考え続けるということ
カメリア。リリー。ローリエさん。村のみんな。
仇を取ったよ。もうみんなを苦しめたやつはいなくなったよ。
だから、安心して天、国、に…。
「う、あ、うあああああぁぁぁぁぁあああああ!」
抑えていた感情がとめどめなく溢れ出す。
復讐は無意味ではない。だが、悲しみを消すことはできない。
ユキトがあいつの契約竜を倒すまで、俺は心の底から湧き上がる悲しみに身を任せ、ただただ泣き続けた。
すべてが終わった広場で、俺たち2人は墓を作っていた。子どもが1人入るくらいの小さな小さな、墓。
あれだけいた村人たちの中で、残っていた遺体はカメリアのものだけだった。
なんで、そんな満足そうな顔、してるんだよ。
俺は守ってやれなかったんだぞ。恨まれても仕方ないくらいなのに、どうして。
カメリアの死に顔を見て黙り込んだ俺に、ユキトが言葉をくれる。
「…安心しきったような表情をしているな。まるでソーマと遊んでいるときのようだ。きっと、最期に君に何かを託せたからだろうな。だから、そんな穏やかな顔で去ることができたのだと思う。君の、おかげだ」
戦闘時はあんなに冷静だったユキトが、今は静かに涙を流し、声を震わせている。
何か言わなきゃと思ったが、俺は何も言えなかった。
最後の1人になっても戦い続け、短い人生を全うした小さな勇者を埋葬した後、竜人化を解いた俺たちは地面に倒れこむ。竜と同じ細胞になった体の一部を人間のものに戻すため、これから丸1日は動けなくなるはずだ。
ユキトと仰向けに倒れながら、暁の空を眺める。
カイルを殺したことを後悔はしていない。俺が殺さなければ、あいつはこの先も多くの罪のない人間を殺しただろう。この村のような悲劇がいくつも生まれただろう。
でも、考えてしまう。
本当にわかり合えなかったのだろうか。別の落としどころがあったのではないか。
あいつだって人の子だ。父親と母親がいて、もしかしたら兄弟姉妹もいるのかもしれない。誰かを愛し、誰かから愛されていたのかもしれない。
考えても考えても、明確な答えはでない。
「ソーマ、君が今、何を考えているのか当てようか? カイルを殺したことについてだろう?」
「よく、わかったな」
「人を殺すのがはじめてなら仕方のないことだ。誰でもそうなる」
「ユキト、俺、わからないんだ。カイルを殺したことが良いことなのか悪いことなのか。正しかったのか正しくなかったのか」
「わからなくていい。大事なのは考え続けることだ。考えることを止めた時、人は慣れる。君は軍人ではない。人を殺すことに慣れてはならない」
「ユキトは慣れたのか?」
「私は軍人だ。本来ならば慣れていなければいけない。でも、結局慣れなかったな。今まで国のために何人も殺してきたが、何日たっても、何ヶ月、何年たっても時々思い出して考える。それがどんな極悪人であろうとも」
そうか。ユキトは今回のようなことを何度も経験してきたのか。
「ありがとう、ユキト。俺、考え続けるよ。答えなんかでなくても、忘れそうになっても」
「それがいい。そう、するといい」
それきり俺たちは言葉を交わすことはなく、竜人化の反動なのか、どちらからともなく気絶するように眠った。