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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
1部 蒼
21/187

初陣と、試練

「ティオ、どうする!?」

「近隣の村に被害をだすわけにはいかない! ここで迎撃するわ!」


 既にティオはメイルの背にまたがって戦闘の準備をしている。


「俺も手伝う!」

「実戦にはまだ早いわ!」

「やってみなけりゃわからないだろ!」

「もうっ! 危なくなったらすぐ助けに行くから無理だけはしないで!」

「おう!」

「空の魔獣は私とメイルがやるから、ソーマは地上の敵をお願い!」

「わかった!」


 ティオはそれを聞くやいなや空へ飛び立った。

 あの時とは違う。今度こそ、力になれる。

 黒い点は次第に大きくなり、その姿を確認できるようになった。

 それは、見たことのない生物だった。ベースは狼だろう。だが、頭が2つある。


「顕現せよーー」


 距離は大分離れているが、詠唱に入る。この距離ならギリギリ届くはず。


「ーー其の偉大なる力を我が元にーー銀光のプラータ・ウェイブ!」


 この一週間で見慣れてしまった魔法陣から魔法が放たれる。


 地を走る銀色の光。


 有り体に言えばただの衝撃波だが、特筆するはその速さ。

 距離にすると200mくらいだろうか。それだけ離れているにも関わらず、狼の魔獣の先頭集団を残らずなぎ払う。


 達成感に浸る間もなく後続集団が迫ってくる。

 次の魔法発動までにはかなり接近されてしまうだろう。それなら。

 次の魔法を使うべく詠唱に入ろうとしたが、目の前に落ちてきた物体に驚き中断する。


 それは、大型のカラスの死骸だった。

 空を見上げると、雲1つない晴れ模様だったそこに嵐が発生していた。


「いや、違うな」


 そう見間違えるほど魔法がすさまじかっただけだ。台風の目、つまりティオを中心に強風、竜巻、風の刃が発生しており、戦闘開始から10分とたたず空の魔獣は半数ほど減っていた。残りは結界系の魔法を使用しなんとか生き残ってはいるが、時間の問題だろう。


 よくよくあたりを見回すと息絶えた空の魔獣がそこかしこに転がっている。ばらばらに引き裂かれ無惨な姿になって。

 あっちはなんの心配もなさそうだな。問題は俺か。

 少しよそ見しただけで大分距離を詰められた。さらに、急に吠えだしたと思ったら、顔の前に魔法陣を出現させている。魔法攻撃をするつもりらしい。


 俺の詠唱が完了する一歩手前で、魔獣から火の玉が複数放たれた。

 このくらいの魔法なら捌ける。ティオの魔法に比べたら全然怖くない。


「ーー白銀のノグレー・アルミュール


 瞬間、加速。

 火球が1、2発かすったが、銀のオーラが弾きダメージはない。

 魔宝剣を使い、1頭目、2頭目、3頭目と斬り伏せる。ティオに教わった剣術と魔宝剣の切れ味のおかげで、それぞれ1撃で倒すことができた。


「いける、いけるぞ」


 特訓は無駄じゃなかったんだ。少なくとも魔獣に対しては通用する。

 強化魔法、攻撃魔法、防御魔法を試しながら、狼の魔獣を全滅させることに成功した。


 ティオもあと少しで終わりそうだ。どうやら空の魔獣の方が多かったらしい。

 攻撃魔法で援護しようとも思ったが、はじめての実戦による疲労と、余計なことをしてかえってティオの邪魔をしてはいけないと思い見守ることにした。


 緊張の糸が切れ、体はすっかり弛緩している。

 初陣にしては上出来なのではないか?

 やればできるじゃないか。これからもきっとティオの役に立てる。


 そう、こういうときにこそ油断してはならなかったのだ。戦場で気をぬくことは命取りだと教わっていたのに。


 鈍った神経がとらえたのは、微かな音と地面の僅かな隆起。

 ぼーっとした頭には、なんだろう? という疑問の言葉しか浮かばず、具体的な行動までは指示しなかった。


 間抜けな自分の前に突如として現れたのは、鉄のような爪を生やした4本の腕を持つモグラ型の魔獣。反応などできるはずもなかった。


 あ、俺、死ぬんだ。


 よぎったのは、そんな陳腐な言葉。

 動けず、ただ硬直しているだけの俺に、魔獣が襲いかかろうとしたその時。


「ーー顕現せよ。契約に従い其の力を我が元にーー朧月ネーベル・ムーン


 抑揚の少ない声。けれど妙に安心する声。

 詠唱とともに5本のクナイのようなものが飛来する。闇色のそれは魔獣に突き刺さり、体中を蝕んで、あっと言う間に消滅させた。

 今だ死の恐怖による硬直から解けない俺に、音波がささやいた。


「危ないところだった。油断は禁物。ここでは死につながる」

「音波、か。た、助かった、よ。あ、ありが、とう」


 なんとか言葉を絞り出す。お礼を言うだけで精一杯だった。


「大丈夫。戦いに慣れれば魔獣なんてソーマの敵じゃない。それだけの力は既についてる」


「そうなの、か。だよな、油断さえしなければ大丈夫だよな」


 半ば自分に言い聞かせながら答える。そうだ、最初の方は上手くいってたじゃないか。何も恐れることはない。

 それなのに、死を覚悟したあの瞬間が、頭から離れない。

 最初にこの世界に来て襲われたときの比じゃない、文字通りすぐ目の前に迫ってきた、恐怖。

 後ろからギュッと音波に抱きしめられる。たったそれだけで、少し落ち着いた。


「そろそろ彼女が来る。今日の夜、また会いに行くから」


 そう言い残し、背中の温もりは消えていった。向こうの世界では世話するばかりだったのに、こっちの世界では助けられてばかりだ。お礼に夜食を作っておこう。


「ソーマ、大丈夫!? 怪我とかしてない!?」


 空にいた魔獣をすべて倒したティオがこちらに急ぎ足で駆けてくる。


「大丈夫だよ、どこも怪我してない」

「そう、なら良かった…」


 心配そうなティオに力無く答える。

 メイルの背に乗って帰る途中、俺は相槌を打つことしかできなかった。


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