自分が思ってるよりずっとずっと好きだったんだ
「カエデ!? どうしたの!? 大丈夫!?」
「ごめん、ごめんな、ちょっとだけこうさせてくれ」
ティオが肩を貸してくれたのをいいことに縋りついてしまう。
ティオは黙って受け入れてくれた。のみならず頭まで撫でてくれた。
肩を借りながら広場の隅のベンチに移動し、そこに座ってまた泣く。
こんなに自分は寂しかったのか。実はずっと我慢してたのか。
どれくらい泣き続けただろう。
やがて涙は枯れ、心は落ち着きを取り戻す。
そのタイミングでティオが席を外した。
青空を眺める。真昼間の澄んだ空。元の世界の空より透き通っていて脆くなった心が吸い込まれてしまいそうだ。
「綺麗だよね、空。はい、温かいココアどうぞ」
隣に腰を下ろしながら、ココアを差し出してくれる。ティオも俺と同じように上を向き空を眺める。
ティオの横顔はとても綺麗だ。今は紅く染まっている瞳には空が映り込んでいる。
真っすぐ下に落ちる、絹のように柔らかく滑らかな金色の髪。思わず手を伸ばしてしまった。美しいものに触れたいと思ってしまった。
ティオは驚いてビクッと震えたが、いいよと小さく呟いた。目線は上を向いたままだ。
了承を得たということで触らせてもらう。手に持ったり梳いたり。指の間をするんと抜けていく。
「落ち着いた?」
「うん。ありがとう」
「これくらいいいって」
ティオの髪には沈静作用でもあるのか。触らせてもらったら心が軽くなった。心なしか指先から良い匂いがするような気がする。
「ティオ、もしかして照れてる?」
「べ、別に。平気だし」
目は口ほどにモノを語る。俺と目線を合わせようとしないしそもそも顔が真っ赤になってるから丸分かりなんだけど。なんだこの可愛い生き物。
「心配かけてすまん。もう大丈夫だ」
「そう。それは良かった」
深く聞いてこない優しさが沁みる。ココアの温かさもまた。
「理由、聞かないのか」
「大体想像つくよ。私の記憶を取り戻すためにここに来て、それでああなったんだから。思い出しちゃったんだよね」
聡い。ティオは前からこういうところで鋭いんだよなぁ。
その優しい声音のせいでまた泣きそうになってしまう。
「正解。ごめんな、今のティオには何の関係もないことなのに」
「そういうカエデの姿を見ちゃうと、早く記憶を取り戻さないとなぁって思う。あ、これ悪い意味じゃないから! 前向きな意味で言ったから! にしても本当、カエデって記憶の失う前の私のこと好きだったんだねぇ」
俺を気遣ってか、おちゃらけてそう言ってくれた。俺をからかうつもりで言ったんだろうけど、その言葉は俺の胸に深く突き刺さった。
言われて改めて思う。俺はティオが好きなんだ。自分が思ってるよりずっとずっと好きだったんだ。
「わぁごめん! 私、変なこと言っちゃったかな!?」
パニクったティオが俺を抱きしめてくれる。ティオの胸の中でまた泣いてしまった。
ベンチを立つまでにさらに三〇分かかってしまった。恥ずかしさが尋常じゃない。