せめて寝ている間だけでも安らぎを
ティオが寝てから俺は夜の鍛錬に出かける。
都の入り口のところで、鍛錬をしたいので外に出たいと言ったら怪しまれて尋問されそうになったので【竜の爪痕】を見せたらすんなり通してくれた。
やはりこの国では竜契約者というだけである程度の権限が与えられるようだ。
都に入る時は元王女の従者ということで許可されたが、外に出るだけでも審査されるなんてよほどグレン帝国を警戒しているのだろう。
俺はここに来る時に見つけた場所で日課の剣術訓練、音波に教わった隠密訓練を行う。
一通りこなしたところで休憩に入り、リーサに声をかける。まだ教えてもらってないことがあるからだ。
「なあリーサ、何でわざわざクロス・エッジとかいうやつのことを聞いたんだ? ……もしかして生前に関係すること、か?」
また今度教えてくれると言っていたので、聞きにくいことだったが訊ねてみた。
『ソーマが話しかけてくる時ってそんなのばーっかり。もっと楽しい話とかないの? 恋バナとかおねーさん大歓迎よ? ほれほれ言ってみなさいよ。やっぱりティオちゃん? それともユキトちゃんかしら。大穴で音波ちゃんという線も……』
「ちゃ、茶化すなよ」
なんてことを言ってくれるんだ。俺のは恋愛感情とかじゃなくて……じゃないなら、なんなんだろう。そ、そうだ、相棒。そう相棒として!
『んー? 悩める思春期の少年よ、今頭の中で何をぐるぐる考えてるのかなー?』
「だから違うんだって。あくまで相棒としてティオの力になりたいのであって決してそういう感情では……ってその話はいいから!」
『ぶーぶー。面白そうな話題だったんだけどな~。また今度でいっか。それであいつの話だったわね。夜霧の急進派に属する、通称交差する刃。その名前からまさか、と思ってたんだけど……多分そいつが、私を殺した暗殺者』
「そう、だったのか」
音波が追っているというそいつが、過去にマテリア国王から依頼を受けて、リーサを殺した、ということか。
『まだ、生きてたのね。とっくに誰かに殺されたのだとばかり思ってたけど』
「……大丈夫、音波たち保守派が今全力で追っているそうだから、きっとすぐに倒されるさ」
『そううまくいけばいいんだけどね……』
俺にとってリーサは声だけの存在だから、表情までは読みとれない。
今、どんな顔をしているのだろうか。憎しみに満ちた顔なのか、それとも何の感情も浮かんでいない顔をしているのか。
『私を直接殺した人間を知ったっていう、ただそれだけのことよ。音波ちゃんに聞いてくれてありがとうね』
「どういたしまして」
『じゃ、引き続き特訓、頑張ってね。それと恋愛の方もね! まったね~ん』
「お、おい!」
リーサからの反応がなくなる。いつも自分の好きなタイミングで引っ込みやがって。
俺はその後、ティオのことやリーサのこと、そしてユキトのことを考えながら特訓を終え、宿に戻った。
かいた汗をシャワーで流し、ベッドへ向かう。
すると、うめき声のようなものが聞こえてきた。
もしかしてと思ったが、やはりティオがうなされていた。
ここ数日の俺も、きっとこんな感じだったのだろう。
いつかもこんなことがあったな、と思い出しながら、できるだけそーっと頭をなでる。
以前こうしたときは割とすぐにおさまった気がしたが、今回は10分、20分、30分経っても苦悶の表情のままで、見ていると俺まで苦しくなってくる。
それでも、何もしないよりはマシだと自分に言い聞かせ、さらに数十分、その金糸のような髪をなで続けた。
きっと明日、マテリア国王のところに行くことによって色々なことがわかるだろう。そして、その情報はきっとティオを傷つける。
それを考えると、せめて寝ている間だけでも安らかであって欲しいと願わざるを得なかった。