再会を誓って
いつになく真剣な様子でティオにそう告げた。
それを聞いてティオの方も身構えつつ続く言葉を待つ。
音波は大きく深呼吸をしてから声をしぼりだした。
「以前、さらわれたあなたを助けに行こうとしていたソーマに、私はこう言った。死の危険が迫ったらティオを見捨ててでも逃げてほしい、って。あれから私はその発言をずっと後悔していた。クロス・エッジに追われていたところを助けてもらった恩もあるのに……だから、言わせてほしい。ごめん、なさい」
か細い声をこれ以上ないほど震わせ、頭を下げる音波。
ティオはそれを聞き、数秒ぽかーんと呆けてから、おなかを抱えてげらげらと笑いはじめた。
「え……?」
予想外の反応にとまどったのか、音波はおずおずと顔をあげる。
「そ、そんなことわざわざ言うバカいないでしょ!? 変なところで律儀なんだから。あのね、私だってあんたの立場だったら同じこと思ってたかもしれないわよ? だいたい、そういう思いを抱くことなんて人間ならいくらでもあるでしょう。それにソーマと協力してさらわれた私を助けてくれたんでしょ?」
笑いながら一気にそこまでまくしたてたあと、さっぱりとした表情で右手を突き出し、こう締めくくった。
「じゃあさ、いいじゃない。そんなこと。音波ってある意味すんごく純粋よね。ソーマに対する想いも含めて。たまにその素直さがうらやましくなるわ……まあ、何が言いたいかっていうと、私はそんなこと全然気にしてないし、謝る必要もないってこと」
困惑していた音波も今は苦笑いで、突き出されたティオの右拳に己の左拳をコツンと合わせる。
「本当に、食えない人」
「あら、本心よ?」
「余計たちが悪い……でも、ティオならこっちの世界にいるときのソーマを任せられる。あくまでこっちにいるときだけ、ね」
「ここは喜ぶところなのかしらねぇ」
なんだこの拳で語り合った直後の友情シーンみたいなのは。こっちの胸までぽかぽかしてくるじゃねぇか。
しかし音波のやつ、あのこと気にしてたのか……曲がったことが嫌いで、自分に嘘がつけなくて、そして、とても人間味がある。そんなところがあいつの良いところだ。
場になごやかな空気が流れていたそのとき、音波の契約竜のシンが背後から音もなく現れた。
「……救援要請がきた。クロス・エッジがいなくなって急進派が死にものぐるいで特攻してきてるらしい」
「そういう敵は強いわよ。自分の命を燃やして戦いに身を投じる人間は。音波の方こそ約束、守りなさいよね。あんたがいなくなったらごほうびだってもらえないんだから」
「グレン皇帝の方がはるかに危険。私だったら勝機を見いだせず戦略的撤退してるとこ。大丈夫、私の方は心配いらない。なにせ私はあのティオ・マテリアと渡り合えるほどの実力者なのだから!」
えっへんと胸をはる音波さん。自信家なのはティオだけじゃなかったか。
「くっ、あっはっは! それは心配無用だったわね。……いってらっしゃい。次会うときを楽しみにしてるわ」
「うん」
俺はもう完全にかやの外だが、外から眺めるのも悪くないな。
「ソーマもぼーっとしてないで、早くいってらっしゃいのちゅーを」
「バッカ」
そんなことをするかわりに、低い位置にある頭をくしゃくしゃとなでる。
「いいなぁ……」
ティオが何事かつぶやいたが、よく聞き取れなかった。
音波はいささか不服そうな顔をしながらも、こういうときにしかしない笑顔を見せてから、待機していたシンにまたがる。
「それじゃあソーマもまたね。お互い早く終わらせて家に帰ろう。じゃないと夏休みがなくなっちゃう」
そうか、そういえば今は夏休みだったな。すっかり忘れてた。こっちの世界に来てからの時間が濃密すぎてもう何ヶ月も過ぎ去ってしまったように感じる。
「おう、またな。向こうに帰ったら一緒に宿題を終わらせよう。こっちの宿題を終わらせてからな」
「それがいい。それで全部片づけたら海とか色々遊びに行こう。新しい水着買ってソーマを悩殺する」
「お前の水着姿なんて見慣れてんだよ。ほら、早くいってこい」
「うん」
音波は短くそう言い残し、いつもの隠密魔法で溶けるようにいなくなった。