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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
蒼緋
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生産性のない日常のワンシーン

――「どうしたの、ソーマ? そろそろ魔法の方の訓練、はじめるわよ」


 突然、目の前にエメラルドのような澄んだ翠色の瞳が現れる。

 少々物思いふけりすぎたようだ。


 今は目の前のことに集中しないとな。少しでも勝率を上げるために、こうやって訓練してるんだから。ティオにとっては気を紛らわす意味もある。


 うーん、それにしても、いつ見てキレイだな。スッと通った鼻筋に、長いまつげ。肩からサラサラと流れ落ちるシルクのような金色の髪。


 話しかけてもただ見つめ返すことしかしなかった俺に、ティオは小首をかしげながら心配そうに言う。


「本当にどうしたの? 疲れちゃった?」

「いや、まだまだいけるよ。ただ自認してるだけあって美人だなーと。これで性格もおしとやかだったら完璧だなーと」

「わ、私が美人なのはと、当然のことじゃない」


 あれか、ティオは関係ない人や、自分で言うのは平気だけど、知り合いから言われると恥ずかしいってタイプか。


「っておしとやかだったらってどういうことよ! ガサツとでも言いたいわけ!?」

「いや、そこまでは言ってないんだが……それに完璧な人間ってのもつまらないし……」


 おっと、気付かれたか。俺の照れ隠しの発言だったんだけど。


「いいでしょう。ソーマに王女モードのおしとやかーで男ウケよさそうな私を見せてあげる。これでも小さい頃から色々教え込まれてきたんだから!」

「おうおう、そこまで言うなら見せてもらおうじゃないか」


 ティオは、のぞいたら魔法でズッタズタにするから、と言い残し木陰の中へと消えていった。

 のぞきだなんて、そんな危険なことできるわけないじゃないか。俺だって命は惜しい。


 数分後、そこには訓練着から着替えた、心なしかまとっている雰囲気まで変わっているティオが現れた。


 何日か前に買った、あの白いワンピース。

 それに、はじめて見る白いリボンで長い髪を後ろで1つに束ねていた。


「どう、ですか、ソーマさん?」

「ぐはっ!」


 な、何だこれ。ギャップ? これがギャップ萌えってやつなの?


「だ、大丈夫ですか? 何やら苦しそうなご様子ですが……」

「大丈夫大丈夫、何も問題はないよ、うん。本当に。おかまいなく」

「ふふふ、変な人ですね」


 笑い方まで上品だ。元王女という肩書きは伊達じゃないなこりゃ。


「あ、そうだ。この近くにお花畑があるんですよ。よかったら、一緒にお散歩でもしませんか?」


 剣での訓練の途中に雨が止んで、今は雲の切れ間から陽の光が降り注ぐくらいになってるし、それもいいかもしれない。


「むしろこっちから頼みたいくらいだ。それじゃあ行こうか」


 よし、なんとか動揺せず言えたぞ。ちょっとでも気を抜くと声が震えそうになる。


「はい! あ、あと、その、この靴歩きにくくて……手、つないでもらえませんか?」


 おいおいおいどうしたんだよティオさんや。俺をキュン死させてどうするつもりなんですかね。アレですか、より従順になるようにとか

ですかね。


「おおおおう、ももももちろんいいいいぞ」


 動揺のあまり声が震えまくる俺。落ち着け、相手はティオだぞ。


「本当ですか!? 嬉しいです!」


 んー、でも本来のティオならこういうとき、確認なんかとらずに勝手に俺の手を引いてくんだろうなあ、とか思ったり。まあそんな状況にならないけどね!

 ティオは俺の元に小走りで来ようとしたが、はき慣れてない靴だからかつんのめって倒れそうになる。


「きゃっ!」

「あぶない!」


 俺はとっさに飛び出し、なんとか転ぶ前に抱き止めることができた。


「あ、ありがとうございます、ソーマさん」


 おずおずと、上目遣いでお礼を言うお嬢様系超絶美少女のティオさん。

 このままでは俺がおかしくなってしまいそうだったので、そろそろ元のティオさんに戻ってもらおう。


「も、もう普通にしていいから! 元のティオに戻ってくれ!」

「そんな! これが素の私ですよ? ……なーんてね! あー疲れたわー。久しぶりだったから上手くできるか心配だったけど、ソーマの反応を見るに大丈夫そうね」


 ニヤッと小悪魔的に笑うのを見るに、すっかりいつものティオに戻ったようだ。


「うん、さっきの王女モードもかなりドキドキしたけど、やっぱり普段のティオが一番だな」

「! あ、あっそ! ……その、ありがと」

「なんでお礼なんか言うんだ?」

「う、うるさい! ……それより、いつまでこうしてるつもりなの?」


 顔を赤くしたティオは、腕の中で恥ずかしそうにもじもじしている。


 って抱き止めたときの姿勢のままじゃないか!


 慌てながら、けどまた転ばないように慎重に体を離す。

 消え去れ、もうちょっとあのままでいたかったとか思う雑念よ。


「す、すまん」

「それは別にいいけど。どう、これでわかったかしら? 私だって本気をだせばおしとやかに振る舞うことくらい簡単なんだから!」


 えっへんと割とある胸をはるティオさん。そうそう、自信満々で元気のあるこの感じですよ。


「参った参った、降参だよ。これは認めざるを得ない。てかなんでこんなことになったんだっけ?」

「さあ? 私も忘れちゃってるしきっとたいしたことない理由だったんでしょう」


 ああ、こういうことよくあるわ。生産性のない日常のワンシーンみたいなやつ。でもこういうことも大事だと思うんだよね。

 少なくとも、俺的にはラッキーな出来事でした。もっとこういうことが増えていけばきっと世界は平和になると思うんだ。


「……まあ私的にはラッキーだったけどね……」

「ん? 何か言ったか?」

「なんでもありませーん。それより予想以上に時間とられっちゃったし、早く魔法訓練の方に移りましょう」

「うわ、本当だ。あと1戦くらいが限界かな。急ごう」


 ちょっと上機嫌なティオを見るに、良い休憩時間になったようだ。もちろん俺にとってもだが。

 さあ、気を引き締めなおして竜魔法による模擬戦闘訓練に臨もう。 

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