夜中の一幕
お互いに突っ込んだ話をし、相手のことが少しわかった反面、ちょっと気まずい空気になったところで、どちらからともなく寝る準備に入る。
まあ寝る準備といっても外套をはおるくらいなんだけどね。
「ソーマ、そろそろ火を消してもいいか?」
「おう。頼む」
明かりが消え、洞穴の中は暗闇に包まれた。
入り口から差し込む月光でお互いの姿が僅かに見える。
眠る直前のこの時間は色々と考えてしまうものだが、疲弊しきった今の状態では考えるだけでもしんどく、やってくる眠気をただ受け入れることにする。
「おやすみ、ユキト。また明日」
「ああ。おやすみ、ソーマ」
奇妙なものだ。初対面の相手と、たった1日でこんな言葉を交わすようになるなんて。
さて、寝るとするか。
願わくば、2時間後くらいに起きれるよう。
「……すぅ、すぅ」
洞穴の中ではユキトの寝息が聞こえるだけ。
外を見れば、まだ夜中だということがわかる。
よかった。無事起きれたようだ。
ユキトを起こさないよう、そーっと洞穴の外に出る。
なぜこんなことをするかというと、確認したいことがあるからだ。
洞穴から離れ、森の中を進む。ダッシュすれば1分もかからず洞穴に戻れるくらいまで。
「お~い、音波~! いるなら返事してくれ~!」
静寂の中で俺の声だけが響く。
1秒。2秒。3秒。どれだけ待っても音波は現れない。
そうだろうとは思っていた。だって、パレードのとき姿を見せなかったから。もしあのとき音波があの場にいたのなら、監視対象のティオや俺と影ながら一緒に戦ってくれたはずだ。
音波の方でも何かしらのアクシデントがあったのだろうか。だとしたら心配だ。あいつは妹みたいなものだから。
おっと、こんなこと言ったらまた「妹じゃない。幼なじみ」とか言われそうだ。
音波は元々こちらの人間だし、戦闘力もティオほどではないにしろ俺よりはるかに上だ。心配されるのはむしろ俺の方だろうが、そんなのは関係ない。幼なじみであり、兄貴分でもあるからな。
俺はあいつと連絡をとる術はない。考えてみたら会いに来るのはいつも音波からで、自分から会いに行ったことはなかった。まあ俺が聞いたところで居場所を教えてくれるとも限らないが。
音波についても、無事を祈るしかない。今ももしかしたらティオの方にいるかもしれないし。
一度起きてしまうと、もう一度寝るのに時間がかかってしまう。こういう時は…。
「リーサ、起きてるか~」
常に腰に装備してある白銀の剣に話しかける。
『もう、なぁに~? 眠いんだけど~』
「まあまあそう言わずに。ちょっとだけ話し相手になってくれよ」
『ソーマぼっちゃんはしょうがない子ね。いいわ、おしゃべりしましょー』
「よっしゃ! じゃあ早速。ユキトについてどう思う?」
『ただ者じゃないわね。得意ではないって言ってた治癒魔法も、骨折を一週間で治すなんて一般兵を凌駕しているわ。細身ながらもつくべきところにしっかり筋肉もついてるし』
「そうか…それでも、グレン皇帝の姿すら見ることができなかったなんて」
『そりゃ1人で革命を成し遂げたんだもの。そんなことできる人間が尋常であるはずがない』
それもそうか。グレン帝国の最も強い兵にも勝ったってことだもんな。いや、それどころかグレン帝国のすべての兵を敵にまわして尚勝利した…改めて考えるととんでもないな。
『それほどの実力者、この大陸に1人いるかいないか…でもあの人ならもしかして…まさかね…』
「何ブツブツ言ってるんだ?」
『なんでもないよ~。そんなことよりさー、ユキちゃんってとんでもなく可愛いわよね~』
「お、おう、そうだな」
突然何を言い出すんだリーサさんよ。
『そんな子と1日で仲良くなるなんて、この色男さんめ! ティオちゃんに告げ口しちゃうぞ?』
「は? いや、そんなんじゃないから! しかも告げ口ってなんだよ!? 別にやましいことなんて…そもそも俺としか話せないだろ!」
『あー気づいちゃったか~。でも、女の子泣かせて、抱き合って、その後慰めるなんてなかなかできないわよ~怖い怖い~』
ぐっ、言わせておけば…! あれ、でも事実だけみれば確かに…?
「ティオにユキトのことを話すときは注意しないとなぁ」
『ありのままを話したら面白いことになると思うんだけどな~』
「それ面白いのリーサだけだから! それに、別にティオと付き合ってるわけじゃないし…」
そうだよ、気にする必要なんてない。けど、なんで俺はティオに告げ口すると言われて焦ったんだろう?
『はぁ、これだから恋愛経験皆無のおこちゃまは』
「それとこれとは関係ないだろ!? もうこの話やめやめ!」
さすが年上。年下を手玉に取るのはお手のものってか。くう、いつかこの年上幽霊をぎゃふんと言わせたい!
『自分から話したいって言ったくせに勝手なんだから。じゃ、私そろそろ寝るから。ソーマも寝なさいよ~。ユキちゃんのすぐ近くでね☆』
そう言ったきり沈黙したリーサさん。なんて捨て台詞を吐いてくんだ。それにしても、いっつもリーサの方から話切られるな。
言われた通り、もう一度寝るとするか。ユキトとは十分距離を取ってね!
俺の寝相が悪いばかりにティオとあんなことがあったわけだけど、せまい洞穴とはいえ距離はあいてるんだ。一緒の寝床にいるわけじゃない。大丈夫。大丈夫、だよね?
いやーなデジャヴに襲われつつ、俺は二度目の眠りに落ちていった。