対談
「今の俺の目は主と直につながっていてな。目を開くとお前が捕捉されるゆえ、失神したという設定でこうしているのだ」
「あーね。監視カメラを塞いでる感じか。向こうに不調で電源が落ちてるって勘違いさせると」
「その例えは分からんがおそらくそうだ」
「って、もしかしてギル、俺を逃がそうとしてくれてる?」
「さあな。俺は今ただ気絶しているだけ。あと一〇分くらいしたら起き上がり、見回りを再開せねばならん。場合によっては入り込んだネズミを駆除することになるだろう」
本当にこの男は何がしたいんだ。さっぱり分からない。分からないし、敵だし、本来だったらここで殺し合いが発生するんだろうけど。
俺も地べたにどっかりと腰を下ろした。
「つまり一〇分弱はお前と話せるってことだな」
「何のつもりだ、少年」
「それはこっちのセリフだ。何のつもりなんだ。ギル、お前は味方なのか敵なのか」
「明確に敵だ」
「ならなんで俺を見逃そうとする?」
「気まぐれだよ。退屈していたから」
「聞いたよ。お前の妹、ミーアから。濡れ衣を着せられて追放されたって」
ギルが拳を握りこむ。しかしすぐに解いた。
「過去の話だ。今更話すことなど何も無い」
「俺さ、空気読めないから言っちゃうけど、最期の瞬間、ギル言ったよな。騎士を目指していた頃を思い出したって。だからあの時ティオを人質にとらず正々堂々俺と一対一で勝負した。グレン帝国に恨み以外の感情を抱いてるんじゃないのか? だとしたらなぜ敵対する?」
再び拳を握りこんだギルが、その拳をダン! と地に打ち付ける。
「言っただろう。話すことなど何も無いと」
「弟や妹が心配じゃないのか?」
「あやつらはもう大人だ。心配する必要も義理もない」
「そうか? アルやミーアはまだまだ脆い部分あるぞ」
「知ったことか。なら少年、貴様が面倒を見ればよいではないか」
「え? 俺今二人のお兄ちゃんから直々に託された?」
「ふざけるのもいい加減にしろ」
「ふざけてるのはそっちじゃんか。ギルの行動、言動はちぐはぐだ。矛盾だらけだ」
「人間そんなものだろう」
「……何かいきなり深いこと言い始めたんだけど。確かにそうかも。でもそういう域を超えてるような気がするんだよなぁ」
「分かっただろう。これ以上俺と話しても何も得られんぞ。とっとと帰ったらどうだ」
「得られたよ。ギルと楽しくおしゃべりをしたかけがえのない時間を」
「本気で言ってるとしたら相当イカれてるな」
「半分以上本気なんだけど」
くそ。ギルのやつ、ちっとも笑いやしねぇ。心を開いてもらって情報得ようと思ったのに。