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メイルの背に乗って

 ティオの契約竜であるメイルが、こちらをじっと見つめてくる。

 かと思ったら次の瞬間、姿勢を低くして、早く乗れと言わんばかりに小さく翼をはたく。


「……これで問題は解決した。早速グレン帝国に向かおう」


 音波は突然の出来事にもその無表情を崩さず、淡々とそう言ってからシンの背中に搭乗する。

 俺もメイルの背にまたがり、しっかりと手綱を掴む。


 ティオはこのことを見越してメイルを俺のところに寄越したのだ。

 考える間もないようなごくごく短い時間にしたとっさの判断、最善だったとしか言いようがない。


 いつもなら2人で乗るここに、今は俺1人。そのことが、たまらなく寂しい。


 いや、俺以上にメイルの方が寂しがっているか。小さい頃から長い時間を共にしているのだから。


「メイル、一緒にティオを取り戻そうな」


 首に生えているたてがみを撫でながら、俺はそう話しかける。


「グルル」


 俺はメイルの契約者じゃないから何を言っているのかはわからないけれど、きっと「あたぼうよ!」と言っているに違いない。


 あ、そういえばメイルは女の子だった。


「ソーマ、準備はいい?」

「おう。俺もメイルもばっちりだ」

「それじゃカウントをはじめる。3、2、1」

「発進!」

「え」


 ぐいっと手綱を引き、飛ぶように促す。

 1回言ってみたかったのだ。ロボットとか戦闘機とかじゃないけどね。


 メイルは魔法陣を出現させ、地面から垂直に上空へと昇ってゆく。

 森の中で助走ができないから魔法を使用したのだ。


 訓練場にしていた空き地はどんどん遠ざかっていき、森の木々が小さくなったところでピタリと止まる。

 空中にいるというのに全く恐怖を感じない。


 さすが魔力の供給源たる竜の魔法だ。こんな巨体を浮かばせたまま静止させることができるなんて。


「私たちはソーマ、というよりメイルに着いていく。多分、ティオの場所を把握してるだろうから」

「そうなのか?」

「きゅい」

「どうやらわかってるらしい。了解した。ちゃんと着いてこいよ。こいつは速いぞ~」


 まるで自分の竜かのように言う俺に対し、音波も対抗するように少々語気を強めて返答した。


「舐めないでほしい。シンだって十分速い」

「それに音波、軽いしな」

「……ほめ言葉と受け取っておく」

「そうしてくれ。じゃあ、行く!」


 もう1度、ティオがしてたのを思い出しながら手綱を操る。

 上手く伝わったのか、すぐに加速し、グレン帝国の方に向かって飛翔する。


 魔法のおかげなのかそこまで強いGは感じない。メイルが飛んでいる間、敵に備えて俺も周囲に気を配って警戒しなければ。


 待ってろよ、ティオ。必ず、救い出す。


 深夜から朝、昼、夕方までひたすら飛び続けてきたが、そろそろ限界のようだ。メイルも速度が落ちてきて、俺も眠気に負けそうになることが増えてきた。


 この状態では危険だ。休息をとらないと。


「メイル、そろそろ睡眠をとろう」

「グルルル」

「焦る気持ちは痛いほどわかるが、このまま飛び続けるのは逆に非効率的だ」

「きゅ、きゅい」

「よし、良い子だ。おーい、音波、聞こえてるかー? そろそろ休憩するぞ」

「了解」


 メイルは徐々に高度を落とし、ゆっくりと森の中に着地する。

 急いだためすでに都会(?)を離れ、郊外(?)あたりに差し掛かっている。

 ゆえに人工物はほとんどなく、見渡すかぎり緑、緑、緑。


 また野宿、だな。

 メイルとシンはよほど疲れていたのか、すぐに寝てしまう。

 見つかりにくい場所とは言え、見張りはたてておいた方がいいだろう。

 音波にやらせるわけにもいかないし、ここは俺がやらなきゃな。


「おい音波、見張りは俺がするからお前は寝とけ」

「ありがとう、気遣ってくれて。相変わらず、優しい。でも大丈夫。さっきシンが魔法で結界を張った。他人が近づけばすぐに知らせてくれる。だから安心して」

「い、いつの間に」

「こう見えても夜霧きっての天才児と言われている。こんな私と一緒にいられるなんてソーマは幸せもの」


 そう言ってえっへんと得意げに薄い胸を張り、ドヤ顔をする音波さん。

 いつものことなので軽く流すことにした。


「あーはいはい幸せ幸せ。そういうことなら俺たちも寝よう」

「釈然としない……」


 なんかぶつぶつ言ってる音波は無視して、俺はそそくさと寝る準備をはじめる。荷物はほとんど王都に置いてきたため、大きめの葉っぱを集めて寝床を作らないといけない。


 葉っぱを集め終わって戻ると、音波はすでに毛布にくるまって横になっていた。

 いいなぁ毛布。まあいいか。俺にはカメリア、リリー、ローリエさんの形見の外套がある。俺を優しく包んで温もりをくれる。


 村でのことを思い出しながら眠りにつこうとしたら、音波が毛布にくるまったままゴロゴロとこちらまで転がってきてぴったりと張り付いてきた。


「おい、離れろ」

「どうして」

「どうしてもこうしてもない。若い男女がこんなくっついて寝るのはおかしいだろ」


 あれ、さっきまで威勢のよかった音波が黙ってしまった。寝たのか? だとしたらありがたい。俺もさっさと寝たいし。


「……ふ~ん。なるほどなるほど。じゃあティオやユキトと一緒に寝てたことはおかしくないと」


 な、なにこの殺気。あの2人とはまた違う、静かに忍び寄るこの感じめっちゃ怖いんですけど。


「あ、あれは仕方なくだ仕方なく! 寝床が1つしかなかったんだんだよ!」

「……そういうことにしておいてあげる。ソーマの未来の妻たるもの、常に余裕をもち、寛容であれと母に教わった」

「葉波おばさんそんなこと言ってたのかよ……あの人も夜霧の幹部なんて未だに信じられない……」

「でも、ちょっと嬉しい。本当に妹としてみてるならこんなに拒絶しないはず」

「いや、例え実妹だったとしてもこんなにひっついて寝るわけないだろ」

「……」

「おい、音波?」

「……すぅ、すぅ」


 いつの間にか寝てしまったようだ。よく考えると音波はずっとクロス・エッジを追っていたのだ。ロクに睡眠もとっていないのだろう。もう少し早めに休憩をとるべきだったかもしれないな。


 それにしても、こうれだけ近くで一緒に寝たのはいつ以来だろう。小学4年生くらいまではよくお互いの家に泊まったりしてたから、6年ぶりくらいか。


 俺が取り乱さずになんとか落ち着いていられるのは、つきあいの長いこいつが一緒にいてくれるおかげだ。


「ありがとな、音波」

「……むにゃむにゃ……ソーマ、結婚式はいつにしよう……」

「どんな夢みてんだか」


 すぐそばの音波の体温を感じ、上弦の月を眺めながら、俺も襲い来る睡魔に身をゆだねることにした。

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