ティオのためなら
「んぅ、今さっき起きたとこ~」
「入ってもいいか?」
「ん~」
入室すると、パジャマ姿であくびをしていたティオと目が合う。
「この時間、ユキトの手伝いじゃなかったっけ?」
「眠気がすごくて休憩させてもらってた。一時間後復帰予定」
「ここのところずっと眠そうにしてたけど大丈夫か?」
「うん。多分、疲れが溜まってるんだと思う」
そうだよな。記憶を失ってるから新しく覚えることの連続だろうし。
「ティオはグレン王国にとって大事な大事な人質だからな。身体を労わらないと」
「それで、話って? わざわざ部屋まで来るってことは相当大事な話なんだよね?」
「そうだ。部屋に鍵かけさせてまうけどいいか?」
「ヘンなことしないなら」
「しないわ! ……音波、遮断魔法頼む」
「?」
「気にすんな。じゃあ時間もないし早速本題に入らせてもらう」
「座ったら?」
ティオが身体を起こし、ベッドに腰かけ、手でポンポンと隣に座るよう促してくる。い、いいんすか自分!? そこに座っちゃって!?
「失礼します」
「なんでそんな神妙なの?」
「女の子にベッドに呼ばれましたので」
「……吹っ飛ばされたい?」
詠唱をはじめそうなティオの口を咄嗟に塞ぐ。
「すいませんでした。真面目モードでいくわ」
「そうして」
このやりとりをティオとやらないと落ち着かないクセ直したい。
「んで、話なんだけど。俺さ、単身でマテリア王国に潜入して、親玉ぶっ倒してマテリア王国とグレン王国の戦争を防ごうと思っててさ。明日旅立つ予定」
音波と一緒に行くことは伏せておく。夜霧についての情報は外に漏らさない方がいいから。
「私は連れてってくれないんだね」
ふれくされてぷいっと横を向く。
俺を止めるわけじゃなく、自分を連れて行かないことに対して怒った。
ティオは記憶を失っていてもティオなんだ。言葉一つでそう実感する。
「ティオが今一番マテリア王国に行っちゃいけない人間だって、自分で分かってるんだろ?」
「分かってるから嫌なんだよ。どうしようもない。何も出来ない。力になれない」
「元々誰の力の借りるつもりも無かったし、いいんだよ。むしろティオが待ってくれていると思うと頑張れる」
「記憶を失う前の私ってさ、きっと助けを待つお姫様じゃなくて、勇者と一緒に戦う仲間、って感じだったよね」
「驚いた。その通りだ」
「記憶ないはずなのにうずうずしてるもん。着いていきたくて、でも出来なくて悔しいもん」
握りこんだ拳が震えている。
「俺がティオの記憶喪失の原因を突き止める。それがきっと向こうの親玉につながっている。戦争を止めることと連動してる。ちょっくらティオとグレン王国、救ってくるわ」
強がってそう言ってみる。言霊の力にすがりたい。
「……うん。お願いね。行ってらっしゃい!」
俺の背中をバーン! と強めに叩いてくる。これもまたティオっぽい。
「行ってきます」
文字通り背中を押された。
不安が吹き飛ぶ。ティオのためならいくらだって頑張れるんだな、俺って。