待ってろマテリア王国
「ソーマ、起きて」
「んう」
「起きないとキスする」
「ちょおおおおい! おま、本当にキスしようとしただろ今!」
目を開けたら無表情でマウストゥマウスしようとしてきていた音波と目が合った。ホラーだよこれ。
「ソーマがまだ寝そうな雰囲気出してくるのが悪い」
「にしてもキスはダメだろキスは」
「あくまでソーマを起こすという目的のため。実際にはしない。音波ウソつかない」
「絶対他意あったし俺が起きなかったら確実にしてたんだよなぁ」
「して欲しいの?」
「お前は文脈から何を読み取ったんだ。しないわ。妹同然だぞ」
「妹じゃない。幼なじみ」
「そうだな。音波、お前は俺の大事な幼なじみだ。これから危険な敵地に連れていくのを心苦しく思ってる。昨日もこういう話したけど改めて。死ぬなよ。俺は一人で大丈夫だから逃げるべきときは死ぬ気で逃げろ。いいな」
ちょうど近くにいたから、両手で肩をつかんで、目を真っすぐ見てそう言い聞かせる。
隠密行動に特化している夜霧、その幹部の音波は俺より逃げ足が速い。こと『逃げること』においては俺より音波の方が上。つまり逃げなければならない状況に陥ったとき、足手まといは俺なのだ。
「はぁ。またソーマの悪癖、急に真面目になるが来た。何度も確認しなくていい。心得てる」
「その変わらない態度を見て安心した。んじゃ行くとしますか!」
ベッドから跳ね起き、風呂場へ駆け込んで熱いシャワーを浴び、着替える。音波がのぞきに来る隙など与えないように速攻で。
俺が着替えている間に音波は全ての準備を終えていた。俺も荷物を持ち、窓を開ける。
「先に音波から」
「了解」
音波はステルス魔法をかけ、姿を消した。
きっと窓の外で同じく姿を消していた音波の契約竜、シンに飛び乗り、第一集合ポイントへ向かったはず。
『シルバ。来てくれ』
『もういる。我がキャッチするから主は真下へ降りてくれ』
『おっけー』
何もない空間に落ちるのは怖いけど、あれだけ図体のデカいシルバが控えてるなら安心だ。変な位置に落ちても身体のどこかしらには引っ掛かりそう。
意を決して窓から身を放る。
バイーンと身体が跳ねた。なるほど。翼膜でキャッチしに来たか。トランポリンみたいで楽しいかも。
『主よ。後でいくらでも我の翼貸すから今は背中の方へ移ってくれないだろうか』
『悪い悪い。楽しくてつい』
翼を伝って背中へ。
俺の姿勢が安定したのを察して、シルバは滑らかに飛行。
窓から姿を消して出たのは、誰一人として俺の行先に気付かせないため。方角すらも。
遠くなっていくグレン王国王城を見つめる。
再び戦争させてなるものか。ユキトやアル、ミーアが戦争のために準備したこと、全部無駄なものにしてやるもんね。
心の中で彼ら彼女らにそう言いながら、前を向く。
待ってろマテリア王国。