表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
蒼緋
67/187

新たな目的

 そんな。


 そんなことが、あっていいのか。


 ティオの旅の目的は、兄を探しだすこと。


 こんな残酷な形で、それが叶ってしまった。


 同時に、その情報は多くの事柄を強固につなぐ。


 ティオの兄、アレク・マテリア。


 4年前、身分違いの交際を快く思わなかったマテリア国王に恋人を殺され。


 恋人を深く愛していた彼は、実の父親を暗殺しようとしたが失敗し、姿をくらませた。


 その恋人の魂は偶然が重なり、かつてアレクが所持していた魔宝剣に宿った。


 恋人の名は、リーサ。魔宝剣の現在の所有者である俺と一緒に旅をしている。


 そして、ティオが4年も聞き込みをしてもほぼ何も得られなかったアレクの情報を、今やっと得ることができた。


 彼は失踪した後、グレン王国をのっとり、自らが皇帝になっていた。通りで何の情報も得られなかったわけだ。そんな人物が足跡を残すはずがない。


 アレクの目的もマテリア国王に届いた手紙によって憶測から確信に変わった。


 実の父親への復讐。


 その復讐心は、常人では計り知ることのできないほど、強いものなのだろう。


 父親を暗殺しようとし。


 邪竜の封印を解き、契約して。


 グレン王国をのっとり、軍事国家につくりかえ。


 ギルやカイルなどの人格破綻者を重用し、いくつもの町、村をほろぼし。


 結果、多くの人間を殺して。


 実の妹の命すらも利用する、ほどに。


「ティオ。俺もまだ伝えていない情報があるんだ。タイミングが合わなくてなかなか言い出せなかったんだけど」


 グレン皇帝が、さがし求めていた兄だと言ったあと黙り込んでしまったティオに報告する。

 マテリア国王に届いた手紙のおかげで説明しやすくなった。


「俺は、アレクが4年前、マテリア国王を暗殺しようとした理由、手紙を送ってきた理由を知っている」

「……なん、ですって」


 驚きのあまり目を見開く。


「その理由を教えてくれたのは、魔宝剣の中にいるリーサだ。なぜ彼女が知っていたのかというと……リーサが、アレクの恋人だったからなんだ」

「っ! に、兄さんに恋人がいたなんてまったく知らなかった……」

「だろうな。だって、リーサは貴族じゃない、ただの村娘だったのだから」


 それを聞いたティオは、何かを察したように表情を固くする。


「そう。なら、知るはずもないわね。……知られるわけにも、いかなかったのでしょうね」


 やはりティオはこっちの世界の人間なんだな。すぐに理解したようだ。

 王族と平民が交際することなど、許されない。

 そこまで考えていた様子だったティオが、ハッと何かに気付いたような顔をする。


「ちょっと待って。リーサって確か……死んじゃって、るんだよね」

「そう。クロス・エッジに殺されたそうだ。4年前に」

「4年前……まさか、兄さんが父様を暗殺した理由、グレン王国をのっとって、戦争をしかけてきた理由って」

「うん。おそらく、暗殺者を雇って最愛のリーサを殺させたことに対する、復讐」

「……そのために、クリスを殺してまで……兄さんは、そこまで、そこまでリーサのことを愛していた。いや、愛しているのね……」


 そうか。これほどの復讐心を抱くその裏側にはリーサへの深い愛があるからなのか。

 ティオは噛みしめるように言葉を紡いだあと、今までの魂の抜けたような目ではなく、強い意思を秘めた目になっていた。


 この目だ。俺はこの目が好きなんだ。

 幾度となく傷ついてきたティオが、その傷が癒えるのを待たずに、自分のやるべきことを見つけたときの目。


「復讐のためとはいえ、多くの罪のない人間を殺し、肉親のクリスまでも殺すなんて……私が、止めなきゃ。兄さんがこれ以上罪を重ねないように」


 目つきは変わったが、痛みをこらえているかのような表情のままだ。

 ティオが、家を飛び出してまで旅をしていた理由。

 小さいころから大好きで、慕っていた兄。

 その変わり果てた姿に、一番傷ついているのはティオかもしれない。……いや、リーサも、か。


 兄を、止める。すなわち、アレクと戦うということだ。

 そうしようと思ったこともまた、兄への愛ゆえなのだろう。

 その決意をしたティオは、痛々しくも気高く、不謹慎ながら、その瞳にみとれてしまう。


 ティオは俺の膝枕の上、ソファの上からバッと飛び起きると、こちらを向いてこう言った。


「そうと決まれば、行くわよ。グレン帝国に」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ