寄り道
王城を颯爽とでたティオに付いていきながら、国王に助力を求めなかった理由を聞く。
「なあ、なんでマテリア国王に助けを求めなかったんだ? グレン皇帝を倒すって目的は一緒なのに」
「無理無理。私たちはグレン帝国に潜入して、兄さんだけを止めるつもりだけど、父様は真っ正面から戦争をしかけるつもりだもの。そもそも、こと戦に関しては自分のやり方じゃないと気が済まないから、助力を頼もうものなら、行くな、戦線投入まで待機してろって言われて閉じこめられるのがオチだわ」
「そ、そうなのか」
まあ大人数だと潜入には不利か。
新たな旅は、はじまりと同じく、ティオと俺の2人。あ、あとメイル。
今度の目的は、僅か1日でグレン王国をのっとったというティオの兄、アレク・マテリア。その彼を、止める。
「兄さんは、罪を重ねすぎた。復讐に心を捕らわれてしまった。私が、止めてあげなきゃ。……改心させられなかった、そのときは」
ティオはあえてその先を言わなかった。
「そうだ、ティオ。ちょっとユキトに会いに行ってもいいか? 挨拶しておきたいし、もしかしたら俺たちと一緒に来てくれるかもしれない」
「それは難しいと思うわ。父様と協力関係を結んでいるんだもの。でも、挨拶はしておきたいわね。ソーマも世話になったことだし。それじゃあ案内してちょうだい」
「おう!」
こっちの状況も伝えておきたいし、ゆっくり話したいしな。
目的地も決まり、今度は俺が先頭になって歩く。まだ昼食も食べてないし、ユキトと一緒に食べればいいか。
昼食のあと、ちょうど3時くらいから、第三王女。クリスティーナ・マテリアの追悼式が執り行われる。
聞きにくいことだが、聞いておかねばならない。
「昼食はユキトと一緒に食べたいと思うんだけどさ。そのあと……その、クリスの追悼式には、参加、するのか?」
横を歩いているティオは表情を変えずに答える。
「参加しないわ。さっき少し会ったし、兄さんを止めるまで顔向けできない」
「……そうか。なら、俺も参加しない。ティオのそばにいるよ」
「……まったく。すぐそういうこと、言うんだから」
顔を背けられてしまった。故にその表情はうかがえない。
今はなるべくティオのそばにいてやらなきゃな。精神的にまいっている時、近くに話し相手がいたほうが気が楽だろうから。
「それより、私も聞きたいこと、というか頼みたいことがあるんだけど」
「なんだねティオくん」
「急にどうしたの。いや、その、リーサと、話をさせてもらいたいな、と思って。もちろん、ソーマを通して」
兄のかつての恋人であるリーサ。話したいと思うのは当然か。
だけど、リーサの方はどうだろう。ティオのことを、どう思っているんだろう。
「リーサ、ちょっとでてきてくれないか?」
…………。
反応がない。気まぐれだし普段は眠っているから、いつ話せるかは運の要素が大きい。
あるいは、意図的に黙っているのか。
どちらにせよ俺にはどうしようもないので、素直に伝える。
「すまん、今は話せないそうだ。またリーサがでてきたときに話してくれるか聞いてみるよ」
「そう……残念だけど、仕方ないよね。ありがとう」
残念そうにティオは言う。
今回ばかりは仕方がないな。
それに、今までリーサが俺以外と意志疎通をしようとしたことがあっただろうか。
何か理由があるかもしれないから、それも併せて聞いてみよう。
そうやって話しながら歩いていると、ユキトがいるという宿が見えてきた。
まさか、ティオとユキトが出会う日が来るなんてな。