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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
1部 蒼
31/187

離別

「……雑魚が、でしゃばんなよ」


 大剣とレイピアを同時に弾き、後方へ飛ぶ。

 俺の魔法は、あっさり避けられてしまった。だが、ほんの少し、時間を稼ぐことができた。

 隊長2人は即座に、後方へ移動したカイルを追い、武器による攻撃を仕掛ける。

 1度目の攻撃、大剣の斬撃を防いだカイルは、すぐ後ろから放たれた2度目の攻撃、突きを回避することができなかった。

 左腕に突き刺さるレイピアを見て、カイルはまた回避行動をとりつつ叫ぶ。


「うあっち~! いったいね~すごく痛いよ~! でも生きてるって感じがして、イイ! イイよ! 俺ちゃんゴミ掃除も好きだけど、強いやつとやりあうのはも~っと好きなんだよね~。……だからさ」


 あいつの声が、急激に近くなる。まるで、目の前から聞こえているかのようなーーーー


「邪魔しないでね、子猫ちゃん」


 次の瞬間、全身に数々の打撃が飛来した。

 腕、胸部、腹、脚部、余すところなく。

 頭の中で、火花が飛び散る。意識を保てていることが、まるで奇跡のようだ。

 衝撃でふきとばされ、民家の壁にぶつかり、ようやく止まる。


「がはっ!」


 マンガみたいに口から血吐いちゃってるよ、俺。

 ああ、いてえ。いてえよ。痛いなんてもんじゃないよ何も考えられないよ。


「子猫ちゃん、キミ、とっても強くなりそうだから、生かしておいてあげるよ。立派なライオンになってね~」


 そんな軽口を叩きながら、平然と2人と戦っている。

 かなうわけがなかったんだ。竜人化した相手に普通の竜契約者が。

 敵のお情けで今、生きていられる。悔しい反面、命が助かって安堵している自分がいる。

 体は、ほとんど動かせない。ただ見ていることしかできない。


「はい、まずは、1人目~」

「ぐあああああ!」


 気の強そうな大剣使いの第一部隊長が、あっけなくやられた。

 てっきり魔獣使役魔法がメインかと思ったが、体術、防御魔法にも秀でているようで、竜人化した2人による物理攻撃、魔法攻撃を難なく弾きながら、鎌で斬りつける。


 第一部隊長は体中斬り傷だらけで、もはや虫の息だ。

 くそ。サポートするどころか、ただのお荷物じゃないか。

 結局、カイルに攻撃を当てることに成功したのはあのレイピアによる一撃のみ。

 今はレイピア使いの第二部隊長と一騎打ちをしている。2人とも防御が堅く、なかなか攻撃が通らない。


「けっこうやるじゃ~ん! もう1人の方はてんでダメだけどお前は見込みあるよ~。だからそっちの子と同じように、生かしておいてあげるね! 強くなったらまた相手してねん」

「くっ、言わせておけば! 貴様だけは許さないぞ! 必ず仇を取る!」

「むりむり。そういうのはもっと強くなってから言ってね」


 第二部隊長の後ろに、黒い影が迫る。


「あ、危ない!」


 俺が気づいて叫んだことで、隊長が一瞬、後ろに気を向ける。そのおかげかどうかはわからないが、致命傷は避けられたようだ。

 刃物を持った霊長類型の魔獣。それが2匹。まだ使える魔獣を隠していたとは。


「は~いよくできました~。惜しかったね~お疲れさま。もう休んでいいよ~」


 そう言って、その魔獣を躊躇なく殺した。

 イカれてる。こんな人間の存在が、許されるのだろうか。


「さってと」

「うっ、ぐっ!」


 傷を負った隊長に追い打ちをかけるように、大鎌の棒状の部分を使って、その手足を折る。


「これでよし。あとは王女ちゃんに群がる虫を駆除して確保するとしますか~」


 3人がかりでも、ほんの少しの足止めしかできなかった。

 ごめん、ティオ。王女様を、妹さんを守れなかった。

 未だ止まぬ痛みに耐えながら、なんとか意識だけは保つようにする。

 案の定、王女の馬車の回りにいた騎士たちは、一瞬で倒されてしまった。


「は、離しなさい、この無礼者!」

「おとなしくしてね~さもないと体のどこか一部分、なくなっちゃうよ?」


 上空で戦っていたあいつの契約竜は、カイルと王女様を乗せて再び飛び上がろうとする。

 あと一撃。不意をついて魔法を当てられれば。

 最後の悪あがきをしようとしたその時、空から蒼色の閃光が降ってきた。


「ソーマ、生きてる!?」

「ああ、なんとか。それより、どうして」

「あいつの竜が降りていったからもしかして、と思って」


 ギルの方は大丈夫なのかと空を見上げると、隊長2人の契約竜が足止めしているようだ。だが、長くは持たないだろう。


「ティオ、隊長が2人とも、やられて、俺も、このザマだ。王女様、妹さんを、守れなかった…」


 俺がぽつりと呟いた瞬間、ティオにぎゅっと抱きしめられる。

 痛いよ。力、強いよ。それに、なんでちょっと泣いてるんだよ。


「よかった、生きていてくれて。ソーマがいなくなったら、私、わたし、は…」


 痛む体を無視して、抱きしめ返す。そして、悪夢にうなされていた時のように、優しく頭をなでる。


「大丈夫、大丈夫。俺は平気だから。それより、諦めるのにはまだ早い。あいつを追うんだ。俺もメイルに乗って一緒に行く」

「無茶よ! こんなひどく傷ついた状態で」


 ティオは俺を鋭い眼差しで睨み、ぴしゃりと言い放つ。そりゃ止めるか。俺も逆の立場だったら確実に止めるだろう。でも、ここで終われない。あと1、2発なら攻撃魔法を使えるはずだ。


「頼む。まだ、戦える。力になりたいんだ」


 俺も、瞳に意志をこめ見つめ返す。

 そんな俺に気圧されたのか、ティオは小さくため息をつき、静かに俺に肩を貸してくれる。


「…わかった。ソーマ、意外と頑固だからどうせ私が言っても聞かないんでしょう?」

「ま、そういうことだ」

「そういうことだ、じゃないでしょ、もう」

「ははは」


 いつものようにティオの後ろに乗り、腰に手を回す。それだけのことで体に激痛が走る。こんなことじゃ魔法を発動させただけで気絶してしまうかもしれない。


「さあ、メイル、あの大きな黒い竜を追って!」

「きゅい~!」


 っ! 普段とは段違いのスピードだ。やっぱり竜人化は契約竜の方も強化されるんだな。

 ギルとカイルとの距離がみるみる縮んでいく。あの2人もまだ竜人化しているはずだから、単純にメイルの飛行速度が速いようだ。


「妹を、クリスを返してもらうわよ!」

「お~いギルっち、元王女ちゃんまだやる気らしいよ? 確保する?」

「ふむ。第二目標のティオ・マテリアも確保できればなお良いが、俺もお前も手負いの状態では厳しいだろう。ここは、追い払うことだけに集中するぞ」

「へーい。ちょっともったいない気もするけど、また今度戦えるって考えれば悪くないか~」


 高速飛行しながらの攻撃魔法の応酬。ティオは2人の攻撃を上手くかわしつつ、どんどん接近していく。ティオとメイルの息の合いようは素晴らしく、移動と魔法発動のタイミングが完全に同期していた。

 これにはあの2人も対応しきれないようで、ついにはカイルと横並びになった。


「やるねぇ~いいねいいねすご~く強い。もしかしたら俺ちゃんよりも強いかも~。そんなに強かったら後ろの荷物、邪魔でしょ?」

「荷物の中身が何かまではわからないだろう?ーー顕現せよ。契約に従い古より君臨する其の偉大なる力を我が元にーー貫け! 銀光閃シルベリオ・アロー!」


 魔法陣から光の矢が顕れ、カイルの元に飛来する。

 あいつも俺とほぼ同時に詠唱を完成させたようで、黒い小さな盾を何枚も重ねて矢を防ごうとする。しかし、俺が放った矢はすべての盾を貫通し、カイルの右腕を吹き飛ばした。


「ぎいいやああああああ! 貴様ぁ! よくも俺ちゃんの腕をおおおお! お母様からもらった大事な大事な体をおおお!」


 良かった。文字通り、一矢報いることができた。

 魔法を発動した反動で気を失いそうになりながら、ティオに声をかける。


「やった、やったよ、ティオ。俺、役に、立てたかな?」

「ええ、よくやったわ! あいつの腕を片方使えなくするなんて。これで大分戦いやすくなる」

「許さないぞお! やっぱりあの時、殺しておけばよかったあああ! 今殺すすぐ殺す! ーー顕現せよ。契約に従い其の力を我が元にーー血塗れの追跡者ブラッディ・チェイサー!」


 赤黒い塊が勢いよく飛び出し、こちらに迫る。

 メイルは上手く避けたが、それは急に進路を変え、急加速して襲ってきた。

 あいつが魔法を放った時、ティオも防御魔法を展開したが、まるで生き物のように動くカイルの攻撃魔法を防ぎきることができず、被弾した。

 その際の強烈な衝撃によって、俺はメイルの背中から、落ちてしまった。


「ソーマああああぁぁぁぁあああああ!」


 ティオの叫び声が聞こえる。それも上空からの落下による風切り音でかき消されてしまう。


 ああ、その音さえ遠のいていく。カイルに与えられたダメージ、その後の魔法の使用によって、体はもう限界をむかえていた。


 薄れゆく意識の中で、俺は何度もティオに謝りながら、ぼやけていく戦場を見つめていた。

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