宿1
契約が成立? したあとはゆるーくおしゃべりをしつつ残りの料理をたいらげ、一服して店をでることにした。
「……またおこしください」
「ごちそうさま、おいしかったわ」
「ごちそうさまでした。今まで食べたグラタンの中で一番おいしかったです」
俺たちは店主にあいさつすると、その不気味だけれど食べ物はめちゃおいしい店をあとにした。
外はすでに暗く、街灯が照らすレンガ作りの建物はどこか幻想的で、まるで外国に来たようだ。いや、ある意味外国だけど。
「さあ、宿を探すわよ。ソーマも疲れたでしょう? こっちの世界のこととかは一旦置いておいて、今日は休みましょう」
「それはありがたい。色々世話になるな」
「いいのいいの。その代わり私のためにしっかり働いてもらうからね!」
「イエス、マム」
「うん、よろしい」
竜の世話以外なにをたるかはわからないけど、やれることはやろう。給料分は働かないとな。
「早速明日から頼むと思うけどよろしくね。さ、まずは宿やど~ふかふかベッドが待っている~」
変な歌を歌っているティオと石畳の道を歩く。暗くなっても人は多く、道行く人の半分以上がこちらを見ている気がする。おそらくティオの容姿のせいだろう。美人だもんなぁ。それに比べて俺の普通なこと普通なこと。服なんて制服だし。
「なあティオ、お前ジロジロ見られてるけど平気なのか?」
「見たいやつには見せておけばいいのよ。それにもうとっくに慣れてるしね。そんなことより、もう宿に着いたわよ」
うわ、こりゃすじがね入りだぞ。こいつの相棒をやってくにはこういうことにも慣れとかないとな。これからは適当にほめておこう。
到着した宿は豪華すぎず質素すぎずの木製の建物だった。
「2部屋空いてるかしら?」
「申し訳ございませんお客様、本日は満室となっておりまして」
「そう……わかったわ、ありがとう」
そう告げて、そそくさと出ていく彼女を追いかける。
「この時間だとどこも厳しそうね。最悪野宿も考えないと」
「マジか。ここはそんなににぎわっている町なのか?」
「普段はそうでもないんだけど、もうすぐこの国、マテリア王国の第三王女クリスティーナ様の生誕祭があって、そのパレードがここまで来るから、それを見るためにこうやって数日前から人が集まるのよ」
ふむ。この国は王制が敷かれていて、わざわざ王族の誕生日を祝って多くの町へパレードしに行けるほど栄えている、と。いや、王族の権威を国民に見せつけるという目的もあるか。
「宿は他にどのくらいあるんだ?」
「ここを除いてあと4つね。急ぎましょう」
それから1つ、2つ、3つと満室が続き、ついに最後の1つとなった。
「すみませんねえ、あと1室しか空いておりませんで。みたところお二人は……ふふふ、むしろ都合がよいのでは?」
「ちちちちちょっと、変な誤解しないで!」
俺もむしろ好都合…おっと、こんなこと考えてたら殴られそうだ。
「それではキャンセルで?」
「くっ、でも野宿よりはマシよねそうよね一部屋お願いするわ」
ティオは自分に言い聞かせるようにしながら勢いよく部屋を予約した。これは床で寝る覚悟をしておいた方が良さそうだな。
「ソーマ、何かヘンなことしたらどうなるか、わかってるわよね?」
「ヘンなことって何かな~俺ちょっとわからない」
「そ、それは、えっと…ああもう! もう何でもいいわ早く部屋に行きましょう!」
赤面して雑なごまかし方をするティオさんかわいいっす。でも調子に乗らないようにしよう。変な仕事押しつけられたりでもしたら大変だからな。