ツンデレ金髪ツインテールは最強
やっと気持ちが落ち着いたころには、もうすっかり日が暮れていた。
宿に戻った俺は、ティオに疲れたから休むとだけ告げ、少しだけ寝た。疲れていたのは実際そうで、1日の使用魔法上限数は5回に増えたから魔法使用による疲れはあまりないのだが、実戦は訓練とは違った。こんなにも精神的に削られるとは。
コンコン、と控えめなノックが聞こえた。
「ソーマ、起きてる?」
「ああ、今さっき起きたよ」
「じゃあ、たまにはあのお店で食べない?」
「あのグラタンがおいしかったお店か! 行く行く」
「決まりね。戦勝祝いでどーんといきましょ!」
そうか、勝ったんだ、俺たち。
近隣の村に被害を出さずに、すんだんだ。
そう考えると、少し誇らしい。
店に移動した俺たちは次々に注文し、食べて食べて食べまくった。
お腹がひと段落したところで、デザートを食べつつティオと話す。
「どうして魔獣があんなにいたんだろうな」
「私にもわからないわ。こんな異常なこと、今までになかったし……何かが起ころうとしてるのかも」
「大災害とか?」
「そうね、それもあるかもしれない。どちらにせよこれからは国境近くには近づかないようにしましょう」
「残念だな…」
「しょうがないわよ。今回の件を竜騎士隊に報告すれば警備も強化されるだろうし、どうせ立ち入り禁止になっちゃうから」
早く原因がわかってほしいな。あそこは思い入れが強いから。
「それより、ソーマ、今日はごめんね。私があの時強引にでもメイルに乗せていれば、あんたが戦う必要はなかったのに」
「いや、俺が頼んだことだから。力を試したかったんだ。そんな軽い気持ちで臨むべきじゃなかったのかもしれない」
「どんな心構えにしろ、経験を積むことは良いことよ。でも、ソーマにはまだ少し早かった。ふつう竜騎士になって戦闘を行うにはもっと時間をかけなきゃいけないんだけど…特訓すると言ったのは私だけど、それは最低限自分の命を守れるようにするためで」
「いや、俺はティオの力になりたいんだ。お荷物の相棒なんて情けないのは嫌だ。もっと、もっと強くなるから。明日からまた特訓してくれよな!」
「それはいいけど、明日は休みにした方がいいんじゃ」
「いや、明日からがいい。生誕祭まで残り3日しかないからな」
「わかったわ。くれぐれも無理しないでね。キツかったらちゃんと言うのよ。私、訓練だと手が抜けないから」
ティオは申し訳なさそうにそう言った。これ以上心配をかけるわけにはいかないな。
「いや、それはむしろありがたいよ。明日もよろしくな」
「うん、さすが私の相棒ね。さ、残りのデザートも食べましょ」
「おう!」
そうだ、シンプルに考えれば簡単なことだ。俺はティオの力になりたい。強がりで、どこか寂しげで、今まで1人で旅をしてきたこいつの力に。
もっと、精神的にも強くなって。必ずティオの兄を見つけだし、気持ちよく元の世界に戻るんだ。
宿に再び戻り、寝る準備をする。今日はティオが先にシャワーを使うため、待っている間、今夜音波に聞くことを整理する。
元の世界に戻る方法。音波の所属する組織とは何か。音波の存在をティオに教えないのはなぜか。
聞くことは沢山あるけど、教えてくれるとは限らないだろうな。やっぱり自分でも情報を集めなきゃな。今はティオの目的を優先するから、そっちはゆっくりでもいいか。
「ソーマ、もう使ってもいいわよ」
「へーい」
シャワーを浴びて部屋に戻ると、そこにはツインテールがいた。
「テ、ティオさん? その髪型はどうなさったんですか?」
「なんで敬語になってるのよ…これには特に意味はないけど。気まぐれでやってるだけ」
普段は背中に流しているその美しい金髪が、今はサイドで2つに結わえられている。
「ティオ、お願いがある。今から俺が言うセリフに続いて同じことを言ってくれ」
「どうしたの、そんな真剣な顔をして。それくらいならいいけど」
「よし。いくぞ。『べ、別にアンタのことなんてこれっぽちも好きじゃないんだからねっ!』」
やっぱりツインテールといえばこれが鉄板でしょ! 自分でも暴走気味なのはわかってるけど止められません。
「? 変なセリフね。わざわざ好きじゃないって言うなんて。えーと、べ、別にアンタのことなんてこれっぽっちも好きじゃないんだからね」
「ダメ、ぜんっぜんなってない。もっとこう、腰に手を当てて、指を突きつけて、怒ってるような、照れているような、そんな表情で!」
「なんで私怒られてるのよ…けっこう注文難しいし」
「そこをなんとか! お願いします!」
俺の気迫に押されたのか、ティオは黙ってうなずいた。そしてポーズをきめて、あのセリフを言ってくれた。
「べ、別にアンタのことなんてこれっぽっちも好きじゃないんだからねっ!」
「ありがとう、ありがとう」
「泣くほど!?」
最初にツンデレ金髪ツインテールというキャラを生み出してくれた人ありがとう。ティオ、ありがとう。俺を生んでくれた父さん母さんありがとう。神様ありがとう。
「よし、次は『べ、別にアンタのために作ってきたわけじゃないんだからねっ! 朝作りすぎちゃっただけなんだから勘違いしないでよねっ!』
「まだやるの!? しかも長いし!」
あれから一通りツンデレを再現してもらった後、ティオは妙に疲れた様子で眠りについた。本当ごめん。ごめん。でも最高だった。今度お礼しなきゃな。
ティオがぐっすり寝ているのを確認してから中庭へ行く。
いつものように剣を振っていると、後ろから肩をつつかれた。あれ、いつもは背中に飛びついてくるのに、今日はどうしたんだ、音波のやつ。
後ろを振り返ると、そこにはツインテールがいた。
ティオのものより長い茶色の髪が左右で揺れている。
「おう、音波。今日はありがとうな、助けてくれて。感謝してる」
「その前に何か言うことはないの?」
「?」
「素でわからないって顔しないで。本当にわからないの?」
「もしかしてその髪型のことか? まあいいんじゃないか?」
「彼女のときと反応が違う。説明を求める」
いつの間にか後ろに回っていた音波に短刀を突きつけられる。
「いや、小さい頃からちょくちょくその髪型してるし、ありがたみとか特にないからなぁ」
「そ、そんな、幼なじみ属性が裏目にでるなんて…」
「あ、もしかしてティオとのやりとり見てたのか?」
「そんなことはない。偶然。たまたま。神様のいたずら」
いや。絶対ウソだろ。今度からはちゃんと窓閉めておかないと。
「それより、さっきも言ったけど、魔獣にやられそうになった時、助けてくれてありがとうな」
「私がソーマを助けることは当然のこと。でも、ご褒美はほしい」
「おう、いいぞ。何でも言ってくれ」
音波が助けてくれなかったら、本当に死んでいたかもしれない。ちゃんとお礼をしなきゃばちがあたるってもんだ。
「じゃあ、5分間抱きしめて」
「それくらいならいくらでも」
早速抱きしめてやる。相変わらずちっさいなあこいつ。
でも、人の温もりって、なんか落ち着くな。これは俺にとってもご褒美かもしれない。
「……充電完了。ソーマ、ありがとう」
「充電ってなんだ。どういたしまして」
「ドキドキした?」
「いや、全く」
「むぅ」
嬉しそうな顔から一転、ふくれっ面に。かわいいやつだ。さすが我が妹。
「だから! 妹じゃなくて幼なじみだって!」
脳内読まれた上に怒られた。昔からカンが鋭かったからなぁ。ウソをつくとすぐバレる。
「オサナナジミ。オトハハオサナナジミ」
「心がこもってない」
「まあそれはいいとして、音波には色々と聞きたいことがあるんだ」