有休休暇
全部隊との演習を終え、昼休み。
俺はシルバの上で大の字になって寝ころび、ティオにお昼ご飯のサンドイッチを口に運んでもらっていた。
「う、動けん。ハードすぎる。こんなのが毎日続くとか死ぬ。死んじゃう」
「激しかったね。王城にいても竜魔法がぶつかる音が聞こえてきたから相当規模が大きい演習だったんだろうなって」
「やつら一切容赦しないからな。連携取りながら、数人は絶え間なく小威力かつ連射性のある竜魔法を放ってきて俺の気を逸らして、残りの数人が高威力の竜魔法をどっかんどっかん放ってきやがる」
「カエデだったら対処できるんでしょ?」
「ギリギリ。竜人化使ってないとぶっちゃけ俺と部隊長クラスの人間、そんなに差がないんだよ」
「そうなんだ。じゃあこんなに疲れてるのも納得だね」
「午後に剣術訓練控えてると思うと吐きそうになる。あの戦闘狂どものことだ。嬉々として訓練に臨んでくるはず。実演しろしろと迫られて結局全部隊と手合わせすることになるんだ。目に見えてる。今日は座学やろうと思ってるけど何人が聞いてくれるかどうか。実戦に勝る経験無しっつっていきなり剣抜いてこなきゃいいけど」
「私もその光景、想像できる……」
労わるような声音が胸に沁みるわ。俺の傍らで女の子座りしてご飯を食べさせてくれているティオ。ああ癒されるんじゃあ。
「おいカエデ。いつまでそうしているつもりだ。もう三〇分も経ったぞ。貴様に与えた休憩時間は五分のはずだ」
戦闘着姿のアルが現れる。割と訓練地区から離れてたんだけどもう見つけに来たのか。
「それ本気で言ってたの!? 五分は流石に冗談だと思ってたんだけど! 五分で身体休められるわけねぇだろ!」
「いや? グレン兵なら余裕だが?」
もう人間じゃないよグレン兵。体力オバケだよ。まあ生まれたときから剣を握ってるような民族だからあり得るっちゃあり得るか。
「俺はグレン兵じゃないからねその点理解してね」
「だが今はグレン兵同然だ。さあ来い!」
強化魔法を使っていたのか、ひとっ飛びで俺のところまで来て首根っこをつかんでくる。
「いやだぁ! 日本じゃ八時間以上労働させるときは一時間休憩とらせなきゃいけないんだぞ!」
「日本? なんだそれは。ともかく行くぞ。兵たちが首を長くして貴様を待ってるんだ」
「嬉しくねぇ! ティオ! 助けてくれティオ!」
ティオは苦笑いで頑張ってね~と言いながら手を振る。止められないのを分かっているのだろう。うん俺も分かってる。
そうして俺は出荷された。予想通り血気盛んなグレン兵たちにもみくちゃにされ、何とか訓練の時間を乗り切り、マジでもう無理と寝ようとしたところでアルとミーアにがっちり肩を組まれて飲み会の会場に連行された。
充実してるなぁ。その代わり俺の体力はゼロどころかマイナス突入したけど。翌日身体動かなくてやむなく午後から訓練参加になったけど。
「と、そんな日々をここまで繰り返してきたわけですよ。俺めっちゃ頑張ったよ。だから有休休暇とってもいいよね?」
「なんだその有休というのは?」
王城執務室にて。ユキトは頭の上に疑問符を浮かべた。有休休暇の概念がないとかガチでブラック企業じゃないか。
「つまり休みが欲しいってこと。明日から一週間」