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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
蒼銀
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魔宝剣の名は

「っと、そういえば儀式はまだ途中だったんだっけ。ま、9割がたは終わってるようだしなんとかなるか。この血を使う前にまず」


 グレイヴは、雄叫びを上げながら迫るメイルに左腕を向けた。


「邪魔だ、凡竜」


 詠唱すら唱えず竜魔法を放つ。バラの茎のような棘の生えたツルがメイルの全身を包んでいった。


「グルオォォア!」


 棘がいたるところに食い込み、苦しそうな声をあげている。何度も魔法で脱出を試みているようだが、魔法陣が構築される寸前にキャンセルさせられている。この魔法は拘束とともに魔法の使用も禁じるのか。


「さ、これでよし。残るは君だけだね。しもべたちに調べさせたけど、君、あの銀竜の契約者でしょ? 本当困るなぁ。君たちを見ていると封印されたときを思い出してイライラしちゃうんだよ。あのときもマテリアとグレンと一緒にこの我に傷を……許せない。今は足止めさせてるけどマテリア王国を壊したあと必ず殺してやる。あ、君もね。銀竜の契約者たる君を消せばあいつもダメージを受けるだろう。というわけで、ばいばい」


 右手はティオを捕らえたまま、こちらに左手を向ける。再びあの拘束魔法を使う気だ。

 巨大な魔法陣が構築されていく。


 なのに俺は避けるそぶりさえ見せず、ただその場に突っ立っていただけだった。


 ティオが刺されたときの映像が頭から離れない。思考がうまく働かない。


 やはり無謀だったのか。ここで俺がやられたらそれこそ終わりだ。でもティオもメイルも動けない今、俺1人で何ができるっていうんだよ。


 なぜこんなことになったんだ。いや、そんなこと問うても仕方がない。覚悟は決めたはずだ。


 そうだ、打ち合わせでは危なくなったら撤退、じゃなかったのか。ティオ、お前がそう言ったはずだろ。


 ティオの方に目を向ける。

 呼吸はかなり荒くなっていたが、生きていた。生きて、いたんだ。


 死んでない。まだ死んでない。


 ティオもこちらを見ていた。必死に口を動かして俺に何かを伝えようとしていた。


『あなただけでも、にげて』


 ……なんだよそれ。ふざけんな。そんな酷なことを俺に頼むのかよ。逆の立場だったら自分は絶対そうしないくせに。


 一矢報いたい。できるならティオとメイルを救出して離脱したい。どうする。どうすればいい。


 ああダメだ、何も浮かばない。戦いながら考えるしかなさそうだな。

 目の前に迫っていたツルを、竜人化によって強化された五感と筋肉をフル活用してジャンプし、避け、魔宝剣で斬り裂きながら退避する。


 いずれの行動もギリギリだ。すさまじい切れ味をもつ魔宝剣を持っていなければ今ごろ捕えられていたに違いない。


「あれ、中々やるね。ちょっとだけいたぶってから殺そうと思ってたけど、やめた方がよさそう、か」


 右手で串刺していたティオを放り、こちらに向き直る。


「おい! ティオを乱暴に扱うな!」

「どう扱おうが勝手だし、このあとすぐに死ぬんだ。君には関係のない話だろう?」

「関係ある! ティオは俺の大切な相棒だ。死なせるもんかよ!」


 竜人化した状態で回復魔法を使えば一命をとりとめられるはずだ。ユキトが昔、俺の回復魔法はかなり強力なものだと教えてくれた。やってみないとわからないが、今はその可能性にすがるしかない。じゃないと、ティオは助かるって信じてないと、身体が動かなくなってしまうから。


「あっそ。でも死ぬ。君たち、弱いから」


 目をこらせ。あいつの動きは尋常じゃない。限界まで集中していなければさっきのティオのように一瞬でやられてしまう。

 自分の変色した瞳に血が集まっていくことがわかる。とらえてみせる、数秒だけでも!


 グレイヴが、動く。加速しきる前の2,3秒だけはくっきり見えた。あとは進路を予想して……!


「っ、ぐ、あ」


 右腕は魔宝剣で防ぐことができた。だが、左腕は。


「ありゃ、心臓外しちゃった。もしかして君見えてた? だとしたら称賛に値するね、さすが我と同じ伝説の竜種、銀竜の契約者、といったところか」


 伝、説? シルバのやつ、もしかしてめちゃくちゃ強い竜なのか? だとしたら俺の詠唱が他の竜契約者たちと違うのにも納得できる。


 そんな強い竜と知らないうちにとはいえ契約しているのに、このザマだ。理由はわかっている。俺が、弱いから。幼少期から竜契約者になるため修行してきたやつらにはどうやったって敵わない。


 グレイヴは俺のわき腹に刺さっている左腕を引き抜き、今度こそ心臓に照準を合わせる。


「やっと数百年前からの宿願が叶う。封印されている間からどれだけこのときを待ちわびたことか。封印を解いてくれた我が主には感謝しないとね。さて、というわけで我は今非常に機嫌がいい。泣きながら命乞いするというのなら命までは奪わないことにしよう。もとより君自身には何の恨みもないわけだし。さあ、どうする?」


 どうする、だって? ここで俺だけ助かってどうするんだ。目の前でティオを殺され、何もできなかった自分を呪いながらこのさき生きてくっていうのかよ。


 それなら、ありったけの力を振り絞って一撃でも与えてやりたい。


 後悔なんてするもんか。最後まで己の正義に従って生きてやる。


 魔宝剣を握る手に力をこめようとした、そのとき。


『ソーマ、まだ諦めちゃダメ! やっと、やっと見つけられたわ! 詠唱文はこっちで簡略化させたから、あとはこの魔宝剣の真名を口に出すだけ。私が蓄えていた魔力と今ソーマに供給されている魔力を使えば発動させられる!』


 間に、合った。リーサ、さすがだよ。


『この剣の名前は――』


「ドラグ、サモン」


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