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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
蒼緋
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ティオとユキトと昼食

 入り口が視界に入ったところで、ちょうどユキトがでてくる。


「お~い、ユキト~!」


 その紅く大きな瞳を見開かせてこちらを見る。


「おお、ソーマ! 早速来てくれて嬉しいぞ」


 手を振り笑顔で応えてくれた。


「こんにちは、ユキトさん。私はソーマの相棒のティオよ。ソーマの相棒の」


 紹介する前に自分からあいさつしにいくティオさんコミュ力高い。

 しかしなぜ2回も言ったのか。強調したいポイントなのかもしれない。何のためにかは知らないけど。


「む。これはご丁寧にどうも。私の名はユキト・グレンだ。どこまで聞いているかはわからないが、ソーマとは色々な経験を共に大切な仲間だ。大切な」


 え、なんなのこのちょっとピリッとした感じ。この2人、初対面だよな……?


「あ、そうそう。私の呼び方はティオ、でいいわよ」

「私もユキト、でいい」

「そう。よろしくね、ユキト」

「いむ。よろしく頼む、ティオ」


 握手をした手が必要以上に握られているように見えるのは気のせいかな、うん。

 聞けばユキトもまだ昼食を食べていないということなので、3人で『天使の微笑み』(不気味な外観、いかつい店主による美味しい食べ物屋さん)に向かうことにした。


 店に到着するやいなやユキトが声を上げる。

 ただし恐怖に彩られた声ではなく、歓喜の声だった。


「こ、この頭蓋骨はっ! マテリア王国の一部にしか生息していないラグナ・マルスのものじゃないか! 実物を見るのははじめてだ……うーん、この特徴的な角! 戦いだけではなく求愛行動にも使用され、すりつぶして粉状にすれば薬にも……」


 うわぁ、さすがユキト。この研究肌っぽいところとか懐かしいなぁ。

 ティオの方を見ると、ドン引きしていた。うん、気持ちはわかる。

 まだまだ語りそうなユキトを無理やり引っ張りつつ店に入る。

 入店してすぐに巨漢の店主が現れた。俺が最初にここに来たときと同じシチュエーションだ。


「……いらっしゃいませ」


 最初、俺はこの容貌にビビりまくっていたわけだが、ユキトは全く臆せずマシンガンのごとく話し始めた。


「貴方がこの店のマスターか! 外に吊り下げていたラグナ・マルスの頭蓋骨、あれは素晴らしいものだ! 状態といい形といい、すべてが高水準で!」

「……! あれの価値をわかってくださったのは、貴女がはじめてです」

「何!? 皆見る目がないのだな。ところで、あれはどうやって入手したのだろうか?」


 あの無愛想な店主が笑顔で話してるとこなんてはじめて見たぞ。ある意味すごいよユキト。


「私たちは席についてましょうか」

「そうだな」


 2人が話し終わるまで待つか。めっちゃ楽しそうにしてるのを邪魔するのも悪いしな。


「いやーすまなかった、少々熱くなり過ぎてしまった…」

「いいっていいって」


 店主がサービスでだしてくれたコーヒーと軽食を楽しみながら、お互いの近況を報告する。

 と言ってもユキトの話はすでに聞いているので、ほとんどこちら側のことなんだけど。


 席についたユキトの顔を、なにやらティオがじっと見つめている。その表情は、例えるなら小骨がのどに引っかかっているかのような感じ。

 ユキトも見つめ返して、同じく難しい顔をしている。


 どうしたんだろう?


「……もしかして、昔、一度会ったことがあったかしら?」

「私も同じことを思っていた。うーむ、小さい頃、パーティかどこかで……ティオは、もしかしてマテリア王国の貴族か何かだろうか?」

「ソーマ、話してなかったの?」

「いや、あのときは話していいかわからなかったし」


 あのときはグレン王国出身と聞いて、いつか対立するんじゃないか、なんて漠然とした不安に駆られ、あえて言わなかったのだ。


「そう。まあいいわ。マテリア王国と協力関係になっている今なら何も問題ないでしょう。ユキトの言うとおり貴族、というより……あんまり言いたくないんだけど、改めて自己紹介するわ。私の名は、ティオ・マテリア。マテリア王国第2王女。あー恥ずかしい! 嫌いなのよ、この名字」


「! なるほど、なら過去一度だけ行われたグレン王国とマテリア王国の合同パーティで会っている可能性は十分にあるな」


 仲の悪い2国が、それでも歩み寄ろうとしたことがあったんだ。

 ユキトはうむうむと納得していたが、直後、ハッと顔をこわばらせる。


「じゃ、じゃあ、グレン皇帝に殺されたという第3王女は」

「ええ、そうよ。私の、妹」


 ティオは苦しそうにそう言う。

 ユキトも眉間にしわをよせ、怒りをにじませた表情でつぶやく。


「どこまで非道なのだ……許せない」


 ユキトは、アレクに父親も、祖国も奪われている。

 その想いを、俺は計り知ることが、できない。


「ユキトにも、一応話しておこうかしら。グレン皇帝の、正体を」

「なん、だと。知っているのか!? やつの正体を!?」

「アレク。アレク・マテリア。この国の第1王子で、私の、兄」

 再び、先ほどとはまた違った、苦しげで、それでいて切なげな表情で言う。

「ソーマから、ティオの旅の目的は兄をさがすことだと聞いていた……風の噂で、マテリア王国の王子が失踪したと知ったが、それがまさか……だが」


 ユキトは強い意志をこめた瞳で俺たちを見る。


「それを知っても、私の目的は変わらない。この手で必ずやつを殺し、祖国を取り戻す。この命が尽きようとも」

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