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グレン帝国城、到着

「兄さんのことバカとか言うなこのバカソーマ!」

「いってぇ!」


 俺のことはバカ呼ばわりしてもいいのかよこのバカティオ! あ、なんかこれゴロ悪いな。

 それにしても、やっぱりなんだかんだ言ってアレク、お兄さんのこと大好きなんだな。それが確認できてよかった。説得が上手くいくかどうかはティオの、兄を想う気持ちの強さにかかっている。あとは……。


 そっと、腰にさしている魔宝剣に触れる。


 この中にいるリーサとアレクが直接話すことができるのならどんなに良かったことだろう。リーサの声を聞くことができるのは、剣が主と認めた俺だけだ。だからリーサの言葉をアウトプットすることができる。アレクが聞く耳を持っているのならこれも大きな説得材料となるはずだ。アレクと邪竜、どっちの意識が優位か云々が引っかかるが、それは実際に会ってみないとわからない。


「ったく、そんな暴力女じゃ嫁のもらい手がいなくなるぞ」

「大丈夫でしょ。これだけ見た目が良いなら。むしろご褒美と受け取る特殊性癖持ちの人も……」

「こら、それ以上は言ってはならない! それにしてもティオはブレないなぁ」

「というか私よりむしろソーマの方が心配なんじゃない? 冴えないし優柔不断だし」

「な、なんだとう! そ、そんなことないもん!」


 カウンターによる動揺でキモい口調になってしまった。だってティオちゃんがボクにひどいこと言うんだもんうえ~ん! ……はいごめんなさい自重します。


「ま、まあでもアレよアレ。もしソーマの相手が見つからなかったらそのときは……」

「そのときは?」

「や、やっぱりなんでもない!」

「なんだよ、気になるじゃないか。……あ、わかった! ティオがかわいいこ紹介してくれるんだろ! いやぁ楽しみだなぁ」

「なんでそうなるのよおぉぉぉおおお! そんなわけないでしょこの鈍感バカソーマ!」

「あ、またバカって言いやがったな! バカって言うやつの方がバカなんだぞ!」

「うっわーそのセリフなつかしー。久しぶりに聞いたような気がするわ」


 どうやらこっちの世界も同じのようです。人間考えることって一緒なんだね。


 それからもう少しだけ他愛のない会話を交わした。急がねばならないのはわかっていたが、きっと俺たちには必要な時間だった。だって、これから向かう先には命の保証などないのだから。


 いや、こんな弱気ではいけないな。後ろ向きな気持ちじゃ成功するものもしなくなる。求めるものはいつだって前にある。……いや、上や下にもあるかもしれないけども。

「……じゃあ、腹ごしらえしてから発つとしますか」

「これが最後の晩餐にならなきゃいいわね」 


 ティオがそんな不吉なことを言いはじめた。けれどその声音は明るげで、ただふざけて言っているだけだということがわかる。ニヤニヤ笑ってるしな。これはツッコミ待ちだろう。


「おいおいやめてくれよ。まだまだ食べたいもの沢山あるのに。ティオの手料理とか」

「なっ!? あんたそんなに私の料理食べたいの?」

「そりゃもちろん。そんで食べたあと、俺が作った方がうまいな、って言い放ってドヤ顔する」


 もちろんそんな理由じゃないのだが、つい照れ隠しで……。


「っ!? ぐぬぬ、見てなさいよ! いつかぜったい私の料理でギャフンと言わせてあげるんだから! 私の料理なしでは生きられない身体にしてあげるんだからっ!」


 その金色に輝く髪を振り、碧眼に決意の炎をメラメラと宿らせ、ビシッと指を突きつけて宣戦布告をするティオ。

 そう簡単に抜かされてたまるか! こっちは毎回無茶なオーダーしてくる音波に鍛えられてんだ! と思う反面、ティオの手料理だったらよっぽどのものでもない限り美味しく感じちゃうんだろうなぁと思うわたくしであった。てかティオの手料理なしじゃ生きられない身体ってなんだよ怖すぎるだろ。


「はい、この話はもういいからさっさと食べましょう。さっき音波がくれた食べ物って向こうの世界のなんでしょ? 楽しみだわ」           

「そうそう。俺たちの世界の非常食、携帯食みたいなやつ。黄色いパッケージが目印のカロリンメイトでございます。どうぞご賞味あれ」


 2本入りの小さめのタイプを2人で食べる。なんと音波のやつ4種類も持ってきてくれたのだ。


「このチーズ味ってやつ美味しいわね」

「いやぁチーズ味だけはないわぁ」


 同時に発したこの言葉により小規模な戦争が起こったことは言うまでもない。 


 小腹を満たした後あらかじめ音波からもらっておいた地図を元にアレク、つまりグレン皇帝の城を目指す。


 俺やティオだけでなくメイルでさえ緊張した雰囲気で、久しぶりにティオの後ろに座って空を飛んでいるというのに安心するどころか逆にそわそわしてしまう。


 くもり空は黒と白を等量混ぜたようなのっぺりとした灰色で、大気はわずかに湿り気を帯びている。


 イヤだなぁこの天気、情景描写かよ。不吉なことが起こる前触れみたいじゃないか。

 先ほどティオとおしゃべりして弛緩した気分も今はガチガチに締まっている。


 そんなとき、頭の中に明るく澄んだ声が響いた。


『そんな固くなってちゃ身体も動かしにくくなるし、冷静な判断もできなくなるわよ。ほら、リラックスリラックス。大丈夫、ソーマにはティオちゃんやメイルちゃん、それに超稀少で超強力な魔宝剣、つまり私がついてるんだから!』

「リーサはその剣の中にいるだけだろ!」


 俺の緊張を察したのかリーサが声をかけてくれたのだ。さすが自称おねえさん。適切な時に適切な言葉をくれる。


 それに、切り替えが早い。数時間前は子どものように泣きじゃくっていたのに、もういつもの調子に戻っている。いや、もしかして俺を元気づけるために無理をしているのかもしれない。どちらにしてもこういうところは大人だなぁと思う。魔宝剣を所持している、ということよりリーサがそばにいる、そっちの方がよっぽど心強く感じる。


『いやいや、ただ入ってるだけじゃないから! 今も継続して魔力の貯蓄してるし! ……ねえソーマ、覚えてる? この剣を手に入れたばかりのころ、ティオちゃんに言われたこと』

「ん~どうだったかな。世界に数本しか存在しない貴重なもの、すさまじい斬れ味、あと何かあったような」

『そう、その何か。魔宝剣にはそれぞれ固有魔法が1つ備わっている。使うには瞬間的に莫大な魔力が必要なんだけど、私が今まで貯蓄してきた分と、竜人化できるほどの魔力供給量……もしかして今なら、と思って今この剣の中を調べてるところ。なんとか詠唱文を見つけだすことができればいいんだけど、この中迷宮みたいになっててなかなか最奥にたどり着けないのよねえ。ずいぶん進んだし、もうすぐだと思うんだけど。なんとかアレクと会うまでに間に合わせてみせるわ』


 えええ何そのモン○ターボールの中はどうなってるんだろう的な事情。でもただ剣の中でのんびりしてたわけじゃなかったんだな。最近ほとんどでてこなかったのはそのせいか。


「そういえばそんなようなこと言ってたな。あんまり考えたくはないけど、アレクと戦闘になったときにその魔法が役に立つかもしれない。リーサ、頼むぞ」

『もちろん! あなたたちだけじゃなくアレクのためにも固有魔法、見つけてみてみせるから!』

「ありがとうリーサ、心強いよ」

『なあに、いやに素直ね。ま、心強いのは当然ね。なんたって私はなんでもできるスーパーおねえちゃんなんだから! ソーマも、頑張ってね。アレクとティオちゃんのこと、頼んだわよ。私も、できるかぎりのことはするから』

「おう! 任せとけ。ここまでしぶとく生き残ってきた俺の運をなめるなよ。この運と根性でなんとかしてみせるよ」

『運だけじゃないと思うけど、まぁそういうことにしておきましょうか』


 リーサと話したおかげで余計に入っていた力はほどよく抜け、リラックスすることができた。


「もうすぐ着くわよ。心の準備をしておいて」


 話に集中していて気づかなかったが、前方にマテリア王国の城並みか、またはそれ以上に巨大な城が見えはじめていた。


 ――いよいよ、か。

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