忠ドラゴン
ユキトの合図を受け、登壇。
「我が軍を支えてくれる、最後の一人を紹介しよう。カエデ・ソーマだ。彼には対契約竜演習、実戦級剣術訓練を担当してもらう」
これまでと明らかに違った反応が返ってきた。いや、返ってこなかった。反応が。皆、唖然としている。事態が上手く呑み込めないようだ。
「皆には『銀色の閃光』、と言った方が理解が早いかな。それでは頼んだぞ、カエデ・ソーマ殿。グレン王国の未来を」
ユキトが手を差し出してきて、俺がそれを握る。群衆はまだ静まり返ったままだ。
「派手にやれ、ソーマ」
ユキトの囁きを受けた俺は、脳内でシルバに合図を送る。
バサッ、バサッ、っと大きな羽ばたき音が聞こえてきた。
通常、竜は飛行魔法を使って空を飛んでいるため、ほとんど翼を使わない。だけど今回は演出用で翼を使って飛んでもらっている。魔法も使ってるけど省エネモードらしい。器用か。
通常の竜より遥かに大きなサイズのシルバ。その羽ばたき音の豪快さったら。
俺たちの目の前、やや下あたりに滞空。
太陽の光を弾く眩いばかりの銀。威厳のある顔。イケメンだ。改めて見るととんでもなく綺麗な竜だなシルバ。そのままはく製にしたい。永遠に飾っておきたい。
『主よ、物騒な考えがダダ漏れなのだが』
やべ。心の中で呟いてたか。
『実際にしないから安心しろって。美術品みたいだって褒めただけで』
『美醜など興味が無い。我には主だけいればよい』
『忠竜だなぁ。じゃあそろそろ乗るぞ』
『うむ』
ユキトにアイコンタクトで行くと伝える。ユキトは頷いて、俺の手を握ったまま、俺ごと放り投げるようにシルバの方へ。
ユキトに誘導されるまま、俺は眼下に身を投じた。
浮遊感は一瞬。すぐにシルバの背中に着地する。
こういうのガラじゃないからあんまりやりたくないんだけど、グレン王国のために一肌脱ぐとしよう。
シルバに指示を出し、群集の頭上をぐるぐる回る。パフォーマンスだな。
銀浄の炎や再生の銀光など見栄えの良い竜魔法を放つ。
そこでようやく群衆が湧きたった。勢いはどんどん増していき、胴上げとかジャンプとか身体を使って興奮を表す人達も。バイブス上がってきたって感じだな! ここはライブ会場か!
ユキトに指定された時間、空を飛び、最後は俺が最も上手く扱える竜魔法、銀竜剣を縦横無尽に俺とシルバの周りを舞わせる。バシッとキマッたところで爽やかに去る。王城の後ろ側に。
『人多すぎて吐きそうだった……』
シルバが本当にうえっ、うえっとえずいている。人混み、竜混み苦手なシルバ。よく頑張ってくれたな。
『お疲れさん。ありがとな』
『主のためならたとえ火の中水の中』
ううーん、この忠ドラゴン、かわいいなぁ。