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竜人たちの唄

 俺はカイルから視線を外し、ユキトの方を見る。すでに竜人化しているらしく、髪は赤と黒の2色の染まり、右目は元の色と同じく燃えるような赤。左目は深い漆黒に。


「ユキトがグレン王国の王女だって…?」


 熱せられた脳が一瞬冷めかけるほどに、その情報に衝撃を受ける。


 カイルはグレン帝国ではなくグレン王国と言った。つまり、ユキトは、殺された前国王の実の娘だということだ。


 あの愛国心と、祖国を取り戻すという強い意志はそういう理由があったからか。


「ソーマ、その話は後だ。村人は、皆は何人くらい残っている?」

「…1人も、残っちゃいない。全員、そいつが、魔獣が! くっ、うっ」


 蓋をしていた感情が、漏れ出しそうになる。


「そうか」


 ユキトは数瞬目を閉じ、唇を真一文字に引き結ぶ。何かに耐えるように。


 目を開けた時、その整った顔にはいかなる感情も浮かんでいなかった。


「ソーマ、君はカイルと竜、どちらと戦いたい?」

「見ればわかるだろう」

「それもそうだな。では、ここは譲ろう。…必ず、倒せ」

「言われなくても」


 ありがとう、俺にやらせてくれて。ユキトも悔しいだろう。悲しいだろう。辛いの、だろう。俺みたいに仇を取りたいだろう。それでも、譲ってくれたのだ。ユキトのためにも負けるわけにはいかない。


 俺はカイルとの、ユキトはあいつの契約竜との戦闘に戻る。


「引き続き子猫ちゃんの相手か。ま、そうじゃなきゃこっちも困るんだけどね。…武器を打ち合うのも飽きてきた。そろそろ殺す。圧倒的な力で叩き潰してやるよ。ーー我、顕現す。契約を依代とし…」


 まずい。竜人化したら勝ち目が無くなる。詠唱が終わる前に仕留める!


「うおぉぉぉぉおおお!」


 今までになく全力で、限界ギリギリまで速く、正確に剣を振るう。


 カイルは【竜の爪痕】を禍々しく輝かせながら詠唱を続け、俺の攻撃を容易く受け流す。


 忘れていた。こいつの戦闘スタイルは防御型。竜魔法で攻撃するべきだった。今から詠唱しても間に合わない。


「くそっ、くそっ、くそぉぉぉおおお!」


「…魔導の礎を我が身にーー竜人化」


 白い、色素のない髪が黒く、黒く染まっていく。


 竜人化が進む度に一撃の重さ、速さが段違いに上がっていく。


 髪も瞳を黒く染まりきった時、俺は地に伏せていた。


「あーあの時殺さなくて良かったあ。こんなに楽しめたんだもの!…よくも俺の右腕を奪ってくれたなこの虫ケラめ!」


 カイルは倒れている俺を何度も、何度も足蹴にする。


「ぐっ!」


 痛ってえ。内蔵が口から飛び出しそうだ。


「うひゃひゃひゃ、愉快愉快! さあ、そろそろ首を刈り取るとするか」


 嫌だ。死にたくない。仇も討てないままこんなやつに殺されるなんて。


 お前の存在を否定する、なんて大見得を切っておいてこのザマだ。結局は、力。


 力無き正義に意味などない、とはよく言ったものだ。俺は自分が正義だなんて思ってはいないけど。


「じゃーね、子猫ちゃん」


 鎌が首を刈り取ろうとした、その時、


「ソーマあぁぁぁあああ!」


 ユキトの竜魔法、濃縮された黒炎がカイルに飛来した。


「っ!」


 間一髪でそれを避けたカイルは後ろへ飛びすさりながら殺気の籠もった瞳でユキトを見据える。


「邪魔すんじゃねーよ姫さんよ! あ、もう姫じゃないか。パパは皇帝ちゃんにぶっ殺されちゃったもんなあ!」


「黙れ、この外道が! ソーマ、大丈…くっ!」


 こちらに駆けつけようとしたユキトは途中で竜に阻まれてしまった。きっと戦闘の合間に無理をして助けてくれたのだろう。


 竜はある意味、竜契約者より厄介だ。空も飛ぶし魔法も使う。竜人化していなければきっと相手にもならないだろう。


「ったく、さっさと終わらせてユキト・グレンの方も確保しなきゃな。面倒くさいけど皇帝の命令だし」


 徐々にカイルがこちらに進んでくる。


 ユキトが作ってくれたこの短い時間に何ができるのかと言われれば、何もできない。


 体も動かないし、何かしようとしたところで竜人化したあいつから逃れられるわけでもない。


 俺に力があれば。あいつを倒せる力があれば。


 結局はパレード襲撃の時と同じだ。自らの力のなさを嘆くだけ。


 せめて、俺の契約竜が近くにいたなら。もっと違った展開になっていたのかもしれない。


『ソーマにい、諦めないで』 


 カメリアのそんな言葉が、聞こえた気がした。


 そうだ、まだ諦めるわけにはいけない。


 カメリアだって片腕、片足を失いながらも最期まで立ち続けていたじゃないか。


 カメリアの友達で、師匠の俺が。

 カメリアに夢を見させてしまったこの俺が、諦めてたまるか!


 傷ついた体に鞭を打ち、根性で立ち上がる。


 力が。力が欲しい。


 そう強く願っていた時、両手の【竜の爪痕】に違和感が走った。

 見ると、淡く光っている…?


『…主よ。我が主よ。おお、やっと繋がったか』


「な、なんだ?」


 まさか。


『久しぶり、いや、はじめまして、か。我が名はシルバ。主の契約竜だ』


「遅えよ、バカ」


『第一声がそれか。ちと悲しいぞ。それよりまだ意志疎通が安定しない。手短にいこう』


 俺が待ちこがれていた契約竜の名はシルバというらしい。このタイミングで、一体どんな話をするというのだろうか。


 立ち上がった俺を見て、こちらに近づきつつあったカイルは目を丸くしていた。


「なんだい? まだやる気なのか? はは、面白い。面白いね! 俺ちゃん死ぬ前に悪あがきするのを見るの大好きなんだよね。ほら、かかってきなよ」


 急に機嫌が良くなった。今のうちにシルバの話を聞かなければ。


『今から大量の魔力を送る。主と我との距離なら、人間の言葉で言うところの竜人化とやらを使うことも可能だろう』


「…それは、本当か」


『…本当…やはりもう…健闘を祈…』


 それきり反応が無くなる。

 はじめて話した契約竜は、俺に希望をもたらした。シルバ、お前、最高だよ。


 まもなくして、両の【竜の爪痕】が熱を持ち始めた。

 同時に頭の中に詠唱が流れ込んでくる。


「ーー我、顕現す。契約を依代とし、太古より伝わりし大いなる魔導の礎を我が身に」


 詠唱が進むにつれ、【竜の爪痕】はその輝きを増し、広場を白き光で照らす。


「なっ、まさか! …させるかよ!」


 目が焼けそうになるほどまばゆい光を放ち始めたのを見て、何かに気づいたカイルが地を蹴りこちらに向かってくる。

 だが、もう遅い。


 これで、戦える。


 見ていてくれ、みんな…そして、カメリア。


 今こそ、成る。


「ーー竜人化」

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