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【8】

ブックマーク登録数がいつのまにか200件を超えています……。

登録してくださった皆さん、読んで下さっているみなさん、本当にありがとうございます!















 会場である王宮のホールの入り口で、ユハニとマリアンネに遭遇した。人通りが多いこの場所にマリアンネはまいっているらしく、ユハニの後ろに小さくなるように隠れていた。そのしぐさは可愛らしいのだが、隠れている相手が魔王、もしくは『カルナ王国の最終兵器その一(本物)』なので少し戦慄も覚える。


「今日は男装か。無駄に似合っているな」


 ユハニからの感想である。とても偉そうなのはいつものことで、珍しくほめられたが、うれしくない。


「それはどうも。君も、魔法研究所の制服を着ているのは珍しいね」


 一応公爵であるユハニは、それなりに身なりに気を使っているようだ。マリアンネの申告によると、研究中は寄れた白衣に髪はぼさぼさ、さらに野暮ったい眼鏡をかけているらしいのだが、残念ながらその場面には出くわしていない。見たら絶対に笑ってやるのに。


 身なりに一応気を使っているため、いつみてもユハニはそれなりに見られる格好だ。性格には、成年男性貴族として恥ずかしくない格好をしている。そのため、制服姿を見るのは久々だ。


「一応仕事中だからな。セラフィーナ嬢は姉とは違って今日もかわいらしいな」

「!?」

「まあ、ありがとうございます」


 リューディアは驚愕して目を見開いた。ユハニが普通に褒めた、だと!? 普通に礼を言っているセラフィーナが信じられない。もっと驚いてくれ。


「マリアンネ。お前も挨拶しとけ。従姉だろ」

「……こんばんは。リューリお姉様。セラ」


 ユハニにせっつかれ、彼の後ろから顔だけ出したマリアンネは、それだけ言うと、また引っ込んだ。これにはリューディアもセラフィーナも苦笑した。


「マリィ。あんまり無理しちゃだめよ。あなたはまだ13歳なんだから」


 お姉さんぶったセラフィーナが言い聞かせるようにマリアンネに言った。マリアンネがこくりとうなずくと、「いい子ね」と頭をなでている。なんと言うか、微笑ましい光景である。


「セラ、そろそろ行こうか。マリィもユハニもやりすぎないように頑張れ」


 リューディアはセラフィーナとは別の心配をしていた。ユハニとマリアンネが本気を出した場合の被害である。この二人が本気になれば、王宮が崩壊する可能性だってあるのだ。そうなっても仕方がないと思うのは、究極の危機の時だけだ。


 慣れた様子でセラフィーナをエスコートし、リューディアは会場に入った。会場のホールに入ってすぐのところで、イェレミアスは警備をしていた。彼はセラフィーナにいとおしげな笑みを向け、続いてリューディアの方も見て軽く手を振った。

 ホールに入った瞬間に多くの視線を浴びたが、その中に呆れるような両親の視線を発見した。気づかなかったことにして無視する。


 すでに夜会、もしくは舞踏会でもいいが、パーティーは始まっていたので、オーケストラが音楽を奏でている。ゆったりとしたワルツを聞いた鰓フィー名はリューディアの手を引いた。


「お姉様。一曲踊りましょう」

「ええっ。踊るの?」

「いいじゃないですか。せっかく男装しているのだし」


 何度も言うが、リューディアは妹に甘い。キラキラとした目に見つめられ、リューディアは折れた。ひきつる顔に何とか笑みを浮かべた。


「ではお嬢様。一曲お相手願えますか?」

「もちろんですわ!」


 セラフィーナは嬉々として差し出された姉の手を取った。男装令嬢リューディアは妹の手を引き、ダンスフロアの方にいざなった。


 必然的に、二人に視線が集まる。ティーリカイネン公爵家姉妹(片方は男装)がダンスフロアに出てきたのだ。気になるだろう。特に、男装しているリューディアが。


 リューディアは、これまでも何度か男装で夜会に出席したことがある。我ながら男装はどうかと思うのだが、この格好は楽なのだ。ついでに、男装しているとみんな遠慮してあまり声をかけてこないのでいい。

 音楽に合わせてセラフィーナをリードし始めたリューディアだ。リューディアのリードに身をゆだねつつ、セラフィーナは驚いた表情になる。


「お姉様。男性パートも踊れますのね」

「ミルヴァやエリサの練習に付き合ったことがあるからね」


 そうなると、どうしてもリューディアが男性パートになる。ミルヴァとエリサのダンスの練習だから当たり前だが、リューディアが彼女たちより背が高いという理由もある。ミルヴァは女性にしてはやや背が高いが、リューディアはミルヴァよりも拳一つ分ほど長身だ。

 小柄なセラフィーナと並ぶと、頭半分くらいの身長さがある。というか、姉妹でどうしてこんなに違うのだ……。


「楽しかったですわ!」


 一曲どころか三曲立て続けに踊ったセラフィーナは満面の笑みで言った。慣れない男性パートで踊ったリューディアは珍しくつかれていた。


「それはよかった。踊ったかいがあったというものだよ」


 なんだか気障な言葉を吐きながら、リューディアは少し壁際に寄った。セラフィーナは「少し失礼いたしますわ」と言い、友人たちの所に遊びに行く。


「あの……リューディア様」


 妹が離れて行ってしばらくして、金髪の令嬢が声をかけてきた。いや、カルナ王国は金髪が多いのだが。


「どうしたの」


 とっさに笑みを浮かべて尋ねると、令嬢の頬が赤く染まる。リューディアは何となく嫌な予感を覚えた。


「あの、リューディア様! わたくしと踊っていただけませんか!?」

「……」


 リューディアは笑顔のまま固まった。来ると思った。


 何度か男装して夜会に参加しているリューディアであるが、今までこうして誘われたことは皆無ではない。そのために、『男性パートは踊れないから』と言って断ってきた。しかし、先ほどセラフィーナと踊ってしまった。だから、いつもの断り文句は使えない。

 通常、女性側からダンスに誘うことはないのだが、今回の場合は特別というか、特殊だ。リューディアは妙に同性にモテる。彼女たちが冗談交じりで『今度男装したら踊ってくださいね』と言っていたのを聞いたことはあるが、まさか本気だとは思わなかった。

 この状況で断れば女が廃る。そう思ったリューディアはセラフィーナにしたのと同じように、笑みを浮かべて手を差し出した。


「ではお嬢様。一曲お付き合い願えますか?」


 話しかけきた令嬢は嬉しそうな笑顔を浮かべ、リューディアの手を取った。
















 さすがのリューディアも、慣れない男性パートで6人と連続で踊れば疲れる。リューディアは何とか令嬢たちを振り切り、庭園に出た。魔法の光が浮かび上がり、手入れされた庭を照らし出していた。


「ん、リューディアか?」

「ああ、アウリス殿下。こんばんは」


 こちらも疲れた顔をしたアウリスが庭に出てきた。先ほどの名残で、リューディアは爽やかな笑みを浮かべてあいさつした。アウリスが目を細める。


「お前、大丈夫か。表情が不自然だが」

「さすがにひどいです。それは」


 苦笑してリューディアは言った。本人にも自覚はあったので、否定はできないのだが。


「少し休憩しようと思って。殿下は? いかがなされたのですか」


 おそらく、目的は同じなのだろうな、と思いつつリューディアは尋ねた。アウリスは「私も似たようなものだ」と答えた。リューディアはアウリスに歩み寄る。彼が護衛対象たる王太子であることを思い出したのだ。


「まさか男装で来るとは。似合っているが」

「セラに頼まれたんですよ。一応、ほめられたと思っておきます」


 女性にしては長身のリューディアだが、アウリスと並ぶとさすがに小柄に見えた。

 それにしても、とっつきにくいと思っていたアウリスとこうして普通に話していることが不思議だった。やはり、思い込みはダメだ。

 休憩も兼ねてベンチに座って世間話をしていると、リューディアは何かの気配を感じ、立ち上がって周囲を見渡した。アウリスが「どうした?」と尋ねてくる。


「いえ。何か、気配が……」

「……前から思っていたのだが、お前の勘は野生並みだな」

「失敬な」


 さすがにそれはひどい。リューディアの感覚が優れていることは確かだが、少し気配に敏感なだけじゃないか。

 風を切る音が聞こえた。リューディアは飛んできたそれを手刀でたたき落とす。


「……短剣」


 リューディアが叩き落としたのは短剣だった。今のは、明らかにアウリスを狙っていた。そのためにリューディアから少しずれていたため、容易に叩き落とせた。まあ、かなりの速度で飛んでくる短剣を叩き落とすのは、どのような状況でも難しいのだが。


「誰だ。出てこい」


 立ち上がったアウリスが低い声で尋ねた。誰も出てこない。リューディアは先ほど飛んできた短剣を拾い上げた。


 ……この辺かな。


 リューディアは短剣を近くの茂みに向かって投げ返した。ぎゃっという悲鳴が上がり、続いてどさっと何かが倒れる音がした。……よけろよ……。


「貴様っ」


 仲間をやられた男たちがわらわらと出てきた。総勢四人。先ほどリューディアが倒したと思われる人間を合わせると、全部で5人。余裕だな。剣があれば。


 こちらが二人なのでいけると踏んだのだろう。男たちが一斉に襲い掛かってきた。


「リューディア!」

「下がってください!」


 アウリスとリューディアが叫びあう。彼女は一番近くにいた男の剣を持った腕をひねりあげると、その鳩尾に膝を叩き込んだ。剣を奪い取る。さらに襲い掛かっていた男の剣を受け止め、逆側から切りかかってきた男を蹴り飛ばし、切り結んでいた相手の剣を受け流して斜め下から斬りあげた。


 さらに勢い良く突っ込んできた男をよけ、その首筋に剣の柄を叩き込む。そのとき、リューディアの側をすり抜け、アウリスに接近する影があった。


「殿下!」


 リューディアは驚いて振り返ったが、よく考えればアウリスだって武術の訓練を受けている。剣を持っている相手であっても、アウリスはそつなく対応した。

 まず、大きく振りかぶられた剣をよけ、剣を持った方の手をつかむ。無理やり剣を手放させ、その背中に容赦なく蹴りを入れた。王太子とは思えない乱暴な対応であるが、無事である。ほっとしたリューディアに隙ができた。

 耳元で剣が空を切る音が聞こえ、リューディアは飛びのいて避けようとした。だが、間に合わない。二の腕が深く斬られた。思わず、リューディアは斬られた右腕をおさえ、膝をついた。


「リューディア!」


 アウリスが駆け寄ってくる。来るな、と叫ぼうとしたが、その前に別の声が叫んだ。


「兄上! リューディア! そのまま一緒に居ろ!」


 ユハニだ。彼の声と同時に冷気が周囲を覆った。地面が凍り、男たちが動けなくなる。だが、その氷はリューディアとアウリスを襲うことはなかった。


「大丈夫か?」

「遅い。リューディアがやられた」


 アウリスの言葉に、ユハニに抱えられていたマリアンネがリューディアに駆け寄る。すぐに立ち上がろうとしたリューディアだが、めまいを感じてすぐに倒れ込んだ。


「リューディア!」

「お姉様」


 アウリスとマリアンネの声が聞こえた。マリアンネがリューディアの容体を見て顔をしかめる。


「毒です。殿下、怪我はなさっていませんか?」

「……私は大丈夫だ。リューディアは大丈夫なのか?」

「わかりません」


 マリアンネが正直に答えた。一応、リューディアは毒物に耐性がある。だが、本当に大丈夫かはわからない。マリアンネがリューディアの腕の傷に手をかざし、治癒術をかける。治癒術では毒を解毒できない。

 だんだん瞼が重たくなっていく。そこで、リューディアは何かに支えられていることに気が付き、何とか目を開けた。何となく気づいていたが、リューディアはアウリスに支えられていた。

 うっすらと目を開いたリューディアを見て、アウリスは何故か苦しそうな表情になった。


「リューディア。愛している。お前がいなければ生きられない。だから、死なないでくれ」

「……」


 その言葉を聞いて、リューディアは今度こそ昏倒した。













ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


えー、いろいろ突っ込みどころはありますが、とりあえず、展開速すぎですねごめんなさい。

次回は、なぜこうなるに至ったのかを説明……できるといいなぁ。

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