団らん
「はぁ、はぁ、もう無理。動けん」
「俺にここまでくらいついてくるとは……」
訓練所の床に大の字になって休憩。何十分剣を振るい続けただろう。
息が整ったところでお互いに剣、刀の整備。酷使したからな。
「では師匠! そろそろあたしに稽古を!」
「こんなに疲れ切ってるところでそれ言っちゃう?」
「師匠なら大丈夫ですよね?」
「稽古くらいだったら確かにもう少し休んだらいけるけども。ってかさっきあんなこと言っておいてよく普通に話せるなぁ」
「さっき師匠に好きな人がいるって分かっちゃってからの発言なんでそこまで真剣にとらえなくて大丈夫ですよ。告白ってわけじゃないんですから。ただ異性として惹かれつつあるってだけで」
全然大丈夫じゃないんだけど俺的には。何? これがサバサバ系女子ってやつなの?
「アル、落ち着け。流石にこれ以上は無理だ明日に支障が出る」
「く、公務が優先、カエデ許すまじ」
もうどうにかしてくれよこのシスコン兄貴を。
追加で休憩をとってからミーアに稽古をつける。今日は居合斬りメイン。鞘を使って斬りはじめの初速を限界まで高めることを教える。柄をつかんでいる右手だけじゃなく鞘をつかんでいる左手も使うのだと。
「ありがとうございましたっ!」
満点笑顔でぺこりと一礼。俺も辛うじて礼を返す。もう本当体力的に無理限界超えた。
アルは俺たちの稽古の様子をただ黙って見ていた。特に何も言ってこない。俺がミーアに稽古をつけることを容認してくれたのかな。
「どういたしまして。じゃあ俺今から寝るから」
俺がそそくさと訓練所を出ていこうとしたら、なぜかアルに引き留められた。
「まあ待て。貴様も腹が減っているだろう。三人分の夜食を作ったから食べていけ」
俺がミーアに稽古をつけていた途中で訓練所内の別部屋に引っ込んだと思ったらそういうことか。
アルが持ってきた皿から良い匂いが漂ってくる。じゃがいもやニンジン、肉類を煮たものっぽい。俺の元いた世界風に言うとポトフだ。
「ここで作ったのか?」
「剣術訓練所は一番人気の訓練所でな。広さも設備も一番豪華になっている。何ならここに数人住めるくらいに」
よく見ると壁にいくつもドアがついているのが分かる。合宿所としても使える感じか。
床に直に腰を下ろし、三人そろっていただきます。
「んだこれ美味ええええ!」
シンプルに塩コショウのみの味付け。だからこそ素材が活きる。疲れた身体、五臓六腑に染み渡るぅ!
「口に合ったようで良かった」
なんだこのアルの穏やかな顔。意外過ぎる一面見えちゃった。料理人なの? 軍事から離れると面倒見良い系お兄ちゃんなの? 将来素的なパパさんになっちゃう系なの?
「にいちゃんの料理いつ食べても美味し~」
「そうかそうか」
アルとミーアが笑顔を交わす。このほんわか空間に一生いたい。俺はきょうだいがいないからこういうのにずっと憧れてんだよぉ! 料理の温かさと相まって泣きそうになってきた。
夜食をたいらげた後、アルは酒、俺とミーアは例によって例の如くジンジャーエールを楽しみながら雑談する雰囲気に。眠気は一周回って消え去っていた。
「もうすぐ正式に辞令が出てアルが軍部統括、ミーアがその補佐につくんだよな」
「うむ。全力を尽くすのみ。約一ヶ月弱後にユキト様主導の奇襲も控えていることだし気を引きしめなければ」
「あっという間ですねぇ」
まあ、俺がその奇襲を阻止しようとしてるんだけどな。先に問題を解決することで。
「カエデ、貴様も対契約竜演習、剣術演習に参加するのだな。ということは俺の部下であり、そして同じグレン王国軍の仲間でもあるということだ。昨日は歓迎会と言いつつあまり歓迎できなかったからな。ここで貴様の歓迎会をしよう。これから我が軍を頼むぞ! 乾杯!」
酔ってるなぁ。でもこういう小規模な歓迎会の方が落ち着くな。
「そういうことなら私も混ぜてもらおうか!」
「ユキトっ!?」
最近よく見るドレス姿ではなく俺が見慣れた戦闘服をまとったユキトが唐突に入ってくる。
驚いてポカンとしているアルとミーアが敬礼しようと立ち上がったのを見てユキトが手を振る。
「そういうのはいい! 私も飲む! ソーマを歓迎する!」
戦闘着を脱いで薄着になる。アルが赤くなる。アルコールによる赤面じゃないことは明白。
「こんな時間にそんな恰好でどうしたんだよ」
「うむ。公務に追われて剣を振る時間がなくてな。夜中にこっそり振るしかないんだ。どうせ貴様らもそうだろう?」
にやりと笑うユキトに苦笑を返すアルとミーア。似た者同士か。いとこだもんなそりゃ似るか。
ということでユキトも宴会参加。最初は緊張していたアルとミーアだったが、深夜テンションのせいか緊張がほぐれていき、四人楽しく朝まで語り合った。グレン王国のカードゲームを楽しみつつ。ユキトも楽しそうだったし、めちゃくちゃ充実した時間を過ごせた。
全員翌日、寝不足をごまかすのに必死になっていたのも良い思い出、なのか?