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【3】

ヒーロー、登場せず。


なんかすでにブックマーク登録数が60件になっています……。ビビる小心者の私!

読んで下さっているみなさん、登録してくださった皆さん、ありがとうございます!

相変わらずの恋愛小説詐欺でごめんなさい! でも、ちゃんと最終的には恋愛になります。たぶん。















 本人が散らかっている、と言った通り、マリアンネの研究室は本と紙が散乱していた。怪しい物体は、今のところ発見できない。


「……すみません。めったに人が来ないので……」

「いやいや。押しかけたのは私だからね」


 恐縮したようにソファの上に散乱した紙や筆記用具を片づけるマリアンネに、リューディアは朗らかに答えた。むしろ、自分も手伝って片づけ始める。紙類はマリアンネが書いた魔法理論らしく、触るのはためらわれたため、本をいくつか拾い上げて机に置いた。


「すみません……今、お茶を入れます」


 おっとりとそう言った彼女は、備え付けの小さなキッチンに向かおうとして、何かに足を取られてこけた。


「マリィ!? 大丈夫!?」


 あわててマリアンネに駆け寄ると、マリアンネが身を起こしたところだった。顔は打たなかったようだが、掌をすりむいていた。


「あーあ。痛い?」

「ご、ごめんなさい……」


 半泣きのマリアンネがそう言ったとき、研究室にノックがあった。返事をする前に開けられる。


「……何してるんだ、お前ら」

「いや、君も返事を聞いてから開けなよ」


 反射的にツッコミを入れながら、リューディアは入ってきた男を見上げた。


 金髪碧眼に、まるで王子様のような外見をもつこの王立魔法研究所の所長、ユハニ・マルヴァレフトだ。彼は去年、17歳にして爵位を継いだれっきとした公爵である。年齢はリューディアの一つ年上になる。


「ここの人間は、ノックをしてもたいてい返事はない」


 さらっと言ってのけたユハニである。確かに、それは否定できないかもしれない。でもたぶん、マリアンネは反応があると思うのだが。


「それで? お前は何をしている、リューディア」


 鋭い視線でユハニはリューディアを見る。その視線が、何となく王太子アウリスに似ている気がした。……気がした、というか、それは2人が血縁関係にあるので、当然と言えば当然なのかもしれない。ユハニは現国王の甥にあたるのである。つまり、アウリスの従弟だ。


「私はマリィとお茶をしに来ただけだよ。すぐに帰るから大丈夫だよ」

「ふん、そうか。何か嫌なことでもあって、暴れに来たのかと思ったぞ」

「……ユハニ。君、その口の悪さどうにかならないの?」

「これが素だ」


 堂々とユハニが言い切った。それってどうなの。しかも、推測がほぼ正しい。ユハニがいれば、彼と剣で試合をするのもいいかもしれない、と思ったからだ。

 だが、とりあえずマリアンネだ。ユハニは膝をつき、マリアンネの手を取った。


「擦りむいたのか。相変わらずとろいな」

「すみません……」


 いや、マリアンネ、そこは謝るところではないよ。たぶん、ユハニは心配しているだけだから。

 ツッコミを入れようか迷ったが、リューディアは黙っていることにした。変に言葉を発して、ユハニの折檻を受けることになったらたまらない。まあ、ユハニは基本的に暴力は振るわないが。振るうのは暴言である。

 ユハニはマリアンネの手を取り、彼女の擦りむいた掌を治癒術で治してやった。なんだかんだで、彼はマリアンネにやさしい。妹のような存在なのだろうか。それとも、別の感情があるのだろうか。魔王、ともいわれる彼の表情は、ちょっとリューディアには読めなかった。

 そのままユハニも交えてお茶会になる。なんだか不思議な感じになった。だが、リューディアにとってもユハニは慣れた存在なので、さほど気にならない。


「聞いてもわからないけど、マリィ。研究はどう?」

「あ……えっと。楽しい、です」

「ユハニにいじめられてない?」

「おい、リューディア」


 ユハニが低い声でリューディアを呼んだが、彼女は気にしない。逆に気にしている様子のマリアンネはちらっとユハニを見て、小さな声で言った。


「ユハニ様には、その、よくしていただいています」


 まあ、見たところマリアンネもユハニになついているし、そうなのだろう。ユハニは気に言った人間にはやや甘い傾向がある。リューディアも気にいられているようで、やはり口は悪いが、いざという時助けてくれたりもする。

 ユハニとリューディアは小さな時からの知り合い、ありたいていに言えば幼馴染である。ユハニはマルヴァレフト公爵家の、リューディアがティーリカイネン公爵家の出身であることを考えれば、交流があっても不思議ではないが、この2人は兄弟弟子なのである。つまり、師事した剣術の師が同じなのだ。

 リューディアも、ユハニも。魔法剣士なのである。リューディアは結果的に魔法剣士なった、魔力はあるが特に魔術の勉強をしているわけではない人間だが、ユハニはばっちり魔法剣士だ。魔術を研究し、魔術を使用し、それを使って剣で戦うのだ。


 リューディアが『カルナ王国の最終兵器その二』なら、ユハニは『カルナ王国の最終兵器その一』である。本当に、彼が持つ魔術は威力が強く、剣を持たせても強い。しかし、性格は最悪なのである。なんだか残念だ。性格が凶悪すぎるためか、ユハニは顔の割にはモテない。


 ちなみに、リューディアとユハニの間で縁談が持ち上がったことがあるが、自然消滅した。それはそうだろう。『カルナ王国の最終兵器その一・二』が結婚すれば、夫婦だけでクーデターを起こせそうだし、そもそも、リューディアも性格最悪なユハニにはさすがに嫁ぎたくない。


「マリィも、少し明るくなってきたよね。よかった」

「いや。今は俺達だけだからだな」

「ユハニ。なんで君そう言うこと言うかな」


 リューディアが白けた目でユハニを見た。マリアンネは小さくなって肩を震わせている。おびえた小動物のようでちょっとかわいい。ユハニがマリアンネをいじめてしまう気持ちはちょっとわかるかもしれない。


「そう言えば、絵を描いているんだね」


 リューディアは研究室の一角に白い布をかけて置いてあるカンバスを見て言った。マリアンネは頭がいいだけでなく、芸術的な才能を持っていることも知っていたが、彼女がカンバスに向かって絵を描いているところは始めて見た。いつも、スケッチブックに描いていた印象がある。


「あ……その。ユハニ様が、やりたいなら、やれって」

「研究員の自主性を伸ばすのも俺の仕事だ」


 自主性というか、研究には関係ない気がするが、もしかしたら絵を描くことはマリアンネのストレス解消になっているのかもしれない。


「見てもいい?」

「あ……その。描きかけで、構わないのなら……」


 どうぞ、と手でしめされ、リューディアは立ち上がってカンバスの前に立ち、白い布を取った。彼女が言った通り、描きかけだった。

 下書きがなされ、その上に色を塗っている最中のようだ。少し色が入っている。抽象画なのか、リューディアにはいまいち理解できない構図となっていた。


 ただ、うまいとは思う。まだほぼ下書きであるが、出来上がった絵も見てみたい。そう思わせる力がこの絵画にはあるようだった。


「……うん。芸術はよくわからないけど、出来上がったのも見てみたいね」


 本心から言ったのだが、マリアンネの返答は意外とドライだった。


「リューリお姉様は、そう言うのわからなさそうですね……」

「うん、まあ、そうだね」


 事実なので、否定しようがない。ふと思って、リューディアはユハニにも訪ねる。


「ユハニはわかるの?」

「お前よりはわかる。俺は工学系の魔術師だからな」

「意味わかんないよ」

「これだから脳筋は」


 ユハニが呆れたようにため息をついたが、彼やマリアンネほど頭がいい人間を探すのは難しいと思う。一応、リューディアだって一般常識くらいはある。


「そういえば、ユハニは昨日の夜会にいた?」

「いや。俺が参加すると思うか?」


 リューディアとマリアンネがそろって首を左右に振る。ユハニは『魔王』のあだ名があるほどの鬼畜な変人である。めったに夜会などというものに出ない。一応公爵なのに。そのため、彼が出席した夜会に出ると運がいいとか、不幸になるとかいろいろ言われている。絶対に彼の性格のせいだろう。


「何かあったのか?」

「……いや、別に」


 ただ、リューディアが決定的な失恋をしただけだ。しかも、相手は妹という……。まあ、客観的に見てセラフィーナの方がかわいらしいので仕方がないのだが。


「……よくわからないですけど……お姉様、元気出してください」


 マリアンネがリューディアの手を取って軽くゆする。リューディアははっとして自分の手を取るマリアンネの手を、逆の手で軽くたたいた。


「大丈夫だよ、マリィ。心配してくれてありがとう」


 そう言って微笑むと、マリアンネは少しほっとした表情になる。黙って見ていたユハニは、仲の良いいとこ同士を見て言った。


「そうしていると、恋人同士みたいだな」


 マリアンネはキョトンとしたが、リューディアはそんな彼女を抱きしめた。


「そうだね。マリィみたいなかわいい恋人なら欲しいかも」


 マリアンネはリューディアの腕の中で目をしばたたかせ、小首をかしげている。かわいい。


「そのとろいのがか?」

「かわいいじゃないか」


 おっとりしていて走ったら転ぶようなマリアンネだ。おどおどした態度も、これくらいの年だとかわいらしく見える。


「理解できん」


 ユハニは緩く首を左右に振り、眼鏡を外してレンズを軽く拭いながら言った。ちなみに、彼はいつも眼鏡をかけているわけではなく、研究中だけかけている。今は研究の途中だったのだろう。


「まあ、私も君たちの研究を理解できないから、お互い様だよね」

「お前、本当に脳筋だな」

「……リューリお姉様は素敵な方です」


 マリアンネがぽつりと言った。マリアンネ、フォローをありがとう。でも、ユハニは取り合わないし、リューディア自身も気にしていないので平気だ。しかし、リューディアは微笑んでマリアンネの頭をなでる。


「心配してくれてありがとう、マリィ」


 そっと頬を撫でてやると、くすぐったかったのか、マリアンネは身をよじった。ユハニがため息をつく。


「お前ら、どこからどう見ても恋人同士だぞ」


 実際にはいとこ同士の触れ合いであるが、確かに見ようによってはそう見えるかもしれない。














ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


もうなんだかリューディアがヒーローのような気がしてきました。出てこいよ、アウリス。いや、私が出してないんだけど。

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