対伝説竜訓練
辞令が出た翌日。
「ティオはユキトの秘書として働くんだよな」
「うん。書類仕事が山のように溜まってるんだって」
「ユキトは学者肌で好奇心旺盛、本がいつもそこらへんに乱雑に置かれてた記憶が。明らかに片付けとか書類系の仕事苦手そうだから納得だわ」
「へぇ。ユキトさんのことよく知ってるんだね」
瞬時に氷のような冷た~い目になる。だからなんで音波もティオも俺とユキトの関係疑うんだよ!? 本人たちにその気は全く無いってのに。
「それなりに付き合い長いからな。じゃあ頑張ってこいよ~」
「私も身体動かす仕事したかったな……」
「剣術指南、戦闘訓練ならティオもできそうだけど、記憶失ってるから身体が覚えていてもそれを人に伝える術がないんだよな」
「そうなんだよね。はぁ。カエデも頑張ってね」
「ああ。体力の限界まで酷使されるだろうけど!」
「ふふっ。ファイトッ。行ってくるね~」
なんだ今の超絶可愛いセリフ。それに去り際に振った小さな手。今日一日めちゃめちゃ頑張れる気がする。ティオが背中を向けて歩いていくときの金髪の輝きがまだ目に残ってる。
「おいカエデ。何をぼさっとしている。さっさと来ないか。今日は初日とあってハードスケジュールだぞ。夜にある兵たちとの親睦会も含めると〇時を回る計算だ。昼飯は五分で済ませるように。いいな?」
「ハイ」
ごめん頑張れないかも。ブラック企業も真っ青だよ。休憩時間ほとんど取らせない上に終業後の飲み会強制!? パワハラで訴えてやる!
「ということでそれぞれの部隊長は部隊を率いて一時間ごとにここへ来て戦闘を行うように。竜人化以外は何をしてもかまわん。相手は伝説竜とその契約者だ。遠慮なくやれ」
うおおおお! 最高だぜぇ! アルバート万歳! と拍手喝采。軍の指揮高まりまくり。ってかなんでアルが褒められてるの? 俺は? サンドバッグ宣言された俺は!?
ワクワクした目で竜に乗り込み、それぞれ強化魔法を使って、部隊全員が俺ただ一人を見つめている。早く準備しろ、思いっきり戦いたくて仕方がない、と顔に浮かんでいる。
やだなぁ。部隊長は相当の手練れ。加えてその部下たち。
「んじゃシルバ。頼んだぞ。相手は軍人だ。そこまで手加減する必要はない。こっちも存分にやろうぜ」
『心得た』
短く一言。渋くてカッコいい。
俺も強化魔法を使う。それを合図に俺の周りの軍人たちが一斉に空に上がった。
なるべく色んな魔法使って経験値を溜めてもらおう。
シルバの背に乗り、足で軽くシルバの身体を叩いて合図を送る。その瞬間、シルバは恐ろしい速さで急上昇した。誰一人俺たちを完全に追い切れていない。
グレン兵たちの遥か頭上。そこで静止。銀竜剣を最大本数展開。
さあはじめるか。