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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
蒼緋
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久しぶりの特訓

「顕現せよ。契約に従い其の力を我が身にーー風神の加護ウインド・アーマー


「顕現せよ。契約に従い古より君臨する其の偉大なる力を我が身にーー白銀のノグレー・アルミュール


 日に日に増してゆく魔力は相変わらずだが、以前に比べると増える量が少なくなっているように感じる。増えてる、ってことは確実なんだけど。


 両手にある【竜の爪痕】に意識を集中させ、どこにいるかわからないままの俺の契約竜・シルバから魔力を引っ張り、自らの身体へと取り込む。


 追悼式が行われているであろう王都から少し離れた場所で、俺とティオは戦闘訓練を行っていた。


 今は強化魔法でお互いの身体能力を底上げして、体捌きと剣術を鍛えている。

 本当は竜人化して訓練したいが、使用後に1日動けなくなるため不可能。だから竜人化に最も近い強化魔法を使っている。


 ティオの服装は例によって薄着だが、極力そっちには意識を向けないようにしていた。

 はじめての訓練の時は1からこっちの剣術を学ぼうとした結果、こてんぱんにされて、おまけにその、なんだ、薄着による雑念によって情けなくも脳天に木刀をくらい気絶してしまったのだ。


 現在は、培ってきた剣道、居合道の型に、こっちの世界の型を混ぜて自己流の剣術を確立させたおかげで、なんとか剣術においてはティオと互角くらいになれた。剣術大会での出来事は記憶に新しい。


 それと、この訓練では木刀ではなく本物の剣を使っている。木刀では訓練に耐えきれないためだ。

 訓練用の廉価な剣をお互いに向け、戦闘態勢に入る。


「いくわよ、ソーマ!」

「どこからでもどうぞ、お姫様」

「その呼び方はやめなさいって言ってるでしょおぉぉぉおおお!」


 ティオはぬかるんだ地面を蹴り、一直線に斬りかかってきた。


 風を司る竜と契約しているだけあって、速い。

 長い、黄金色に輝く金髪が空中に軌跡を残すほどに。


 突きなら回避、水平斬りなら剣を縦にして受けていなしてから反撃。上段からなら剣の腹を滑らせたのち反撃。さあどれだ。 


 ティオが取った行動は、そのどれにも属さないものだった。

 まばたきを1回するぐらいの短い時間で、離れていた距離が一気に詰められる。そして放たれる、水平斬り。


 ここまではよかった。ティオの腕や脚の動きは視えていたから。

 問題は次だ。


 俺は剣を縦ぎみに構え受け流そうとしたが、距離感がおかしいことに気付いた。

 剣が俺に届かないくらいのところで振りはじめている。

 切っ先が体の前を通過し、振り切った瞬間、ティオは右足を軸にして1回転した。


 これは……回転斬りか!

 剣の軌道は水平から徐々に上を向いていき、半回転したところで今度は上から下へ。その際、右手を放していた。


 俺はとっさに切っ先に左手を添え、防御の構えをとる。

 片手による斜め斬り。

 遠心力をのせた一撃はいくら片手だろうが重く、そのすぐ後に途中で放していた右手が柄に戻され、さらに力が加わる。


 地面が雨でぬかるんでいるせいで、軽く1m以上後方へ押されてしまった。


「今の1撃を受け止めるなんて、さすがソーマね。強化された視力にも慣れているようだし。でも、はじめから受けの姿勢じゃ勝てないわよ?」

「こっちに来てから何回も死線をくぐってきたからな。あと受けの姿勢というか、カウンターの練習がしたかったんだけど……さすがティオだな」

「ふふふ、まだソーマに抜かれるわけにはいかないのよ」


 その後も剣による訓練を続けて、小休憩ののち、竜魔法訓練に移る。

 休憩中に俺はユキトとの別れ際の話を思い出していた――――。


「あ、そうだユキト」

「ん?」


 店から出る寸前のユキトを呼び止める。

 ティオも口を開きかけていたので、おそらく同じことを聞こうとしたのだろう。


「アレク……グレン皇帝と1度戦ったんだよな? 戦闘スタイルというか、戦うときに注意することとか教えてくれないか?」

「私も力になりたいのだが……残念ながら、わからないんだ」

「どういうことだ?」

「竜人化していたことはわかっている。でも、攻撃も、使用魔法も、わからなかった。おそらく闇系統の魔法のはずなのだが、気付いた時にはやられていた。速すぎて見えなかったのか、それとも精神に作用する幻覚系の魔法か……とにかく、圧倒的だったよ。それと、驚くべきことにやつは1日中、竜人化を維持していた。持ってる情報はこれくらいだな」

「いや、じゅうぶんありがたいよ」


 外から2度目の鐘の音が聞こえてくる。そろそろか。

 店主はもう外に出ていて、俺たちも出るようにと促している。


 ティオもやはりアレクの話が聞きたかったようで、感謝と別れの言葉をユキトにかけていた。


「ユキト、情報ありがとう。あとはこっちで調べるわ。それじゃあ、また会いましょう」

「気にすることはない。むしろもっと早く言っておくべきだった。ティオ、ソーマ、2人の健闘を祈る」


 もう、決着がつくまで、会えないんだな。


「言いたいことはさっき言ったから、じゃあな、また会おう。くらいしか言えないな」

「いや、そういうシンプルな言葉こそ大事だぞ。……今度会ったとき、シチューを振る舞ってやる。もうすぐ、ローリエさんの味を再現できそうだから」

「そうか。それは楽しみだな。意地でも無事に帰ってこないと」

「うむ。その時は必ずやソーマのほっぺたを落っことしてみせよう」

「ほっぺた……」


 ヤバい、あの時のことを思い出してしまった。柔らかくて、あったかかったなあ、ユキトのくちび……。


「な、なにを思い出しているのだこの不埒者め!」

「べ、別にあの時のことなんて全然覚えてないんだからねっ」

「やっぱりそうなんじゃないかぁ!」


 ぎゃあぎゃあ言いつつお互いに顔を赤くさせる。

 ユキトとのやりとりをティオはジト目で眺めていたが、ぼそっと「ソーマ、話は後でじっくり聞かせてもらうから」とつぶやいてからにっこり笑っていた。ティオさん、目が怖いですよ?


 それにしても、ユキトはそんなことをしようとしていたのか。


 楽しみだな。ローリエさんのシチュー、すごく美味しかったから。


 おかわりはいっぱい用意してもらおう。きっと、途中で塩辛くなって味がわからなくなるだろうから。

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