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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
緋銀
156/187

束の間の安寧

 ユキトとティオに起こされ、風呂に入って食事を摂った後、ティオと二人で城下町に足を運ぶ。


「ティオ、王城出る前の訓練地区見たか?」

「見た。あのさ、昨日、私たち、歓迎会に参加してたよね? 一昨日に開催されたわけじゃないよね?」

「俺も半信半疑だったよ。あれだけ遅い時間まで飲みまくって最後はベロベロになってぶっ倒れて二日酔いどころか一週間酔いしそうな人たちが、普段通り訓練してたもんな」

「プロ意識を感じるね」

「力を抜くときは抜く。入れるときは入れる。メリハリがついてて尊敬しちまったよ」


 へべれけだったおっさんたちが朝から規則正しく剣を振るい、竜を駆っている姿は感じ入るものがあった。グレン王国軍の強さはこの訓練への真摯さから来ているのだ。だからどんなに酒が入って騒ごうとも目をつぶろう。昨日は見てないふりをしてたけど、部隊長の一気飲みバトルで負けた方は全裸で逆立ち歩きしながら相棒の竜に騎乗する曲芸シーンなんか笑って流せるよね。


「グレン人はお酒に強い民族のかも」

「そうだな。マテリア人はどうなんだ?」

「どうなんだろうね。その知識はないや。どうやら覚えている記憶、知識には偏りがあるみたい」

「そうか」


 仕事がはじまるまで残り五日間。ティオの記憶を少しでも戻したい。

 俺はティオと一緒に旅をしていたが、ティオの過去についてほとんど知らない。何度もそのことを悔やんでいるが、知らないものはどうしようもない。ティオの過去を知る者もこのグレン王国にはいない。いるとしたらマテリア王国、ティオの父親たる現マテリア王や、ティオの血縁者、従兄のデレクあたりだが、洗脳疑惑がある。マテリアへの入国は困難。であるならば、俺にできることは、俺がティオと過ごした数か月間をなぞることだけ。それも、マテリアではなくグレンでなぞることができるものだけ。

 なるべく楽しい記憶がいい。だから城下町を選んだ。


「今日はどこに連れてってくれるの?」

「ティオの記憶を取り戻すきっかけになる場所。まあ明確な場所というより俺と城下町を巡るってだけだけどな。ただ、確認したいことがあって。記憶を取り戻す度にティオは苦しい思いをしている。苦しい思いをせず、このまま記憶を取り戻さず人生を送るっていう選択肢もあるんだ。ティオはどうしたい?」


 この提案をするのには覚悟がいった。

 ティオの記憶の中には俺との記憶が含まれている。俺にとってかけがえのない記憶。

 この世界に放り出された直後、魔獣に襲われかけたところを助けてもらった。

 俺を旅の相棒に選んでくれた。旅の中で沢山の喜びと悲しみを経験した。その全てが俺にとって宝物だ。その記憶を、ティオと共有できなくなる。告白の返事も、未来永劫できなくなる。俺との記憶を持ったティオとそうでないティオはある意味別人なのだから。

 だから、ティオには記憶を取り戻してもらいたい。でもそれは俺のエゴだ。大事なのはティオ本人の意思。辛い思いをしてまで元の人生を取り戻す必要はあるのか。もちろんマテリア王国の問題を解決してからだし、記憶を失った原因(謎の竜魔法、呪い?)を判明させてから第二の人生を歩んでもらうことになるけど。


「思い出したいに決まってるでしょ。何言ってるの。どんな思いをしてでも、私は自分の記憶を取り戻したい。既にほんの少しだけ思い出した記憶たちが悲しそうにしているもの。それに、自分が何者なのか分からない、ってすごく怖いの。あとね、カエデに聞かせてもらった私との旅の話。あれを聞いちゃったら、思い出さないって選択肢を選ぶことはあり得ない。だから、安心して?」

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