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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
蒼銀
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竜神化

 その時点で、何が起こったのか察した。


『邪竜とアレク、どちらの意識が優勢か』


 わかっていたんだ、こうなる可能性は。アレクが邪竜、確かグレイヴとか言ったか、そいつに打ち勝ってくれるって、信じるしかなかった。

 でも、ダメだった。リーサと話したのが逆に心に隙をつくってしまったのかもしれない。

 切り替えろ。こうなったらもう、戦うか逃げるかの選択肢しかない。


「ソーマ、兄さんはもしかして」

「邪竜に意識を乗っ取られたんだろうな。どうする? このまま説得を続けてアレクの意識を引き出すか、それとも戦うか、逃げるか」


 もう一度アレクの意識を引き出すことは難しいだろう。でもティオがそうしたいと言うなら、そうする。


「……ギリギリまで戦いましょう。時間を稼ぐの。マテリア王国軍とユキトたちが邪竜本体を倒す時間を」


 思いのほか冷静で驚いた。さっきまであんなに動揺していたのに、今は落ち着いていて瞳にも力が宿っている。こと兄であるアレクのこととなると冷静さを欠いていたティオだったが、ここにきてこんなに成長するとは。俺も負けてられないな。ビビってる場合じゃないぞ。気持ちで負けてどうする!


「わかった。危なくなったら逃げよう。俺たち2人とメイルで戦うには限度がある。上手く離脱できたあとはユキトたちと合流しよう」

「そうしましょう。さあ、ここが正念場よ。ソーマ、準備は?」

「ばっちりだ」

「「我、顕現す。契約を依代とし、太古より伝わりし大いなる魔導の礎を我が身に――」」


 俺もティオもすでに自らの剣を構え、詠唱の準備に入っている。

 それを見たアレク、いや、グレイヴは小ばかにしたような笑い声をあげた。


「ははは、この我と戦おうっていうのかい。滑稽だね。たかが人間風情が伝説の竜である我に勝てるとでも? いくら身体は人間だからといっても自分の竜魔法は使えるんだよ? なめられたものだねぇ。この時代にちゃんと我の強さが伝わってないのかなぁ。まあいいや。――我、顕現す」

「「――竜人化」」


 あいつが竜人化する前に、一撃でも多く!

 ティオの実力はマテリア王国の中でも5本の指に入るという。そのティオに認められた俺も5本の指とはいかないまでも相当強くなれた、はず。最初の方に比べればよっぽど。

 でも相手はグレン王国を1日で乗っ取った文字通りの化け物だ。ある程度の戦力差をはかるためにも、この一撃を決めなければ……!


 一般人は目で追い切れないほどのスピードで肉薄し、得物を振るう。

 詠唱途中ということは、グレイヴは強化魔法さえ発動していない生身、ということだ。アレクの身体といえ、最悪腕1本くらいは!


 ガキン!


「「!」」


 俺とティオの斬撃は、いともたやすく防がれてしまった。


 グレイヴは流れるような動作で玉座の後ろに隠し持っていた大剣を取り出し、絶妙なタイミングで構えて、同時に2本の剣を受け止めたのだ。竜人化して常人の何倍もの筋力で振るった剣を、生身の体で。


 うそ、だろ。そんなことあり得るのか。そんなにこいつと俺たちの力はかけ離れてるっていうのかよ。


「――竜契約に則り魔導の起源たる力、即ち神の力を我が身に宿せ――」


 なんだ、この詠唱は? 竜人化じゃないのか? なら一体何をしようと……?


「ソーマ、離れて!」 


 ティオの警告に従い、後ろへの跳躍で大きく距離をとる。

 数秒後、薄緑色の巨大な刃が複数グレイヴの元に飛来した。

 メイルの攻撃魔法。さすが魔力供給源である竜だけあってその威力はケタ違いだ。

 いくら竜人化したといってもやはり本家の魔法は超えられない。

 あいつも避けるひまなどなかったはずだ。これで深手を与えられたはず……!


 ほどなくして砂煙が晴れ、グレイヴの姿があらわになった。


 無傷。


 そんなことよりも衝撃的なものが、そこには在った。


「――竜神化」


 ポツンと呟いた、その言葉。


 竜人化? これが? まさか。似ても似つかない。これは、竜人化よりももっと恐ろしく、強大で。そして、魂を抜き取られそうになるほど、神々しい。


 ティオと同じ、輝くような黄金色の髪は、限りなく黒に近い紫色へ。


 エメラルドのような深い碧色の目は、元の髪色と同じく黄金色へ。ただ、形がヒトのそれとは異なっていた。瞳孔が縦長になっている。そう、まるで竜の瞳のように。


 白磁のような肌にはところどころに黒紫の鱗があらわれ、なによりも。


 翼だ。


 グレイヴに、身の丈以上もある一対の翼が生えていた。


「なんなんだよ、これ」

「ん? 君たち人間が竜人化とか言ってるのと同じだよ。ただまあ君たちとは違って身体の半分くらいを竜と同じものに作り替えてるけどね」


 半分だと!? 通常の竜人化はせいぜい数パーセントのはずだ。そんな大部分を竜の細胞に変化させるなんて、正気の沙汰じゃない。そもそも可能なのか、こんなこと。どれだけの魔力を注げばこんな姿になれるっていうんだよ!


 ティオもこいつの姿を見て驚愕していたが、俺の気付かなかった部分に気付いたようだった。


「そ、そんなことしたら兄さんの身体が人間のものに戻りきらないかもしれないじゃない!」


 ただでさえ竜人化は危険を伴う。確率は限りなく0に近いとはいえ、竜人化を解除したあと細胞が人間のものに戻りきらず、耐えきれなくなった肉体が崩壊するおそれがあるのだ。

 ここまで体組成を変化させてしまったら、その確率は跳ね上がるだろう。


「それについては問題ない。我だって貴重な宿主を失いたくはないからな。我が完全復活した暁にはそこらの竜とは比べものにならないくらいの魔力を使って禁術を発動し、蘇生させる。まあ主の魂がどうなるかはわからないけど」

「なっ! そんなこと、この私がさせないわ!」

「うるさい、忌々しいマテリアの血族めが。我が完全復活するにはな、お前の血液が必要なんだよ」


 不意に、すぐ隣から肉の裂ける音がした。


 イヤだ。見たくない。信じたくない。


 しかし、目を背けられるはずもなく。


 さっきまであんなに離れていたグレイヴの姿が、そこにはあって。


 そのグレイヴの、凶器と化した禍々しい爪が、ティオの胸に突き刺さっていた。

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