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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
1部 蒼
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竜人化

 前にティオの魔法講義の時に教わった。印象的だったからよく覚えている。


『いい、ソーマ。あなたもいつか使えるようになるかもしれない。いや、こののままいけばきっと、使える。でもね、ここぞという時しか使ってはダメ』

『リスクが高いとか?』


『そのとおり。竜人化っていうのはね、その名の通り竜になるのよ。なるって言っても、竜魔法によって体の細胞のほんの一部を竜に作り替えるっていうだけなんだけどね』

『いや、だけなんだけどねって、そんなサラッと言えることじゃないだろ。体細胞を作り替えるって……後遺症とか大丈夫なのか?』


『後遺症はもちろんあるわ。でも、発症するのは稀。発症リスクが跳ね上がるのは、さらに上の段階で…それは今はいいか。竜人化した後、丸1日は体をまともに動かせなくて、魔法も使えない。その間に体を元に戻すのよ』

『竜人化を解いた瞬間、無防備になるから解ける前に勝たなきゃいけないってことか。ちなみにその後遺症ってどんなのなんだ?』


『理解が早くて助かるわ。後遺症は、体の中の竜の細胞が元に戻らず、人の細胞となじめなくなった結果、体が崩壊する。まあ死ぬってことね。ごくごく稀だから安心していいわよ』

『おいおい、マジかよ…そこまでのデメリットがあるということは、メリットも大きいんだよな?』


『それはもう! 魔力は一旦、体の中に入ってから魔法を展開するんだけど、体の中に入るときに魔力が小さくなって、外に放出する時、また小さくなるの』

『人の体それ自体が変圧器みたいなものってことか…竜が生成する魔力をそのまま人が扱うのは不可能だと』

『変圧器?』

『いや、こっちの話だ。続けてくれ』


『う、うん。でね、体のほんの少しとはいえ竜になってるから、魔力の運用効率が上がって、普段とは比べものにならないくらい強大な魔法を使えるの。それに爪の強度が上がり、視力も良くなって筋力も増加する』

『元々強いティオが竜人化なんてしたら敵なしだな』

『さあ、どうかしらね』

『俺も竜人化できるかな』

『体を強引に作り替えるから膨大な量の魔力が必要で、それだけの魔力を用意できる竜は少ないんだけど、きっとあなたの契約竜なら…』

  

 デメリットもあるが、それを補って余りあるメリットがある。一時的に、人の域を超えた力を振るうことができる。

 俺は、まだ竜人化には至っていない。騎士たちは竜人化できるのだろうか?


 そちらを伺うと、隊長2人は険しい顔つきをしていて、その他の騎士たちは顔を青くしてガタガタ震えていた。それだけでなんとなくわかってしまった。


 おそらく、こちらの陣営は竜人化できる人間が3人。向こうは2人。一見有利に見えるが、蓋を開けてみなければわからない。ある程度予想はついてるけど…俺も、死ぬ気で戦わないと戦闘についていくことすら困難だろう。一瞬でも気を抜いたら、殺される。

 俺が覚悟を決めたところで、ギルがここにいる全員に声をかけた。全員といっても、無事に立っているのはごく僅かだが。


「では、はじめるとしよう。お互いの目的のために」


 その言葉に対し、ティオは勢いよく答える。その声は力強く、聞くものを怯ませる威圧感があった。


「私はあんたたちを許さない! 町を壊し、関係ない人間を殺し、あまつさえ妹をさらおうだなんて! 生きて帰れると思わないことね」


「ひゅ~さっすが元王女! 言うことが違うねぇ~。でもね、こっちもみすみすやられれわけにはいかないのよ。2人ともステキなステキなグレン帝国へ連れ帰ってあげるから覚悟しとくように!」


 やつは軽薄な態度を崩さず、笑いながら言う。これにはもう隊長も堪忍袋の緒が切れたようだ。


「このグレンの犬め! 王女様は我が命にかけても守りきる! さもないと国王陛下に顔向けなどできぬからな!」

「いいよいいよ俺ちゃん威勢がいい獲物だ~いすき」


 ビキビキと青筋を浮かべる第一部隊長を尻目に、第二部隊長は部下に指示を出している。


「動ける者は王女殿下の側を離れず、防御魔法を展開することにのみ集中。動けないものは竜に騎乗し即時撤退」


 指示を出し終えた第二部隊長は、くるっとこちらに向きなおって歩いてくる。


「ティオ様とお付きの方。どうか、私どもと一緒に戦ってはくれませんか? 王女様を、守るために」


 そう言って、深々と頭を下げる。


「もちろん、言われるまでもないわ。あと私はもう王族ではないから様付けはやめてね。…あの2人、相当の手練れよ。危なくなったら逃げなさい」


 それとね、と呟き、ティオは俺の肩にその綺麗な手を置き、こう言った。


「ソーマはお付きの者じゃなくて、私の相棒よ。そこのところは間違えないでね」

 なんだこれ。嬉しい。嬉しいんだけど、ティオの見合う実力が無くて、申し訳なくなる。

 第二部隊長は少し驚いたような顔をして、


「ティオさん、ソーマさん、勝って生き残りましょう。帰ったらお茶奢りますよ」


 と言ってニッと笑った。


「私はそこらへんのお茶じゃ満足できないから、お高いのを頼むわよ」


 ティオも調子よく答える。ちょっとつっこんでおくか。


「……大衆食堂のコーヒーをおいしいおいしい言って飲んでたのはどこの誰だったかな~」

「ちょっと! カッコつかないじゃない!」

「仲が良いのですね」


 少しだけ空気が緩む。だが、次の瞬間、全員の雰囲気が引き締まる。長く話しすぎてしまった。


「ね~、君たち話長いんだけど~。俺ちゃんもう我慢できないよぉ~」

「ふむ、のんびりおしゃべりとは大した余裕だな。お手並み拝見といこうか。王女様をお連れするついでに楽しませてもらおう」


 カイルの方はあきらかだが、ギルの方も相当の戦闘狂のようだ。余計タチが悪い。

 ギルの言葉の後、あいつらの【竜の爪痕】が不気味に輝きだす。

 それとほぼ同時に、ティオと騎士隊長2人の証も輝きだした。


『我、顕現す。契約を依代とし魔導の礎を我が身に……』


 詠唱が進むにつれ、外見に劇的な変化があらわれる。

 俺は、ティオの変化に目が釘付けになってしまった。あまりに神々しくて、神秘的で、そして、美しくて。


 黄金色に輝く髪は、空のような蒼色に。


 深い翠色の瞳は、海を思わせる蒼色に。


『……竜人化』


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