降りしきる、雨
王都。
国の中心で、その最もたる特徴は、国王がいる場所ということだ。
実際に来てみると、今までの町とは何もかもが違うということがわかる。
都全体をぐるっと囲う巨大な壁。
そして常に上空を旋回している数十匹の竜。
これほどの竜がピンポイントで空を舞っている光景など見たことがない。
それに、きっとまだ壁の中にはさらに多くの竜、竜契約者が控えているのだろう。
見上げるほど大きな門の前には入都審査を受けている人で溢れかえっていた。
「今日ってイベントか何かあるのか? すごい人の数だけど」
「人が多いのはいつものことだけど…今日は特に多いわね。何かあったのかしら」
並んでいる人を見ると、楽しそうというよりは深刻そうな、神妙な顔をしている人がほとんどだった。
ティオもそれに気付いたのか、近くの人に聞いてみると、衝撃的な事実が明らかになった。
「やけに人が多いようだけど、何かあったのかしら?」
「知らないんですか? 第三王女クリスティーナ・マテリア様の追悼式ですよ。グレン帝国の仕業だそうです…おいたわしや…」
「な、何ですって…」
そんな。
俺は、俺たちは、間に合わなかった、というのか。
ぐらっとティオが倒れかける。
「ティオ!」
俺はとっさにその華奢な身体を支える。
顔面蒼白で、今にも気を失ってしまうのではないかと心配になる。
「ソーマ…遅かった…遅すぎたんだわ、私たちは…」
白い喉元も、桜色の唇も、そこから発せられる声も小刻みに震えている。
ティオは俺に支えられたまま、腕を目元にあてがい押し黙る。
「ティオ、どこか休めるところにいこう」
「そうね…どこか、宿に…」
肩を貸しながら歩き、手近な宿にチェックインする。
門番はティオの顔を見てすぐに元王女だと気づき、順番を飛ばして通してくれた。
ティオは昔から国民の前にほとんど顔を出しておらず、知っているのは王に仕えているごく1部の人間だけなのだそうだ。
部屋に到着したティオはよろよろとベッドに近づき、崩れ落ちる。
枕に顔を埋め、ほどなくして押し殺した泣き声が僅かに聞こえてくる。
その姿は、カメリアを失った直後の俺に似ていた。
肉親なのだから、きっと俺よりももっと深い悲しみに包まれているのだろう。
今、俺にできることは、そばにいて背中をさするだけだ。
それからティオは黙ったまま何十分も涙を流し続け、いつの間にか眠りに落ちていた。
掛け布団をかけてやり、涙の跡が残るその顔を見つめる。
寝ていてもなお悲しみに歪んでいて、見ていて心が痛む。
起きたとき、なんて声をかけてやればいいんだろう。
俺は見つかるはずもない言葉を探しながらティオから目をそらし、外を眺める。
空は灰色の雲に覆われていて、僅かな陽の光さえ届かない。
降りしきる雨粒は、まるでティオが流す涙のようだった。