表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/187

夜中の一幕

 お互いに突っ込んだ話をし、相手のことが少しわかった反面、ちょっと気まずい空気になったところで、どちらからともなく寝る準備に入る。

 まあ寝る準備といっても外套をはおるくらいなんだけどね。


「ソーマ、そろそろ火を消してもいいか?」

「おう。頼む」


 明かりが消え、洞穴の中は暗闇に包まれた。

 入り口から差し込む月光でお互いの姿が僅かに見える。

 眠る直前のこの時間は色々と考えてしまうものだが、疲弊しきった今の状態では考えるだけでもしんどく、やってくる眠気をただ受け入れることにする。


「おやすみ、ユキト。また明日」

「ああ。おやすみ、ソーマ」


 奇妙なものだ。初対面の相手と、たった1日でこんな言葉を交わすようになるなんて。

 さて、寝るとするか。

 願わくば、2時間後くらいに起きれるよう。


「……すぅ、すぅ」


 洞穴の中ではユキトの寝息が聞こえるだけ。

 外を見れば、まだ夜中だということがわかる。

 よかった。無事起きれたようだ。

 ユキトを起こさないよう、そーっと洞穴の外に出る。


 なぜこんなことをするかというと、確認したいことがあるからだ。

 洞穴から離れ、森の中を進む。ダッシュすれば1分もかからず洞穴に戻れるくらいまで。


「お~い、音波おとは~! いるなら返事してくれ~!」


 静寂の中で俺の声だけが響く。

 1秒。2秒。3秒。どれだけ待っても音波は現れない。

 そうだろうとは思っていた。だって、パレードのとき姿を見せなかったから。もしあのとき音波があの場にいたのなら、監視対象のティオや俺と影ながら一緒に戦ってくれたはずだ。


 音波の方でも何かしらのアクシデントがあったのだろうか。だとしたら心配だ。あいつは妹みたいなものだから。

 おっと、こんなこと言ったらまた「妹じゃない。幼なじみ」とか言われそうだ。

 音波は元々こちらの人間だし、戦闘力もティオほどではないにしろ俺よりはるかに上だ。心配されるのはむしろ俺の方だろうが、そんなのは関係ない。幼なじみであり、兄貴分でもあるからな。


 俺はあいつと連絡をとる術はない。考えてみたら会いに来るのはいつも音波からで、自分から会いに行ったことはなかった。まあ俺が聞いたところで居場所を教えてくれるとも限らないが。

 音波についても、無事を祈るしかない。今ももしかしたらティオの方にいるかもしれないし。

 一度起きてしまうと、もう一度寝るのに時間がかかってしまう。こういう時は…。


「リーサ、起きてるか~」


 常に腰に装備してある白銀の剣に話しかける。


『もう、なぁに~? 眠いんだけど~』

「まあまあそう言わずに。ちょっとだけ話し相手になってくれよ」

『ソーマぼっちゃんはしょうがない子ね。いいわ、おしゃべりしましょー』

「よっしゃ! じゃあ早速。ユキトについてどう思う?」

『ただ者じゃないわね。得意ではないって言ってた治癒魔法も、骨折を一週間で治すなんて一般兵を凌駕しているわ。細身ながらもつくべきところにしっかり筋肉もついてるし』

「そうか…それでも、グレン皇帝の姿すら見ることができなかったなんて」

『そりゃ1人で革命を成し遂げたんだもの。そんなことできる人間が尋常であるはずがない』


 それもそうか。グレン帝国の最も強い兵にも勝ったってことだもんな。いや、それどころかグレン帝国のすべての兵を敵にまわして尚勝利した…改めて考えるととんでもないな。


『それほどの実力者、この大陸に1人いるかいないか…でもあの人ならもしかして…まさかね…』

「何ブツブツ言ってるんだ?」

『なんでもないよ~。そんなことよりさー、ユキちゃんってとんでもなく可愛いわよね~』

「お、おう、そうだな」


 突然何を言い出すんだリーサさんよ。


『そんな子と1日で仲良くなるなんて、この色男さんめ! ティオちゃんに告げ口しちゃうぞ?』

「は? いや、そんなんじゃないから! しかも告げ口ってなんだよ!? 別にやましいことなんて…そもそも俺としか話せないだろ!」

『あー気づいちゃったか~。でも、女の子泣かせて、抱き合って、その後慰めるなんてなかなかできないわよ~怖い怖い~』


 ぐっ、言わせておけば…! あれ、でも事実だけみれば確かに…?


「ティオにユキトのことを話すときは注意しないとなぁ」

『ありのままを話したら面白いことになると思うんだけどな~』

「それ面白いのリーサだけだから! それに、別にティオと付き合ってるわけじゃないし…」


 そうだよ、気にする必要なんてない。けど、なんで俺はティオに告げ口すると言われて焦ったんだろう?


『はぁ、これだから恋愛経験皆無のおこちゃまは』

「それとこれとは関係ないだろ!? もうこの話やめやめ!」


 さすが年上。年下を手玉に取るのはお手のものってか。くう、いつかこの年上幽霊をぎゃふんと言わせたい!


『自分から話したいって言ったくせに勝手なんだから。じゃ、私そろそろ寝るから。ソーマも寝なさいよ~。ユキちゃんのすぐ近くでね☆』


 そう言ったきり沈黙したリーサさん。なんて捨て台詞を吐いてくんだ。それにしても、いっつもリーサの方から話切られるな。


 言われた通り、もう一度寝るとするか。ユキトとは十分距離を取ってね!

 俺の寝相が悪いばかりにティオとあんなことがあったわけだけど、せまい洞穴とはいえ距離はあいてるんだ。一緒の寝床にいるわけじゃない。大丈夫。大丈夫、だよね?

 いやーなデジャヴに襲われつつ、俺は二度目の眠りに落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ