デート?
翌日からメイルの背に乗って王都に向かう。
空路を使っても、ぎりぎりマテリア王国領のこの町からは到着までに3日はかかるそうだ。
1日目はほぼ空の上で過ごし、2日目はメイルを休ませるため途中の町で休憩をとる。
その町ではちょうど剣術大会が行われていた。優勝賞金もでるらしいし、自分の力を試す良い機会だし、俺もティオも参加することにした。
試合はケガのないよう木刀で打ち合う。勝利条件は、相手の木刀を手から離れさせること。木刀を折った場合も勝利となる。自ら木刀を手放したときは、降参したとみなされる。
トーナメント形式で、なんと俺とティオはそれぞれ右端、左端に配置されていた。
ということは、ティオと対戦するには決勝まで勝ち続けなければいけないのか。
「フッ、ティオ、決勝で会おう」
「何カッコつけてんのよ。でもまさかこんな組み合わせになるなんてね…。2人で決勝までいって優勝賞金と副賞を手に入れるわよ! もちろん優勝するのは私の方だけどね!」
「望むところだ!」
参加人数は俺たちをあわせて32人。決勝までいくには4人に勝ち抜かなければならない。
いっちょティオに見せてやりますか。成長した俺の姿を。
俺は順調に1人、2人、3人と勝ち抜き、ついに準決勝にたどり着いた。
相手は身体が大きく、単純な力の面では不利だったが、ステップと踏み込みを駆使して小手を狙い、なんとか木刀をたたき落とすことに成功した。
そして、決勝戦。対戦相手はもちろん…。
「さすがソーマ。戦いぶりは見れなかったけど、よくここまできたわね」
「ティオは必ず決勝まで勝ち進むって思ってた。さあ、いざ尋常に勝負! 相棒だからって手加減はしないぞ!」
「それはこっちのセリフ! いくわよ!」
俺とティオは同時に飛び出し、木刀を打ち合わせた。
くっ、さすがだ。一撃が重い。
でも力ならこっちも負けてない! それに村に滞在していた時、やっと自分流の剣術を確立できたんだ。
ティオが繰り出すマテリア流剣術の型に、教わった同じ型をぶつける。
だが俺の方にわずかな軌道のズレが生じ、ダメージが腕を伝う。
さすがに練度に劣るこちらは分が悪い、か。
なら…!
ティオの2撃目を、居合道の技で受け流す。瞬時に剣道の技で反撃。
この攻撃は予想外だったらしく、ティオは驚いた顔をして俺の攻撃を受け止める。
そこから短い間、つばぜり合いに。
「なかなかやるじゃない、ソーマ。そんな剣術を隠してたなんてね」
「マテリア流剣術も修得したかったから、見せる機会がなかったんだよ。本来はこっちだ」
「そう。なら今度、そっちの剣術を教えてもらおうかし、ら!」
「よろ、こんで!」
お互いに相手の木刀を弾き、一旦距離を取る。
ティオはマテリア流剣術の基本、中段に木刀を構える。
対して俺は、剣道と居合道に共通している、これまた中段の、正眼の構え。
地を蹴るタイミングも同じで、木刀を振るタイミングもまた同じだった。
交差する2つの影。
ティオの木刀は、真ん中からポッキリ折れていた。
俺の木刀は…宙を舞っていた。
「勝者、ティオ選手!」
負けた。負けてしまった。
でも、不思議と悔しさはあまりわいてこない。ティオが相手だからだろうか。
「ティオ、優勝おめでとう」
「ありがとう。でも引き分けみたいなものね。いつかまた手合わせする時は完璧に勝ってみせるから!」
「俺だってそう簡単に負けてたまるか!」
そう言い合って、俺たちは握手を交わしたのだった。
賞金で懐が潤ったため、今日は好きなもの買い、好きなもの食べることにした。
「ソーマ、この服どう?」
ティオは普段はしないであろう村娘風の姿になっていた。
正直に言おう。かわいい。派手な見た目に反して素朴は衣装。そのギャップがまた良い!
「ま、まあいいんじゃないか、うん。他のも着てみたらどうだ?」
「もう、素直にかわいい、キレイだ、惚れちゃいそう、とか言えばいいのに」
「そんなこと言えるか!」
「えー」
忘れてた。そういえばティオはこういう性格のやつだった。まあ素直に言ったところで照れるだけなんだけどな。実際言われると弱いところも面白い。
「これはどう?」
「っ!」
思わず息をのんでしまった。
シンプルな白いワンピースなのだが、それを金髪碧眼美少女のティオが着ると破壊力が半端ではない。
「? どうしたの、ぼーっとしちゃって。あ、わかった、私に見ほれてるのね。まあそれはしょうがないわね、うんうん」
「…ああ、悔しいが見ほれちまった。かわいい。キレイだ。惚れちゃいそう」
「えっ! はっ? ええええ!」
急にわたわたとキョドりはじめたティオさん。ほら、実際に言うとこうなる。ちょっと意地悪なこと言っちゃおう。
「なーんてこと言うと思ったかばーかばーか! 自惚れんなこのナルシストさんめ!」
「な、なんですってー!」
照れたり怒ったりと忙しいやつだなぁ。
「ごめんごめん、ちょいと言い過ぎた。似合ってるよ、その服」
「どうせそれも嘘なんでしょー」
「いや、これは本当」
「…嘘じゃない?」
「嘘じゃない嘘じゃない」
「そ、そう。…あ、ありがと」
やばい、これ俺も恥ずかしくなるやつだ。
「じゃ、じゃあ俺も自分の服見てこようかな~」
そそくさと逃げるように試着室の前を離れる。
くっそ、これじゃあ俺も人のことは言えないな。
ティオは結局あのワンピースを購入した。今日1日はそれを着るらしい。
くっそ、横を歩いてるだけでドキドキしちゃうじゃないか。おそるべし元王女。
その後は雑貨店でアクセサリー類、竜専門店でメイル用の高級なエサを購入し、歩き疲れた俺たちはクレープを食べながら休憩することにした。
「ソーマ、あんたのクレープもちょっと寄越しなさいよ」
「はいはい」
はむっ、と俺のクレープにかぶりつくティオさん。
「なんか一口大きくない?」
「細かいこと気にしなーい。あ、私のもあげる」
「じゃ、遠慮なく」
「って私より一口大きいじゃない!」
「細かいこと気にしなーい。あ、ティオ、口んとこクリームついてるぞ」
「ん?」
「俺がとるよ」
そう言って口のところについたクリームをとってやって、ぺろっとなめる。うーん甘い。
「なっ! うぅ…」
「どうした、そんなに顔赤くして。あ、そっか、子どもみたいに口のまわりにクリームつけたから恥ずかしがってんのか」
「っ! ば、ばか! 違うわよ! このっ、このっ!」
「うわぁ! 俺のクレープがぁぁああ!」
そんな調子であっと言う間に時間は過ぎていき、俺たちは王都に到着した。
昨日は晴天で気持ちの良い気候だったのに、その日は、雨が降っていた。