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第一話

短いですが、後半の始まりです。

書いている最中にいろいろ加えたり、やり直したりしている内にかなり長くなってしまったため、途中で齟齬や矛盾が出て来るかと思います。

一応ないと思って投稿しますが、よろしくお願いします。

 千年という長い歴史を築きながらも、その長きに渡る年月によりチェルエム王国は徐々に腐敗していった。

 統治する者が堕落し始め、国の行く末を決める王族が私利私欲のために国を私物化し、平民以下の者達は全員奴隷のように日々を苦労して過ごしていた。

 だが、そんな王国を憂い、苦労する国民のために立ち上がった王子がいた。


 その名も第八王子『レムエル』。


 彼はまだ十代前半と、まだこの世界では子供と呼ばれる年であるにもかかわらず、王位に就いて国を豊かにし、国民を苦しみから解放すると誓った。

 国王の命により母親と護衛と共に名も無き村で出生を伏せられた状態で過ごしたレムエル。彼は父親である国王の思いに知らずの内に応え、護衛の者達に鍛え教育されながらすくすくと育った。

 途中出生と課せられた運命を教えられ挫けそうになったが、今はしっかりと前を向き気弱ながらも全身をし続けている。



 初めの領地バグラムスト伯爵領『ルゥクス』では名も無き村から人助けをしながら旅をし、精霊教教皇に助力を願い、教会でどこまでも聞こえる賛美歌を奏でた。


 協力を得るために回ったウィーンヒュル子爵領『ロックス』では、鉱山毒やガスの死亡率大幅低下に貢献し、ゼノ防具店では銀糸を有効に使ったグローブが売られ、特に冒険者達が好んで使うようになった。


 ハイドル伯爵領『アクアス』では暴れていた『蒼天大海蛇』と幻想的なレースを行い、精霊の力を用いた『精霊魔導船』は人々に新たな熱意を植え込み、上空でも繰り広げられた水上レースは最後に光り降り注ぐ虹となった。


 アッテムハ男爵領『マグエスト』では来訪する直後、一個大隊(上級騎士五百)が対応するレベルの災害級のランドウォームが姿を現した。だが、レムエルは諦めることなく、国民を護り切ると真の意味で力に目覚め、力を駆使して倒した。その後力尽き体調を崩したが、この街でも産業となる温泉の開発に成功する。


 そして、『ロックス』で生まれた精霊と竜の紋章はレムエルの象徴とされ、現在四カ月ほどが経ち国中にその噂が広がっていると言ってもいいだろう。



 そして、レムエルには二つの力が存在する。


 一つは世界に宿る精霊の力を使用できることだ。

 レムエルを除けば精霊教の教皇が唯一精霊の力を使うことが出来ると言われていた。だが、精々力を軽く扱う程度だという。

 それに比べてレムエルは会話をし、力を行使し、その姿を具現化させることが出来る。


 もう一つは初代国王にも宿っていたという王者の証である竜の瞳『竜眼』だ。

 その目は瞳に竜の顔が浮かび上がり、見る者全てを跪ける王者の風格を醸し出し、内なる秘めた力潜在能力を解き放ち、全ての者を安心させる。

 ランドウォーム戦では瞳が覚醒し、レムエルはその力を引き出し、神々しく光り輝くオーラを纏った。

 精霊もそれに呼応するかのように姿を現し、レムエルと共に戦場を駆け、騎馬であるシルゥも羽根の生えたように天を駆けたという。


 最後にまだ誰も知らず、本人が一番信じられないだろうが、レムエルは世界が生み出した最後の希望『英雄システム』の傑作なのだ。



 噂は国中に広がり、四カ月という短い時間でレムエルの名は広まらずとも、そのしてきたことは物語と化し、吟遊詩人は各地を放浪し歌い、冒険者は酒の肴に噂を広め、国民は噂を聞きつけて英雄を見るかのように天に祈り、苦しむ者全てが国を正してくれると願った。


 更に最近は新たな噂が流れ始めているという。

 曰く、噂の彼は国を変えるために今まで出生を伏せられた王族である。

 曰く、彼の目的は国民と国の解放。そして、豊かなる繁栄。

 曰く、彼の容姿は王族特有の金に白い一筋の髪が入り、その瞳には竜が隠れ住み、精霊を自由に操る。

 曰く、全ての噂は見る者を魅了し、四つの領地ではこの苦しい中活気が戻りつつあるという。


 様々な噂がある中、同時にこう伝えられている。


『苦しむ国民よ。今こそ立ち上がり、僕の下へ集え。重なる圧政から解き放ち、皆が笑い合える国の王となるために……皆の力を貸してほしい。腐敗した敵を討たんがために!』


 苦しめられている国民はその言葉を意外とすんなりと受け入れ、力ある者は各地に散っているレムエル傘下の者達に纏め上げられ、勢力の拡大と腐敗した国を打倒しようと活気立つ。

 噂を信じたのは平民の味方である精霊教がその噂を嬉々と行い、レムエルの紋章も掲げているからだ。


 今まで中立の立場にいた・いるしかなかった弱小の貴族達は流れを読み、暗部の情報操作によって齎された情報を知り、すぐにレムエルの下へと参じることにした。


 その数、六十貴族弱。


 全体の貴族数の過半数に手が届きそうなほどの勢力と化し、国民は全てレムエルの味方と思っていいだろう。

 ただ時期尚早と表向きは皆中立の立場を取っている。






 三角テントの頂点に取り付けられた照明の魔道具はぼんやりと辺りを照らし、円形状に広がるテントの中央には辺りを煌々と照らし、暖かい風と熱気を送るパチパチと軽快音が聞こえる焚火の炎が見える。

 なだらかな丘の上に設置されたテントの数は山のようにあり、何処かしこから騒ぎ声や笑い声が星々が輝く空の下に響き渡っている。


 だが、どこかピリッとした緊張した空気が流れ、眼には見えない敵を捉えている者達がいた。

 性別・種族は違えど歴戦の雰囲気を纏い、顔や身体に古い傷跡が見え隠れし、身に纏っている武具はどれも一級品であり手入れが行き届いている。

 彼らは騎士や冒険者だ。

 今回の騒ぎに駆けつけた勇猛な猛者達なのだ。


 そんな中盛り上がった地面の上にぽつんと置かれたような岩がある。

 その上では一人の少年が盛り上がる声と明かりを背に当て、募っている恐怖や不安を彼らの勇気や希望の二つで覆い隠し、後押されているように胸元に手を当て、祈るようにやや上を見ながら目を閉じ全てを研ぎ澄まし感じ取っているようだ。

 そんな少年に背後からゆっくりと近づき、声を掛けながら柔らかな魔物の毛皮から作られたブランケットを肩に掛けた女性がいた。


「殿下。寒くはないでしょうが夜風に当たられては体が冷えます。暖かい天幕の中へ入られてはどうですか?」

「……ソニヤ、ありがとう」


 少年の名前は彼らの旗頭であり、希望の星であり、国民の味方、現在噂となっている張本人レムエルだ。

 そんな彼が不安や恐怖を隠さずに曝け出し、我慢する様に微笑まれた女性はレムエルが赤ん坊の頃からお世話をしている元黒凛女騎士団副団長ソニヤ・アラクセンだ。


 ソニヤはその笑みに少し優しい笑みで返し、少し後ろに立つ。


「ソニヤ。……これで良かったのかな? 僕は間違ってないのかな?」


 身体をソニヤの方へと向けたレムエルは震える声を我慢し、ソニヤの少し硬い手を優しく握った。

 その手が微かに震え、夜風が理由ではなく冷たくなっていることに気付くが表情を変えない。


「レムエル様は間違っておりません。その証拠にこれだけの数が集まったのです。彼らは別にレムエル様が命令したわけでも、お願いしたわけでもありません。彼らは彼らの意思でレムエル様に力を貸すと考えたのです」


 レムエルは二種類の光で照らされるテントの集合地を視界に収め、そこから聞こえる様々な声を耳に届き入れる。

 意気揚々とした声、酒に酔い馬鹿なことを言っている声、作戦を練っている声、先を見据えた声、レムエルの話や噂について、ソニヤの話も聞こえ、不安や恐怖の声も聞こえるが誰かが支えている。


 レムエルは少し口元を上げ、感謝するように微笑む。


「そうだね。彼らが僕を信じ国に立ち向かうと決めたのなら、それが続く限り僕は彼らの思いに応えなければならない。そんな僕が弱い顔を見せちゃダメなんだよね」


 その言葉にソニヤは小さな身体に重い運命を課せられたことに憂い、出来れば自分もその重みを背負いたい。だが、一家臣となった自分では背負える重さは決まっている。レムエルに耐えてもらうしかないとグッと拳を握りしめた。


 現在レムエルは国民全体に王子であることが認知され――王国上層部には否定されているが――あまり変わりはないが、王子として振る舞うようにしている。

 ソニヤも現在は名高い国民に周知された黒凛女騎士団の名を名乗り、合流したイシス達を束ねる団長に就任している。

 それも踏まえソニヤは二人っきりの時――レムエルの懇願――以外では殿下やレムエル様と呼び仕えている。


「決戦は明日です。レムエル様は前線に出ることが無いでしょうが、怪我の無いようお気を付けください」

「分かってるよ。ソニヤも怪我をしないのは無理かもしれないけど、死なないでね。それとソニヤが傍にいないのは残念だけど仕方ないね」

「冒険者総括のゾディックが傍にいますから、もしもの時は頼ってあげて下さい」


 ソニヤは少し困った笑みを浮かべてレムエルにお願いする。


 明日の決戦というのはまだ深い部分まで分かったわけではないが、第二王子アースワーズ・オムレル・チェルエムが二騎士団総勢三千を引き連れ、それに集ったかのように反対貴族の兵士達が凡そ七千ほど向かってきているのだ。

 元々何を考えているのか分からないアースワーズだが、今回の進軍は噂の調査と言いながら軍隊を引き連れていることから掃討するのではないのか、と考えられている。


 だが、元々騎士団だけで向かう予定だったようで、その騎士達にも不可思議に指令がいっているという。

 貴族は第一王子派が多く、恐らく手柄を立ててビュシュフスに王位を近づけさせる魂胆で、第二王子派はそれを阻止するために動いたと見える。


 この場に集まっている者はレムエルが王子だと到底思えず、噂しか知らない者が偽者だと思うのは仕方のないことなのだ。

 最初の頃国民や冒険者でさえ偽者ではないのかと怪しんだ。

 だが、噂の容姿が偽装でないのならば王族特有であり、その瞳に映る竜の瞳は初代国王をと数人しか確認されていない王族の証。更に精霊の力を使えるという時点で一度見た方が良いと感じた。

 気軽に見れるわけではないが演説などもあり、その姿を目にした者は全て本物の王子だと、頭に過らせたという。




 未だにアースワーズが何を考えているのかよく分かっておらず、掃討するのなら戦争紛いのことをするわけがない。

 数日前に使者が届き、戦うという旨が伝えられた。

 そのためこの地にテントを張り作戦を練ったのだが、態々戦争をする意味が誰にも分からなかった。

 だから、逃げるわけにもいかず立ち向かうことにしたのだ。


 戦場ではどうなるか分からないが、考えていることはこの戦場で分かるだろうと誰もが分かっていた。


「さ、夜も更けて風が冷たくなってきました。明日に備えてレムエル様は休みましょう。総大将が風邪をひいては指揮が低下しますからね」

「うん、そうするよ。……明日、絶対に乗り切ろう」

「はい」


 レムエルがソニヤに促され休息に入るころには完全に夜が更け、空一面に輝く星々の川が東西分けて線を引いているようだった。

 この川が消えるといよいよ決戦が始まり、二つの勢力が一つに交わることになる。

 それが血みどろな対決か、将又小競り合いか、どういう行く末になるかはわからないが、これが今後のあらゆることに関係していると言えるだろう。


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