく、争い自体には参加しないだろう。武装はしているだろうが、戦争というのを見せる腹積もりだと考えられる。王族の男子は成人に近くなると一度戦争や魔物の大規模掃討時の士気を取ることになっている。掴み辛いアースワーズ殿下だが、武人であるのならその可能性が高いだろう」

「ただ、それ以外にも何か考えていそうですね。謎多き吾人は魅力的ですが、時と場合によりますね。成人は五年ほど前で、かなり有名です。レムエル様はこの年ですから少し早いくらいです」


 楽しそうに言うソニヤに、レムエルは少しムッとして眉を顰めたが、自分が指揮を取ると考えて大丈夫かと再び不安になる。

 どうやら、レムエルは自分の気持ちに気付いていないようだが、ソニヤがアースワーズを魅力的だと言い嫉妬したようだ。

 気弱でもそのあたりは王族の男子に似て嫉妬深いようだ。


 その変化に隣に座り料理を口にしていたソニヤは気付かなかったが、斜め後ろで待機しているレッラにはまる分かりだった。

 それ以前にレッラはいつもと変わってなさそうだったレムエルの身構えに気付くほど機微に聡く、メイドとしても一流だった。


「それで、元部下というのが連れてきた者達か? それにしては服装が違った気がしたが……」


 シュヘーゼンは食べ終わり口元をナプキンで拭い、近くのメイドがグラスにワインを注ぐ。

 レッラは宝石の輝きを持つ紫色のワインが注がれるのを黙って待ち、シュヘーゼンが口の中で転がし飲み込んだ瞬間に口を開いた。


「はい。シュヘーゼン様が仰る通り、私の元部下以外の者が多数います」

「メイド服を着ていたのが元部下だと考えていいのだろう? では、隠密服を着ていた諜報員か暗殺者は誰だ?」


 酔いも回っているのかストレートに訊ねる。

 それにはレムエルも興味を出し、少しかっこいいかもと思わなくもなかった。

 レムエルも年相応の男の子だということだ。


「あの者達は陛下が抱えておられる特殊隠密部隊の者達です。国お抱えの諜報員達とは違い、国内部のことを調査することに長けた人達です。勿論国外にも足を運びますが、基本的には今回のようなことのための部隊だとお考えください」


 そうレッラに言われてシュヘーゼンの中でピースがカチリと填まった。


「ああ、そういうことか……」

「ん? どういうこと?」

「お行儀が悪いです」


 レムエルはフォークを咥えながら首を傾げ、レッラとソニヤに窘められる。


「恐らく、その部隊が巷で言うレジスタンスなのだろう。いくら調べても小競り合いの様なことしかしておらず、誰かを仲間に引き入れたという話も聞かない。聞いたとしても情報を綺麗に整理された普通の人物だった。それが逆に怪しいとは思っていたのだが……陛下お抱えの内部を調査する部隊と聞き合致がいった」


 シュヘーゼンが唸るように納得した言葉にレムエルは大きく首を傾げてしまう。

 ソニヤもまだわからず疑問顔だが、それは仕方のないことだろう。

 元々国王と宰相しか知らされていない事柄なのだから。


「叔父上、その部隊がレジスタンスだというのは本当なのですか? それとレッラは何故知っている?」

「そうだよね。レッラは忍者じゃなくてメイドさんだよね」


 レムエルはちょっとずれているが、内容はソニヤと同じだ。

 忍者という言葉に首を傾げるが、東方の国にそのような言葉があった気がするとシュヘーゼンはおぼろげに考えるが、今は違うと首を振る。


「はい、レムエル様の仰るとおり私はメイドです。ですが、メイドになる前は私も陛下お抱えの特殊隠密部隊に居ました。一応そこで筆頭に名を連ねていた者です」


 レッラの素性にソニヤは納得し、レムエルはメイドじゃなかったのかと少し驚愕する。

 それを見たレッラは悪戯が成功したような笑みを浮かべ、レムエルは少し恥ずかしそうに縮こまる。


「レジスタンスというのは表向き行動するための偽装です。裏では真の目的である内部の調査を行っています。貴族の動向や大まかな金の動き、他国の間者調査、貴族・国民の情報収集等が主な仕事です。普通の隠密部隊とは異なり、誰かの暗殺といったことをすることはありませんが、密かに護衛をしたりするのも特殊隠密部隊の役目でした。このことを知っておられるのは御作りになられた陛下と宰相の二名となります」


 言外に重要機密事項のため口外を禁止すると伝える。

 それに気づいたシュヘーゼンは一度頷き、バルサム以下召使達に頷き箝口令を敷く。

 ソニヤは長年の勘から喋ってはいけないことだと理解し、レムエルはよくわかっていないが今後の動き次第でその部隊の指揮官となる。

 だが、なんとなくレッラが強かった理由が分かり安心半分、危険なことをしているとわかり恐怖半分だった。

 怒らないのはレムエルの優しさだろう。


「レジスタンスとは縁が切れていたので接触できないと思っていましたが、どうやら一か月ほど前に陛下からこちら側へ着くよう指示があったそうです。各地の情報を集めながら向かってきているそうで、まだ全員が集まったわけではありませんが、あと十名ほどこちらへ来ると思われます」


 レジスタンスの人数は凡そ五十人にも満たない。

 その人数で情報の整理等を行っていたためかなりの実力者達なのだろうが、数には勝てない為仕事の内容も国王が動けない影の仕事を担っていた。


「わかった。情報収集お疲れだったな。今日の所はこれで休み、明日から殿下の傍で控えてやってくれ。どうやら勉強にも身が入っていないと報告があるのでな。まあ、それでも一般貴族よりは覚えが早いから言うことはないようだがな」


 レムエルは口に運ぼうとしていた料理を咥える前に気まずくなり、眼を彷徨わせながらぱくりと咀嚼した。

 それを見てほっこりと場が和み、これで今日の所の報告会は終了となり、レムエルは明日の冒険者ギルドとの会合に備えて休むこととなった。


 レムエルはゾディックの宿題を解き明かし、無事冒険者達を引き入れることに成功するのか。

 それ如何でこれから先の行動が更に決まるだろう。


 最後にお風呂にレッラが乱入し、レムエルが飛び上がりながら浴槽にダイブしたのを追記しておく。


サブタイトルを付けた方が読み返しやすいと言われて、それもそうかと思っています。

一応、今回の物を全て投稿した後に考えていきたいと思います。


自分にはネーミングセンスとかない気がするので、人の名前や魔法、二つ名とか考えるのが難しいんですよね。

ですから、サブタイトルもなかなか決まりません。

変に付けて内容が違うとおかしいですから。

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