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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
1部 蒼
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ぽかぽかそよ風

「休憩前より疲れた顔してるけど、何かあったの?」


 メイルから降りたティオは俺の方を見るなりそう言った。

 ちなみにメイルは俺たちが特訓してるとき、寝てたり蝶を追いかけたりしてる。この竜は一体何歳なんだろう。


「ちょっとな…」


 ティオに音波のことは伝えちゃいけないらしいから、先程の衝撃的な出来事は話せない。なぜかは知らないけど。余計にわからないことが増えて頭が痛いよ本当。今度音波にあったら質問攻めにしてやる。


「はい、サンドイッチ」

「お、もしかして手作り?」

「市販で悪かったわね。やっぱり男の子って手作りが好きなの?」

「そりゃあそうさ。好きな女の子が作ってくれたら尚更だなー」

「ふーん」

「どうした?」

「いや、別に」


 ぷいっと顔を背ける。怒っちゃったかな。


「……今度、作ってみようかな」

「ん?」

「何でもない! それよりちゃっちゃと食べて特訓よ」

「へーい」


 早々に食べ終わった俺たちは、木剣による訓練を再開した。ただ今度は先ほどと違い型の確認だ。


「実際に打ち合った方がよくないか?」

「さっきそうしたのは木剣に慣れさせることと動体視力を見るためで、メインはこっちよ」

「そうか。こっちのが基礎として大事ならちゃんとやらないとな」


 早速教わった型に従って木剣を振る。形をなぞるだけだからそんなに難しくないような。


「もっと正確に振らなきゃだめよ。刃筋を通さなきゃ」


 ティオとの違いは一目瞭然だった。

 音が全く違う。空気を裂く音が。それに力の入れ方も。

 俺は鈍い音がするだけだが、ティオはなんというか、鋭い音がした。

 力任せの俺の振りに対して、向こうはインパクトの瞬間、切る瞬間に力をこめている。

 なるほど。型に従った素振りが基礎というのはこういうことか。

 この点は日本の剣道や居合道に通ずるものがあるな。


「わかったよ、俺とティオの違いが。もっと一振り一振り集中する」

「ソーマって飲み込み早いわね。見込みありよ。教えがいがあるわね」


 ティオさんのテンションが上がってきた。鬼教官の素質がありそうである。さらに厳しくなりそうな予感。

 それからひたすら素振りをし、再び打ち合いをすることになった。


 ティオはさすがというか、同じ型を扱っているはずなのに打ち負けてしまう。隙を探していると、あることに気づいた。

 特訓中は薄着で、音波の服装レベルではないが、なんというかエロい。健康的な肢体に、強調された胸。


 あ、やばい。これ雑念ってやつだ。


「甘い!」


 スパーンと脳天に一発。あ、あれ、目の前が、暗、く…


「ソ、ソーマ、ご、ごめ…」


 そんなに、取り乱さなく、ても。

 そこで、プツンと意識が途切れた。

 ははは、情けないな、俺。


 意識を取り戻したとき、頭の裏側が柔らかーい感覚に包まれていた。髪をなでる手つきは優しく、このまま眠ってしまいたくなる。

 目を開けると、心配そうな顔をしているティオが見えた。


「ソーマ! よかった、目を覚ましたのね」

「あ、あの、それより膝枕」

「こ、これは、妹がいていつもこうやって頭をなでてあげてたからそれで!」

 心なしか顔が赤くなっているような。俺もさすがに恥ずかしい。とても心地よいけどね!

「さっきはごめんね。ソーマも疲れてるのに、熱が入ってやりすぎちゃった…反省してる」

「俺もごめん。せっかく稽古つけてくれてたのに、ティオに見とれて集中力乱しちまった」


 怒られるかな。普段はこんなこと言わないのに。安心して油断してしまったせいかな。


「な、なにバカなこと言ってるの。ま、まあ、私レベルにもなると見とれちゃうのはしょうがないことだし。でも疲れも確かにあるだろうから、しばらくこのまま横になってなさい」


「ありがとう、そうさせてもらうよ」


 意外なことに怒られなかった。それだけ俺の身を案じてくれたのだろうか。

 にしても、男には褒められ慣れてるだろうにそんなに照れるなよ。うっかりかわいいとか思っちゃうじゃないか。


 目を閉じるとまた髪をなでてくれる。

 ぽかぽかとした陽気。緩やかに頬をなでるそよ風。

 この瞬間だけは、頭を悩ませる疑問や特訓の疲れを忘れることができた。

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