1日目
ステルス魔法の切れ目に森の中に入って身を隠し、俺の中の魔法回路が回復したところでまだ発動。それを繰り返す。竜人化していないと長時間竜魔法を使い続けられない。
マテリア王国近郊に辿り着いたのは夕方あたり。
「ここで仮眠とって夜中に潜入か」
「そう。夜中は警備が薄くなりがち。それを利用してなるべく奥深くまで入り込み情報を得る。それで朝は庶民になりすまして市井から情報を得る」
「庶民に紛れるの、上手くできる気がしないな……」
「堂々とすること。それだけ。怪しい挙動はすぐ嗅ぎつけられる。普通に生活すればいい。情報集めも、自分はただの噂好きな人間って思い込めば大丈夫」
「まあ音波が近くにいれば何とかなるか」
昔から付き合いのあるやつが近くにいると自然に振る舞えるような気がする。夜霧からのサポート人員が音波で本当に助かった。そうじゃなかったら成功率今の半分以下になりそう。
「そうそう。恋人の振りとかすればさらに違和感が無くなる」
「違和感しかないわ挙動不審になって即お縄だわ。いつもの俺たちでいくぞ」
「うー」
そんな恨めしそうな目で見られても。
打合せ兼茶番はここまで。野宿の準備だ。
森の中での野宿シーンは割愛させてもらう。特に何も起こらなかったから。懲りずに音波が俺の寝床に忍び込もうとしてきただけだから。
ってか野宿でこんなに安らかに眠れたのははじめてかもしれない。俺がラッキースケベを起こす側じゃなくて起こされる側だから。起きたとき問答無用で吹き飛ばされない安心感よ。
「じゃあシルバ、シン、待機よろしくな」
『分かった。呼ばれたらすぐ行く』
「頼む。最悪シルバと共闘、または逃走するから」
『うむ』
竜たちに見つからないギリギリの位置で待機していてもらう。この距離ならほぼ一〇〇%に近い魔力供給を受けられる。
「じゃあそろそろ行こうか、音波」
「ん。夜霧が侵入に成功した部分までは案内できる。そこから先は未知数。話によると黒霧の濃度が王城に近づくにつれ濃くなるそう。その場合、ソーマの魔法に頼ることになる」
「シルバ、再生の銀光って他人にもかけられるよな?」
『可能だが持続時間が短い。一人だけにかけるのならば、そうだな、一〇分といったところか』
「音波、他人にかける場合だと一〇分しかもたないらしい」
「往復することを考えると実質五分。深部、すなわち王城にはほぼソーマ一人での行動になる」
「だよな。やるしかないか」
「最後はソーマに頼るしかない。くれぐれも無茶しないで」
「分かってらぁ」
俺と音波はステルス魔法を自身にかけ、姿を消す。
一日目はまず潜入。辺境の村から回る。王都から遠いほど得られる情報は少なくなるからそこまで期待はしていない。
音波に導かれるまま検閲を突破。
マテリア王国に足を踏み入れた。
パット見では以前のまま。何も変わっているようには見えない。
朝になったら行動開始だ。王都から旅行に来た、という体で聞き込みを行う。ある程度聞き込みを行ったら次の村、そして町へ。