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村人との、みんなとの、思い出

 村人たちの温かい対応のおかげでケガもみるみる治ってきた。農作物や家畜の肉も新鮮で、素朴な味がやみつきになりそうだ。


 お世話になっているうちにこの村の状況も大分わかってきた。


 ここはほぼ国境線の上にあり、かつ森の中に存在しているため、情報がほとんど入ってこないらしい。他の村や町に出向くのに数日かかるため食料はほぼ自給自足。


 それでも村がなくならないのは、外にでていく若者がほとんどいないからだそうだ。


 普通、田舎の若者といえば程度の差はあれ都会に憧れを抱くものだが、若者や子どもたちはこの村が大好きで、みんなでどうしたらここが発展するのか考えている。そのおかげで年々人口が増えてきていて、生活水準も徐々に上がっているそうだ。


 ただ、最近不穏なことが立て続けに起こっているらしい。


 この森には珍しいことに昔から魔獣がいなかった。故に初代村長はここに村をつくった。しかし数日前、町へ保存のきく食べ物を売りに行こうとした村人が魔獣に襲われた。


 その後、すでに町へでていた村人が魔獣と遭遇せず無事に村へ帰ってきて、ある情報を持ってきた。


 それは、近頃、突然村がなくなることが相次いでいるという内容のものだった。


 そんな時に俺たちが村の子ども、カメリアとリリーを助けたという出来事があり、暗い雰囲気に包まれていた村が少しだけ明るくなったらしい。なんか照れるな。


 だからなのか、ニコニコ挨拶されたり差し入れを大量にもらったりする。


 俺も何か恩返ししたいと思っていた矢先、カメリアが他の子どもたちに算数の教え方が上手いということを吹聴して回っていて、自分にも教えてほしいという子たちがどんどん来たため、教室を開くことにした。


 この村では親が子どもに必要最低限の知識を教えるだけで学校というものがなかったため、子どものみならず親にも喜ばれた。そうなるとこちらも気合いが入ってしまい、勉強の合間に剣術も教えることにした。男の子には好評だったが女の子にはイマイチだったため、折り紙講座を開いたところ大好評。ママさん方も参加して気恥ずかしかった。特に人気があった折り紙はリボンやお花でした。


 一方ユキトはお料理教室を実施し、これも好評を得ている。なんとユキトの料理の腕は相当なものらしく、多くの人から絶賛されていた。


 夜にはユキトと共に魔獣退治。ケガが治りきっていないためそんなに量はこなせなかったが、それでも村人には感謝された。


 忙しくも充実した日々。


 そんな風に過ごして5日たった頃。


 休憩時間にカメリアと一緒にハンモックでのんびりしていた。


 夕飯を共にしているというのと、単純に気が合うという点でこういう息抜きの時間もカメリアと一緒にいることが多くなった。


 昨日はユキトと、ケガもすっかり治ったしそろそろこの村を出ようと話した。


 村に馴染み、毎日が充実していたが、俺もユキトもそれぞれの目的を忘れたときは無かった。むしろ焦る思いは強くなる一方だ。


 けれど、村人によくしてもらった恩もある。

 なので、後2、3日は留まってできる限りのことをしよう。


 学校というシステムを説明し、今すぐにでなくても、いつかは作れるように。

 剣術の基礎を教え、教科書も作り、魔獣を倒せるように。


 まだまだやることが一杯だ。


「ソーマにい、ボーッとしてないでおしゃべりしようよー」


 頭の中でスケジュールを組んでいたら、カメリアに怒られてしまった。


「はいはい。まったく、俺も考えることが沢山だというのにお前ときたら……そうだ、聞きたいことがあったんだ」

「なになに?」

「カメリアさ、村の外にでて森の中に入っていった理由が、確か竜を探すためだったよな。なんでそんなことしようと思ったんだ?」


 俺がそう言うとカメリアはしばし黙り込み、話しはじめた時には、いつもの子どもっぽさは消えていた。


「父さんはさ、僕が生まれる前はグレン王国の軍人さんだったんだ。この村で母さんと結婚したら辞めちゃったけど。それでね、今まで魔獣なんてここらで見かけたことは無かったんだけど、2年前、1匹だけこの村を襲った魔獣がいたんだ」


 なるほど、お父さんはグレン王国の軍人さんだったのか。剣術の筋が良いわけだ。


 あれ、でもここ数日、お父さんはずっと家にいなかったはずだ。まさか…。


「その魔獣はライオンの型で、とっても強かった。父さんはそいつと相打ちになって、死んじゃった」


 やっぱり…。これは、聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれない。


「ごめん、嫌なこと思い出させちゃったな」

「ううん。もう2年も前のことだから。それに父さんと約束したんだ。母さんとリリーを守るって。僕がしっかりしないと」


 たまに見せる年不相応な面は、経験とその覚悟からくるものだったのか。


「それでね、話の続きなんだけど。父さんが村で唯一の戦士だったから、この村には今魔獣と戦える人がいないんだ。だから、僕が父さんの後を継いで、戦士になろうと思った。みんなを守るために、竜と契約して竜契約者になって、魔法を使えるようになりたかった。だから竜を探してたんだ」


「だから危険をおかしてまで…」

「でもね、もういいんだ。ソーマにいが来てくれたから! 剣術でも魔獣が倒せるって教えてくれたもん! 僕、強くなるよ。強くなって村のみんなを守るんだ!」


 そう語るカメリアの顔は、さきほどまでの神妙なものとは違っていきいきとしていた。


 目標があるから、為すべきことがあるから、人は頑張れるし、強くなれる。このままいけばカメリアは立派な村の戦士になれるだろう。その手助けができたのなら、俺はたまらなく嬉しい。


 それだけに、別れを切り出すのが心苦しかった。出立までの2、3日の間に残せるものを目一杯残していこう。俺なんかが残せるものなんてたかが知れてるけど、それでも、村のため、カメリアのために。


 必要とされること、自分にできることがあるということは、とても幸せなことだ。こちらの世界に来てから、それがよく理解できる。感じられる。


「よし、わかった。ここを出発するまでの2、3日の間、たっぷり教えてやる。朝早くから夜遅くまでだ。カメリアには特別メニューを組んでやる」

「えー! もういっちゃうの!? ずっとここにいてよ!」


「それは無理だ。俺にも帰る場所がある。やらなきゃいけないことがある。さあ、そうと決まれば即行動! 休憩時間も返上して特訓だ!」

「もっといればいいのに…でも、しょうがないや。わかった! 特訓だ特訓だー!」


 俺とカメリアはハンモックから勢いよく飛び降り、競争しながら広場へ戻ったのだった。


 その日の夜。


 今日もまたローリエさん、リリー、カメリア、ユキト、俺とで食卓を囲む。


 村人たちにもあと3日でここを発つことは伝えた。


 みんな残念がってくれて胸が痛んだが、数々の感謝の言葉に救われた。

 魔獣に関しても設置すべき罠や魔法の性質、有効な剣術、体術等も伝えることができた。まあそれをしたのは兵士であるユキトなんだけど。俺がしたのは剣術を教えたことくらいだ。 とにかく、これでよっぽど強力な魔獣が来ない限り対処できるだろう。


 近辺の魔獣は俺とユキトで狩り尽くした。睡眠時間を削ったおかげでなんとか間に合った。 今日の夜と明日の夜でさらに遠くまで捜索範囲を広げて、安心して町まで行けるように魔獣を倒す。そうすれば、心置きなくこの村を去ることができるだろう。


「まだこれを言うのは早いかもしれないけれど、この村のために色々してくれてありがとうね。息子や娘も助けてくれて…お返しはこうやって夕食をふるまうことしかできないけど、私たちにできることがあったら何でも言ってほしいわ」


 ローリエさんがそう言ってくれる。


「いやいやそんな! 俺たちが勝手にやったことですから。それにこの料理、とっても美味しいです。1日の疲れが吹っ飛びます!」

「あらあら、嬉しいことを言ってくれるのね。でもユキトちゃんの料理の方が美味しいわよね~」

「そ、そんなことは!」

「む、ソーマ。それは私の料理がまずいということか?」

「あーそうじゃなくて! どっちの料理もめっちゃ美味しいよ!」

「「よろしい」」


 実際どちらの料理も美味しい。ティオと一緒のときは外食が多かったから、手料理特有の味がたまらない。


 ティオ、無事だろうか。しっかり食べてるかな。早く合流したい。


「うええええん! やだやだ! まだソーマおにいちゃんやユキトおねえちゃんと一緒にいたいよ~!」


 リリーが突然泣き出した。なんだか悪いことをした気分になるな。そこでカメリアがお兄ちゃんらしくなだめる。


「こらリリー! 2人を困らせちゃダメだぞ。ソーマにいもユキトねえも、それぞれ帰る場所、やらなきゃいけにことがあるんだから」

「それ俺が言ったことじゃん」

「なんだ、しっかりしたことを言うなぁと思ったらソーマくんの言葉だったのね」

「い、いいじゃん別に!」


 食卓が笑いに包まれる。リリーもいつの間にか笑顔になっていた。


 今夜も楽しげな雰囲気のまま食事が終わる。 さあ残り3日間、気合いを入れて頑張るぞ! そして、迫るところ残り1日となったその日。


 明日この村を出るということで、最後の夜、村人たちで盛大に宴会をした。


 村人全員参加のどんちゃん騒ぎ。その場にいるだけでこちらまで楽しくて踊りだしそうになる。


「ソーマにい」

「おう。どうした?」


 輪から離れ1人涼んでいたところをカメリアに見つかった。


「明日、行っちゃうんだね」

「そうだな」


 隣に腰を下ろし、2人そろって星を眺める。

 都会の空とは違い、星の輝きがしっかりと見てとれる。


「ありがとう、ソーマにい。僕を魔獣から助けてくれて。剣術や算数を教えてくれて。本当に、本当に感謝してる」

「ばっか、ガラにもないこと言ってんじゃねえよ。…こっちこそ、楽しかったよ。ありがとうな」

「なんでソーマにいがお礼を言うの?」

「うるさい恥ずかしいからそこは突っ込むな。お前も時が経てばわかるようになる。それより、言いたいことがあったんだ」


 そこで大きく深呼吸し、カメリアの目を見ながらこう言う。


「カメリア、このまま頑張ればお前は立派な戦士になれる。俺が保証する。自分を信じてこれからも修行しろよ! 自分を信じられなくなって頑張れなくなったときは、俺を信じろ!」


「…うん。うん」


 カメリアは少し涙目になりつつ、それでもしっかりと俺の目を見返しながらうなずいていた。


 よし、言いたいことは言った。いつか再会した時が心の底から楽しみだ。


 宴会が終わって村人たちが寝静まった頃、俺とユキトは最後の仕事をしようとしていた。


 いつもは交代で魔獣狩りをしていたが、明日には帰るため今夜は2人で夜通し魔獣狩りをするのだ。まあほとんど狩り尽くして、新たな魔獣が見つかるかは疑問だが、念には念を入れてだ。


 村をでるとき、俺は言いようのない悪寒に襲われた。


 いつものようにどちらかが村に残っていれば。そもそもこの時、魔獣狩りなんかしようとしなければ。


 あんなことには、ならなかったのに。                                  

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