再会と再会
そして、3日目の朝。
早起きして移動をはじめる。
ティオに伝えなければいけないことができた。すぐにでも会って話したい。
音波がティオの監視についててくれればありがたい。あいつとも話さなくちゃいけない。もし危ないこと、非人道的な仕事をしているなら…俺が辞めさせなきゃ。妹、じゃなかった、幼なじみだからな。
急いだおかげか、昼頃には大分近いところまで来た。
合流地点というのは、俺とティオがはじめて訪れた町。パレード襲撃事件があったあの町だ。
その思い出の町も、ギルとカイルによってめちゃくちゃにされてしまった。今は復興活動をしている最中だろう。
ほぼノンストップで移動し、今はあの町の近くの草原にいる。
ここも俺にとっては思い出深い場所だ。
なにせ、この世界に来て一番に目にした風景が、ここだから。
同時に、はじめて竜と遭遇した場所であり、ティオと出会った場所でもある。元の世界に戻っても忘れることのできないであろう大切な場所。
なのに、いつ戦火に巻き込まれるともわからない国境地点なのだという。
こんなにも自然豊かで、空気も澄んでいて、落ち着くのに。
長居するわけにはいかないが、それでも俺は休憩場所にここを選んだ。
魔法も使えなかったあの頃とは違い、今の俺なら何かあっても逃げきれる自信はある。相手の戦力によっては撃退することもできるだろう。
耳をすませ、草木がざわめく音を聞く。
風はゆるやかに頬を撫で、髪を揺らす。
草原に大の字に寝ころんで、透けるような青空を眺めていると、思考が止まり眠くなる。
そのせいか、ティオが吹いていた草笛の旋律が聞こえるような気がする。
懐かしいなぁ。結局1回しか聞けなかった。あの美しくもどこか寂しさを潜ませた音色。もう一度聞きたいなぁ…ってええ!?
ボーッとしていた頭が急に活性化する。俺は驚きの余り飛び起きて、聞き耳を立てた。
あっちだ! あの岩の後ろから聞こえる!
やっとティオに会えるぞ!
感情のまま走り出そうとしたが、ちょっとしたいたずら心が芽生える。
くっくっく、ティオが気付いていなくて、俺が気付いているという状況、利用しない手はない!
俺は前に1度だけ音波に教わった気配を消す技術を用い、ゆっくり、慎重にティオの方に近づいていく。
ああ、早くティオの驚く顔が見たい。ワクワクが止まらないよっほっほ!
何て声をかけようか考えつつ時間をかけて移動し、岩陰から顔をだしたその時、ティオが振り向きもせず鋭い声を上げた。
「誰? そこにいるのはわかっているわよ。こっちも手荒なことはしたくない。大人しく投降しなさい」
さすがティオさん。己に忍び寄る気配を察知するぐらい当然というわけか。
「こんにちは! 僕は君のとーっても頼りになる相棒さ! ハハッ!」
とっさに裏声でそんなセリフを吐く。自分でも意味不明すぎてわけわからん。
「はぁ? 何を言って……!」
予想外な返答だったのか、ティオは思わず、といった様子でこちらを振り向いた。
お互いに時間が止まったかのように固まる。
陽の光を弾いてキラキラと輝く黄金の髪。
エメラルドのような翠色の瞳。
見慣れていたはずなのに、10日間くらい離れていたせいか、懐かしさがこみ上げてきて魅入ってしまう。
会いたかった。無事で、よかった。
話したいこと、話さなきゃいけないことが沢山ある。けどもう少しだけ、見つめていたい。
再会の喜びとか村での出来事とかなんかもう色々ぐちゃぐちゃになって、なぜかじわりと涙がでてきた。
ティオも同様にその大きな瞳をうるませていた。
「ティオ…」
「…ソーマ」
お互いに囁くように言葉を交わし、相手の方へ駆け出す。
距離が縮まり、抱き合う寸前まで来た瞬間、横から何者かに飛びかかられて俺は倒れこんでしまった。
「ソーマ! 会いたかった!」
この声、この長いポニーテール。見覚えがあるどころの話ではない。
「おま、音波じゃないか!」
「心配してた。無事でよかった」
「ちょっと音波! なに私とソーマの感動の再会を邪魔してくれてんのよ!」
「あのままだと2人は衝突していた。私はそれを防いだだけ。決して他意はない」
「いや、どこからどう見ても他意ありまくりでしょうが!」
おいおいおい、まさかの展開だぞ! ティオと音波が知り合いになってるなんて!