第十九話
火山都市『マグエスト』に構える名物門『魔導冷風門』から凡そ二キロほど離れた地点では、身の毛もよだつ様な悍ましい絶叫と激しい爆発音が街の中まで轟いていた。
「ギョアアアア、ギョアアアアアアアアア!」
地中に身体が埋まっていることからまだその全貌が明らかとなっていない、体長百メートルを優に超える巨大な芋虫『ランドウォーム』が収縮自在の身体を駆使し、自分の周囲を飛び続ける赤と茶の二人の攻撃を避けながら反撃する。地上からは青と緑の魔法が飛び交い、隙を付いてはその体に攻撃を浴びせていた。
ランドウォームは雄叫びを轟かせると共に体をくねらせ、埋まっている穴を大きくしながらその巨体を有効に使い、羽虫を払うかの如く薙ぎ払う。
精霊達は飛んで避け、そのすれ違いざまに手に持つ武器や魔法を浴びせるが、ほとんどダメージが通っていなかった。
大気を燃やす極大の火炎弾は着弾と共に皮膚を少し焼くが、黒煙が掻き消えた後には何もない。
人サイズの岩の弾丸が無数に放たれ柔らかい皮膚に押し込まれるが、芋虫特有の柔らかい弾力に跳ね返され傷がほとんどつかない。
水と風は周りにいるレムエル達と兵士達を護るために攻撃に割く力がない。
時折飛来する不可視の鋭い刃はワンドウォームの身体を斬り付け、振動し切断可能の撓る水の鞭も同様にダメージを与えるが、ランドウォームは全く意に介さず、特殊な能力からか煙を上げ、肉が押し出されるように再生してしまう。
「ギョアアアアアア! キシャアアァアアア!」
「岩の雨だ! 全員頭上に気を付けて!」
ランドウォームは煩わしいとばかりに捻った身体を垂直に立て、甚だ一本の聳える柱の様になると今までとは違う声を上げた。そして、百メートル上空から頭大の岩の雨を視界が埋め尽くされるほど降り注いだ。
レムエルの声が反対側で微かにダメージを与えている兵士達に届き、彼らはその場から一時的に退避しようとするが有効範囲はとても広く、馬に乗っているレムエルでも逃げきれない。
「精霊!」
精霊は状況を見ると同時にレムエルからの指示が飛び、兵士達には鉄よりも硬い石の壁がドーム状に展開される。その上に降り注ぐ無数の弾丸に岩を溶かす灼熱の炎が向かい、勢いの付いた岩が岩の壁を貫かないように焼き焦がす。
ぶつかって脆く砕ける様は、まるで炭のようで真っ黒だ。
レムエル達の上には風の精霊の向かってくる物体を逸らす結界が広範囲に張られ、その外側では水の精霊が一点突破の極限まで圧縮した水が放たれ岩の弾丸を吹き飛ばす。
それでも降り注ぐ岩の弾丸は地面にいくつもの小クレーターを作り、雨が降り止むと同時に結界がなくなり、視界がクリアーになる。
再び精霊達は四方に位置し、各自レムエルの指示を待つ。
「今の隙に精霊達は各自力を籠めて全力の一撃をお願い! ソニヤはあいつの隙を作って! 兵士達にも指示を出して!」
「だ、だが、私はレム君の……」
「僕は精霊が護ってくれるから大丈夫! ソニヤは元副団長だからあの人達に指示を飛ばすことが出来るでしょ? 僕だと何を言ったらいいのか分からないよ」
「……く、分かった。だが、無茶はするんじゃないぞ!」
身の危険を護るはずの自分が傍からいなくなるのは……と、ソニヤは主から離れるのを拒んだが、レムエルの周りに中級以下の精霊が姿を現し拳を作って護る意志を見せた。
それでも拒もうとしたソニヤにレムエルの命令が飛び、無茶なことをしないでくれという半ば無理かもしれない苦言を言い、馬の横っ腹を蹴り恐怖に彩られつつある兵士達の元へ向かった。
残ったレムエルは「怖いけど、こんなところで死ぬわけにはいかない!」と己を震え立たせ、誰も死なせはしないと覚悟を決めたことで、両の瞳に浮かび上がる『竜眼』に輝きが灯る。
王者の風格がランドウォームの意識に引っかかり、伸び切った身体を縮めながら戻ろうとする動きを止め、何事だ? とでも言うように訝しむ声を上げた。
「ギョア? ギャアァァァアアアアアアァ!」
「ひぅ! だ、大丈夫。僕が精霊達の力を使って攻撃するから、精霊達は僕の援護をしてね」
自分に向けられた悍ましい怒りの声に恐怖で竦み上がりそうになるが、レムエルは肩や頭、足元等様々なところにいる精霊にお願いをし、自らは自分の魔力を媒体に精霊の力を使う。
手に持たれた剣に魔力が巻き付くと同時に、精霊の力が噴き出すように纏わり付き、一メートルもない一本の剣が数メートルを超える半透明のオーラで覆われた。
不安と恐怖に染まりつつあった顔が真剣みと倒すという気概に変わり、視界に入る街からは住民の慌てる姿が目に入る。彼らを護るという思いが『竜眼』を真の意味で覚醒させたのか、レムエルから他者を圧倒させる黄金の光が迸る。
そして、質量は変わらない精霊の力が凝縮された一本の剣を片手に、もう片方の手でしっかりとシルゥの手綱を握り締める。鋭い目をランドウォームに向け、精霊の剣をランドウォームへ構え声を上げた。
「精霊! シルゥ! 行くよ!」
「ブルルヒィーン!」
レムエルの掛け声と共にシルゥは突撃するかのように走り出し、精霊はランドウォームが放つ無数の弾丸を、水の精霊がしたように力を合わせて一点突破で切り抜ける。
それでも弾き損ねた細かい破片がレムエルに襲い掛かるが、下級の精霊達が局所に力を行使し防ぎ切る。だが、数が多く致命傷となりそうなところしか防ぎ切れず、護られている鎧の上等に当たり甲高い音が鳴り響く。
「ヒヒィィィーン!」
「シルゥ、行け!」
馬上でさらに力を籠めるレムエルに、呼応するかのようにシルゥは一吠えし、頭を下げることで風と一体化する。ランドウォームの攻撃範囲外に走り抜けるとそのままさらに加速して横を駆け抜ける。
「はああああっ! 『精霊瞬閃斬』」
レムエルはすれ違いざまに巨大な精霊剣を内から外へ、横薙ぎに二度三度と切り付ける。
ソニヤから教えてもらった剣技の一つ、魔力で強化した腕を霞むような速さで振う技の一つだ。更にレムエルはバダックから教わった身体強化の極意も合わせ、腕に負荷がかかるが一瞬で何度も切る付けることが出来るようにした。
腕の骨や関節が軋みを上げ音が伝わってくるが、傍にいる手の空いた精霊が力の補助をし、腕と体の強化に浸かった魔力が媒体と化し精霊の力も加わる。中級の精霊はレムエルの後ろに乗り、身体が離れないように抱き着いていた。
「ギョアアアアアアアアア! ギシャアアアアアア!」
「シルゥ!」
「ヒヒィィィーン! ブルルゥウウ!」
シルゥは頭上から落ちてくる巨大な岩を、馬にしてはあり得ない動きで躱す。
まるでお伽噺に出てくる幻獣麒麟のようだ。
角や姿がそうというわけでなく、風を操り天を駆け、雷の雨を降らせるという意味でもない。ただ、空へ跳躍するように移動するその姿がそっくりなのだ。
現在シルゥにもレムエルが乗っていることで、レムエルの溢れる魔力を使用し精霊が力を施していた。
膨大な体力や瞬間的な突発力を持つ馬だが、流石に鎧を着こみ人間を一人乗せた状態ではそれほど続かない。それが良馬の軍馬でも同じだ。
だが、現在精霊の補助が加わったことで身体強化の様な物が施され、筋肉には火の力が、身体には風の力が、蹄には力が入るように地の力がそれぞれ力を貸し、馬の口には時折り水の球が入り込む。
少し遊んでいるようにも見えるが至極真面目だ。
「レム君!」
「い、いけるぞぉぉぉーッ!」
『オ、オオオオオオォッ!』
身体を戻そうとするランドウォームを尻目にその傍を風のように走り抜け、目の前で怯えかけている兵士達の元へと近づいていく。
「だ、誰か来ます! 先ほどの旅人のようです!」
一人の若い声の兵士がどもりながら、ランドウォームへ攻撃しろと激を飛ばす隊長と思しき格好の兵士に報告する。
兵士達はその方角を目にするが頭の中は恐怖でいっぱいであり、どうにか街を護ろうとする気概だけで立っていた。
レムエルに意識がいったことでソニヤは無事兵士達の元へ辿り着き、兵士凡そ四十人ほどと小隊規模の集団に身元を言いながら、従うよう命令を飛ばす。
「私は元黒凛女騎士団副団長のソニヤ・アラクセンだ! これより私の指揮下に入ってもらう! 異論は許さん!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! わ、私はこの小隊の隊長ドレイクという! 貴殿がソニヤ様だとして、その証明は?」
「すまないが今それをしている時間はない。だが、お前達の上司フレアム・アッテムハ男爵は私のことを知っておられる」
ソニヤの落ち着きはあるが急かすような声に兵士全員が一度困惑に入る。
雰囲気からや噂の容姿からソニヤだと断定できそうだが如何せん決定打がなく、従うべきなのか隊長であるドレイクを見てしまう。
ソニヤの意識はレムエルの身の安全にいっており、すぐにでも駆けつけたい気持ちでいっぱいなのだ。
そのイラついたソニヤの雰囲気を感じ取ったドレイクは一つ頷き、ソニヤに向かって指揮下に入ることを了承する。
「この責任は私が取る! お前達は黙ってこの女性に従うんだ! それに俺達は何度か守られたはずだ! 敵ではないと考えろ!」
隊長の言葉に土砂や岩の雨から不思議な力で守られたことや、狭まった視界が冷静さを取り戻すことで広がり突如現れ、現在四方に散り力を籠めている四人の精霊の姿が目に映る。
「事情はあとで説明するがあの方を死なせてはならん! あの方を死なせてしまえば国の希望が潰えると思え!」
ソニヤの言葉に兵士達は全員レムエルを見る。
そして丁度レムエルが『竜眼』の覚醒を果たし、全身を昼間だというのに目視できるほど神々しく輝く光を纏った姿を視界に入れる。
丁度、その周りに多くの精霊が姿を現し、レムエルの魔力に呼応して剣が巨大化する。
「あ、あれは誰だ? な、何と神々しい……!」
「確かにあんな力があれば倒せるかもしれん!」
「よく分からんが希望が見えてきたんだ! 最後まで足掻くぞ!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
「れ、レム君!?」
危ないことをしないという約束を早速破ったレムエルに、ソニヤは戸惑いの声を出すが、結果としてレムエルの行動が兵士の士気を上げることとなり、その声は野太い雄叫びによって掻き消えた。
「お前達! 行くぞォ!」
『オオオオオオオオオオオオ!』
「ソニヤ様、ご命令を!」
打って変わりやる気に満ち満ちた闘志剥き出しの兵士達に一歩後退り、視界に映るレムエルが精霊剣を携えランドウォームへ接近し始めた。
レムエルが放つ王者の風格と『竜眼』が覚醒したことにより、兵士達の士気を上げるだけでなく、恐怖心を払拭し、心の底から闘志を呼び起こしたのだ。
それはソニヤも例外ではなく、今はレムエルの身が心配という面が強くいつもと変わらない様子に見えるだけで、内心震えあがる様な力と気持ちでいっぱいだった。
「よし。私達の役目はレムエル様の支援と、四方に散り力を貯めている精霊達の時間稼ぎだ! ランドウォームは水に弱い! 魔法を使える者は水魔法を使え! それ以外の者は私に続き濡れた場所を斬り付けていく!」
『はっ!』
「では、行くぞ!」
ソニヤを先頭に兵士達は各自陣形を取り、水魔法と風魔法が使える者は背後で横一列に陣を敷き、前列ではランドウォームの身体に沿うように円形の陣を敷く。
今はレムエルに注意がいっているからいいが、自分達に向かってきた場合上空にも気を付けなければならない。魔法を使われた場合に備えいつでも避けられる準備をしている。
「ってぇー!」
「「「「『水球』」」」」
ソニヤの突進と共にかかった号令に兵士の魔法が幾つか飛ぶ。ランドウォームの身体に着弾すると共に茶色い肌が濡れて濃い色へと変わった。
「切り刻め! 『鎧剥がし(アーマーブレイク)』」
「「「「オオオオオオオオオ」」」」
ソニヤは走り掛けると共に剣を斬り付けるのではなく、魔力を纏い強化させた上で叩きつけるように全体重を乗せ斬りかかった。
剣にしてはあり得ない破壊音が響き、濡れた個所が斬られるのではなく、崩壊する様に崩れていった。
兵士達も遅れまいと手に持つ武器を掲げ、レムエルに注意がいっている間に接近し濡れた場所を破壊していく。
ランドウォームはスライム並みの物理耐性を持ち、水以外の魔法の耐性もかなり高い。その代り斬撃や精霊が行った鋭い魔法等は簡単に皮膚を斬り付けられる。
そして、ランドウォームは高速再生能力を持ち、全身に魔力を通わせることで硬質化させることもできるようだ。でなければ、精霊の魔法を直で浴びてあれだけというのはあり得ない。
それで最初は精霊の攻撃に対してのみ意識を割き、余った意識がレムエル達に向いていたのだろう。
だが、レムエルが上級精霊以上の力を発揮させ、硬質化させた肌にやすやすと攻撃を加えたことで、ランドウォームは四方に散り警戒していた意識をレムエルに注いだのだ。
その結果兵士達方面の意識がなくなり、全身の硬質化を止めレムエルの方へ割いたために、兵士達はダメージを与えることが出来るようになったのだ。
どうして兵士達もダメージを与えられるようになったかというと、もう一つの特性に水を浴びると吸収し硬質化させるという能力があるからだ。
これは地中を移動する際に土内の水分を吸収し、移動中に何かが辺り柔らかい肌が傷付かないようにするための能力だ。
ランドウォームが魔力で硬質化させた時は皮膚自体に魔力が通うため水を弾いてしまう。
だが、今の様に魔力が通っていないとスポンジのように一瞬で吸収し、水が身体に入ったことで肌が硬くなってしまったのだ。
レムエルは一度ランドウォームから離れ、シルゥを少し休ませる。
流石に精霊の補助が入ったとしても動きっぱなしのシルゥは、既に限界が目の前まで来ていたのだ。
ソニヤ達のおかげでレムエルも動き易くなっていたが、一番警戒されていた精霊の攻撃がなくなったために余り変わっていなかったりする。
だが、四方に散った精霊に対する意識と警戒がなくなったことで、精霊達は先ほどよりも深く早く力を溜めていた。
「……あと少しだね。シルゥ、まだ大丈夫?」
「ブルルヒィン」
身体を活性化させて体力を回復させる回復魔法を掛けながら、レムエルは首筋を優しく撫でて聞き、シルゥはランドウォームを睨むように向きを変え、短く洗い声を上げて返事をした。
「精霊も準備はいいかな?」
その問いに様々な場所に現れている中級以下の精霊が、個人個人にやる気に満ちた構えをして返事をした。
レムエルの後ろにいる精霊は人型であるが、肩にいるのはリス、お腹には小人、頭には鳥、腕には猿やコアラなど様々な動物がいた。
これ全てが精霊の姿であり、その環境によって適応したものなのだ。
「怖いけど、僕達もソニヤ達を死なせない為に頑張るよ!」
「ヒヒィーン!」
剣を構えて言うレムエルにシルゥは上体を低くして駆け抜ける。
精霊達はコクリと強く頷き精霊の力で護り、レムエルの魔力を通して精霊の力を分け与えた。
もう一度覚悟を決めると輝く力が増し、レムエルはシルゥと人馬一体と化す。
跳躍するように大地を駆けるシルゥは空から降る岩を避け、上空へ跳び上がると降る岩に吸い付き、ランドウォームへと接敵した。
「ギャシャアアアアアアアァ! ギョアアアアアアアァ」
「シルゥ!」
「ヒィィーン!」
目の前で急速に集まった岩の塊が高速で放たれた。
レムエルは咄嗟に剣を上段から振り下ろし、その弾丸を真っ二つにした。
同時にシルゥへ指示を飛ばし、斬り付けた断面を走り駆け抜け、精霊がソニヤ達の攻撃方法を見て覚えた水の弾丸をランドウォームへ放つ。
そして、レムエルの剣にも水の精霊の力を上げ、威力の底上げを行った。
「はあああ! 『精霊霞斬』」
今度は剣がぶれるように揺れ動き、幻影でも見ているかのようにゆっくりと動き出すレムエルの剣だが、実際は早く正確な一撃が相手の意識の外から訪れる秘剣の類だ。
これはクォフォードの意識の外から嵌めるというものからきている。
今回の場合、ランドウォームにどこを護ればいいのか迷わせ、その隙に一番好きの多いところを見抜き攻撃を加える。
観察眼も必要となるこの技だが、王国最強に近いバダック達との日々の訓練で身に付いていた。
「ギシャアアアアアアァァアアアアアアァ」
深くざっくりと切られたことで痛みの方向を上げるランドウォームは、身体を硬直させ再び隙を作る。
「ソニヤ!」
レムエルはランドウォームの硬くなった皮膚をシルゥが蹴り付けることでその場から離れ、同時に下にいたソニヤに上級精霊の準備が整ったことを伝える。
既に両手を重ねた状態で突き出し、それぞれの属性のエネルギーを貯めている精霊達は上空で立ち上がり、いつでも放てるようレムエルの号令を待っていた。
四方の確認を一瞬で行うとソニヤは最後に命令を下す。
「総員、この場から全速で退避しろ! 精霊の攻撃に巻き込まれるぞ! 『風翔剣』」
『た、退避ぃぃー!』
ドドドド、という言葉が聞こえてきそうなほど真剣に離れていく兵士達と、振り返ると同時に剣を下から切り上げ、風の魔法を使った剣の衝撃がランドウォームの身体を上へ駆け抜ける。
そして、自らも確認することなく背を向けランドウォームから離れていった。
レムエルはソニヤが警戒位置から離れたことを確認すると、近くの丘の上から掲げていた精霊剣をランドウォーム目掛けて振り下す。
「精霊よ、発射!」
同時に四方から凝縮された四属性の凄まじいビームの様な攻撃が放たれる。
ランドウォームは四方から訪れる強力な攻撃に気付くが遅く、身体を曲げようとした瞬間に轟音を立てながら着弾した。
「ギャアアァァァァァァアアアアアアァ」
四属性の攻撃がランドウォームの身体を包み込むように広がり、吹き飛びそうな風圧が周りの木々を吹き飛ばし、近くの水を押し上げ、大きめの岩を転がしていく。
ランドウォームの断末魔染みた声が何処までも響く中、精霊の貯め込んだ攻撃が止み、一瞬消えたかと思うとランドウォームを中心に大爆発が起きた。
「あう! せ、精霊助けてぇ~」
最後に小さな石が頭に当たり吹き飛ばされそうになったレムエルは、近くで慌てる精霊に頼み、風圧を抑えてもらいシルゥに跨り直す。
最後がかっこよくまとまらなかったレムエルは少し落ち込み、シルゥと精霊は慰めるかのように集まって来た。
ランドウォームの断末魔が聞こえなくなると風の勢いも弱まり、どうにか手で遮りながら前方の確認をすることが出来るようになった。
「レム君! どうだ、やったか!」
煙が晴れるのを待つレムエルの所へ、ソニヤが息を荒げながら近づき訊ねてくる。
綺麗な肌から血が流れ、あちらでも激しい戦闘が行われたのだと見て取れる。
レムエルは精霊に護られ生傷はほとんどないが、鎧は勢いの付いた石が当たったことで凹みが出来ていた。
ソニヤの背後からは息絶え絶えの兵士達は、地面から生えて見えるランドウォームの身体が少しグラついているのに気付き声を上げた。
「お! や、やったのか……!?」
「た、倒れてくれ……」
「もう、動けんぞ」
そこへ上級精霊が戻り、レムエルに報告をする。
レムエルはシルゥをソニヤの隣へ着け、回復魔法をソニヤに施しながら答える。
「まだ死んではいないみたいだけど、虫の息だって。――精霊はゆっくり休んでいいよ。後は僕達だけで大丈夫だから」
そう言うと精霊達は笑顔を向け、レムエルの頬にキスや頭を撫でたりしながら消えていった。
ソニヤは少しムッとするが、回復魔法を施しているレムエルの手が身体に触れているのでよしとした。
「では、レム君は近づかないように。今近付くと最後の一撃を貰うかもしれない。特にこういう昆虫系の魔物は特に生命力が高いから気を付けるんだぞ」
「分かってる。ソニヤも倒れるまで近づかないでね。あと、兵士の人は怪我大丈夫なの?」
「問題ない。あちらもまだ魔力は残っているし、回復魔法を使える者がいたはずだ。レム君こそ魔力は大丈夫なのか?」
ソニヤは今更ながらレムエルが膨大な魔力を行使していたことに気付き、心配そうに尋ねる。自分はまだ魔力が残っているのだが、回復魔法を使えないので仕方がなかった。
だが、レムエルの魔力は『竜眼』が覚醒したことで底上げがあったようで、今まで以上に魔力量が増えていた。
精霊に分け与えたのは少しきついが、倒れるほどではなかった。
首を振って応えるレムエルにもう大丈夫だと答えたソニヤが、もう一度話しかけようとしたその時、背後から途轍もない勢いで飛来した者がいた。
その者は高笑いとすでに決着がついたと思えるランドウォームに止めの一撃を放つ。
「わーっはっはっは! 特と見よ、我が最大にして最強にして最高の魔法『極大閃熱破壊砲』ォォォォーッ!」
誰も止める間もなく放たれた、精霊が放った一撃より劣りはするものの、凄まじい熱線であることは肌を焼く熱で感じ取れ、マグマのような熱線は数キロ先にいる倒れ始めたランドウォームの身体にぶち当たった。
当たると共に破壊音が響き渡り、髪を靡かせる風が吹き、折角山の方へ倒れようとしていたランドウォームの身体が街の方へと倒れていく。
「「「「「ああああああ! 街に当たるううう!」」」」」
「な、なぬぅぅぅーっ!」
留めの一撃を放ったのはいいが被害を大きくした男は、兵士の叫びに驚愕の声を上げ混乱が支配する。
「せ、精霊、もう一度力を貸して!」
レムエルは慌てて手を横に振り、ランドウォームの倒れる方向をどうにか街から反らしてほしいと頼む。
精霊達から仕方ないという気持ちが伝わってきたと同時に、ランドウォームの身体が不自然に動き、精霊が何かしらの力を使い隣の川方面へ押しやったのが分かった。
「おおおおおお! それが精霊の力か! 先ほどの一撃を遠くから見ていたが、我の一撃より最高ではないか!」
と、背後から最後の騒動を引き起こした張本人がレムエル達に話しかけてきた。