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第十八話

 水上都市『アクアス』を出発したレムエルとソニヤは、この二か月で回る予定だった最後の領地高地都市『マグエスト』へ向かっていた。

 『マグエスト』はフレアム・アッテムハ男爵領であり、領主であるフレアムは炎人族と呼ばれる、焦げたような褐色の肌に赤道色の瞳、炎のような髪が特徴の希少な種族だ。また、火に対して様々な耐性と恩恵を持ち、見た目同様陽気と言えるが明るく前向きで、情熱や友情等少し暑苦しいところがあるが良い種族なのだ。


 『アクアス』の精霊教教会では『マグエスト』が遠いということもありあまり時間が取れず、状況に変化がないことと教皇から返事が来たことを教えられた。

 内容は許可するという簡潔な分であったということで、どうやらレムエル達の計画の成功率が大幅に上昇したようだ。

 他にも国内部の状況やレムエルの父国王の容体等いろいろな情報があったが、今急いで対処しなければならないというものはなかったため、レムエルとソニヤは『マグエスト』へと向かうことにしたのだ。


「段々と暑くなって来たよ。周りは涼しそうなのにおかしいね」


 レムエルは額に浮かんだ汗をタオルで拭きながら、周りの風景を見てそう呟いた。


「ええ、この辺りは高地と言われるが、近くの山は火山だからな。その熱が地面を温め、空気も暑くなっていくと聞いたことがある」

「へぇ~。じゃあ、温泉があるんだね」

「お、おんせん? よく分からないが、付いてみればいろいろと分かるだろう。レム君は驚くかもしれないが、気の良いお方だから安心するといい」


 一応整備されているため馬車二台は余裕で通れ、道の右側には灰色の緩やかな斜面の大きな山が聳えていた。麓には草木が生えているが、そこを超えると砂利の多い岩肌が現れ、そこから急に角度が上がり大きめの岩等が現れる。

 その岩は実は魔物が擬態している場合があるため、この辺りでは定期的に調査を行い、レムエル達のように麓の道を通る者達が魔物の落石で死なないようにするのも仕事の一環だ。


 左側にも大きな山が見える。

 だが、その手前に浅そうに見える澄んだ水が流れていた。温度はソニヤが言っていたように地面から熱が出る為、少し温いといった感じだろう。

 幅は十数メートルあり、水棲の魔物は手前の浅瀬にはいないように見えるが、これも先ほどと同じく水や石等に擬態しているものがいる。ただ、そういった魔物は水面から出てくると姿が見えるようになるため、海の魔物と同じく中に入りさえしなければ襲われることは稀だ。

 絶対に襲われないと言えないのがこの世界の摂理だろう。

 その奥の山は木々で覆われ深緑色に染め上げられていた。


「景色は雄大で綺麗なところだよね。空気も澄んでて気持ちいいし、長閑な感じがするのも良いね。暑いのはちょっとあれだけど」

「ええ。『マグエスト』は山に囲まれているから、ここよりもう少し暑いかもしれない。だが、それでも暮らしていけるように様々な物が作られているはずだ」


 レムエルとソニヤはそれから一日休み、二日目の午後前に街の全貌が見える丘の上へとやって来た。硬いことが特徴のこの辺り特有の魔物と何度か遭遇し、レムエルも得意ではないが攻撃魔法を使い倒していった。

 この調子でいけば午後過ぎには街へと着くと思われる。




 三つの街がそれぞれの特色に合わせて作られていたように、丘の上から見下ろした『マグエスト』の街並みも地形を上手く活かしてあった。

 お金が相当かかっただろうが地面からの熱を吸収し難い白い物へと塗り固め、家も風通りの良い木製が多く、道の真ん中には水が通る通路が作られ多くの人が水遊びをしていた。

 どうやら日中は暑すぎて仕事が出来ず、休憩も兼て水で涼み、日が山で陰った頃に暗くなるまでするのだろう。


「レム君、見えてきたぞ。あれが『マグエスト』で有名な『魔導冷風門』だ」

「へぇー、あれが魔道具なんだぁ」

「そうだ。『ロックス』の『魔導昇降機』、『アクアス』の『浮力維持魔道具』もそれに値する」


 目の前には巨大な門とそれを支える石垣が作られていた。

 だが、その石垣には所々に四角い窓のような穴が開いている。

 その穴には風と水の魔道具が設置されており、微量な風を感知するとその風を待ち内部へと向きを変え、霧吹きの様な水を出し空気の熱を下げるのだ。

 魔道具には維持費が莫大に掛かるが、ここでは定期的に現れる岩の魔物を対峙しているので魔石を買わなくてよく、兵士の実力上げも出来、実質整備費位なものだ。

 『アクアス』も同様にあの湖は深いため下の方では魔物が生まれることがあり、その魔物が街の下に付いている浮力を上げる魔道具の魔石となる。

 『ロックス』も鉱山の魔物が昇降機の燃料だ。


「三つの街には支える魔道具があるんだね。じゃあ、『ルゥクス』にはないの? 何も聞かなかったけど」


 レムエルの疑問は確かにそうだろう。


「勿論『ルゥクス』にも街の魔道具がある。だが、『ルゥクス』は他の三つの街と違い地形にそれほど危ういものが存在しない。だから、それほど目を引く様な魔道具が存在しないのも確かだ」

「でも、森が多いと魔物は多く生まれるんじゃないの? 人が寄り付かないところとかによく魔物が生まれるって教わったよ?」


 魔物は人の寄り付かないところに生まれるというのは正しい考えだ。

 ただし、魔力が溜まる場所と言う注釈が付くことになるが。

 洞窟や森林、海、山等人が住むのが困難な場所は大概魔物が多くいる。魔力も動きが無ければ溜まる一方であり、生き物がいるからその場の魔力を動かし、使い、霧散させるのだ。

 それがないところは魔物が強くなり、孤独の森の様な人が寄り付かなくなり、このまま数百年と経つと更に人が寄り付かなくなるだろう。


「よく覚えていた。確かに『ルゥクス』は広大な自然がうりの街だ。他の街と同様に魔物を定期的に狩り、その魔石を魔道具に使用している。だが、その魔道具はなかなか目にするものじゃないんだ」


 ソニヤは一度だけ見せてもらったことがあると言い続ける。


「『ルゥクス』にある魔道具は一番多いのが木の加工用魔道具だ。とは言っても手作業でするようなものだからそれほどいいものではない。他にも木の測量魔道具や雨も多くなるから洗浄・浄化用の魔道具もある」

「土砂崩れとか起きたら困るもんね。納得したよ」


 そこで話を終え、前を向いて街の様子を確認しようとしたレムエルとソニヤは、何やらこちらに向かって走り寄ってくる集団に気付いた。

 彼らは武装しているようにも見え、ソニヤはいつでも剣を抜けるように柄に手を置き、レムエルを庇うように少し前へ出る。

 レムエルも一応剣を抜けるように構えるが、先に魔法をいつでも放てるように準備に入った。


「あ、あの集団は何? 僕達が不審者にでも見えたのかな?」


 レムエルは少し不安そうな声でソニヤの背中に問いかける。

 ソニヤは近づいてくる集団が何かを叫んだことに警戒を強くし、レムエルにも注意を促して答える。


「それはないはずだ。近いうちに着くと手紙を出してある」

「そうだったんだ。じゃあ、ちょっと声を拾ってみる」

「頼む」


 レムエルは精霊に頼み、彼らが何を叫んでいるのか声を届けてもらう。

 精霊は一言了承しすぐに彼らの声をレムエルの耳へと届けた。


『おーい! すぐその場から逃げろー! 地面に飲み込まれるぞ!』

『聞こえていないのか! そこはすぐに魔物が現れるから逃げろー!』

『早くしろー! 飲み込まれたら死んじまうぞー!』

『誰か危険を知らせることは出来ないのか!?』

『下手の魔法を打てば攻撃と思わせて警戒させてしまう!』


 精霊が届けてくれた彼らの必死の叫びを聞いたレムエルは、地面を見た後すぐにソニヤに伝える。


「ソ、ソニヤ! 地面に飲み込まれるって!? 魔物が来るんだって!?」


 道の魔物への恐怖と訳も分からない状況に混乱したレムエルは重要なことだけを言い、危うく落馬しかける。

 それをソニヤに支えてもらいすぐにその場から逃げ去る。


「それは本当か!?」


 ソニヤは何か知っているようでレムエルに問い詰めるように返す。

 シルゥをソニヤが片手で引っ張っているため、レムエルは落とされないように首に手を回し抱き着いている。

 こくこくと頷き片目を開けてどういうことなのか訊ねた。


「早くこの場から移動しないと地中から魔物が出てくると言っているんだ! 何の魔物か分からないが、恐らく地中に潜っているタイプだろう。この辺りでは時折り地中にいる臭いを嗅ぎ取り顔を出すと聞く!」

「じゃ、じゃあ、僕達は食べられるかもしれないの!?」

「そうだ! だから彼らは私達に警告の指示を出し、その討伐に向かってきていたんだ!」


 レムエルは巨大な芋虫と聞き気持ち悪さに顔を青褪めさせるが、そんな魔物に飲み込まれて死ぬかもしれないと思うと余計に恐怖が高まり、堪える為にシルゥに力いっぱい抱き着く。

 シルゥも主が怯えているのを敏感に感じ取り、主を助けられるのは自分だけだと精一杯その出現場所から退避する。


 二十メートルほど離れると地面が揺れ始め、本当に何かが現れ始めたのが分かる。

 三十メートルも離れると視界がぶれて見えるようになり、馬も走り難そうにできる限りその場から巻き込まれまいと全速力で走り、生物の本能からか危険信号を発しているのだ。


「な、何か聞こえ始めたよ!?」

「この声が『ランドウォーム』の声だ! 声が聞こえるということは近い! レム君、振り落とされても良いように準備するんだ!」

「え!? わ、分かった!」


 ソニヤの言葉に一瞬疑問を感じ取ったが、そんなことを考える暇はないとその思考を切り捨て、落馬してもいいように魔力を全身に通わせ強化する。


 そして五十メートル離れた瞬間、先ほどまでいた地面から「ボゴッ」と何かが掘り返る鈍い音が聞こえ、同時に空高く土が舞い上がり巨大な柱が聳え立った。


「あわわわわ!」

「喋るな! レ、レム君! しっかり掴まれ!」


 落ちそうになるレムエルは口を開きソニヤに注意されながら、落ちまいとシルゥにしがみ付き、陰ったことで背後の様子を見てド肝を抜かれる。

 高さ百メートル近く聳え立ったランドウォームは太陽の光を隠しまだ上がる。その振動と勢いが地面を揺れ動かし、ランドウォームの身体が引っ掛かり、土が下から引っ繰り返されるように土砂の波が背後から迫ってきていた。


「飲み込まれる!? せ、精霊ー!」


 レムエルは正面を向くとギュッと目を閉じ、警告を発して心配そうにしている周囲の精霊に助けを求めた。

 精霊達は待ってました! とばかりに一か所に集まって力を行使し、レムエル達の背後から風の弾丸を土砂に向かって放つ。

 バガーン、とけたたましい音が鳴り響き、土砂が空中へ舞い上がりレムエル達の上へ雨のように降り注ぐがどうにか脱したようだ。

 風の弾丸はそのままランドウォームへとぶつかり、肉は柔らかいのかぶよっとした感触が見て取れ、身体をグラつかせながら地中から出てくるのを止める。


「レム君! と、止まれ!」


 ソニヤの生死の声と同時にシルゥも止まり、荒い息をしながら体を翻らせる。

 レムエルは土砂から無事逃げ切ったと安堵したが、今度は頭上から大粒の石や岩が降注ぐ。


「せ、精霊ー!」


 もう一度精霊に助けを求め、二人と馬二頭を覆う風の結界を作り出す。

 咄嗟のためいくら精霊でも力を出し切れず、せめて具現化したいと思うが時間もない。そのままでは重みに耐えきれないと精霊も感じ取った。

 そこで精霊は他の属性にも協力を仰ぎ、火の精霊は風の精霊に力を分け与え結界の力を強化する。

 水の精霊は傍を流れる水を使い大きな岩を反対の山へと押し流す。

 土の精霊は反対側で警告するために近付き過ぎ、しゃがんで身を護っている彼らに強固な土の壁を作り防ぐ。


「ギョアアアアアアアァ!」


 土砂の雨の音が聞こえなくなり、今度は悍ましく身の毛のよだつ大絶叫が上空から空気を震わし、精霊達は力を解きレムエルの傍へと集まり声をかける。

 レムエルは少し気が立ち興奮しているシルゥの首を撫で、暴れないようにと落ち着かせる。


「はああああ! 『円陣斬(サークルブレード)』!」


 ソニヤは剣を抜き放ち片手上段に構えると魔力を高め、周りに積み重なった土砂の壁に向けて円を描く様に振り切り、衝撃波を飛ばして綺麗に吹き飛ばす。


「そうだね。精霊よ、その姿を現し、僕と一緒に並び立ち、敵を倒す力を貸して!」


 土砂が吹き飛ぶと同時に今度は上級精霊四体が武装した状態で具現化する。

 水と風はこの前同様の姿をし、レムエルとソニヤの背後に降り立ち武器を構える。


 火の精霊は竜の翼と鋭い二本の角、真っ赤に燃える激しい怒りの髪が揺れ動き、牙を剥き出しに火の粉が舞う。纏う民族衣装の様な踊り子風の防具は模様が描かれ、腕や足首には金色のアクセサリーもしている。武器は肘まで覆うガントレットだ。


 地の精霊は眠たそうな感情の無い表情をしているが、眼の奥に怒りが見え隠れしている。体を覆う土の鎧は滑らかな曲線を描き、(さなが)ら古代兵器の様な姿を取っている。周りには頭サイズの岩が浮かび何時でも打てるように準備され、本人が持つ身の丈を超える巨大なハンマーは近代機械のような形をした武器だ。


 二体の精霊はレムエルとソニヤの前に降り立ち、武器を構えて精霊の力を解放する。

 四体の精霊が降り立った瞬間、レムエル達の周りに見た目とは裏腹の激しく優しい風が吹き荒れ、レムエルの瞳に『竜眼』が浮かび上がる。

 彼自身も剣を天高く構え精霊の指揮を取るつもりだ。

 ソニヤは少し驚き瞠目するがすぐに落ち着きを取り戻し、口元をニヤつかせながら主を護る騎士の如く剣を構えた。


「ギョギョアアアアア!」


 ランドウォームはもう一度大絶叫を上げ、レムエル達を出迎えた凶悪な魔物との戦いの火蓋が切って落とされた。


戦闘になりましたが、誰も死にません。

精霊強くね? という戦闘が行われるだけです。

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