ティオの笑顔
場が落ち着くまで少々時間がかかった。主にティオと音波がわちゃわちゃしていたせいで。
「まったく、2人のせいで本題に入れないじゃないか…」
「私は悪くない。悪いのはこのじゃじゃ馬さんの方」
「だ~れがじゃじゃ馬よ! 突拍子のないことをするのはあんたの方でしょうが! 無表情のくせして!」
「はいはいそこまで! とりあえずゆっくり話せるところに行かないか?」
「あ、なら『天使の微笑み』に行きましょうよ」
ティオが聞き覚えのない単語を発した。この言い方からするとどうやら俺も知っている場所のようだ。そんなとこあったっけ。
「なあ、その場所ってどういうところなんだ?」
そう問いかけるとティオは不思議そうに首をかしげた。
「覚えてないの? ほぼ毎日と言っていいほど通ってたじゃない。あの裏路地にある」
「あーあそこか…ってあそこそんな名前だったの!? イメージとかけ離れすぎじゃない!?」
有り得なさすぎだろ常識的に考えて。壁にドクロとか打ってる上に店主自身がホラーな店なんだぞ。
「私も何回も言ったんだけどね~。名前変えた方がいいって。じゃあそこで決まりってことで! 早速行きましょ」
先頭を切って歩きだしたかと思ったら「あっ」という声とともに振り返る。
「まだ言ってなかった。おかえり、私の相棒さん」
久しぶりに見る、ティオの弾けるような、優しさの詰まった笑顔。
不意打ちでするのはやめなさいと言っているでしょう。いや言ってないけど。うっかりときめいちゃうでしょうが!
「ただいま、俺の相棒さん」
なぜだか恥ずかしくなって、目を逸らしつつ応える。
「何恥ずかしがってるのよ! …そんな態度されると、こっちも恥ずかしくなるじゃない…」
「う、うっせ」
ティオも俺同様、顔を赤くする。
なんとも気まずい空気をぶち破ったのは、やはり音波だった。
「ラブコメ禁止。絶対禁止。ソーマと私との間のみ許可」
ゲシゲシとすねに蹴りを入れてくる。痛えだろうが!
草原、森、町へと移動する間もティオと音波何かにつけて言い合っていた。
険悪なムードってわけでもないんだけどな。2人がどうやって知り合ったのか早く知りたいものだ。
そんな2人を横目に見つつ、俺は先程の再会を思い出していた。
くっそ、音波に邪魔されなければあのまま抱き合えてたのに…おっと、こんなこと考えてたらまたティオに怒られてしまう。
あれ、でもあの時ティオも感動の再会とかなんとか言ってたような…まんざらでもなかったとか?
ダメだダメだ! 自意識過剰イクナイ。煩悩退散煩悩退散んんんん!
「あの時、音波が邪魔しなければソーマと…くぅ! 許さないんだからっ!」
「阻止して良かった。ソーマの安全は私が守る」
「やっぱり故意だったんじゃない! しかもその言い方だと私がソーマにとっての危険人物ってことになるし! 音波のいじわる!」
「何を言っているのかわからない」
「ああああもう!」
2人はまだうるさく言い合っている。耳をふさいで煩悩退散に集中していた俺には内容まで聞き取れない。
何にせよ、ティオと音波が無事で、良かった。