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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
1部 蒼
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覚悟

「いや。今夜はここで寝る」

「むちゃくちゃ言ってんな」

「むちゃじゃない。十分可能」

「無理だって! 早く降りないと怒るぞ」

「ソーマは怒ってもあまり怖くない」

「ならもうご飯つくってやらないしマッサージもしないぞ?」

「それは非常に困る。降りる」

「よしよし、さすが我が妹」

「妹じゃない、幼なじみ。ここ大切」

「わかったわかったごめんごめん」

「わかればいい」


 ひょいっと降りて隣に腰掛ける音波。俺も同様に腰を下ろす。


「まさか今日会いに来るとは思わなかったぞ」

「聞きたいこと、沢山あるかなって思ったから」


 さすが付き合いが長いだけのことはある。確かに聞きたいことは沢山あるけど、今欲しいものは、疑問に対する答えではない。強いて言えばアドバイス、だろうか。

 月を眺めながら、音波に問う。


「なあ、音波。音波は、こっちの世界で人を殺めたことはあるか?」


 付き合いが長いからこそできる問いかけ。こんなこと本当に親しくなければできない質問。いや、いくら親しくても踏み込んではならない領域なのかもしれない。


 でも、どうしても聞きたかった。こっちの世界の先輩に。覚悟を、決めるために。


「まだ、ない。けど、その時が来たらためらいなく、やる。そのための訓練も受けている」

「そうか…強いんだな、音波は」

「強いとか強くないとかじゃない。生きるため。殺さなければ、自分が殺される」

「そう、だよな。でも、その時が来ても、俺はためらいなくできるかどうかわからないよ」

「ソーマ、良い方法が1つだけある。それは、圧倒的に強くなること。強さがあれば相手の戦意を奪うこと、手加減して戦闘不能に追い込むこともできる」

「強く、か…。音波、俺、強くなるよ。強くなって強くなって、ティオも自分自身も守ってみせる。もちろん音波に危険が迫ったときも助ける。人殺しなんかさせるもんか」


 隣に座っている音波の目をしっかり見つめて、そう告げる。

 音波は驚いたような顔をした後、ぽーっとした目になって、それからおだやかな表情になった。人間、短時間でここまで表情を変えられるとは驚きだ。


「ソーマならきっと強くなれる。希望とかじゃなくて確実に。国内でも指折りの実力者である彼女に教わり、強力な竜と契約し、なにより優しい心を持っているソーマなら」

「音波のお墨付きがあれば安心だ。あと優しいとか照れるからやめろ」

「事実。私はそんなソーマが好き。さっきの発言で惚れ直した」

「何をマセたことを言ってるんだ。そういうのは5年後くらいに本当に好きになった人に言いなさい。お兄ちゃんはいつまでも見守ってるよ」

「待って、ソーマのことは昔から好きだしそもそも妹じゃなくて」

「はいはい、幼なじみ幼なじみ」

「むぅ」


 はは、ふくれっ面もかわいいな。

 俺は情けなくも、妹みたいな音波にあんな質問をして甘えてしまった。今度、音波が甘えてきたら存分に甘えさせてやろう。


「ありがとな、音波。おかげで覚悟を決められたよ」

「どういたしまして。助けになれたのなら、良かった」

「おう。今夜はもう寝ることにするから、次の機会に色々話してくれよな」

「うん。また会いにくる。特訓で疲れてるだろうし、早く寝た方がいい」

「そうだな。ティオも俺がいないとぐっすり眠れないだろうし、宿に戻るよ」

「俺がいないと? もしかしてソーマ、彼女と一緒に」


 音波の目がどんどん鋭くなっていく。獲物を狙うそれのようだ。

 やばい、今のは失言だった。めんどくさいことになりそうだからとっとと退散するか。


「あ、いや、違うんだ、そういう意味じゃなくて…と、とにかく、おやすみ! 良い夢見るんだぞ!」

「嘘。浮気は許さない、絶対に」


 怖い怖い怖い。怖いよ音波さん。

 宿までダッシュで戻ったが、追ってくる気配はなかった。今夜は勘弁してくれたのかな。


 ありがとうな。

 もう一度、心の中でつぶやき、俺は疲れた体を癒すべくベッドに潜り込んだ。 ティオを起こさないように、そーっと。

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