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穏やかな時間

「母さん!」

「ママ! ママぁ~!」


 2人は、集落の入り口で不安そうに待っていた母親に抱きついて泣きはじめてしまった。


「カメリア、リリー! どこに行ってたの!? 心配したのよ!」

「ごめんなさい…でも、どうしても竜を見つけたくて、それで…」

「最近は魔獣が多くて村の外に出てはいけないと言ったでしょう! でも、無事でよかった…」


 そう言って子どもを抱きしめ、頭をよしよしと撫でている。微笑ましい光景だ。俺はユキトと一緒にうんうんとうなずきながら親子を眺める。

 子どもたちが泣き止んだ頃、母親がこちらの方を怪訝そうに見つめ、子どもたちに話しかける。


「このお2人は?」

「魔獣に襲われそうになったときに助けてくれたんだよ!」

「まあ! それはそれは! 息子と娘を助けていただき、本当にありがとうございました」


 こちらを向き、深々と頭を下げる。


「いえいえ! 間に合ってよかったです」

「そうだ、お礼にちょっと家に寄っていってくださいな。夕ご飯をごちそうしますよ」


 これは願ってもないことだ。ありがたくお言葉に甘えるとしよう。

 村長とも話をし、ケガを治すまでの間、空き家を貸してもらうことになった。村の子どもを助けてくれたお礼だそうだ。


 ご飯については、最初は3食ごちそうしますよ、と言われたがさすがに悪いと断り、結果夕食だけご一緒させてもらうことになった。


 夕飯までにはまだまだ時間があるため、ユキトと一緒に空き家の整理をする。

 元々1人暮らし用の家らしく2人が住むには少々狭いが、短い期間だしティオとの生活で慣れていたため特に不自由は感じなさそうだ。


 案の定、ベッドは1つでした。さて、床で寝ることになるのか、はたまた共有することになるのか。一緒の場合、毎朝スリルを味わえそうだ。


 一通りホコリを払い、家具の移動をするとやることがなくなってしまった。

 散策でもしようと家を出ようとしたその時、カメリアのやつが家に飛び込んできた。


「ソーマにいちゃん! 俺に剣術を教えてくれ!」

「おおっと、いきなりだな。でも、ユキトねえちゃんの方が強いと思うぞ。なあユキト?」

「それはどうだろうな。それに、人に教えることによって自分の中で再確認できるし、得るものは大きい。君が教える方がいいだろう」

「ユキトがそう言うなら仕方ないな。でもまだケガが治ってないから、あと2、3日待ってくれ」


 俺がそう言うとカメリアは不機嫌そうになってぶーぶー喚く。


「えー今からがいーよー。じゃあその間ユキねえに教えてもらう!」


 おうおうさすが子ども。切り替え早いな。


「いや、ソーマと私とでは流派が違うだろうからそれはダメだ」

「そんなぁ」


 あからさまに落ち込んだ顔すんなよな。子どものそういう表情見るの嫌なんだよ。

 俺はポンと手を頭の上にのせ、髪をぐしゃぐしゃっとする。


「ま、実際に打ち合うのはまだ無理だけど、基礎くらいなら教えられるか。よっし、夕飯までみっちりしごいてやるぞ!」

「ほんと!? さっすがソーマにい! 早く行こ行こ!」


 そう言って俺の手をぐいぐい引いてくる。つい数時間前にあんなに怖い思いをしているというのに、もうこんなに元気になっている。子どもってすごいな…。

 村の広場で、木刀を使って練習することにした。他の子どもたちも物珍しそうにわらわらと集まってくる。外見的にはみんなカメリアより年下に見えるな。

 さて、いっちょ手ほどきしてやるか。ティオみたいな教え方にならないよう気を付けながらね。


「えい! やあ!」

「そうそう、振りおろす時は雑巾を絞るように! それと剣は左手で振るんだ! 右手は舵取りをするだけ!」


 指導にも熱が入って来た頃、書物庫で本を読んでいたユキトが様子を見にきた。


「そろそろ休憩したらどうだ?」

「そうだな、俺は少し休憩させてもらうとするか。カメリアはどうする?」

「まだまだやるっ! ソーマにい、休憩なんて言わないでもっと教えてよ~」

「無茶言うなって。これでもケガ人なんだぞ。まあできるだけ早く戻ってくるわ~」

「うん! 早く戻ってきてね!」

「はいよ~」


 そんなに動きはしなかったが、人に何かを教えるのは多少は体力がいるものだ。


「私も読書のしすぎで肩が凝ってな。一緒に休憩しよう。先程家具を整理していたら簡素なティーセットを見つけたから茶でも飲もう」

「お、いいね」


 俺たちは貸し家に戻り、ティーブレイクと洒落込む。

 ユキトが手早くお茶を用意してくれ、木製のテーブルに向かい合って腰掛ける。

 森の中だからか窓から入ってくる空気は美味しくて、木の枝葉がこすれるざわざわという音も相まってとても落ち着く。これぞ休憩時間。


「う~ん。落ち着くなぁ」

「そうだな。私もこんなにリラックスするのは久しぶりだ」

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