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ヒーロー

「よし、2人で行けるところまで行こう。明日の朝までに村に戻ってこれるくらいの距離までだけど」

「村の周辺の魔獣はもういないから、強化魔法を使って遠くまで行かないといなさそうだな」


 既に村の安全は保証されていると言っても過言ではない。後は捜索範囲を広げられるだけ広げて危険を減らすのみだ。


「倒し尽くしたからな。でも、ほんの少しでも危険は減らしておきたい」

「そうだな、やれることはやろう。恩返ししないとな」

「すっごくお世話になったもんな。おかげでケガも早く治せたし、貴重な体験も沢山できた。…いや、単純に、村のみんなが好きだから、だな。すべてが片づいたらまた一緒に戻って来ような」

「もちろんだとも。では、私はあの山の方に行くから、ソーマは渓流の方を頼む」

「おう! 気をつけてな」

「君こそ」

「じゃあまた後で」

「うむ。お互い無事に帰ってこよう」


 俺とユキトはそれぞれ強化魔法を発動させ、別々の道へ進む。さあ、最後の仕事だ。全力でやろう。


 そんなこんなで早1時間。倒した魔獣は1匹のみ。これは良い結果だ。それだけ魔獣がいないということだから。


 小休憩をとり、再び移動しようとしたところで、遠くから僅かな爆発音が聞こえてきた。聴力が強化されていたからこそ聞こえた、音。


 嫌な予感がする。


 音のした方を振り向くと、案の定、村の方向だった。


 足がちぎれるほど走って、走って、走って。


 村の人たちの無事を強く、強く、祈って。


 たどり着いた。この世の地獄のような場所に変わり果ててしまった村に。

 家屋はすべて潰され、地面は大量の血を吸い赤黒くなっている。

 いつもは村人たちが歩いている広場は魔獣で溢れかえっていた。その腹をぷっくりと膨らませて。


 何があったか理解した。なぜこんなことになってしまったのか、理由はわからないけれど。


 思考が停止しかけた時、広場の中心で数匹の魔獣が何かを中心にぐるぐる回っているのを見つけた。


 まさか、と思い、固まりかけていた体を動かして広場にいた魔獣を一掃する。


「ーー銀光のプラータ・ウェイブ!」


「ーー銀光閃シルベリオ・アロー!!」


「ーー銀竜剣シルベリオ・ソードっ!!!」


 泣くな。泣いたら視界が悪くなって魔獣が倒せなくなる。


 ひたすらに魔法を放ち、魔宝剣で斬る。


 広場を埋め尽くしていた魔獣は、ものの5分で全滅した。

 広場の中心には、片腕と片足を失ったカメリアが、剣を支えにして立っていた。


「カメリア!」


 ボロボロで、意識を保つのがやっとであろう彼を抱きしめる。


「ソーマ、にい? ごめん、よく、見えないや。それより、魔獣は?」

「俺が全部倒した! ちょっと待ってろ、今すぐ治療を」

「無理、だよ。見れば、分かるでしょ。…ねえ、ソーマにい」


「しゃべるな! これ以上話すのは危険だ!」

「最後くらい、好きにさせてよ。…僕ね、母さんを、リリーを、みんなを、守れなかった。誰も、守れなかった」


「でもお前は最後まで、1人になっても戦い続けた。立派だ! 立派な戦士だ!」

「そうかな、父さんみたいなカッコいい戦士に、なれたのかな」


「ああ! 最高にカッコいいよ! 世界で一番カッコいい!」

「よかった…ねえ、ソーマにい。ごほっ、ごほっ」


「カメリアっ!」

「…僕ね、この村だけじゃなくて、他の小さな村も、大きな町も、悪者から守って、みんなを助けられる戦士に、なりたかったんだ。父さんを、越えたかったんだ。僕はもう無理だけど、ソーマにいが代わりに、そんな戦士に、なってくれないかな。僕にとってソーマにいは父さんと同じくらい立派な戦士だけど、きっと、もっとたくさんの人たちを助けられると、思うんだ」


 …この子は。この子の心は、なんて美しいのだろう。純粋なのだろう。こんなところで消えていいものじゃない。無くなっていいものじゃ、ない。


「うん。俺、なるよ。カメリアがなりたかった、たくさんの人たちを守れる戦士に、竜契約者になるよ」

「ありがとう、ね。もうこんな悲しいことが、起こらないように、ソーマにいが、守って、あげてね」

「ごめん、ごめんな、守ってやれなくて、ごめんな…」

「なんでソーマにいが謝るの、さ。ソーマにいとユキトねえ、は、もう、僕たちを助けてくれた。ソーマにいが剣術を教えてくれたおかげで、ここまで、生き残ることが、できたんだ」


「でも、でも、間に合わなかった。俺かユキト、どっちかが残っていれば、防げたはずだ…」

「それも、僕たちの、ためなんでしょ? そんな悲しそうな声、出さない、でよ。…ごほっ!」


 カメリアは吐血し、体をガクガクと震わせ始めた。限界が、近いのかもしれない。


「約束、守るから。絶対絶対、守るから!」


「無理は、しないでね。ソーマにいは、死なないでね。大丈夫、僕、心配なんてしてないよ。優しくて、とっても強いソーマにいなら、きっと、きっと…」


「…カメリア?」


 震えは、おさまっていた。心臓の鼓動も、また。


 俺は静かにカメリアの亡骸を横たえる。


 お疲れさま。ゆっくり、休むんだぞ。後は、俺に任せておけ。


 でもな、カメリア。お前、買いかぶりすぎだ。俺はそんなに優しくも、強くもない。


 だってこんなにも、涙が溢れてくる。後から後から、溢れてくる。


「カメリアぁああああ! う、ぐっ、うあああああああああ!」


 広場には、涙を流し、慟哭する俺の声しか響かない。


 そうして、どれだけたったか分からなくなっていた頃。そいつは、この事態を引き起こした元凶は、姿を現した。


「あんれえ、魔獣ちゃんたちがいっぱい死んで何事かと思ったら、俺ちゃんの大事な大事な体の一部を奪った子猫ちゃんじゃないか!」

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